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小ネタ日記

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薄桜鬼19

デフォルト名:立花眞里


 千鶴が原田と巡察に出た数日後のこと。朝から幹部が広間に集まるということを聞き、眞里と千鶴で幹部全員分の茶を準備をし、集まっていた幹部へと配る。

「失礼します」

 二つのお盆に分けられた幹部全員のお茶は二人で配れば早く配り終わる。しかし準備に少し手間取ったために、冷め気味なものが混じっているようだった。そのことをしきりに気にするが、口をつけなければわからない為受け取った幹部は皆笑顔で礼を言う。

「すまねえなあ、千鶴ちゃん。そうやってると、まるで小姓みたいだな」
「あ、ありがとうございます」

 喜ぶべきか分からない言葉に、反応に悩みながらお茶を置いていく。千鶴を後目に眞里は配り終えて数歩下がった位置に腰を下ろす。

「ありがとう、雪村君、立花君。……すまんねえ、こんな仕事まで」
「あ、私なら大丈夫です。皆さんには、お世話になってますし」

 普段があまり新選組の役に立っていると思えていない千鶴は静かに首を横に振る。何も仕事がないより化は雑用でもいいから何かしていたいのだろう。
 しかし、千鶴が現在受け持っている仕事は地味で大切なものばかりである。新選組が日常に煩わされずに過ごせるのは、千鶴の決して小さくはない献身のおかげである。
 本人は全く気づいていないが。

「まあ、でも眞里ちゃんは既に土方さんの小姓みたいになってるけどね」

 そう言って、お茶を一口飲んでから沖田はなぜか目を細める。その細められた視線を受けてしまった千鶴は身を小さくする。

「……あの。お茶、渋かったですか?」
「美味しいよ? ……ちょっと温いけど、これくらい隙のあるほうが君らしいよね」

 首を横に振りつつ言われた言葉に千鶴は慌てて頭を下げる。よりにもよってぬるめのお茶が沖田へと行ってしまったのだ。
「………すみません……」

 沖田が楽しげに笑みを浮かべるのを千鶴以外の者は呆れたように溜息を吐いたとき、引き戸が開き、その場にいなかった近藤が足音も荒く現れた。
 機嫌を損ねているのではなく、気持ちを抑えきれないような動作で腰を下ろすと幹部の顔を見渡し、朗々と声を張り上げた。

「会津藩から正式な要請が下った。只今より、我ら新選組は総員出陣の準備を開始する!」

 おお、と歓喜の声が広間に響く。会津藩からの正式な要請が下るというのは、新選組が会津藩に認められたといってもいいことであった。

「ついに会津藩も、我らの働きをお認めくださったのだなあ」
 号令をかけた近藤自身もとても嬉しそうである。会津藩から直々の要請が届くというのは、それだけ重大なことなのだろう。しかし浮き立つ皆とは対照的に、土方は苦い顔をして浮き立つ幹部の顔を見渡した。

「はしゃいでる暇なねえんだ。てめえらも、とっとと準備しやがれ」

 既に長州が布陣を終えていることは、京に居るものならば誰でも知っている。出陣要請が来るにしても、遅いということはやはり新選組の扱いはまだ低いものであるということを意味している。

「ったく……。てめえの尻に火がついてから、俺らを召喚しても後手だろうがよ」

 吐き捨てるように愚痴をこぼす土方に眞里は苦笑いしか浮かばない。戦は速さが命である。後手から巻き返すのは不可能ではないが、難しい。

「沖田君と藤堂君は、屯所で待機して下さい。不服でしょうが、私もご一緒しますので」

 山南は軽く左腕をさすりながら目を伏せる。皆はちらりと山南へと視線を向ける。

「君たちの負傷が癒えていないように、私の腕も思うように動きませんから」

 自嘲の響きに千鶴は狼狽えたように視線を彷徨わせるが、眞里も含め幹部は既に山南の言動には耐性がついていた。大坂での負傷以降、山南の物言いは鋭さを増し、周囲と自分に傷を付けていく。それを止める術を持つ者が一人もいない。自然と皆は交わす術を身に付けていった。

「傷が残ってるわけじゃないですけどね、僕の場合。でも確かに本調子じゃないかな」
「オレだって別に大した怪我じゃないんだけど。近藤さんたちが過保護すぎるんだって」

 さらりと流した沖田に続き、藤堂は不満を露わに口を尖らせる。彼を見て原田はにやりと笑みを浮かべた。

「大した怪我じゃないとか嘘吐くなよ。昨日も傷口に薬塗られて悲鳴上げてただろ」
「うわ、そういうこと言う!? 左之さんには武士の情けとか無いの!?」
「けど、本当のことだろ?」

 あっさりと切り替えされて藤堂はばつが悪そうに千鶴をちらりと見やる。

「……せめて女の子の前では、黙っててくれたっていいじゃん」

 視線を受けた千鶴は藤堂の声が聞こえなかったのか小さく首を傾げて藤堂を見返した。藤堂は恥ずかしそうに頬を掻きながらそっぽを向いてしまう。
 今は前髪で隠れているが、池田屋で負った傷は痛々しいものである。
 二人のやりとりを眺めていた永倉はふと思い出したように不意に千鶴を見た。

「そういえば、千鶴ちゃん。もし新選組が出陣することになったら、一緒に参加したいとか言ってたよな?」
「……え? でも、あの……」

 不意に振られた千鶴は咄嗟に言葉を探すが、否定の言葉を口にする前に近藤が笑顔で膝を打った。

「おお、そうだな。こんな機会は二度と無いかもしれん」
「――えっ!?」
「うわ。いいなあ、千鶴。折角だしオレの分まで活躍してきてよ」
「――か、活躍っ!?」

 思いがけぬ局長からの賛成の言葉と藤堂の言葉に困り果てた千鶴は隣の眞里の袂を握りしめ眞里を仰いで見た。
 眞里は苦笑すると、決定権を持っている呆れた顔をしている土方を見た。
 土方は呆れたような溜息を吐くとすかさずに反対する。

「今度も無事で済む保障はねえんだ。おまえは屯所で大人しくしてろ」
「君は新選組の足を引っ張るつもりですか? 遊びで同行していいものではありませんよ」

 山南の冷笑に千鶴は肩に力が入る。確かに池田屋の時とは違い、今度は確実に戦場である。危険度は比ではない。
 重々承知している千鶴は、土方の意に沿うことを口にしようとするが、思いもよらぬところからの助け船に言葉をなくした。

「山南総長。それは――、彼女が迷惑をかけなければ、同行を許可するという意味の発言ですか?」

 斎藤であった。千鶴も驚きに目を瞬くが、反論された山南も他の幹部も意外だったのだろう。驚きも露わに皆が斉藤を見つめていた。

「…まさか、斎藤君まで、彼女を参加させたいと仰るんですか?」

 確かめるような言葉に斉藤は少し考えると緩く首を左右に振る。自分の考えを確認するように、言葉をゆっくりと紡いでいく。

「彼女は池田屋事件において、我々新選組の助けとなりました。働きのみを評価するのであれば、一概に『足手まとい』とも言えないかと」

 確かな正論に誰もが続ける言葉をなくした。落ちる沈黙を払拭するように、近藤がよし、わかった。と大きな声を上げた。その場の視線は近藤へと再び集まる。

「君たちの参加に関しては俺が全責任を持とう。もちろん同行を希望するのであれば、だが」
「あ、あの……」

 いいのかなと、千鶴は眞里を伺い見る。気づけば、千鶴はこのような場の判断をするときに眞里の意見を求める。しかし、眞里としては千鶴が決めればいいと思っているために促す笑みを浮かべる。さらに困ったらしい千鶴は幹部を見渡す。
 山南はまだ納得していないらしく冷笑のまま。土方は渋面、他の者達は千鶴の決断を待っている。答えあぐねる千鶴を見かねたのか沖田が助け船を出した。

「戦場に行くんだってわかってるなら、後は君の隙にすればいいと思うよ」

 若干投げやりな言葉だが、千鶴の背中を押すには十分だったらしい。数秒の後、千鶴は近藤に参加したい意を伝えた。


 笑みを浮かべる一部の幹部に対して、土方、山南は苦い顔をする。
 一方の眞里は自分は土方の意を汲んで残るべきなのか、それとも千鶴についた方がいいのか分からずに困ったように土方を見る。
 そのことに気づいた土方は深く苦々しい息を吐くと、眞里の名を呼んだ。

「てめえはどうしたい」
「……出来れば千鶴についていたいのですが、ご指示があればそれに従います」
「――ならお前は、」
「おお、眞里君も勿論俺が責任を持とう!!」

 土方が何事かを言う前に近藤が満面の笑みで胸をたたく。
 予想通りだったのか土方は、苦い笑みを浮かべると「お前も来い」とだけ言うと、幹部を見渡した。

「何呆けてやがる!! さっさと支度しやがれ!!」

 低い怒鳴り声に彼らは不適な笑みを浮かべると、腰を上げた。



**

土方さん贔屓なのは仕様です。

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