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小ネタ日記

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薄桜鬼21

デフォルト名:立花眞里




 空が白み始めた頃、眞里の腕の中で眠っていた千鶴が目を覚ました。あたりは険しい顔をした者たちが警戒を続けている中、眞里に抱えられるように寝ていたことに俯きながら頬を赤く染めて照れていた。

 慌てて離れる千鶴に手拭いを渡し、共に川原へと向かう。いくら夏とはいえ川の水は冷たく、手を浸すだけで眠気が醒める。顔を洗うと千鶴は申し訳なさそうに眞里を見上げた。

「あ、あの……眞里さん」
「よく眠れた?」

 千鶴の言いたいことが分かっている眞里は頭を下げる千鶴の頭を優しく数度叩く。

「戦闘が始まれば御所まで走るからね。頑張って走るからね」
「はいっ! あの、ありがとうございました」
「うん、どういたしまして」

 ようやく笑みを浮かべた千鶴の肩を抱いて幹部たちのもとへと戻ったそのとき。


 明けの空に銃声が響き渡った。

 隊士たちに緊張が走る。各々が居住まいを正す中、眞里も足下を整え直す。
 遠く町中から、争う人々の声が聞こえると同時に隊士達は互いに顔を見合わせ頷きあった。
 彼らは声をかけずとも己のすべきことを理解していた。同時に駆け出す。向かう先は、御所。

「――行くよ」

 周りが駆け出す中、半ば茫然としている千鶴に眞里が声をかけた。

「はいっ!!」

 千鶴が慌てて頷き返し、駆け出そうとした時、後方からざわめきが広がった。同じく待機組の会津藩士達である。

「待たんか、新選組! 我々は待機を命じられているのだぞ!?」

 隊士の誰もが聞き流し、御所へと駆けていく中、ただ一人土方のみが立ち止まった。行軍の最中、土方はあまり怒らることはなかった。声を荒げる役は永倉達に任せ、役人相手に辛抱強い説得を繰り返していた。しかし、ここにきて我慢の限界が来たらしい。
 後方を振り返るその端整な面立ちは、柳眉を吊り上げ、『鬼副長』の名に相応しく怒りの形相となっていた。

「てめえらは待機するために待機してんのか? 御所を守るために待機してたんじゃねえのか! 長州の野郎どもが攻め込んできたら、援軍に行くための待機だろうが!」
「し、しかし出動命令は、まだ……」

 突然の怒声に役人は狼狽えながら言い訳をするが、土方はぴしゃりと言い放った。

「自分の仕事に一欠片でも誇りがあるなら、てめえらも待機だ云々言わずに動きやがれ!」

 言うやいなや土方は返答を待たず、風を切るように歩き始めた。隊士達と空いた少しの距離を瞬く間に詰める。
 土方に一括された会津藩士達も、目が覚めたように瞬く間に出撃の準備を終えると、新選組の後を追うように御所を目指した。


 ちらちらと後ろを振り返りながら、隊士に置いていかれないように足を動かしながら千鶴は横を静かな顔をして歩き続ける斎藤を見上げた。

「……私たち、どこに行くんですか?」
「敵が確実にいる場所――、蛤御門を目指す。蛤御門では激しい戦闘が始まっているだろう。あんたも、今のうちに気を引き締めておけ」
「……はい」

 激しい戦闘を予想したのか千鶴は真剣な面もちで静かに頷いた。
 横で話を聞いていた眞里も戦場を思い浮かべるが、違和感に首を捻る。その様子を見かけた原田が声をかけてきた。

「何かあったか?」
「……いえ、ただ。……長州勢がどこまで持ちこたえるのだろうか、と思いまして」
「ああ……。戦力を考えりゃあ長続きはしないだろうよ」

 静かな原田の声に小さく頷き返すと、眞里は歩くことに専念した。





 蛤御門についたとき、眞里と原田の予想通り戦闘は終息していた。御門には金属の弾を撃ち込まれたようで、あちこちに傷が刻まれ、辺りには焼けたような匂いが漂っている。
 火薬の臭いだと眞里は昔を思い出す。織田との戦ではよく遭遇した臭い。しかし、火縄銃ではない。
 長州兵らしき姿もなく、周囲には負傷者も倒れていた。
 土方の黙視を受け、数名の隊士が散った。情報を集めてくるのだろう。
 はあ、と近藤が溜め息を吐く。

「しかし、天子様の御所に討ち入るなど、長州は一体何を考えているのだ」
「長州は尊王派のはずなんだがなあ……」

 井上も呆れたように首を傾げる。その間に斎藤と原田が情報を得て戻ってきた。

「朝方、蛤御門へ押しかけた長州勢は、会津と薩摩の兵力により退けられた模様です」
「薩摩が会津の手助けねぇ……。世の中、変われば変わるもんなだな」

 土方は皮肉げな笑みを洩らした。
 眞里は藩についての知識は乏しいが、野営の最中に幹部の何人かから講釈を垂れていた。
 薩摩と会津は親しい間柄はなく。元々は薩摩も長州と同じで、外国勢力を打ち払おうとしていたらしい。英国に戦争を吹っかけ大敗。それからは攘夷の考えを改めたらしい。
 眞里には攘夷というのがいまいち理解が追いつかなかかった。

「土方さん、公家御門の方には、まだ長州の奴らが残ってるそうですが」

 土方は原田の情報に口角を吊り上げた。続いて山崎が駆け込み静かに報告を上げた。

「副長、今回の御所襲撃を扇動したと見られる、過激派の中心人物らが天王山に向かっています」

 土方は暫し黙考を続けていた、不意にニヤリと笑みを浮かべる。

「……忙しくなるぞ」

 彼の言葉で、隊士たちは湧き上がる。

「左之助。隊を率いて公家御門へ向かい、長州の残党どもを追い返せ」
「あいよ」
「斎藤と山崎には状況の確認を頼む。当初の予定通り、蛤御門の守備に当たれ」
「御意」
「それから大将、あんたには大仕事がある。手間だろうが会津の上層部に掛け合ってくれ」

 む、と近藤は不思議そうに首を傾げた。土方はうっそりと微笑む。

「天王山に向かった奴ら以外にも敗残兵はいる。商家に押し借りしながら落ち延びるんだろうよ。追討するなら、俺らも京を離れることになる。その許可をもらいに行けるのは、あんただけだ」

 合点がいったのか近藤は力強く頷く。

「なるほどな。局長である俺が行けば、きっと守護職も取り合ってくれるだろう」
「源さんも守護職邸に行く近藤さんと同行して、大将が暴走しないように見張っておいてくれ」
「はいよ、任されました」

 土方が冗談のような口調で言うと、くつくつと小さな笑いが隊士から洩れる。近藤は図星なのかばつが悪そうに苦笑する。

「残りの者は、俺と共に天王山へ向かう。それから、……おまえらは、好きな場所に同行しろ。だが、近藤さんについていくのは無しだ」

 千鶴は途端に俯いて考え始めるが、眞里は始めから答えが用意してあったかのように土方を真っ直ぐに見据えた。

「原田殿の隊に加えていただきたく思います」
「……理由は」

 眞里は小声で土方にのみ聞こえるように答えた。納得のいくものだったのか楽しげなあくどい顔で頷くと原田を呼び、眞里を連れて行くように指示をした。
 何か言いそうだったが、眞里の真剣な面もちに承諾の意を示すと隊服を翻し、公家御門へと隊士を率いていった。

 置いていかれるとなった千鶴は迷った後に土方を見上げて「よろしくお願いします」と頭を下げた。
 下げられた頭をじっと眺めた土方は後方に控える隊士を振り返り。

「出発する!!」

 浅葱の羽織を翻した。





 斎藤率いる隊はそれぞれに動き出した新選組の皆を見送った。浅葱色が視界から消えると、斎藤はぽつりと呟いた。

「……まずは新選組の者として、会津の責任者に挨拶をすべきか」
「よろしければ、自分が動きます。……今は、上層部も混乱していますから、我々の行動を見咎めることも無いでしょうが」「会津藩の対応は山崎君に一任しよう。問題が生じたなら俺を呼んでくれ」

 山崎は黙礼すると、指示を果たすべく駆け出していった。
会津と薩摩がもめている
 身の振り方を定めるために周囲の状況を探っていると、険悪な空気を感じる。そちらへ足を向けると会津藩と薩摩藩とで、小競り合いが起きていた。手柄の取り合いのようであった。
 ふと、薩摩藩士が新選組に気づくと馬鹿にしたような笑みを会津藩士へと向けた。

「何かと思えば新選組ではないか。こんな者どもまで召集していたとは……。やはり会津藩はふぬけばかりだな! 浪人の手を借りねば、戦うこともできんのか!」

 薩摩藩士の無遠慮な言葉に、斎藤が率いてきた隊士たちの表情が強張る。しかし、斎藤は平然と片腕を上げて隊士を制した。

「世迷言に耳を貸すな。ただ己の務めを果たせ」

 組長の冷静な指示に隊士も渋々と殺気を収める。
 しかし、侮辱された会津藩士は声を荒げて刀を抜きはなった。

「おのれ、愚弄するつもりか!?」

 相対する薩摩側も殺気立ち、あわや殺し合いが始まるかと思われた瞬間、薩摩藩士の列を割って、背の高い男が姿を見せた。
 先頭に立つその男に、会津藩士は目をつり上げる。

「貴様が相手になるか!」

 怒声を上げ斬りかかろうとするが、斎藤が双方の間に踏み入った。鞘で刀を抑え、静かな目で会津藩士を宥める。

「――やめておけ。あんたとそいつじゃあ、腕が違いすぎる」

 薩摩藩に属するらしいその男は、居並ぶ新選組隊士達に目を向けた。そして斎藤を見ると一歩踏み出る。

「池田屋では迷惑をかけましたな。確か……、藤堂と言う名の青年と立花と名乗る方にお相手頂きましたが。彼の怪我の治りが良くないのであれば、加減ができずにすまなかったと伝えてください」
「池田屋で藤堂を倒したのは、あんたか。……なるほど、それならば合点が行く。大方、薩摩藩の密偵として、あの夜も長州勢の動きを探っていたのだろう」

 鋭い口調で語る斎藤に対して、彼は否定もせず沈黙した。
斎藤は不意に、彼我の距離を詰めると瞬きの間も空けず、刀は抜き放つ。刀の軌跡は誰にも黙視できなかった。
 白刃を晒す切っ先は、ぴたりと彼の眉間に狙いを定めて止められていた。しかし、その男は身動き一つせず、凪いだ眼差しで斎藤を見返している。

「……あんたは新選組に仇なした。俺から見れば、平助の敵ということになる」

 斎藤の声音には、ぴりぴりしたものが混じっていた。やはり男は動じずに静かな口調で続けた。

「……しかし、今の私には、君達新選組と戦う理由がありません」

 斎藤は彼に刀を向けたまま、相手の出方を窺うように沈黙した。彼もまた微動だにせず斎藤を見返している。

「俺とて騒ぎを起こすつもりは無い。あんたらとは目的を同じくしている筈だ。だが侮辱に侮辱を重ねるのであれば、我ら新選組も会津藩も動かざるを得まい」

 釘を刺すような物言いに、男も納得したような素振りで頷く。

「こちらが浅はかな言動をしたことは事実。この場に居る薩摩藩を代表して謝罪しよう」

 頭を下げる男に斎藤は頷き返すと、静かに刀を納めた。薩摩藩士たちは複雑そうな顔をしているが、何も言わない。

「私としても戦いは避けたかった。そちらが退いてくれたことに感謝を。聞き及んでいるかもしれないが、私は天霧九寿と申す者だ。次に見えるとき、互いが協力関係にあることを祈ろう」

 名乗りを終えた彼は、ゆるとした動作で背を向ける。が、ふと立ち止まると振り返る。

「出来れば、立花にまた手合わせ願いたいと」

 返答を求めずに踵を返すと、薩摩藩士たちを掻き分け、隊列の奥へと消えて行った。
 見送る斎藤の隣に山崎が戻り、同じ様に男の背中を見送る。

「何者でしょう」
「さあな。居合いで脅せば容易に退くかと思ったが、奴には俺の剣筋が読めていたようだな。……薩摩にも厄介な輩がいるようだ。話が通じる点は救いかもしれんが」

 御門には緊迫した空気だけが残された。


***


 次はいよいよ公家御門!!

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