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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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薄桜鬼5

デフォルト名:立花眞里



 仕切り直した広間で、近藤は一つ咳払いをすると眞里と千鶴を見た。

「美人さんたちだとは思っていたんだが、まさか本当に女性だったとはなあ……」
「女だって聞いてから見ると、女にしか見えなくなってくるんだよなあ」

 感心したような近藤と藤堂とは裏腹に、井上は申し訳なさそうに顔をゆがめた。

「しかし、女の子を一晩縄で縛っておくとは、悪いことをしたねえ……」
「女だ女だって言うが、別に証拠は無いんだろ?」

 永倉は一人不機嫌そうに頭をかき、狼狽える千鶴を見て原田は楽しげに笑った。

「証拠も何も一目瞭然だろうが。なんなら脱がせてみるか?」
「そ、それは――」
「脱ぎますか? 私は構いませんよ?」

 顔を赤める千鶴とは対照的に、しれっとした顔で言い放った眞里に言った本人である原田も、永倉も面食らう。
 全く気にしないそぶりで、自分の着物の襟首に手をやった眞里に、窘めるような土方の低い声が響く。

「おい、こら。やめやがれ」
「許さん、許さんぞ! 衆目の中、女子に肌をさらさせるなど言語道断!!」
「分かったから、脱がなくていいよ」

 眞里が襟首から手を離せば、安堵のため息が重なる。一部のは残念そうな響きもあったが、土方の睨みが持ち主へと飛ばされる。

「しかし、本当に女だって言うなら、殺しちまうのも忍びねぇやな……」
「男だろうが女だろうが、性別の違いは生かす理由にならねぇよ」

 永倉の呟きに土方がすかさず釘を刺す。山南も同調を示す。曰く、「人を殺すことは忍びないこと。京の治安を守るため組織された新選組が、無益な殺生をするわけにはいけない」と。

「結局、女の子だろうが男の子だろうが、京の治安を乱しかねないなら話は別ですよね」

 沖田の微笑みに、近藤は苦い顔で頷く。
 眞里には現在の京の様子はよく分からないが、千鶴の話と今の彼らの話から察するに、反幕府派という勢力や、主君を失った武士である浪人が京に蔓延っている。彼らによって治安は悪化し、新選組は京の治安を守るためにある。

 よって、眞里と千鶴は彼らに新選組の握られたくないものを漏らしてしまうかもしれない危険因子なのだろう。

 近藤に話を聞かせてくれといわれ、視線を受けた千鶴は眞里を見た。その視線に眞里は微笑し、小さく頷く。

「……私は、雪村千鶴と言います」
「私は、立花眞里と申します」


 そこから千鶴は順序立てて説明を始めた。江戸の出身であること、連絡の途絶えた父を探しに眞里と二人で京まで来たこと。

 誰もが口を閉ざして聞く中、近藤は感極まったように目を潤ませた。

「そうか……。君たちも江戸の出身なのか!父上を探して遠路はるばる京に来たのか! して、そのお父上は何をしに京へ?」
「父様は、雪村綱道という蘭方医で――」
「なんだと!?」

 千鶴の父の名を聞いた瞬間、場の空気は一変した。緊迫した空気の中、幹部の誰もが千鶴を眺める。その眼光は鋭い。
 あまりの変貌に千鶴は目を丸くして固まってしまった。

「これは、これは……。まさか綱道氏のご息女とはね」
「綱道殿をご存じなのですか?」

 眞里の問いかけに、皆一様に口を噤み視線を落とす。どう答えるべきか迷っているようだった。張りつめた緊張を斉藤によって破られる。

「綱道氏の行方は、現在新選組で調査している」
「新選組が父様のことを……!?」

 悲痛な声に、千鶴の考えを否定する為か沖田が軽く手を振り否定の意を示す。

「勘違いしないでね。僕たちは綱道さんを狙ってるわけじゃないから。同じ幕府側の協力者なんだけど……。実は彼、ちょっと前から行方知れずでさ」
「幕府を良く思わない者たちが、綱道氏に目を付けた可能性が高い」

 千鶴は息を飲み、目を見開いたまま再度固まる。まさか、偶然遭遇して拘束された新選組が探し人を探しているとは誰も思わない。

「生きている公算も高い。蘭方医は、利用価値のある存在だ」

 俯き、父を呼ぶ千鶴の頭を二回軽く叩く。無事だろう。そんな意味を込めて。
 顔を上げた千鶴はぎこちない笑みを浮かべた。

「ですが、綱道氏が見つかる可能性は、君のおかげで各段に上昇しましたよ」

 山南が言うには、綱道が新選組を訪れたのは数回だけらしい。面識が薄い人間は月日がたてば立つほど本人かの認識が難しい。だから、千鶴が居れば身なりが変わっていても看破できるだろうと、山南は続けた。
 納得している千鶴とは別に眞里は若干引っかかりを覚える。

 数回しか訪れたことのない蘭方医を何故必至に探しているのか。

「あの蘭方医の娘となりゃあ、殺しちまうわけにもいかねぇよな」

 面倒そうな口調で土方は呟くと千鶴を見た。

「昨夜の件は忘れるって言うなら、父親が見つかるまでおまえを保護してやる」
「君の父上を見つけるためならば、我ら新選組は協力は惜しまんとも!!」

 快活な笑みと共に握り拳を作る近藤につられて千鶴も笑みを浮かべる。

「殺されずに済んで良かったね。……とりあえずは、だけど」
「はい。……良かったです」
「本来であればここのような男所帯より、所司代や会津藩に預けてやりたいんだが……」

 一転して困ったように微笑む近藤。表情も感情も豊かで、大らかなのだろうことはこの数刻のやり取りで眞里にも分かる。

「不便があれば言うといい。その都度、可能な範囲で対処してやる」
「ありがとう、ございます」

 斉藤の静かな言葉に千鶴は照れたように言葉を切る。先程までの先の見えない不安から一転して、親切な言葉の数々にどうすればよいのか分からないようだった。

「ま、まあ、女の子となりゃあ、手厚く持てなさんといかんよな」
「新八っつぁん、女の子に弱いもんなあ……。でも、だからって手のひら返すの早過ぎ」
「いいじゃねえか。これで屯所が華やかになると思えば、新八に限らず、はしゃぎたくなるだろう」

 原田の言葉に千鶴は困ったように笑った。
 新選組で面倒を見ると言っても恐らく男装が大前提の筈だ。
 男所帯でやってきた場所に、女を放り込んでもろくなことにはならない。

「隊士として扱うのもまた問題ですし、彼女の処遇は少し考えなければなりませんね」
「なら、誰かの小姓にすりゃいいだろ?近藤さんとか山南さんとか――」
「やだなあ、土方さん。そういうときは、言い出しっぺが責任取らなくちゃ」

 土方の言葉ににやりと笑った総司が言った言葉に、近藤は満面の笑みで首肯した。

「ああ、トシのそばなら安心だ!」
「そういうことで土方君。彼女のこと、よろしくお願いしますね」
「……てめぇら……」

 先行きに不安を覚えるが、何とかなるだろう。と眞里と千鶴は安堵のため息を吐くと、目配せをして互いに微笑み合う。
 そういえば、と今更思い出した眞里は土方と近藤に顔を向ける。

「千鶴の処遇には安堵したけれど、私はどのように?」
「あっ!」

 事情を説明したとは言え、それはあくまで千鶴の事情であり、眞里は違う。
 千鶴もそれに思い至ったのか、さあっと顔から血の気が引く。

「……お前は、とりあえず傷を癒すのが先だろう」

 気まずそうに目を逸らす土方をじっと見つめるが、彼は口を開く気配がない。
 そんな二人の間に近藤が窘めるように割ってはいる。

「まあまあ、眞里君のことは君の傷が癒えたらきちんと決めようと我々も決めていたんだよ。まだ、本調子ではないだろう? 話も長くなるだろうからね」
「……ならば、刀だけでいいので返していただけないでしょうか」

 刀? と脈絡のなさに誰もが首を傾げる。
 そんな周りの疑問は気にせず、眞里は小さく頷く。

「殺気はないと分かっていますが、人の気配がする場所ではあれがないと眠れないのです。……そのように育ちましたから」
「ああ、だから壁に凭れていたんだね?」

 井上の言葉に、真意を求めた視線が集う。眞里はもう一度頷いた。

「この子は一睡もしていないよ。壁に背をつけてずっと座っていた。……そのように育った、というのは分からないけれど」
「……その怪我では刀は振れまい。後で部屋に持って行く」
「ありがとうございます」

 この怪我でも刀は振れる。しかし、返してもらえるのならよけいなことは言うまい、と眞里は口を噤んだ。



 部屋に戻るように言われ、千鶴は立ち上がり眞里へと手を差し出す。しかし、だるさの境地にいた眞里は手を上げる気力もなく、ぐったりと座り込む。

「ったく、仕方ねぇ奴だな……。おい、これしっかり握っとけ」

 呆れた声と共に目の前に差し出されたのは、愛刀【桜花止水】
 咄嗟に握り、柄に目を寄せる。その肩に土方の手が乗せられる。寝るなと言わんばかりだが、残念だが抗えない。

「御館様……」

 小さく呟くと、そのまま意識が闇へと沈む。
 傾ぎそうになった体を支えると、舌打ちと共に土方が持ち上げる。

「……こいつはこいつで、何かありそうだな」
「あ、あの……。眞里さんは」
「気を失ってるだけだ。仕方ねぇ。誰か、襖開けてくれ」

 斉藤が静かに襖を引くと土方は人を抱き上げているとは感じさせない早さで歩いていく。その背中を千鶴があわてて追いかけた。

「刀がねえと眠れないってどんなに警戒してんだ」
「……山崎君の話では、監視の視線に気づいていたそうだが」
「あの子の家族って訳でもないだろ?いったいどういう関係なんだろ」

 彼らの疑問に答えが得られるのは、まだ当分先のことであった。

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薄桜鬼4

デフォルト名:立花眞里



 部屋に戻された眞里と千鶴は、静かに閉められた襖に深いため息をついた。

「千鶴、手は大丈夫?」
「うん、そんなにきつくないから。それより、眞里さんは大丈夫? まだだるそうだけど……」

 千鶴と違い、戒められていない手で彼女の頭を撫でる。
 文句をあげながらもされるがままの彼女は手を止めると不安そうに襖を再び見た。

「……どうなるんだろう、私たち」
「どうだろうね。できれば殺したくないけど、殺すしかない。といった空気だったね」

 あのような話し合いでは、決定権を持つ人間の決定が通るのが定番である。先程の様子から察するに、近藤か土方か……。

「近藤殿と土方殿の意見が合えば、それが通ると思う」
「……やっぱりそうなるのかな」
「多分ね。それより、千鶴に教えて貰いたいのだけど」

 不思議そうに首を傾げる千鶴に眞里は座るように促す。
 このまま待っていても、逃げ出しても転がる先は同じだ。どうせ逃げ出すことは不可能なのだから。天井裏と、廊下側から人の気配がする。
 そのことに気づいていない千鶴には告げず、眞里は自分の疑問を解消することを選んだ。

「新選組ってなにかな」
「え? あ、そっか。眞里さん知らないよね」

 新選組といえば、京や江戸ではそれなりに名が知られている。
 しかし、眞里はあまり物事を知らない。それはともに過ごした一年で心得ている千鶴は、眞里に分かるように簡単に説明をはじめた。
 事実と噂と混ざり過ぎているために、どこからどこまでが真実か分からないことも織り交ぜつつ、自分が知る新選組を語る。

「……そうか。いまいち、情勢が理解できないが、何となく分かったよ。ありがとう」
「どういたしまして」

 眞里の礼に笑顔で答えると、千鶴は静かに立ち上がり襖に手をかけた。

「千鶴?」
「このまま待っていても、殺されてしまうと思うの。……和解は難しいと思うし……」
「三十六計逃げるにしかず?」

 揶揄したような眞里の言葉に、千鶴は重い面差しで頷く。

「手は無理だけど足は動くし、……出口への道も覚えて居るもの」

 小さく頷いた千鶴は襖へと近づく。おそらく足で開けるつもりなのだろう。

「眞里さんは……」
「私は気にしなくていいよ」

 不安そうな面差しに笑顔を浮かべる。
 千鶴が迷いに手を下ろした瞬間、襖が勝手に開き入ってきた人物と千鶴は衝突した。
 入ってきたのは局長である近藤であり、体格の違いで転倒する千鶴は手が縛られているために受け身が取れない。眞里は素早く入り込み彼女の体を受け止める。

「っぁ!」
「おや……、ずいぶん大胆な方ですね。まさか逃げるおつもりだったんですか?」

 腕の傷口を畳に打ち付け痛みに呻く眞里の声を、近藤に続いてきた山南の言葉がかき消す。
 眞里の上にいる千鶴は蛇に睨まれた蛙のように縮こまる。

「勝手に動かれては困ります。君たちの身が、余計に危うくなるだけですよ?」

 硬直した千鶴に追い打ちをかけるように、静かな土方の視線と声が千鶴に注がれる。

「逃げれば斬る。……昨夜、俺は確かにそう言ったはずだが?」
「残念だけど、殺しちゃうしかないかな。約束を破る子の言葉なんて信用できないからね」

 怒りを孕んだ声に続いて、沖田の静かな声。
 残念そうな言葉とは裏腹に、沖田は静かに微笑みを浮かべていた。
 それでも諦めきれなかったらしい千鶴は、勢いよく起きあがると近藤の脇をすり抜けて外へ出ようとするが、呆れたような声とともに土方に襟首を掴まれてつまみ上げられる。

「あのな、おまえ。本気で逃げ出せるとでも思ったのか?」
「は、はなしてくださいっ!」
「離したら逃げるんだろうが、このアホウ」

 捕まった猫の子のようにじたばたと手足を動かして逃れようとする千鶴に土方は苛立ち吐き捨てる。

「大丈夫かい?」
「……ありがとうございます」

 千鶴と土方のやり取りとは別に、倒れ込んだままの眞里に近藤が屈み込み手を伸ばす。しかし、眞里は目を伏せて礼の後に首を振った。
 右手のみをついて起きあがろうとすると、静かに肩に手を置かれ手助けされる。沖田だった。

「君、強情だね」
「ありがとうございます」
「褒めてないよ」

「ふん……。そっちの女はまだしも、年端もいかねぇ小娘が、下手な男装までして何を果たそうってんだ?」

 すべきことがあると喚く千鶴に土方が鼻で笑って切り捨てる。しかし、千鶴は大人しくなると土方をじっと見上げた。
 やっと大人しくなった千鶴を床に下ろした土方は面倒そうに深く息を吐いた。

「あの、土方さん。あの……。今、小娘って」
「……なるほどね。あなたはさておき、やはりこちらの方も女性だったんですね」
「どう見ても女の子だよね、君は、きれいに化けたつもりかもしれないけど。ま、こっちの子は中々分かんないけど、土方さんがそういうならそうなんでしょ?」

 山南、沖田の言葉に千鶴が驚きの声を上げるが、もう一人も声を上げて驚いていた。

「……この近藤勇、一生の不覚!! まさか、まさか君たちが女子(おなご)だったとは!!」

 近藤は驚愕の表情のまま千鶴と眞里を見比べていた。

「命を賭けられる理由があるんなら、誤魔化さずに全部吐け。……いいな?」

 土方の真剣な表情に千鶴は小さく頷いていた。
 千鶴の仕草を満足したように見下ろすと、部屋へと足を踏み入れ眞里の前で膝を突いた。そして眞里の左腕を取り、無言で袖を捲る。横で近藤が土方の名を呼ぶが気にせず、腕に巻かれた白い包帯が赤く染まっているのを見て舌打ちをした。

「っ眞里さん!」
「なんで無茶しやがった。……悪化したらどうするつもりなんだ」
「大丈夫ですよ。傷が開いただけですから」

 千鶴を庇った時に腕をぶつけ、傷が開いた。ただそれだけのことだと笑う眞里にまた舌打ちが一つ。立ち上がろうと体制を直そうとすると、浮遊感に包まれる。
 驚く間もなく、耳元で近藤の狼狽える声がする。

「いかん! 女子が、傷などいかん!! トシ、すぐに手当を!!」
「分かったから、落ち着け近藤さん。斉藤が準備してる筈だから広間に行ってくれ」
「分かった! 君、しばしの辛抱だぞ!!」

 どたどたと走り去る近藤に抱き上げられていた眞里は、心配で辛そうに顔を歪ませる近藤に小さく礼を告げた。



「あーあ、近藤さん慌てちゃって」
「眞里さん……私のせいで…」

 真っ青になる千鶴の頭を軽く小突くと土方は近藤が去った方へと踵を返す。

「どっちにしろ、あいつの傷の具合を見る予定だったんだ。おら、さっさと行くぞ」




 近藤に運ばれ、幹部がいる部屋で呆れ顔の斉藤に手当された眞里は深いため息を吐いた。

「さ、斉藤。傷は、傷は残らないかい?」
「どうでしょう……。私は医療の専門家ではないので、分かりませんが……」
「今更傷の一つや二つ、増えたところで変わりません。お気遣い頂ありがとうございます」

 包帯が結び終えた腕をそっと袖の中に戻す。眞里としては本当のことであるため、気にすること出はないのだが、近藤は心底気にしているようだった。眞里の言葉に煽られたのか、勢いよく眞里の肩を掴み深く頭を下げた。
 慌てたのは、下げられた眞里と、部屋にいた幹部達と、部屋に戻ってきた者達であった。

「近藤さんっ! あんた何頭下げてんだ!!」
「女子に怪我をさせ、あまつ肌に傷が残ってしまうなど! 俺は自分が許せない!!」
「……近藤殿、軍の頭は容易く頭を下げてはいけません。お優しく、気遣って頂けるのは大変嬉しく思いますれば、頭をお上げください」
「うむ……。しかし……」

 まだ納得のいかない近藤に眞里はふわりと笑い、目を伏せる。

「私は、武士です。生まれてからこの年まで戦場を駆けて参りました。傷は、私が未熟な証。お気に召されるな」

 眞里の言葉に近藤は、深く考え込み。小さく頷いた。

「……で、近藤さん。気はすんだかい?」
「あ、ああ! すまなかった。とりあえず、彼女たちの事情を聞こう」

 土方の言葉で我に返った近藤に肩を解放された眞里は、静かに立ち上がり、千鶴と先ほど座った場所にもう一度腰を下ろした。


***

原田さん達が空気です

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薄桜鬼3

デフォルト名:立花眞里



 近藤の言葉に部屋の空気も変わり、視線を向けられた斉藤は畏まった仕草で頷くと静かに言葉を発した。

「昨晩、京の都を巡回中に浮浪の浪士と遭遇。相手が刀を抜いたため、斬り合いとなりました。隊士等は浪士を無力化しましたが、その折、彼らが【失敗】した様子を目撃されています」

 話し終えた斉藤はちらりと千鶴と眞里へと視線を向けるが、眞里は素知らぬ様子で近藤を見続けた。この場は黙り通すのが殊勝だが、千鶴は静かに口火を切った。

「私、何も見てません」

 その言葉を聞いて、土方以下数名は表情を和らげるが、他は様子を崩さない。
 藤堂が身を乗り出して穿つ様に千鶴を見つめる。

「なあ。おまえ、本当に何も見てないのか?」
「見てません」

 きっぱりと言い返す千鶴の様子に眞里は思わずため息をつく。

「ふーん……。見てないんならいいんだけどさ」

 身を引いた藤堂に続いて、永倉が不思議そうに千鶴を見る。

「あれ? 総司の話では、おまえが隊士どもを助けてくれたって話だったが……」
「ち、違います!!」

 焦った様に声を上げる千鶴に眞里は手で顔を覆った。完全に誘導尋問に引っかかっている千鶴を止めることはできない。

「私は、その浪士たちから逃げていて…! そこに眞里さんと、新選組の人たちが来て……。だから、私が助けてもらったようなものです」
「じゃ、隊士どもが浪士を斬り殺してる場面はしっかり見ちゃったわけだな?」

 千鶴は顔面を蒼白にして口ごもった。
 部屋の空気が、鋭いものを帯びて千鶴に突き刺さる。

「つまり、最初から最後まで、一部始終を見てたってことか……」

 原田の言葉に千鶴は助けを求めるような顔をして眞里を仰ぎ見るが、残念ながら眞里にもどうすることもできない。

「おまえ、根が素直なんだろうな。それ自体は悪いことじゃないんだろうが……」

 彼は曖昧に言葉を切った。

「わ、私、誰にも言いませんから!」
「偶然浪士に絡まれていたという君が、敵側の人間だとまでは言いませんが……。君に言うつもりがなくとも、今のように相手の誘導尋問に乗せられる可能性はある」

 山南の鋭い指摘に千鶴は言葉を詰まらせる。
 何を言ってもどうしてもこの場を切り抜けるのは不可能だろう。

 千鶴や眞里が京に上ったのは、千鶴の父雪村綱道を探すため。彼らの秘密……昨夜の出来事を口外するつもりはなくとも、彼らは安心はしない。

 不安の芽は摘み取るに限る。そんなことは、戦国の乱世を生きていた眞里が一番よく知っている。

 次々と追いつめられていく状況に千鶴は泣きそうになりながら俯いていく。
 口封じは、殺すのが一番。そうさらっと言った沖田を近藤はたしなめるように見た。

「総司、物騒なことを言うな。お上の民を無闇に殺して何とする」
「そんな顔しないでくださいよ。今のは、ただの冗談ですから」

 困った顔をした沖田は目を伏せた。このやりとりで、沖田が近藤に弱いというのが伺えた。

「冗談に聞こえる冗談を言え」

 斉藤の呆れたように呟かれた言葉に沖田は照れたように笑った。

「しかし、何とかならんのかね。……まだこんな子供だろう?」
「私も何とかしてあげたいとは思いますが、うっかり洩らされでもしたら一大事でしょう?」

 井上の言葉に山南は千鶴と眞里を一瞥し、土方へと向き直った。

「私は、副長のご意見をうかがいたいのですが」

 土方は小さく息を吐き出すと、千鶴を一瞥し眞里をじっと見た。

「俺たちは昨晩、士道に背いた隊士を粛正した。……こいつらは、その現場に居合わせた」

 誰も一言も発さない。土方は眞里から視線を外さなかった。

「―――それだけだ、と仰りたいんですか?」
「実際、このガキの認識なんざ、その程度のもんだとは思うんだが……」

 眞里を見る眼差しには、『お前は違うと思うがな』そういう意味が込められている気がした。おそらく眞里の認識は間違っていない。

「……けどよ、こればっかりは大義のためにも内密にしなきゃならねぇことなんだろ? 新選組の隊士は血に狂ってるなんて噂が立ちゃあ、俺らの隊務にだって支障が出るぜ」

 永倉の筋の通った指摘に土方の表情が曇る。

「総司や新八の意見も一理あるとは思うけどな。ま、俺は土方さんや近藤さんの決定に従う」
「……オレは逃がしてやってもいいと思う」

 原田に続いて藤堂も困ったように言った。

「こいつらは別に、あいつらが血に狂った理由を知っちまったわけでもないんだしさ」

 『血に狂った』
 その言葉は正しいと、眞里は昨晩を思い起こした。むせかえる様な血の匂い。あの狂気はまさにその言葉が一番あてはまる。
 しかし、そんな言葉知りたくなかった情報だ。ただ、新選組の隊務に気が触れた者達と遭遇したのだと言えた時には戻れない。
 ため息をついた眞里を見て、土方は忌々しそうに舌打ちした。

「平助。……余計な情報をくれてやるな」

 その言葉で、藤堂は失言に気づき慌てて両手で口を塞ぐ。しかし、出てしまった言葉はなかったことにはできない。

「あーあ。これでますます、君たちの無罪放免が難しくなっちゃったね」

 沖田のからかうようなしかし、真剣な視線に千鶴が唸る。

「男子たるもの、死ぬ覚悟くらいできてんだろ?おまえも諦めて腹くくっちまいな」

 原田の言葉に千鶴は不思議そうに目を瞬き、眞里は驚いた。
 眞里自身、男装の時代が長かった為見抜かれないのは自信があるが、千鶴はどうみても少女が男装しているようにしか見えない筈である。

「確かに、潔く死ぬのも男の道だな。俺も若い頃は切腹したし」
「左之の場合、まだ生きてるけどな」

 原田の腹にはさらしが巻かれている。それが原因なのかと納得するも、眞里にとって死ぬ覚悟がどうして腹切りに繋がるのか理解できない。
 腹切りは所詮自決である。
 眞里は、武士ならば合戦で命を散らす覚悟はするべきだとは思うが、やはりその覚悟は理解できない。
 そんな理解できない話よりも、と眞里は静かに口を開く。

「……話の最中すまないが、結論が出るまで部屋に戻してもらえないだろうか」
「俺も同感です。同席させた状態で誰かが機密を洩らせば、……処分も何も、殺すほかなくなる」

 眞里の言葉に斉藤も同調する。
 迂闊な発言は、あまり聞きたくない。土方は深くため息をついた。その中に安堵がこもっている気がするのは勘違いではないだろう。

「そうだな、頼めるか」

 斉藤が頷くと、山南も静かに同意を示す。

「ここには、うかつかな方も多いですしね」

 伏せられた眼差しは壁際に揃う永倉達へと向けられていて、彼らはぎょっとする。

「うっわ、山南さん……。わざわざこっち見て言うとかキツいよ」
「ま、仕方ねえよ。うかつなのは俺らの担当だろ。主に平助」
「ひっでぇ左之さん。そんな責めるなよ! オレだって悪気は無かったんだからさ!」

 悪気があったらたまったものではない。ため息をつく眞里と千鶴を見ると、藤堂は伺うように小さな声で謝罪を口にした。
 肯定も否定もせず眞里は肩をすくめるが、千鶴は小さく頷いた。
 斉藤の促しに腰を上げると千鶴は眞里に手を差し伸べる。
 有り難いが、千鶴の体格から眞里を引き上げるのは無理がある。

「有難う、千鶴」

 笑って遠慮を示すと、静かに近くにきた斉藤に右手を取られ引き上げられた。
 そのまま廊下と連れて行かれるため、廊下に出た際に眞里は近藤に対して深く頭を下げると、斉藤に続いた。


 襖が閉じられ、三人の足音が去り行くと近藤は困ったように土方を伺い見た。

「いい子達なんだが……どうにかならないか、トシ」
「何とも言えねえよ、近藤さん」
「特に、眞里って方は要注意ですよ、近藤さん」

 クスクスと笑いながら、廊下の方を見る沖田に視線が集まる。彼は昨晩見た眞里の立ち回りを思い出す。

「あの子が立ち回って、二人を斬ったんですから。持っていた刀も、もう一人の小太刀とは比べ物にならないくらい使い込んでありましたし」
「……判断力は小さい方より厄介だ。ありゃ腕もなかなかだぜ」
「土方さんが言うなら、相当だな。千鶴って子は素直すぎて分かりやすかったけど、もう一人は読めなかったな」

 原田は、千鶴と違いじっと近藤を見ていた眞里を思い出す。
 落ち着き払い、状況をよく分析していた様だったが何を考えているのかさっぱり分からない。そんな印象だった。

「なんだかなぁ、眞里って子だったか。……俺を見て、表情が変わったんだよ」
「近藤さんが局長って知って驚いたんですよ」

 しかし、沖田の言葉に近藤は首を横に振った。続けようと口を開いたのと同時に、斉藤が戻り言葉を続ける時節を失う。

 二人に対しての審議が始まり、近藤から意識がそれた時。彼の口から零れた小さな言葉を聞いたのは土方のみであった。

「あんな……あんな年端もいかない子がする表情じゃないだろう」



***

わらわらいすぎて進まない!!
千鶴からの呼び方に迷います。
でも呼び捨ては違和感なのでやっぱり眞里さん。かな。

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薄桜鬼2

デフォルト名:立花眞里



 闇が支配する京を男達に腕を掴まれて歩く。
 眞里は、霞む視界にふらつく足を叱咤して歩みを進める。失血にここまでふらつく自分の衰え具合に眞里は舌打ちを堪える。

「おい、大丈夫か」
「……」

 あまり大丈夫ではない。そう告げようとして、眞里はそのまま意識が遠退いた。背後から聞こえる千鶴の悲鳴に心の中で謝罪を述べながら、見知らぬ男の腕の中で意識を失えてしまう自分に驚く。

 意識を手放す瞬間に、腕を掴む男の狼狽えた声を聞きながら。


 意識が浮上した時、咄嗟に身を守るために刀の柄に手を伸ばす。と同時に手を取られた。

「ってめぇ、今頃起きたのか」

 低く這うような声にと刺すような複数の視線に、閉じていた目を開く。

 見知らぬ場所だった。
 男数人に囲まれている状態に、時が遡ったように感じた。しかし、視界の向こうに千鶴が縄に戒められているのを見つけた瞬間それが間違いであると思い知らされる。

「……ここは…」
「新選組の屯所だ」
「しんせんぐみ……?」
「一君、この人まだ寝ぼけてるのかな」
「さあな」

 戦闘狂の毛がありそうだった、沖田と名乗った男が楽しげに目を細めて眞里を見た。

「あんた、自分が置かれた状況は把握しているか」
「……私達は、そちらに取って都合の悪い者。処遇を決するために連行された。ひとまずは、夜明けを待つ」
「その通りだ」

 土方と呼ばれた男が眞里を冷たい眼(まなこ)で見下ろした。先程、感情に揺れていた瞳は今はただ静かに凪いでいた。

 ふむ、と己の置かれた立ち位置を考える。
 千鶴は拘束されているようだが、眞里はまだ何もされていないし、何も取り上げられてはいない。ただ、板の間に座らされている。
 背には、槍。腰には刀がまだ挿されている。おおかた取り上げようとしたところで眞里の意識が戻ったのだろう。

 逡巡の後、眞里は素早く槍と刀を傍らに置いた。

 眞里の真意が読めずに、土方、沖田、斉藤はじっと眞里を見つめた。そこから眞里の意図が読めるのだと言わんばかりに。しかし、顔色一つ変えずにじっと座る眞里に土方が深く息を吐いた。

「どういうつもりだ」
「どういうつもりも何もない。あなた方は私から獲物を取り上げたいのだろう? この二振りをぞんざいに扱いそうな輩には預ける気も起きないが、あなた方はそうではないと判断した。だから大人しく預けるまで」
「へぇ、盗られる、とは思わないわけ?」

 眞里は深く息を吐き、目を光らせて楽しげな沖田をじっと見返した。

「主君から下賜されし私の半身。もぎ取られたら、黄泉でお詫びするのみだ」

 鋭い眼光と声音に緊張が走る。眞里は全く気にせずに両手を差し出した。

「拘束しないのか。私は丸腰でも逃げる自信があるが」
「……手負いの腕を縛る訳にゃいかんだろ」
「あんたは、一人では逃げない。…違うだろうか」

 斉藤の問いかけに静かに首を横に振る。ぶっきらぼうな言い分の中に見える彼らの心に、懐かしさを覚える。
 とりあえず一晩明かしてもらう。と放り込まれた部屋には布団が二組あり、全身を戒められた千鶴の不安を宥めながら夜が明けるのを待った。




 陽が上り、明かりが室内に差し込まれる。
 千鶴は戒められた状態でも深く寝入っているようだったが、眞里は眠ることなく壁に凭れて夜を明かした。流石に小寒かったので掛け布団は被っていたが。まだ体は若干だるい。

 遠くから懐かしさを覚える掛け声が聞こえ、大勢が活動を始める音がした。遠くはないはずの記憶を思い起こし、眞里は寂しさに目を伏せた。
 この一年。江戸の千鶴の家で過ごした日々はこのように賑やかな喧噪とは無縁だった為に懐かしく、哀しい。

 そろそろ誰か呼びに来るだろう。そう眞里が意識を現に戻した時、千鶴が目を覚ましたのか布団の動く音がした。

「朝…?」

 目を覚ましたらしい千鶴は身動きのとれない布団の中で深いため息をついていた。

「おはよう、千鶴」
「おはようございます、眞里さん。……全部悪い夢なら良かったのに……」

 その呟きに苦笑うしかない。
 不安を口にし、ため息をつく千鶴の表情を思い浮かべ、眞里は笑みを浮かべると人の気配を感じた廊下に意識をやる。同時に静かに襖が開いた。

「目が覚めたかい?」

 人の良さそうな笑みを浮かべた男性が顔を覗かせていた。彼は井上と名乗り、壁に寄りかかる眞里と布団の中で簀巻きにされている千鶴を見て辛そうに顔をゆがめた。

「すまんなあ、こんな扱いで……。今、縄を緩めるから少し待ってくれ」

 千鶴は手の縄以外の戒めを解かれ、彼に起こされていた。礼と共に頭を下げる千鶴に彼は少し笑った。

「ちょっと来てくれるかい。今朝から幹部連中であんたらについて話し合ってるんだが……。何を見たのか確かめておきたいってことになってね」
「分かりました」

 千鶴は頷くとよろけながらも立ち上がる。その瞳は陰っていて、自分の置かれた立場を正しく理解しているようだった。

「心配しなくても大丈夫さ。なりは怖いが、気のいい奴らだよ」
「はあ……」

 井上の笑顔と言葉にひとまずうなづいた千鶴だが、あまり納得しているようには思えなかった。反対に眞里は井上の言葉に心の中で同意して、ゆっくりと立ち上がった。
 昨夜は血を久し振りに流したが、一晩大人しくしたら少しは回復したらしい。けれど、何か食べてきちんと睡眠を取らない限り完全回復は不可能だろう。

「ああ、君は腕を怪我しているそうだったね。歩くのに手は必要かい?」
「いえ、お気遣いありがとうございます」

 断りを入れて首を振った眞里に井上は優しく笑うと、欲しくなったらすぐに言うんだよ。と窘めると、眞里と千鶴を先導して歩き始めた。




 井上に連れて行かれた部屋では、昨夜見た男達以外の男が揃っていた。この集団の上層部なのだろう。
 突き刺すような視線が一斉に向けられ千鶴は身を固くするが、眞里は微動だにしなかった。
 進められる場所に腰を下ろした千鶴に沖田が早速声をかけに行くのを横目で見つつ、体の均衡に気を使いながら眞里もそっと腰を下ろした。

「昨日はよく眠れた?」
「……寝心地はあまり良くなかったです」

 知らない顔ばかりの中で、名前を知っている相手との会話で千鶴の緊張は若干解れたらしい。
 千鶴の返答に沖田はにやにやと千鶴の顔を眺める。見知らぬ場所で体の自由を奪われながらも熟睡していたのを知っているのは眞里だけの筈だが、それを揶揄るように沖田は楽しげに言葉を紡ぐ。

「さっき僕が声をかけたときは全然起きてくれなかったよね」
「っ!」

 千鶴が勢いよく眞里を振り返る。愕然とした顔が見慣れぬもので眞里は目を瞬く。眞里が訂正しようと口を開く前に、呆れた様子の斉藤がため息混じりに沖田が部屋に来ていないことを告げる。

「ひどいなぁ、一君。もうちょっと楽しませてよ」
「……ひどいのは斉藤さんじゃなくて、沖田さんだと思いますけど……?」

 千鶴が恨めしそうに言うと、上座の隅に腰掛けていた土方がこめかみに指をやりつつ唸った。
 沖田は肩をすくめて口を噤むが、その顔は笑顔のままだった。

「でさ、土方さん。そいつらが目撃者?」

 彼らの中で一番年若い者が千鶴と眞里を一瞥し、土方に問いかけた。

「ちっちゃいし細っこいなぁ……。まだガキじゃん、こいつ」

 その言葉は明らかに千鶴へと向けられていた。
 この部屋に連れてこられる途中、井上から上層部……幹部の説明を受けていた二人は彼を藤堂平助だと推測した。最年少幹部、藤堂平助。

「おまえがガキとか言うなよ、平助」
「だな。世間様から見りゃ、おまえもこいつも似たようなもんだろうよ」

 壁により掛かり様子を見ていた二人組がくつくつと笑いながらの言いように藤堂は鬱陶しそうに払う動作をした。
 先の発言者が原田左之助に、次の発言者が永倉新八だろう。
 軽い口調でやりとりを交わしつつも、その好奇を含んだ視線は眞里と千鶴から外れることはない。
 その裏にある敵意を正確に読みとった千鶴は再び身を固くし、眞里は面倒そうに軽く頭を振った。
 言葉を紡ぐのも億劫な眞里はじっと上座に座るがたいのいい男をじっと見ていた。彼もまた眞里をじっと見返す。

 彼の澄んだ瞳に、眞里は懐かしさを覚え哀しげな微笑を浮かべた。そのことに男は不思議に思ったのか口を開くが、彼の他に上座に座る男二人のやりとりに仲裁をいれた。
 仲良しとは言えない二人のやりとりを朗らかに『仲良し』と言い切った彼は、剛毅な笑みを浮かべた。

「自己紹介が遅れたな。俺が新選組局長、近藤勇だ」

 彼の自己紹介に千鶴は喉を震わすが、眞里は不思議そうに首を傾げた。そんな眞里に土方から鋭い視線が飛ぶが、気づかない近藤は紹介を続ける。

「そこのトシが副長で、横にいる山南さんは総長を勤めて――」
「いや、近藤さん。なんで色々教えてやってんだよ、あんたは」

 土方の呆れた様子に慌てた近藤は口ごもる。

「…む?ま、まずいのか?」
「情報を与える必要が無いんだったら、黙ってるほうが得策なんじゃないですかねぇ」
「わざわざ教えてやる義理は無いんじゃね?」

 永倉の言葉に藤堂も小さな声で同調する。
 次々と窘められた近藤はうろたえるが、原田は一人見回して笑った。

「ま、知られて困ることもねぇよ」

 落ち込んでいた近藤は少しの間を置くと気を取り直したように居住まいを正した。

「……本題に入ろう。まずは改めて、昨晩の話を聞かせてくれるか」


***


眞里は、刀か槍が手元にないと寝付けないため貫徹です。

彼女はガラが悪い集団を見ても、伊達軍を見慣れているのでなんとも思いません。

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薄桜鬼

デフォルト名:立花眞里(たちばな まさと)

※こっそりBASARAとのクロスオーバーです。
ちょっぴりグロいかもです。




 破裂音が全てを飲み込み、意識は暗転した。四肢から力は抜けていく中、手のひらには湿った土と草の感触。
 遠方では爆発音や、激しい剣戟の音が木霊し、撤退を叫ぶ味方の声。
 過ぎゆく意識の中、幼なじみの男と付き人の忍達が自分の名を叫ぶ悲痛な響きが耳に残った。




 薄闇に染まる京の都。
 賑やかで優しい見かけとは裏腹に冷たい空気が漂うのは、眞里の記憶にある京の都とは異なっていた。
 余所者を排除せんと人々の無意識下の想いが京の街並みを包んでいることに気づくのは、排除される余所者だけ。

 薄闇の中、宿を探すのに意識が彷徨い視線が空を漂った。
 戻り意識を横に向けると、連れの姿は無く。

「っあれほど離れないように言ったのに」

 舌打ちを一つ、懐の柄に手を添え先ほどまでの自分の視界から外れていた道へと足早に向かった。
 夜の帳が降りれば、どの場所、どの時代の町でも一人歩きは避けるべき。加えて、眞里と連れの千鶴は格好の餌食となる女人である。

 男装をしているから少しは安心だが、男装だから故に破落戸に絡まれる可能性もある。
 道中は眞里が睨みを利かせていた為に絡まれることは皆無であった。しかし、はぐれた場合千鶴は格好の的である。そのことを江戸を発つ際に懇々と言い聞かせたのだが、京について気がゆるんだのだろう。

 けれど、千鶴が離れてしまったことに気づかなかった眞里にも責任がある。

 目指す先からは数名の怒鳴り声と乱れた足音が聞こえる。
 間に合えと、駆ける足を早めいつでも抜刀できるように柄を握る手を確かめる。

 先方から断末魔とそれを遮る甲高い哄笑が聞こえた。一瞬背筋が凍るが、断末魔に聞き覚えが無く安堵する。しかし、同時に警戒を強める。
 必ずこの先に千鶴はいる。

 刀が振るわれる音と、弱くなる悲鳴。先に進むほど強くなる狂気。

 曲がった路地の先には、月明かりの中壮絶な光景が広がっていた。

 浅葱の羽織を赤黒く染めた数名が生き絶えた死体に何度も刀を振りかざす。
 そこには、狂気に身を窶した人ではない何かが居た。


 不意に狂気の集団より手前側の家と家の隙間から、小さくとは言えない音を立てて、探し人と木の板が転がり出た。

 眞里が彼女のそばに寄ろうと駆け出すのと同時に、浅葱の集団が振り返る。
 同時に彼らの目が歓喜に染まったのを見た。

「千鶴っ!」

 名を呼ぶと同時に駆けるが、彼女はぴくりとも動かず、その視線は目の前の彼らに釘付けになっていた。

 恐怖に支配されている。

 全てが硬直している千鶴の前に飛び出すのと同時に、駆けてきた奴の刀を受け弾く。
 にやりと闘いの狂気に顔を歪ませた彼らは新たに現れた、――否、増えた獲物に顔をにやつかせる。
 月明かりに、返り血で赤黒い、狂気に染まった醜悪な顔は、亡くなった主君に見せてもらった異形のもののようで。

「千鶴! 走れ!」
「っ……あ、っ眞里っ」

 完全に腰を抜かした様子の声音に、己等と目の前の集団との距離を測る。
 不気味な笑い声をあげる数名を地に伏せるのは造作もないが、千鶴を庇いながらでは彼女を無傷にとは難しい。
 使い慣れた獲物は槍だが、市街地では向かないために手にしているのは太刀一つ。

 駆けてくる姿に腰を落とし、構え先頭に立つ一人を一閃で斬り伏せ、二人目と切り結ぶ。残る者が千鶴に向かおうとするのを素早く足蹴りにして飛ばし壁に叩きつけると目の前の相手を二合合わせ斬り伏せる。

「っ眞里!!」
「っぐ、っそらぁ!」

 蹴り飛ばした相手が背後から切りつけてくるのに避けるに間に合わず、左腕を掠る。にやりと笑う顔に虫唾が走る。素早く切り捨て、初めに倒した者が起きあがり向かってくるのに備えて構える。

 しかし予想に反して、眞里ではなく千鶴に向かっていく姿に焦るが間に合わない。
 千鶴の顔が恐怖に歪んだその瞬間。
 素早く目の前を走る浅葱の羽織が、鋭い筋で斬り伏せた。

 濃い地の香りが路地を満たすが強い風がそれらを連れ去る。

「あーあ、残念だな……」

 響いた声は、言葉とは裏腹に楽しげに弾んでいる。
 突如現れた、二人の男に刀を握る眞里の手に力が入る。
 二人の男は、先程眞里が斬り伏せた二人の男と同じ浅葱に染められた羽織を着ている。

 敵か、否か。間違いなく味方ではない。
 同士討ちに巻き込まれたのかよくわからないが、現状はよくない。

 眞里と千鶴の間を彼らに塞がれている。
 眞里は千鶴を置いて逃げはできないし、彼女は身動きが取れない。

 そして、もう一つ眞里の背後から気配がした。それは、じっとこの場の成り行きを眺めている。その視線の為、眞里は身動きが取れない。

「残りは僕ひとりで始末したゃうつもりだったのに。斉藤君、こんなときに限って仕事が速いよね」

 最後の一人を斬り伏せた方は『斉藤』というらしい。
 軽い口調の男は状況に似合わず楽しげに微笑む。斉藤と呼ばれた男は気怠げにもう一方を見る。

「俺は務めを果たすべく動いたまでだ。……あんたと違って、俺に戦闘狂の気はない」
「うわ、ひどい言い草だなぁ。まるで僕が戦闘狂みたいだ」
「……否定はしないのか」

 斉藤は呆れ混じりのため息を吐くとちらりと千鶴を見て、眞里に視線を投げかけた。

「でもさ、番狂いもいいとこだよね。さっきのまま放って置いてもこっちの子が全て終わらせてくれただろうから、僕たちの手間も省けたのかな?」
「さあな。少なくとも、その判断は俺たちが下すべきものではない」

 彼らの言動から、眞里の後ろから視線で動きを封じている者がそれに値する気がした。
 眞里はこの時代に馴染みが薄いため、全く理解が追いつかなかったが、千鶴は何かを感づいたようで息を呑む。

「まさか……」

 それと同時に背後の気配が動いた。

「……運の無い奴だ」

 漆黒の髪が靡く様は、月の光を浴びて季節外れの狂い咲きの桜のようで。千鶴は息を呑んだ。
 千鶴に突きつけられた切っ先に動こうとするが、眞里の目前にも白く光るものがあった。
 斉藤が、隙のない仕草で剣を構えている。千鶴に剣先を突きつけている漆黒の髪を持つ男の邪魔をするなと言わんばかりに。
 殺意を感じられない斉藤と目の前の光景に、眞里は剣をおろす。

 月明かりの中、漆黒の男の表情が見えたのだ。
 冷たさを孕み、非情を張り付けた面の中。漆黒の瞳が、何かの感情に揺れているのを。

「いいか、逃げるなよ。背を向ければ斬る」

 静かな宣告は、千鶴にも向けられていると同時に眞里にも向けられていた。元より眞里は千鶴を置いて逃げる心づもりなどさらさらない。

 千鶴が何度も無言で頷き、眞里が刀を納めるのを見ると、彼は眉間に深い皺を寄せて、重く深いため息を苦々しく吐き出した。同時に刀を納める。と同時に斉藤も刀を納めた。

「あれ?いいんですか、土方さん。この子たち、さっきの見ちゃったんですよ?」

 好戦的な男が不思議そうに目を細めると、土方と呼ばれた男はますます渋い顔をする。その様子から察するに渋い顔ばかり普段からしているようだ。

「……いちいち余計なことを話すんじゃねえよ。下手な話を聞かせちまうと、始末せざるを得なくなるだろうが」
「この子たちを生かしておいても、厄介なことにしかならないと思いますけどね」

 そこで言葉を切ると、彼は眞里を一瞥する。

「こっちの子は特に」

 土方と呼ばれた男は面倒そうに息を深く吐く。

「とにかく殺せばいいってもんじゃねえだろ。……こいつらの処分は帰ってから決める」
「俺は副長の判断に賛成です。先程の騒動は小さくはない。長く留まれば他の人間に見つかるかもしれない」

 斉藤は周囲を軽く見渡し、移動を進言した。ついでのように自らが斬り殺した死体と、眞里が斬り伏せた死体へと目を落とす。

「こうも血に狂うとは、実務に使える代物ではありませんね」
「……頭の痛ぇ話だ。まさか、ここまでひどいとはな」

 土方は感情の宿らない眼差しを足下に向けた。
 眞里もつられてちらりと見るが、ぐらりと視界が傾く。
 斬られた腕の止血はまだ行っていない。失血で目が眩む。あと数刻放っておけば出血多量で倒れ、先に隠れた主君の元へと行けるだろう。均衡を失いそうな体を家屋の壁に手を突いて支える。懐から手拭いを出して幹部をきつく縛る。
 傷は深くはないが浅くもない。
 そんな眞里に気づかず、土方は男二人を苛立ちを露わに睨みつけた。

「つーか、おまえら。土方とか副長とか呼んでんじゃねえよ。伏せろ」
「ええー?伏せるも何も隊服着てる時点でバレバレだと思いますけど」

 浅葱の揃いの羽織は隊服らしい。しかし、眞里にはいまいち理解ができない単語である。武田の赤揃えのようなものだろうか。取りあえず、同じ軍か。何かに属しているのだろう。そして―――。

「……死体の処理は如何様に?肉体的な異常は特に現れていないようですが」
「羽織だけ脱がせとけ。……後は、山崎君が何とかしてくれんだろ」
「御意」

 先程の狂った集団は、彼らが属する集団が隠しておきたい何からしい。
 『血に狂う』先程の表現が、それを端的に表していそうだ。

「隊士が斬り殺されてるなんて、僕たちにとっても一大事ですしね」

 くすくすと笑いながら、眞里を一瞥する。半数を斬り殺した眞里を。

「ま、後は俺らが黙ってりゃ、世間も勝手に納得してくれるだろうよ」

 土方の言葉は眞里と千鶴を圧迫した。

「ねぇ、ところでさ。助けてあげたのに、お礼の一つもないの?」
「……え?」

 唐突に千鶴が話しかけられ、目を瞬く。

「そんな、助けてあげたのにって……」

 迷い俯く千鶴に眞里はため息をついた。
 千鶴を助けたのは彼らだが、千鶴に詰め寄っている彼は厳密に言えば千鶴を助けてはいない。助けたのは眞里と、斉藤と呼ばれた男だ。

 千鶴はふらりと立ち上がると袴についた土を払い、身だしなみを整えると頭を下げた。丁寧に礼を述べる千鶴に辺りが一瞬凍り付く。

土方は苦虫をつぶしたような顔をして、斉藤は衝撃に目を見開いていた。
 そして礼を強要した彼は腹を抱えて笑っていた。千鶴が苦々しく見ると彼は笑いすぎて浮かべた涙を拭い、少しだけ背筋を正した。

「どう致しまして。僕は沖田総司と言います。礼儀正しい子は嫌いじゃないよ?」
「ご丁寧にどうも……」

 もう一度頭を下げた千鶴に、土方がまたも深く息を吐いた。

「わざわざ自己紹介してんじゃねえよ」
「副長。お気持ちはわかりますが、まず移動を」
「ああ、分かってる。……来い」

 土方が眞里の右手を掴み、ずんずんと無遠慮に足を進める為に眞里も慌てて足を動かす。
 千鶴も沖田に手を掴まれ歩き出していた。

「己のため最悪を想定しておけ。…さして良いようには転ばない」

 斉藤の言葉に千鶴が固まったのを気配で感じた。くすくすと笑う沖田の声に混じって斜め前から小さな声が聞こえた。

「……悪かったな。娘の腕に傷、付けちまって」

 掴まれた腕も、動かすのも億劫な体も斬られたためか発熱している。それが分かるのだろうか。
 ふらつく視界を感じさせぬように歩きながら、眞里は小さく礼の言葉を呟いた。


****


というわけで薄桜鬼です。
初めてまだ序章しか終わっていないのに書いてみました。

いまいち幕末が理解できていないので、現代トリップの子をどうやって絡めたがらいいのか分からなかったので、クロスオーバーという苦肉の策に打って出ました。

とりあえず
立花眞里
17歳
戦国BASARAの世界から薄桜鬼にトリップ
武田家に仕える武士の家の長女で幸村の幼なじみ

トリップ前は、信玄が病死した一年後に武田勝頼を頭に長篠合戦で織田・徳川連合軍に敗走。合戦中に幸村を庇い、爆発に巻き込まれそのままトリップ。といった感じです。
他はまた後ほど。

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