TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。
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デフォルト名:立花眞里
012:赤い花
人と刃を交えなくなってどれほど経ったのだろうか。
物心ついたときから刃はともにあり、小太刀を振るい、時にはくないも振るった。真田の忍に幸村と共に面倒を見られ、渋い顔をする才蔵にねだって忍の術を教えて貰った。
常に、黄泉路への渡し船が見える戦場。初陣で覚えた恐怖は薄れ、今では感覚が鈍るのを恐れている。
張り詰めた空気を忘れてしまえば、もう戻ることはできないのだと戒めていたのに。
浅葱のだんだらを赤く染めるそれを見た時、眞里は息をのんだ。
赤く染まった彼はばつが悪そうに頬を掻き、苦笑いのような顰めっ面になりかけた笑みを浮かべた。
「悪いな、驚かせちまって。今着替えてくるからよ」
「……怪我は、」
「ない。……全部返り血だ」
彼は言葉を切ると手を羽織で拭うと大きな手で眞里の頬を撫でた。節だった指と、暖かな温もりに思わ従兄を思い出し、目を伏せると大きな手に全てを委ねた。
「そんな顔するな」
揺れる声を不思議に思いながらも、温かなぬくもりに心を委ねていた。
**
原田さんの次の行動
1 そのまま頭を撫でる
2 勢い余って抱き寄せる 二人して血まみれに
3 どうするべきか悶える
さあどれ?
[3回]
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デフォルト名:立花眞里
原田率いる隊に加わった眞里は何か言いたげな原田の視線に気づかない振りをして隊士と共に公家御門を目指した。
辿り着いた公家御門では諦めずに、後退しながらも御門を目指す長州と所司代との小競り合いが続いていた。
原田率いる十番組は惑うことなく前線へと躍り出る。
「御所へ討ち入るつもりなら、まず俺を倒してから行くんだな!」
淡い微笑を浮かべて槍を構える原田は槍を一閃させて何人かをなぎ倒す。
「くそっ! 新選組か!?」
「死にたい人から前に出て下さい」
眞里も槍を左手で振るい、聞き覚えのある懐かしい台詞をなぞる。
隊服を着ない眞里に所司代も長州も困惑したようだったが、向かってきた長州兵を一人斬り捨てるのを見ると、眞里の立ち位置を正確に理解したようだった。
「おのれええっ!!」
怒声が響き、乱戦が始まった。しかし数で劣る長州側に対し、防衛側に新選組が加わったことにより、続かず。長州兵達は血を吐くような声で唸り撤退を開始した。
「逃がすな、追えっ!」
所司代の役人達が声を張り上げる。すると、長州勢の殿を務めていた男が、不意に振り返り足を止める。長い青黒髪に浅黒の肌で、長州兵と比べて身軽な格好であった。眞里は彼の手元に目をやり、刀を引き抜くと後ろ足に重心を置いた。
「ヘイ、雑魚ども! 光栄に思うんだな、てめえらとはこのオレ様が遊んでやるぜ!」
酷薄な笑みを浮かべると、手元の銀色の何かを掲げた。
直後、甲高い音が公家御門の前に響き渡ると同時に、小さな高い音が響いた。
「ほぉ……」
男は楽しげに口元を歪めて笑った。視線の先には、悲鳴を上げて腰を抜かした役人と抜き身の刀を構えた眞里が居た。
「眞里?!」
原田の悲鳴じみた声が聞こえていないのか、眞里は挑戦的な笑みを浮かべると槍の穂先を男へと向けた。
「てめぇ……見切ったな」
「やはり蛤御門の銃痕は貴方の短筒ですね。厄介なものを使われる」
「よく知ってるな。これは拳銃って言うんだが、厄介だなんて顔してねえぞ」
にやりと笑い会う二人に周りの兵は誰一人として入り込めなかった。
二人のやりとりを飲み込めない周囲とは違い、原田は目を見張りつつも状況を確認した。
長州の男は腰を抜かしている役人に向かって砲したが、眞里がそれを刀身で弾いたか斬ったのだろう。
「てめぇ以外の奴らは銃声一発で腰が抜けみてえだな」
彼は銃口を眞里に向けたまま、凍り付いたように動かない防衛側を見て皮肉な口調で笑った。
眞里や原田以外の者たちは、二人のやりとりに飲み込まれていた。多勢に無勢の状態で余裕の姿勢を崩さない男と、槍と刀を構えた奇妙な剣士。
眞里は原田を一瞥すると、左手の槍を回転させ構えた。
対峙する男も油断なく拳銃を構える。
原田が眞里の視線の意味の答えを考えるより先に、眞里が足を蹴って踏み出した。
間合いをつめても素早い動作で避けられる。数発撃ち込まれるが、時に避け、時に斬って全て回避した。
互いの攻撃が外れても悔しがるでもなくただ愉快そうに歪んだ笑みを浮かべるのみ。長い遣り取りに感じるが、二人の手が早いために、経過したのは幾許もない。
半ば呆然と見ていた原田だが、眞里が再び原田を一瞥した。
振り返った彼女の目と口元の笑みから何かを推測し、納得した原田は槍を握り直すとにっと口角を上げた。
男が眞里との手合いに夢中になり出来る一瞬の隙に間合いを詰め。
「遊んでくれるのは結構だが……、おまえだけ飛び道具を使うのは卑怯だな」
男が振り向く前に槍の切っ先を突き刺す。しかし、男は悠然と交わした。振り返ると、挑戦的な笑みを浮かべる。
「卑怯じゃねぇって。てめぇだって長物持ってんだろうが」
男が原田に意識をやってる最中に眞里が再び間合いを詰め刀を振るうが男は避ける間がなかったのか拳銃で刀を受け止める。
そこを突くように再び原田が槍を振るうと男は驚くべき跳躍で跳び、回避する。着地と同時に発砲するが眞里は再び刀で弾く。
「ほぉ、おまえらやるな。……てめえらは骨がありそうだな。にしても、真正面から来るか、普通?」
「小手先で誤魔化すなんざ、戦士としても男としても二流だろ?」
淡い笑みと共に返された原田の言葉と眞里の無言の肯定に、ひゅう、と彼は面白がるような口笛を吹いた。
「……オレは不知火匡様だ。おまえらの名乗り、聞いてやるよ」
「新選組十番組組長、原田左之助」
不知火は拳銃を納めると眞里を目を細めて眺める。
「で、そっちがあいつが言ってた立花って奴か」
「お察しの通り立花眞里だ。訳あって新選組に身をおいている」
「覚えていてやるよ。面白い奴らに会えて今日のオレ様はゴキゲンだ」
獰猛な笑みを浮かべて肩を揺らす男。彼は拳銃を納めているが、眞里も原田も構えを解いていない。
しかし、眞里は刀を納めると目を細めて不知火を見据えた。
「所で長州の方々は既に引かれています。殿の貴方が我々を足止めする必要はなくなったのではないですか?」
原田は諫めるように眞里の名を呼ぶが、不知火は眞里を見据えて目を細めただけであった。
「ほぉ?」
「ここは一つ引いていただけませんか? 我々の目的は追討ではなく、警護。貴方とやりあうにこの場は相応しくない」
ちらりと後ろを見る。その視線は足手まといが居る場では遣りづらいと如実に語っていた。
「お、おい眞里」
「土方殿の指示は残党を追い返すこと。追討も討伐も申し渡されていません」
「だがよ……」
「いいぜ」
原田の困惑を余所に不知火は楽しげに言い放った。
「いいぜ。肝の座った奴は好きだからな。さっきも言っただろ。面白いやつらに会えて今日のオレ様はゴキゲンだ。――だが、いい気になるなよ。おまえも原田も次があれば容赦しねぇぞ」
剣呑な光を宿した目線に眞里は不適な笑みを返すが、肩を原田に掴まれその背中に庇われる。
「俺たちも長州となれ合うつもりはないさ。ま、お楽しみは素直に取っておくんだな」
「あー、おまえとは相容れねぇな。俺は【好きなものは最初に食う】派だ」
「奇遇ですね、私も先に食べる派です」
気が合うな!とけたけた笑いながら不知火は原田から十分な距離を取ると、ひらりと手を振って踵を返した。
その姿が見えなくなると、原田は槍を抱え直して振り返り際に眞里の肩を掴んだ。
「無茶するな!!」
大声ではない短い言葉から心配していることが伝わってくる。しかし眞里は心配される意味が分からず眉をしかめて原田を見返す。身長の差から大分見上げなければならないのが腹立たしかった。
「あのような至近距離ならば見切れます。連射式でも両手でもなかったですし、そうでなくとも難しいですが手がないわけでもない」
「そういう問題じゃねえだろ?!」
しかし、そこで言葉を切ると肩をつかむ手をそのままに顔を逸らした。眞里が見上げる横顔は苦悶に満ちた表情を浮かべていた。
「……いや、おまえの判断は正しかったと思う。こっちも余計な怪我人を出さずに済んだ。副長の指示は長州を追い返すことだしな。確かに、……奴らの追討は、俺らの仕事じゃない」
少し後悔の色が浮かぶ。横顔を眺めながら、眞里は幼なじみの真田幸村付き真田十勇士の二人を思い出した。
戦場で無茶をした幸村と眞里を、心配混じりの説教をしてきた猿飛佐助と霧隠才蔵も今の原田のような顔をよくした。
毎度怒られるわけではなく、極たまに起こることであった為、何故だったのか思い出せない。
二人して難しい顔をして黙っていたが、御門の警護を再開する音が聞こえた眞里は、肩に置かれた原田の手に上から手を重ねた。
「原田殿、隊士に指示を」
「……ああ」
重ねられた手に驚いているようだったが、原田は目元を和らげて重ねられた眞里の手を握った。
眞里の手よりも大きく、節くれだった手は槍に生きてきた男の手で、懐かしさを思わせる。
ふっと和らいだ眞里の顔を見て原田は一瞬表情をなくすが、名残惜しそうに手を放すと指示を待つ隊士へと指示を出しに歩き出した。
破壊された御門の破片の片付けや負傷者の手当等を手伝いそのまま原田の隊に従って働いていた。
眞里の隣で動いていた原田はふと作業の手を止めると長州が去った先を見つめた。眞里も原田の様子を伺うと、彼は瞳に寂しげな色を浮かべていた。
「……今更逃げたって、ただ辛くなるだけなんだろうけどな」
「……そう、ですね。御所に弓引いたことは紛れもないこと……。長州に帰るのは容易ではないでしょう」
「不知火の奴とは、また会うことになるかもな。……そんな気がする。ま、お前の槍も俺の槍も避けられたしな。あいつの相手は、ちと骨が折れそうだが」
「ですが、相手が誰であれ立ちふさがるならば戦うのみです。次は後れをとりません」
不敵な笑みを浮かべながらも揺らぎない覚悟を滲ませる眞里を見て原田は逡巡するとその頭を何度か優しく叩く。
「おまえの昔話、楽しみにしてるぜ?」
笑顔であるのに剣呑な雰囲気漂うそれに眞里はこくりと小さく頷いた。
***
原田のターンと見せかけて不知火のターン!
アニメ見てからずっと書きたかったので駆けて満足であります。
違和感残るところとかはまたいつか修正します。
次はちーさまとふくちょーのターン!
[2回]
デフォルト名:立花眞里
空が白み始めた頃、眞里の腕の中で眠っていた千鶴が目を覚ました。あたりは険しい顔をした者たちが警戒を続けている中、眞里に抱えられるように寝ていたことに俯きながら頬を赤く染めて照れていた。
慌てて離れる千鶴に手拭いを渡し、共に川原へと向かう。いくら夏とはいえ川の水は冷たく、手を浸すだけで眠気が醒める。顔を洗うと千鶴は申し訳なさそうに眞里を見上げた。
「あ、あの……眞里さん」
「よく眠れた?」
千鶴の言いたいことが分かっている眞里は頭を下げる千鶴の頭を優しく数度叩く。
「戦闘が始まれば御所まで走るからね。頑張って走るからね」
「はいっ! あの、ありがとうございました」
「うん、どういたしまして」
ようやく笑みを浮かべた千鶴の肩を抱いて幹部たちのもとへと戻ったそのとき。
明けの空に銃声が響き渡った。
隊士たちに緊張が走る。各々が居住まいを正す中、眞里も足下を整え直す。
遠く町中から、争う人々の声が聞こえると同時に隊士達は互いに顔を見合わせ頷きあった。
彼らは声をかけずとも己のすべきことを理解していた。同時に駆け出す。向かう先は、御所。
「――行くよ」
周りが駆け出す中、半ば茫然としている千鶴に眞里が声をかけた。
「はいっ!!」
千鶴が慌てて頷き返し、駆け出そうとした時、後方からざわめきが広がった。同じく待機組の会津藩士達である。
「待たんか、新選組! 我々は待機を命じられているのだぞ!?」
隊士の誰もが聞き流し、御所へと駆けていく中、ただ一人土方のみが立ち止まった。行軍の最中、土方はあまり怒らることはなかった。声を荒げる役は永倉達に任せ、役人相手に辛抱強い説得を繰り返していた。しかし、ここにきて我慢の限界が来たらしい。
後方を振り返るその端整な面立ちは、柳眉を吊り上げ、『鬼副長』の名に相応しく怒りの形相となっていた。
「てめえらは待機するために待機してんのか? 御所を守るために待機してたんじゃねえのか! 長州の野郎どもが攻め込んできたら、援軍に行くための待機だろうが!」
「し、しかし出動命令は、まだ……」
突然の怒声に役人は狼狽えながら言い訳をするが、土方はぴしゃりと言い放った。
「自分の仕事に一欠片でも誇りがあるなら、てめえらも待機だ云々言わずに動きやがれ!」
言うやいなや土方は返答を待たず、風を切るように歩き始めた。隊士達と空いた少しの距離を瞬く間に詰める。
土方に一括された会津藩士達も、目が覚めたように瞬く間に出撃の準備を終えると、新選組の後を追うように御所を目指した。
ちらちらと後ろを振り返りながら、隊士に置いていかれないように足を動かしながら千鶴は横を静かな顔をして歩き続ける斎藤を見上げた。
「……私たち、どこに行くんですか?」
「敵が確実にいる場所――、蛤御門を目指す。蛤御門では激しい戦闘が始まっているだろう。あんたも、今のうちに気を引き締めておけ」
「……はい」
激しい戦闘を予想したのか千鶴は真剣な面もちで静かに頷いた。
横で話を聞いていた眞里も戦場を思い浮かべるが、違和感に首を捻る。その様子を見かけた原田が声をかけてきた。
「何かあったか?」
「……いえ、ただ。……長州勢がどこまで持ちこたえるのだろうか、と思いまして」
「ああ……。戦力を考えりゃあ長続きはしないだろうよ」
静かな原田の声に小さく頷き返すと、眞里は歩くことに専念した。
蛤御門についたとき、眞里と原田の予想通り戦闘は終息していた。御門には金属の弾を撃ち込まれたようで、あちこちに傷が刻まれ、辺りには焼けたような匂いが漂っている。
火薬の臭いだと眞里は昔を思い出す。織田との戦ではよく遭遇した臭い。しかし、火縄銃ではない。
長州兵らしき姿もなく、周囲には負傷者も倒れていた。
土方の黙視を受け、数名の隊士が散った。情報を集めてくるのだろう。
はあ、と近藤が溜め息を吐く。
「しかし、天子様の御所に討ち入るなど、長州は一体何を考えているのだ」
「長州は尊王派のはずなんだがなあ……」
井上も呆れたように首を傾げる。その間に斎藤と原田が情報を得て戻ってきた。
「朝方、蛤御門へ押しかけた長州勢は、会津と薩摩の兵力により退けられた模様です」
「薩摩が会津の手助けねぇ……。世の中、変われば変わるもんなだな」
土方は皮肉げな笑みを洩らした。
眞里は藩についての知識は乏しいが、野営の最中に幹部の何人かから講釈を垂れていた。
薩摩と会津は親しい間柄はなく。元々は薩摩も長州と同じで、外国勢力を打ち払おうとしていたらしい。英国に戦争を吹っかけ大敗。それからは攘夷の考えを改めたらしい。
眞里には攘夷というのがいまいち理解が追いつかなかかった。
「土方さん、公家御門の方には、まだ長州の奴らが残ってるそうですが」
土方は原田の情報に口角を吊り上げた。続いて山崎が駆け込み静かに報告を上げた。
「副長、今回の御所襲撃を扇動したと見られる、過激派の中心人物らが天王山に向かっています」
土方は暫し黙考を続けていた、不意にニヤリと笑みを浮かべる。
「……忙しくなるぞ」
彼の言葉で、隊士たちは湧き上がる。
「左之助。隊を率いて公家御門へ向かい、長州の残党どもを追い返せ」
「あいよ」
「斎藤と山崎には状況の確認を頼む。当初の予定通り、蛤御門の守備に当たれ」
「御意」
「それから大将、あんたには大仕事がある。手間だろうが会津の上層部に掛け合ってくれ」
む、と近藤は不思議そうに首を傾げた。土方はうっそりと微笑む。
「天王山に向かった奴ら以外にも敗残兵はいる。商家に押し借りしながら落ち延びるんだろうよ。追討するなら、俺らも京を離れることになる。その許可をもらいに行けるのは、あんただけだ」
合点がいったのか近藤は力強く頷く。
「なるほどな。局長である俺が行けば、きっと守護職も取り合ってくれるだろう」
「源さんも守護職邸に行く近藤さんと同行して、大将が暴走しないように見張っておいてくれ」
「はいよ、任されました」
土方が冗談のような口調で言うと、くつくつと小さな笑いが隊士から洩れる。近藤は図星なのかばつが悪そうに苦笑する。
「残りの者は、俺と共に天王山へ向かう。それから、……おまえらは、好きな場所に同行しろ。だが、近藤さんについていくのは無しだ」
千鶴は途端に俯いて考え始めるが、眞里は始めから答えが用意してあったかのように土方を真っ直ぐに見据えた。
「原田殿の隊に加えていただきたく思います」
「……理由は」
眞里は小声で土方にのみ聞こえるように答えた。納得のいくものだったのか楽しげなあくどい顔で頷くと原田を呼び、眞里を連れて行くように指示をした。
何か言いそうだったが、眞里の真剣な面もちに承諾の意を示すと隊服を翻し、公家御門へと隊士を率いていった。
置いていかれるとなった千鶴は迷った後に土方を見上げて「よろしくお願いします」と頭を下げた。
下げられた頭をじっと眺めた土方は後方に控える隊士を振り返り。
「出発する!!」
浅葱の羽織を翻した。
斎藤率いる隊はそれぞれに動き出した新選組の皆を見送った。浅葱色が視界から消えると、斎藤はぽつりと呟いた。
「……まずは新選組の者として、会津の責任者に挨拶をすべきか」
「よろしければ、自分が動きます。……今は、上層部も混乱していますから、我々の行動を見咎めることも無いでしょうが」「会津藩の対応は山崎君に一任しよう。問題が生じたなら俺を呼んでくれ」
山崎は黙礼すると、指示を果たすべく駆け出していった。
会津と薩摩がもめている
身の振り方を定めるために周囲の状況を探っていると、険悪な空気を感じる。そちらへ足を向けると会津藩と薩摩藩とで、小競り合いが起きていた。手柄の取り合いのようであった。
ふと、薩摩藩士が新選組に気づくと馬鹿にしたような笑みを会津藩士へと向けた。
「何かと思えば新選組ではないか。こんな者どもまで召集していたとは……。やはり会津藩はふぬけばかりだな! 浪人の手を借りねば、戦うこともできんのか!」
薩摩藩士の無遠慮な言葉に、斎藤が率いてきた隊士たちの表情が強張る。しかし、斎藤は平然と片腕を上げて隊士を制した。
「世迷言に耳を貸すな。ただ己の務めを果たせ」
組長の冷静な指示に隊士も渋々と殺気を収める。
しかし、侮辱された会津藩士は声を荒げて刀を抜きはなった。
「おのれ、愚弄するつもりか!?」
相対する薩摩側も殺気立ち、あわや殺し合いが始まるかと思われた瞬間、薩摩藩士の列を割って、背の高い男が姿を見せた。
先頭に立つその男に、会津藩士は目をつり上げる。
「貴様が相手になるか!」
怒声を上げ斬りかかろうとするが、斎藤が双方の間に踏み入った。鞘で刀を抑え、静かな目で会津藩士を宥める。
「――やめておけ。あんたとそいつじゃあ、腕が違いすぎる」
薩摩藩に属するらしいその男は、居並ぶ新選組隊士達に目を向けた。そして斎藤を見ると一歩踏み出る。
「池田屋では迷惑をかけましたな。確か……、藤堂と言う名の青年と立花と名乗る方にお相手頂きましたが。彼の怪我の治りが良くないのであれば、加減ができずにすまなかったと伝えてください」
「池田屋で藤堂を倒したのは、あんたか。……なるほど、それならば合点が行く。大方、薩摩藩の密偵として、あの夜も長州勢の動きを探っていたのだろう」
鋭い口調で語る斎藤に対して、彼は否定もせず沈黙した。
斎藤は不意に、彼我の距離を詰めると瞬きの間も空けず、刀は抜き放つ。刀の軌跡は誰にも黙視できなかった。
白刃を晒す切っ先は、ぴたりと彼の眉間に狙いを定めて止められていた。しかし、その男は身動き一つせず、凪いだ眼差しで斎藤を見返している。
「……あんたは新選組に仇なした。俺から見れば、平助の敵ということになる」
斎藤の声音には、ぴりぴりしたものが混じっていた。やはり男は動じずに静かな口調で続けた。
「……しかし、今の私には、君達新選組と戦う理由がありません」
斎藤は彼に刀を向けたまま、相手の出方を窺うように沈黙した。彼もまた微動だにせず斎藤を見返している。
「俺とて騒ぎを起こすつもりは無い。あんたらとは目的を同じくしている筈だ。だが侮辱に侮辱を重ねるのであれば、我ら新選組も会津藩も動かざるを得まい」
釘を刺すような物言いに、男も納得したような素振りで頷く。
「こちらが浅はかな言動をしたことは事実。この場に居る薩摩藩を代表して謝罪しよう」
頭を下げる男に斎藤は頷き返すと、静かに刀を納めた。薩摩藩士たちは複雑そうな顔をしているが、何も言わない。
「私としても戦いは避けたかった。そちらが退いてくれたことに感謝を。聞き及んでいるかもしれないが、私は天霧九寿と申す者だ。次に見えるとき、互いが協力関係にあることを祈ろう」
名乗りを終えた彼は、ゆるとした動作で背を向ける。が、ふと立ち止まると振り返る。
「出来れば、立花にまた手合わせ願いたいと」
返答を求めずに踵を返すと、薩摩藩士たちを掻き分け、隊列の奥へと消えて行った。
見送る斎藤の隣に山崎が戻り、同じ様に男の背中を見送る。
「何者でしょう」
「さあな。居合いで脅せば容易に退くかと思ったが、奴には俺の剣筋が読めていたようだな。……薩摩にも厄介な輩がいるようだ。話が通じる点は救いかもしれんが」
御門には緊迫した空気だけが残された。
***
次はいよいよ公家御門!!
[1回]
デフォルト名:立花眞里
※随想録未プレイ、アニメ第8話より
煌びやかな室内。賑やかな笑い声。君菊に連れて行かれる千鶴を笑顔で見送る眞里は我関せじと再び箸を取った。
流石京の島原が出す食事と酒に下鼓を打っていると、不意に襖が開かれて千鶴が戻ってきた。
「眞里さんの分もあるそうですよ!!」
「……え?」
がしりと、両腕を掴まれる。見上げれば、永倉と藤堂が両腕を片方ずつ掴んでいる。つかつかとやってきた沖田が眞里の手から器箸を取り上げる。
「この際だ、眞里ちゃんも!!」
「いや、あの」
「そーそー!」
引き上げられ、千鶴の方まで引き擦られる。突然のことに抵抗もできずに引かれていくが、助けを求めて、上座の土方や斉藤や原田へと目を向けるが。
「……好きにしろ」
「え?」
「楽しみにしてるぜ」
「え、ちょっ……!」
巻き込む満面の笑みの千鶴と、楽しそうな君菊に引き渡されそのまま襖が閉められる。
「ちょっ、あの、こ、困ります!!」
襖の遠くから眞里の困惑した声が聞こえる。眞里ならば簡単に振り払える腕の筈だが、女性に対して優しい眞里には振り払うことのできない枷になっているらしい。
袴も着物も剥ぎ取られ、流石に湯殿までは連れて行かれなかったが髪も解かれ、豪華な着物を着せられ、帯を締められる。
白粉は断固拒否し、簡易な化粧にとどめてもらう。最後に髪に簪や櫛を飾り紅をさす。
傍らで眺めていたらしい千鶴の息をのむ音が聞こえた。
「うわあ、うわあ……! 眞里さん、スゴく綺麗……!」
「ほんまに化けましたなあ」
差し出された手に手を重ね立ち上がる。憂鬱にため息を吐けば簪がしゃらりと綺麗な音を立てる。
とてつもなく重い頭に苦笑いとともに懐かしさが浮かぶ。
隣で感激している千鶴を微笑ましく見て口元に笑みを刷く。
「千鶴の方が綺麗だよ」
途端に真っ赤になって俯く可愛らしい妹分に眞里は君菊と共に相好を崩した。
先導されるままについていき、座敷の前で膝を突く。
君菊が襖を開き、残っていた幹部に笑みを向ける。襖を通して室内の酒の臭いが流れてきた。
「お待たせしました」
「お、待ってましたー!!」
藤堂の声に千鶴が静かに立ち上がり先に室内に入る。その後に眞里も続く。
「失礼します」
頭を下げる千鶴の声は震えていて、緊張を如実に表していた。反対に眞里の声は平坦で、有り体に言えば投げやりであった。
顔を上げろとはやし立てる声に従って、三つ指ついた体勢からゆっくりと頭を上げる。
室内の空気が固まったのが眞里にも千鶴にも分かった。
「……ど、どうでしょうか」
不安な様子の千鶴に、沖田は一人楽しげな笑みを浮かべた。
「可愛いよ」
「っ、あ、……その、ありがとうございます」
言葉尻は小さくなっていったが千鶴は顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。恥じらう千鶴を後目に眞里は悠然と室内を見渡す。
藤堂も永倉も顔を赤くして言葉を失っている。千鶴の変貌に見惚れているようだ。
原田と土方は共に満足したような笑みを浮かべ、斉藤はよく分からない。
「……本当に、眞里と千鶴ちゃんかい?」
「ええ、永倉殿。お顔が真っ赤ですよ」
「っっっ!!」
意識して柔らかい声で話せば永倉と藤堂が息をのむ。真っ赤になって言葉にならない何かを口から紡ぐように忙しなく開閉させる永倉の様子に懐かしさを覚えて、袖で口を隠しながら笑う。
ちらりと千鶴を見やるがまだ沖田にからかわれて真っ赤になっている。豪華な着物を着せられて自分の膳を食べ続けるのも如何なものかと思い、君菊を見やる。
「お酌して差し上げましょ」
「……私に酌をされても愉快ではないと思いますが」
促されるままに静かに立ち上がり、上座の土方の下へと向かう。隙のない動作で、隣に腰を下ろすとたおやかな動作で徳利を持ち、差し出された猪口に注ぎ込む。
「雪村と違って馴れてんな」
「……まあ、幼い頃から姉上方にいいようにされていましたから」
「そうか」
くつくつと喉の奥で笑う土方の頬はうっすらと赤い。口調もゆったりとして、口数も少ないことから既に酔っているのだろう。
「土方さんよう、独り占めなんてずるいぜ!!」
「そうだそうだ!! 俺たちだって眞里さんに酌してもらいてえよ!!」
「ああ分かった分かった。おい、立花行ってやれ」
首肯すると静かに立ち上がり、永倉と藤堂の間に腰を下ろす。徳利を持ち上げると、真っ赤な顔をした二人が猪口を差し出す。
「どうぞ」
「あ、ありがとなー!!」
「お、おう! こ、こ、こんな美人さんに酌してもらえるとはー、永倉新八悔いはないっ!!」
真っ赤なままくいと勢いよく飲み干す二人に驚くが、あまりの狼狽ぶりに笑いがこみ上げる。
差し出される猪口に酒を注ぎ、飲み干す二人を見てまたくすくすと笑う。
「眞里さんがそんなに笑うの珍しいなー、なあ新八っつぁん」
「お、おう。そ、そそ、そうだな!」
「そうでしょうか? それより、お二人共深酒を召されませんように」
確かに声を上げながら笑うのは久しぶりかもしれない、と自覚しながらも答えをはぐらかして眞里は再び立ち上がった。
ようやく自分の膳に戻ろうかと袂を振った瞬間に原田から名を呼ばれた。
振り返れば彼は珍しく不機嫌な様子で眞里を手招きしていた。
静かに彼の隣に腰を下ろすと、無言で徳利を渡される。
眞里も無言で受け取ると、無言で猪口へと注ぐ。
「原田殿、どうかされましたか?」
「……あー、いや」
気まずそうに言葉を濁し視線を彷徨わせる。くいと猪口の酒を飲み干すと差し出されるので再び注ぐ。不機嫌から一転、戸惑っている様子に首を傾げる。簪がしゃらりと音を立てた。
「……その、こういうの馴れてんのか?」
「……?」
意味が分からずますます首が傾ぐ。
その様子を横目で見たのか、原田は決まり悪そうに髪を乱暴に掻くとちらりと眞里を見た。
「千鶴はかなり恥ずかしそうに戸惑ってるが、眞里は馴れてるみてえだし。板についてんだろ」
ようやく合点が行ったのか、眞里はああ、と頷くと笑みを浮かべた。
先程までの楽しそうなものとは違い、昔を思い出すときに浮かべる寂しげなもので原田は息をのんだ。
「立花の家だけで宴を開くと、母上や姉上によく着せられたんですよ。武田の時もたまにありましたが……」
眞里が着物を着る度に、幸村は新八よりも全身を真っ赤に染めて『破廉恥でござるぅぅぅぁぁぁああ!』と絶叫したものだ。
新八を見てそれを思い出したことを話すと、原田は先程までの不機嫌と狼狽から一転して優しげな笑みを浮かべた。
「綺麗だぜ」
「っ……」
黄色がかった瞳が優しく細まるのを見て眞里は息をのんで目を逸らした。
反らされた眞里の頬が薄く染まってるのを見て原田は満足げにくつくつと喉で笑い、再び猪口を差し出した。
「別嬪な姉さん、酌。頼むぜ?」
「……分かりました」
楽しげな原田と恥じらう眞里という珍しい組み合わせに千鶴は頬を染めながらその光景を見ていた。
そんな千鶴の様子に気づいた沖田と斎藤は彼女の視線の先を辿り、同じものを目撃した。
「ああ、左之さんが珍しいね」
「何がだ」
「左之さんって手酌で飲むでしょ?」
「立花に酌をしてもらうと美味いのではないだろうか」
「さ、さ、斎藤さん!?」
「何かおかしなことを言っただろうか」
真っ赤になった千鶴を不思議そうに眺める斎藤に沖田は腹を抱えて笑い出した。目尻には涙さえ浮かんでいる。
「おい、総司!!」
「なーに新八さん。眞里ちゃんを左之さんに独り占めされて悔しいの?」
「っぐ……!!」
新八は悔しそうに原田と眞里を見るが、その光景にため息をつくと徳利の酒を猪口に勢いよく注ぎ一気に飲み干した。
「っかー! 左之のあんな顔見たら邪魔できるかってんだ!! おい、平助!! 飲みまくるぞ!!」
「ああ!!」
勢いよく酒を飲み干していく二人を見て千鶴は驚きに目を白黒とさせる。
斎藤は我関せじと食事を続け、沖田は笑いながら猪口を千鶴に差し出す。
「あの二人がどうかした?」
「……いえ、君菊さんと土方さんの時も錦絵から出てきたような美男美女だなって思ったんですけど……」
「ああ、眞里ちゃんと左之さんも同じような感じだもんね」
***
ちょっとは原田×っぽくなったかな?
眞里は女物の着物も馴れてます。
原田さんって、讃辞とかは惜しみなく言うけど、「好きだ」とかはあまり言わない気がします。「俺はお前に惚れてる」とかは言いそうだけど、ストレートな言葉は恥ずかしがりそう。
斎藤さんが空気でした。
[4回]
デフォルト名:立花眞里
大急ぎで支度を済ませた新選組一行は、伏見奉行所まで辿り着いた。奉行所には長州との戦いに備えて、京都所司代の人々が集っているようであり、門の外にいながらもその熱気が伝わってくるようだった。
浅葱の羽織の集団に門の傍にいる者達が気づくと、先頭に立っていた近藤が役人へと近づく。彼らは既に浅葱の集団が新選組であることに気づいているようであり、新選組の名が知れ渡っていることが伺えた。
「会津中将松平容保様お預かり、新選組。京都守護職の要請により馳せ参じ申した!」
朗々と告げる近藤の言葉に、役人は訝しがるように眉を寄せた。その声は困惑と苛立たしさが混ざり、刺々しかった。
「要請だと……? そのような通達は届いておらん」
「――え?」
千鶴の洩らした呟きが聞こえたのか、斎藤は吐息と共に小声を零す。
「内輪の情報伝達さえままならんとは、戦況に余程の混迷を呈したと見える」
「戦況に混迷って……。……幕府側の勢力が、長州側に押され気味だってことですか?」
「そうとも限らん。……しかし、敵方に翻弄されてはいるのだろうな」
「………」
眞里は二人の会話を聞きながら、聞きかじった知識を思い浮かべる。所司代は守護職の部下に当たるが、守護職は会津藩の仕事であり、所司代は桑名藩の仕事であるらしい。
眞里には藩事情というものは分からないが、複雑なのだろうとあたりをつける。
どちらにせよ、今の状況は芳しくない。
長きにわたる太平の世により、戦の仕方など知らないのだろう。鎧兜も付け方を知らないと聞いたこともある。
「しかし、我らには正式な書状もある!上に取り次いで頂ければ――」
「取り次ごうとも回答は同じだ。さあ、帰れ! 壬生狼如きに用は無いわ!」
「っ……!?」
役人の言葉に殺気が走る。
壬生狼の意味を眞里は理解し得ないが、発言の様子から新選組に対する侮辱であり、屈辱的な名称なのであろうことは伺い知れる。
しかし、彼らは一人として発言した役人に対して反駁をなさなかった。彼らとて侮辱に対し平常でいられる訳ではないのだが、耐えるべきところは弁えているのだろう。
我が事のように悔しがる千鶴は唇を噛み俯く。その肩を原田が慰めるように数度叩く。
「ま、おまえが落ち込むことじゃないさ。俺たちの扱いなんざ、こんなもんさ」
「う……」
しかし隊士でなくとも悔しがる千鶴に、原田は優しく笑う。
「俺らが所司代に対して下手に騒げば、会津の顔をつぶしちまうかもしれないしな」
「あ……」
新選組は会津藩預かりであり、が桑名藩に刃向かったとなれば、藩同士のもめ事になるのだろう。それを分かっている彼らは何もいえない。
困り切っている近藤の後ろに寄った斉藤は役人に聞こえない声量で進言した。
「近藤局長、所司代では話になりません。……奉行所を離れ、会津藩と合流しましょう」
「うむ……。それしかないな。守護職が設営している陣を探そう」
振り返った近藤は会津藩の陣営に移動することを決め、会津藩邸へと向かうことを告げた。
会津藩邸に到着し、奉行所への連絡不備について報告し、どのように動けばよいのかを尋ねた新選組に対し、役人は九条河原へ向かうように告げた。
再び歩き始め九条河原へと向かう隊士達は、盥回しにされる現状に対し、不満を蓄積させていった。それは幹部でも関係なく、まして隊士ですらない眞里と千鶴も同じであった。
九条河原に到着し、その場にいる者に再び近藤が会津藩からのお達しで新選組が来た旨を告げた。しかし、やはりそこでも連絡不備が露わになった。
「新選組? 我々会津藩と共に待機?」
「そんな連絡は受けてはおらんな。すまんが藩邸へ問い合わせてくれるか」
会津藩士でさえ首を傾げ、追い返す発言に、永倉の堪忍袋の緒が切れた。
「――あ? おまえらのとこの藩邸が、新選組は九条河原に行けって言ったんだよ! その俺らを適当に扱うってのは、新選組を呼びつけたお前らの上司をないがしろにする行為だってわかってんのか?」
怒鳴り出すかと思っていた土方ではなく、永倉の怒声に眞里は思わず苛立ちを忘れて彼の顔を見る。捲くし立てられた藩士が言葉に詰まると、近藤が大らかな笑顔と共に口を開いた。
「陣営の責任者と話がしたい。……上に取り次いで頂けますかな?」
藩士が尚も何か言おうとするが、苛立ちが頂点となっていた新選組からの殺気混じりの睨みに慌てて陣営の奥に走っていった。
近藤達が陣営責任者と話を終え、ようやく九条河原で待機することが許されたのは日も暮れた頃であった。
今後の動きについて、会津側との相談をするため席を外した局長たちとは別にその場に残った幹部達は野営の準備を始めた。
野営をどのようにするかと思案を始める中、立ち去り間際に土方が「立花、任せた」と告げていった為に、眞里は野営の準備の司令塔として忙しい時間を送る羽目になった。
野営の準備が終わった頃、近藤達が戻ると眞里はようやく人心地つけるために、たき火を囲む幹部の隣に腰を下ろした。
「お帰り、立花君。助かったよ」
「井上殿もお疲れさまでした。白湯でよろしければお持ちしますよ?」
「ああ、面倒でなかったら近藤さん達の分もお願いして良いかな」
小さく頷いた眞里は再び立ち上がり、食事の指示をしていた場所から白湯を数人分もって戻る。白湯を配り終えると、近藤達は疲れたように苦笑した。
「ああ、ありがとう」
「いえ、ここの兵達は主戦力ではないですね」
野営の設営にあたって、会津藩陣営に足を何度か伸ばした眞里は印象から受けた推測を口にする。井上は驚いたように目を瞬くが、隣にいた土方は目を細めて笑うと、「よく分かったな」と喉の奥で笑うように言った。
「立花君の言うとおり、ここの兵達は主戦力じゃなくただの予備兵らしい。会津藩の主だった兵たちは、蛤御門のほうを守っているそうだ」
やはり、と納得する眞里とは別に千鶴は驚いたのか目を瞬く。
「新選組も予備兵扱いってことですか?」
「……屯所に来た伝令の話じゃあ、一刻を争う事態だったんじゃねぇのか?」
永倉は苛立たしげに不平を洩らす。対照的に斉藤は淡々と述べる。
「状況が動き次第、即座に戦場へ馳せる。今の俺たちにできるのは、それだけだ」
「夜襲の可能性はないとは言えませんがそのような度胸はないでしょう。そろそろ食事をお持ちします」
「お、飯か! さすが、眞里は仕事が違うな!」
「わりいな、いつもいつもこんな仕事ばっかさせて」
「でも、手慣れているねぇ」
いくら武家の娘で跡取りとして育てられたとしても、手慣れ過ぎている。違和感に訝しむ幹部へと眞里はうっすらと笑みを浮かべると、静かに立ち上がる。去りゆく背中をぼうっと見ていた千鶴は慌てて後を追いかける。
簡易な食事で腹を満たすと幹部の中に千鶴と眞里も混ざり一つのたき火を囲っていた。
可能性がない訳ではない以上、突然の夜襲も起こりうる。千鶴は気を抜くものかと真剣な顔でたき火を見ていた。隣に座る眞里は思わず苦笑いを浮かべる。
寝ずの番の見張りを申し出たが、幹部以外にも平隊士も含めて全員から却下されたためにおとなしく千鶴の隣に腰を下ろしていた。
「千鶴、休むなら言えよ? 俺の膝くらいなら貸してやる」
千鶴の様子に原田が笑み混じりに言うも、千鶴は真面目に首を横に振った。
「大丈夫ですっ」
微笑ましいものを見るように穏やかな空気が流れる中、眞里はそっと千鶴の頭に腕を回すと、自分の肩に凭れさせる。
困惑して見上げてくる視線に穏やかな笑みを返す。
「私は慣れているから、遠慮しなくていいよ」
「……でも」
「きちんと寝た方が千鶴は動きやすいから、肩でも膝でも使って寝なさい。役に立ちたいという気持ちなのなら、貴女が今すべきは?」
暫し考え込むと、千鶴は恥ずかしそうに俯きながら眞里にもたれ掛かりやすい体勢になると、肩に頭を預けて目を閉じた。
「お借りします」
「どうぞ」
呆気に取られる周囲に気づかないまま、千鶴は小さな寝息を立て始めた。眞里は前から思っていたことだが、やはりこういった場所でも寝られるところを見ると、千鶴は中々図太い神経をしているのではと再認識させられる。
寝づらそうなので膝の上で横抱きに抱えて、眞里に凭れさせる。それでも起きないところを見ると、しっかり寝入っているようだ。
「かーっ、羨ましいぜ」
「新八が行っても雪村は眠らないだろう」
「何だと!」
永倉と斉藤のやりとりを聞きながら、原田は羽織を脱ぐと眞里の肩に掛ける。礼を目を細めながら受けると、先ほどまで千鶴が座っていた場所に腰を下ろす。
「なんつーかよ、お前って俺らより場慣れしてるような感覚があるよな」
「そうだろうな」
思いも寄らぬ場所からの返答に永倉と斉藤ですら発言者、土方を見た。彼は腕を組みながら目を閉じていた。
「土方殿?」
「土方さん?」
「……話したくねぇっていうならそれでいい。お前の判断に任せる」
土方はゆっくりと眞里を見据えて語る。その意味を知るのは、眞里以外には近藤と千鶴のみであるため知らない幹部は皆一様に首を傾ぐ。
眞里は暫し目を閉じて黙考した。
過去を語ることは構わない。自分自身未だに信じられないことではあるが、これが現実であると理解はしている。諦めてもいた。
このような絵空事にも等しい話はしたところで否定されるか、流されるかしかない。
否定されても構わないと思っている。気違いだと言われることも。
しかし、眞里の過去など知らずとも良いことであると眞里は思うのだ。
自分の身の証をたてるため、近藤と土方には話した。結果的に真であると受け入れてもらえた。けれど、所詮は過去のことである。眞里の過去など知ったところで新選組の役には立てない。
今回のように野戦があれば、知識を役立てることはできる。しかし、話す必要性は感じないのだ。
今後の身の振り方で幹部には話していた方がいいと土方が判断するならばそれに従うつもりである。
「土方殿が、必要があると判断するならばそれに従います」
「おい、土方さん。何の話だ?」
「こいつが、何で剣も槍も腕が立ち、野営の知識があるかってことだ」
一斉に視線を感じ眞里は首を傾げる。やはり気になることなのだろうか。
誰もが沈黙に口を閉ざす中、永倉だけが一人笑った。
「そりゃあ気になるな。俺もお前さんからは一本取るのがやっとだ。その腕は並大抵のもんじゃない」
「そうだな。ま、過去っていうよりか、どうやって磨いてきたかって方に興味はあるな」
「オレも、立花がどのような鍛え方をしてきたかという点には興味が沸く」
思わぬ言葉に眞里は目を瞬き、ふわりと笑みを浮かべた。
千鶴以外にあまり見せない笑みをたき火の明かりの元とはいえ、目撃した彼らは言葉を失った。
***
面倒なので禁門の変が終わったら暴露します。
ようやく!! 書きたいシーンが!!そしてついに20話突入!
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