TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。
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デフォルト立花眞里
元治元年八月。
新選組隊士の新規募集の為藤堂が江戸へ上ることとなった。
江戸、雪村邸周辺の地図を藤堂に渡し、千鶴と眞里は彼を見送った。一月後には近藤も江戸へと向かう。
幹部の中で一番年が近く、千鶴にはいつも笑顔でいた藤堂の姿が見えなくなるだけで千鶴の笑顔の回数が減っていることに眞里は気づいていたが特に言及はせずにいた。
そんな夏が過ぎていく日。
稽古場で原田と仕合っていた眞里を山南が呼び止める。
原田の木刀を押し返し、眞里は原田に一言断ると山南の下へと足を向ける。
腕の怪我を期にめっきり稽古場に顔を出さなくなった山南を一般隊士たちは敬遠していた。人当たりの良さはなりを潜め、厳しい物言いになっている為幹部以外の反応は仕方がないといえるものであった。
そんな彼が師範代を呼び止めるのを見て隊士たちは何事かと意識を二人へと向けた。
「立花君は片腕でも刀を握るのは支障はないと言っていましたが……」
「はい」
「どのようにして鍛えていたのかもう一度お聞きしても?」
眞里は珍しく困ったように言葉に詰まった。何故なら以前にも山南本人や、土方や近藤等からも尋ねられた内容であり、彼らの反応を見る限り参考には到底ならないことが分かっているためである。
「山南殿、私の答えは以前と変わりません」
「……そうでしたね、すみません。稽古を続けていただいて結構です」
苦笑を浮かべて山南は背中を向けた。その背中が見えなくなった頃合いに稽古場に休憩を言い渡した原田が眞里の隣に並ぶ。彼の物言いたげな視線を受けて、眞里は縁側へと原田を促した。
「簡単に言ってしまえば、片腕を両腕並の力を使えるように鍛えればいいだけの話なのですが……」
山南に答えなかった内容を聞きたがった原田に眞里は苦笑混じりに答える。
眞里が鍛えてきた年月と彼らは大差はない。しかし、経験や内容が異なる。
眞里は武将であり、戦場を駆け抜けていた。刀と槍を同時に扱うためにはそれ相応の努力を惜しまなかったし、いかな状況でも生き残れるようにすべを身につけてきた。
「それにしても、眞里はいつから刀握ってきたんだ?」
「……物心つく前からですね」
武田の御為に。その言葉の通り真っ直ぐ突き進んだ十数年。それ以外の生き方は知らない。
原田は眉を少し寄せると眞里をじっくりと眺めた。
千鶴と違い、男装は板についている。刀も槍も負けなしである。洞察力も優れ、指導力もある。加えて、炊事もこなせるという器用さを垣間見せられる眞里の生い立ちは謎に包まれていた。
原田の視線に眞里は、話そうか話すまいかを逡巡し、周囲の気配を探る。誰もいないことを確認すると、原田殿。と声をかける。
「……荒唐無稽な話と思われるかもしれません。どう思われても私は気にしませんが、話を聞いていただけますか?」
「お前のその強さの秘密ってぇことなら知りたいけどな。でもよ、土方さんや近藤さんは信用したんだろ? なら、俺も信じるさ」
目を瞬くも、すぐに甘やかな笑みを浮かべた原田の言葉に眞里は面食らう。しかし、どこか気が抜けたように表情を弛めると、静かに話し出した。
「私は今の世よりも数百年も昔、戦国の世で武将として生きて参りました」
武田に仕える立花家の末娘であると同時に嫡子として育てられ、一軍を任せられる武将とまでなれたこと。真田幸村と共に、切磋琢磨し合い戦場を駆け抜けたこと。
信玄が亡くなり、坂道を転げ落ちる武田の行く末を嘆き参戦した長篠合戦での出来事。
淡々と語り、話し終えた眞里はゆっくりと原田に視線を向けた。
彼は、言葉をなくしてその場にいた。眞里はその反応を気にすることなく続ける。
「目を覚ますと千鶴が泣きそうな顔で微笑んでいました。……私は火傷の重病人でかつぎ込まれたそうです」
「……火傷?」
視線が自分を捉えたのを感じ、眞里は袖を捲る。怪我の治りが早いため大きな跡は残っていないが、うっすらと名残は見える。彼が息をのむのを感じて、お目汚し失礼しました、と非礼を詫びて袖を戻す。
「……なるほどな。眞里が強ぇ訳がはっきりした。戦国の武将なら、場数は俺らよりも上だな」
「はい。初陣は十四でしたし」
「…………一つ、聞いてもいいか?」
眞里は小さく頷く。原田は若干躊躇うように言葉にならない何かを呟くが、やがて小さく咳払いした。
「女として生きていきたいと、思ったことはなかったのか?」
眞里が予想していたのとは全く違う言葉に、返答をなくした。思わず反芻するように、同じ言葉を呟く。
「女として……ですか」
「ああ。武将として生きてきたのは成り行きだろ? 綺麗なべべ着て、嫁いで子供生むってことをしたいとは思わなかったのか?」
即座に首を横に振る。
確かに眞里の年頃の娘は嫁に行き、女としての道を進む。姉たちもそうであった。しかし、眞里は武将としての自分しか知らない。友たちと戦場を駆け抜け、拳を合わせ。
「武田の……御館様の御為に、私はそう思い成し遂げるために槍や刀を手にしてきました。武将の幸せは知れども、女子(おなご)の幸せなど考えたこともありません。嫁がれた姉上方を見ても自分がそのような生き方をするというのも想像できませんでしたし……」
「そうか……。悪かったな、変なこと聞いてよ」
「いえ……、私も長い話をおつきあいくださりありがとう御座いました」
ふ、と微笑する眞里を眺めると原田は照れ臭そうに頬をかく。廊下の奥から呼ばれる声を聞くと眞里は立ち上がり、一礼すると背を向けてその場を立ち去った。
細い背中が消えるのを見て原田は深くため息をついた。
「……そうか。俺らよりも腕がたつはずだよな」
**
伊東さんを入れようか悩んだあげくワンクッション
[2回]
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デフォルト名:井上那智
約束してください。
あたしを残して居なくならないと。
残される悲しみはもう味わいたくない。だから、約束してください。
「いやぁぁぁ!!」
気づくと、なにもかも覚えていないのに暗闇にいた。
「何をしている!」
肩に触れた温もりに安堵して意識が暗転した。
「お、目ぇ覚めたか。色々話を聞きてぇんだがいいか?」
「はい」
「お前さん、名は?」
「名は………。え、あれ……?名前……。此処はどこ?……あたしは……?」
「お前さん、記憶が……?」
「何で……?あたし、何で此処にいるの?」
「とりあえず、じゃあ俺の名前を教えとくか。俺は、永倉新八。新八って呼んでくれ」
「はい、新八さん……」
「よし。とりあえずな、昨晩お前が浪士に襲われているときに俺らが保護した。そのとき、傍に落ちてた荷物は此処にある。……あけても良いか?」
「私のかわからないけど、それでもいいなら」
「よし。……なんか変なものばかりだな。お前の身なりも見慣れねーしな」
「これ?……変なの?」
「そうだな。異国の奴らが着てそうだな」
「あれ、これ……。生徒手帳?」
「お、何だ。字読めるんだな。すげーよ」
「え?普通読める……普通?」
「なになに、井上那智、○×市立○×高等学校三学年。住所、愛知県○×市……。ま、よくわからんが、この絵姿もお前だから、名前は井上那智! 年は17! ってことだな」
「井上那智……」
「んじゃ那智、ここは新選組ってとこなんだけどな。えらい奴らがお前と話がしたいらしいんだ。会ってくれねぇか?」
「あ、はい」
「井上那智、か」
「記憶がないらしいんだ。んでこのちっせえのの中にこいつのふぉとがらひーと名前とかあったから、名前と年だけ分かったんだ」
「……トシ」
「ああ」
訳も分からぬまま新選組という場所で預かるということになり、毎日ちまちまと働くことになった。
着物の着方や、庖厨の使い方。覚えていないのに料理もしっかり作れて、覚えればしっかりと女中として働く様になれた。
次第にふとした瞬間に記憶を思い出していく。だが、その場にいることが心地よくて見ない振りをした。
「な、なあ那智! きょ、今日は暇か?」
「はい。今日はお買い物をしたら暇ですよ」
「な、ならって……買い物か? なにをだよ」
「味噌とお醤油です」
「おいおい一人で持つつもりか? 誰か誘ってんのか?」
「は、えと…。玄関までに誰かと会って、時間がありそうな人だったら頼もうかなって」
「おい、誰にも会わなかったらどうするつもりだったんだ」
「え、一旦帰ればいいかなって」
「はあ、ほら。行くぞ」
「え? でも新八さん、何か用事があったんじゃないんですか?」
「いや、お前が暇だったら散歩に誘おうと思ってただけだ。だから気にすんな」
「はい、ありがとうございます」
時代は移り変わり新選組は瓦解していく。そんな中、那智は身の振り方を考える。
「なあ、俺と一緒にきてくれねぇか」
「新八さん、また書いているんですか?」
「おう、あいつらのこと。覚えている内にたくさん書いてやりてえんだ」
「……あ、なに私のこと書いてるんですか!」
「あ? 別にいいだろう? おまえだって新選組を支えてくれてたんだからよ」
「いいんです。私は新八さん達が覚えていてくれれば。そもそも女人禁制なのに私や千鶴ちゃんがいたらまずいですよ」
「あー、まあそれもそうだな」
**
新八つぁんで書くならこの子だと思います。
トリップ、記憶喪失。ありがちですが
[2回]
※「あなたがくれた物語」のIF小話です。
SSにもならないただの会話集のようなお話です。
SSLのような、……。とりあえず、転生ネタでもあります。
ノーマルルートで、千鶴以外は全員亡くなったところから話は始まります。
デフォルト名:立花眞里
瞼を閉じれば今も思い浮かぶ。
赤い旗に武田菱。真田六文銭。にぎやかな日々。たくさんの武将達。
幼なじみ。駆け抜けた戦場。
笑顔の師。
浅葱にだんだらの羽織。優しすぎる最後の武士達。誠の旗。
命を懸けて、賭したもの。
今なら、川の向こうで語り合えるだろう。自分一人が長いこと渡らずに違う世界でまた武士として生きた。自分の生きる道を探して、足掻いて足掻いて。
最後にたどり着いた、自分の生き様。
今なら友達(ともら)に誇って語ることができる。
「眞里ー! 待ちわびたぞ!」
「眞里!! よう帰ってきた!!」
「お嬢! 俺様待ちくたびれたぜ」
「よく言うな。幸村様と散々好き勝手していたではないか」
「うわ、それ言っちゃう?」
「幸村、御館様、佐助、才蔵……! 私、たくさんの武士の心を持った者達と出会ったんですよ」
「うむ、よう頑張ったのう眞里。お主の話を聞かせてくれるか」
「はい……!」
「眞里!!待ちわびたぞ!」
「ほんとだぜお嬢。俺様へとへと」
「Hey! それ相応の覚悟はできてんだろうな、Girl?」
「いや、弁解はしない。すまなかった。相手校は?」
「薄桜校でござるよ」
「うちとは違って品のある高名だよね~」
「Ha!!どっちにしろ骨のある奴らがいるといいけどな。Let's go」
「ふーん、君たちが僕たちの相手?」
「……どのような相手であろうとも全力で迎え撃つのが礼儀」
「そうそう」
「あ、あの! あの人達の傍にいるのって」
「ああ、剣道女子優勝者の立花眞里だろう」
「あれ、土方さん知ってたのか?」
「まあな。武田道場とはちと縁があってな……これで、ようやく俺らも揃ったな」
「はい!!」
「……千鶴」
「どうしたでござるか、眞里。な、道場に女子が……!は、はれんちでぅぅごぁ!!何をするか佐助ぃ!」
「お嬢、知り合い?」
「Hey!Cute girlじゃねえか」
「ああ、……私のもう一つの繋がりだよ。千鶴!!」
「眞里さん!!!」
「千鶴、会えて嬉しいよ。私の仲間を紹介したいんだ」
「はい!!私も、紹介したいです」
「眞里ぉぉ!!破廉恥でござるぅぅぅぅ!!」
「こら旦那!!お嬢の感動の再会に水をささないの!!」
「Hey!Girl、What's your name?」
「雪村千鶴です」
「な、それがしと同じ名とは!御館様ぁぁ!!それがし、どのようにすれば……!」
「千鶴……、後でゆっくり話そう」
「え、はい!」
「幸村ぁぁあ!!」
「ふぐぅぅ!眞里、良き拳でござるな!」
「ああもうお嬢!大将に似ないでよマジで!!」
「……すげー迫力。眞里ってあんなに熱い奴だったんだな」
「ま、武田道場っつったら暑苦しい集まりらしいからな。それに元々あいつは熱い奴だよ」
「おい、俺が主将の伊達政宗だ。馬鹿共がうるせぇが大目に見てやって欲しい」
「ま、見てておもしろいからいいけどね」
「止めなくていいのか」
「猿がいるからいいんだよ」
「猿?」
「いい加減にしなさいっての!!余所で殴り合いしたら、相手に迷惑でしょうが!!お嬢、才蔵にいいつけるよ!!旦那、大将じゃなくて大殿にもいいつけるよ!!?」
「わ、悪かった!だから才蔵だけはやめてくれ!!」
「す、すまぬ佐助。其達が悪かった!!」
「才蔵?」
「猿の腐れ縁だ。眞里はあいつにどやされるのがどうも一番利くからな。ま、予定はこんなもんでいいか」
「ああ、楽しみにしている」
「こっちもだぜ。おい、てめぇら!!とっとと帰るぞ!!」
「ま、政宗殿…!!私は残っても良いか?」
「Han?何言ってやがんだてめぇ」
「まーまー、伊達の旦那。お嬢もたまには普通の女の子と話したいって」
「かすが殿もおなごであろう」
「あいつは女のカテゴリー外だから。お嬢、帰るときは連絡してね。俺様と才蔵。分かった?」
「別に一人でも帰れ」
「分かった?」
「……メールします」
「はい、約束ねぇ。破ったら……」
「分かった!!破らない!!一人でも帰らない!」
「過保護だなぁ」
「才蔵は過保護すぎるんです。佐助と組まれると誰も逆らえないんですよ」
「眞里さん、お元気でしたか?」
「ああ、千鶴は?返事をきかなくても分かるけど」
「君も元気そうだね。全国制覇おめでとう」
「ありがとう、沖田殿」
「楽しかった」
「送ってくぞ?武田道場なら知ってるしな」
「いえ、送ってもらったなんて知ったら才蔵に何を言われるか……。あ、才蔵だ」
「……過保護だな」
「うん、今から帰るよ。え?もう着いた?どこに?」
「此処にだ」
「うわ、驚いたな。よく分かったね」
「佐助に聞いたからな。もう遅い、春重殿と成実も心配している」
「……全く、過保護ばかりだな」
「眞里さん」
「今度武田道場に遊びにおいで、私も近藤殿の道場に遊びに行きたいから」
「はい!!」
「……なんか男ばっかりだな」
「ま、しょうがねぇだろうよ。前の記憶があるにしろないにしろ、向こうでは紅一点なんだろうし」
「今の時代でも心配なんだろ」
**
突発的に、現代パラレルで記憶有りだったら?→バサラキャラとも交流!!
収集がつかなくなりそうだったのでこんな感じのネタで終わりました
[17回]
デフォルト名:立花眞里
天王山に着いた永倉率いる隊は、隊を二手に分けた。永倉率いる半分は山を登り、斥候に。千鶴を含む残りの数名は、万一浪士達が下山してきた場合に備えて。
「……そろそろ、日が暮れちゃいますね」
「……大丈夫ですよ。そろそろ戻ってこられると思います」
何度目かのやり取りであった。千鶴が不安をこぼすたび、島田が微笑で慰める。千鶴の心配は永倉達でもあり、一人残った土方のものでもあった。
「大丈夫、なのかな」
最悪な想像をして唇をかむ。大丈夫だと、いいなと呟きながら顔を上げると、道の先に人の影が見えた。千鶴達に気付くと、まっすぐに向かってくる。その人影に感極まって涙が滲む。
「土方さん……!」
手の甲で顔を拭う千鶴の横で、島田も感極まった声で土方を呼んだ。
「ご無事でしたか、副長。……怪我もないようでなによりです」
感極まっている島田に同調して、何度も頷く。しかし、土方は不機嫌そうに歩いてきた道を振り返った。
「せめて一太刀浴びせたかったんだが、途中で薩摩藩の横槍が入りやがった」
「薩摩藩の横槍、ですか……?」
「風間……、風間千景とか言ってたな。あいつは薩摩の人間らしい」
「薩摩藩の人……?」
薩摩藩は会津藩に協力していたが、風間は新選組の邪魔をしていた。その奇妙な違和感に眉を寄せる。
「あの人……、風間さんは、上の指示を無視してたってことですか?」
「多分な。薩摩の連中も迷惑してるんだろうに、風間には強く言えないらしい」
「その風間とやらは薩摩の中でも、相当に優遇された立場があるんでしょうな」
「奴は身分の上に胡坐を掻いてる甘ったれだ。手柄なんざほしいに決まってるじゃねえか」
吐き捨てられた土方の素直すぎる本音に、千鶴も島田も思わず沈黙する。
そのとき、永倉が隊士を率いて山から下りてきた。彼も土方を見るとわずかな安堵を浮かべる。すぐに顔を引き締めると報告の体制を取るところはさすがと言うべきか。
「……上に行って見てきたんだけどよ、長州の奴ら、残らず切腹して果ててたぜ」
千鶴は俯いた。切腹されたのが残念なわけでもないし、新選組に殺されてほしかったわけでもない。ただ、人が死んだという事実が重たく千鶴にのし掛かる。
「自決か。敵ながら見事な死に様だな」
しかし土方はそう呟いて、薄く笑う。その声はどこか晴れ晴れとしていて疑問が浮かんだ。
「あの……。いいんですか?」
彼は先ほど、罪人は斬首が当然と言っていたその口で、切腹した彼らを讃えた。千鶴の疑問に土方は穏やかな表情で返答した。
「新選組としては良くねえよ。奴らに務めを果たさせちまったんだからな」
「えっと……」
「潔さを潔しと肯定するのに、敵も味方もねえんだよ。わかるか?」
「わかるようなわからないような、です……」
土方は千鶴の素直な返答に表情を柔らかくした。そしてそのまま永倉達を振り返ると声高らかに告げた。
「御所に戻るぞ」
道中、土方たちは今後の動きについての相談を続けていた。千鶴には内容はわからなかったが、これから先も新選組は忙しくなりそうだということだけ分かった。
長州の過激派浪士達が御所に討ち入ったこの事件は、のちに禁門の変と呼ばれるようになる。新選組の動きは後手に回り、残念がら活躍らしい活躍もできなかった。
長州の指導者たちは戦死し、また自らの腹を切って息絶えた。中には逃げ延びた者もいる。
彼らは逃げながらも、京の都に火を放った。
運悪く北から吹いていた風は、御所の南方を焼け野原に変えてしまう。この騒ぎが原因で、尊王攘夷の国事犯たちが一斉に処刑された。
京から離れることを許された新選組は、大坂から兵庫にかけてを警護した。乱暴を働く浪士たちを取り締まり、周辺に住まう人々の生活を守るために。
禁門の変の後。長州藩は御所に受けて発砲したことを理由に、朝廷に歯向かう逆賊として扱われていく。長州藩は朝敵となった。
屯所では眞里と原田の武勇伝が広まっていた。眞里と不知火の立ち会いには一般の隊士も立ち会っていた為に、興奮が興奮を呼び、眞里は稽古場で引っ張りだこだった。
「で?」
「おお、眞里君! 銃を弾いたというのは誠かい?」
何故か広間に幹部が勢ぞろいし、眞里は詰問の場の様に感じた。隣に腰を下ろした千鶴ははらはらとしている。
「と言いますと?」
「原田は不知火とかいう奴の銃撃を弾いたとか切ったとか言った。狙ってやれるのか」
ちらりと原田に視線をやるがへらりとした笑顔で返ってきた。
「ある程度の距離ならば見切れますから、弾くなり斬るなりできます」
「見えるの?」
「慣れです。沖田殿ならば経験を積めば見切れますよ」
他の幹部達でも斬れなくとも弾くのは可能だろう、と続けるとやり方の説明を求めるように皆が身を乗り出してきた。
眞里は面倒だと言わんばかりに眉を寄せると土方を見た。視線に気付いた彼は咳払いをすると幹部の意識を向けさせた。
「こいつの経歴は少し変わってるが、俺も近藤さんも承知している。知りたい奴はてめえで聞け。……とりあえず、近藤さん」
「ああ。今回池田屋の件で報奨金が出たのだが、眞里君と雪村君にも少しで申し訳ないが渡そうと思ってな」
大らかな笑みと共に近藤は袂から二つの包みを出し、眞里と千鶴の前に置いた。
見た目からして小判だが、眞里も千鶴も困惑してお互いに目配せしあう。
「ご配慮ありがとうございます。ですが、私には分不相応ですので……。ただでさえご厄介になっている身ですし……」
「私も、頂けません」
二人して包みには手を着けずに固辞するが、広間に重たいため息が重なった。
「言っただろ、近藤さん。隊士の奴らみたいに渡しても意味ないってな」
「うむ、トシの言うとおりだったな。だが、貰ってくれないか。そうだ、外に出て好きに使えばいい!」
「……近藤さん」
「なら俺がついてくよ、土方さん。それならいいだろう?」
「俺も俺も。それに眞里さんも刀、出したくない?」
眞里は思わず黙り込んだ。自分で行う手入れにも無理がある。昔に比べれば斬った数も頻度も少ないため傷んではいないが。新選組の幹部御用達の刀鍛冶なら心配はいらない筈である。
心揺れ動く眞里に苦笑して土方は、物々しげに外出の許可を出した。
**
お金の感覚がいまいちわからないのでとりあえずお茶話濁した感じで。2両ぐらい?
次はお出かけです。
[3回]
デフォルト名:立花眞里
土方率いる隊は天王山へ逃げた浪士達を追いかけていた。その中に羽織を羽織らない姿で賢明に併走する千鶴の姿があった。
隊士達は皆重たい打刀と脇差を差しているのに、走る速度は決して遅くない。一方、隊士と違い巡察に出ているでもなく、体力に自慢があるわけでもない千鶴は置いて行かれない必死に走っていた。
千鶴の息が切れ始めた頃のことだった。
市中を駆け抜けていた新選組の前に、一つの人影が立ちふさがった。
先陣を切って走っていた土方は、その人影に異様な空気を感じて足を止めた。他の隊士たちにも、立ち止まるように手振りで合図をした。大部分の隊士は合図の通りに制止したが、血気にはやる隊士のひとりは、その合図を無視して駆け抜けようとした。
「うぎゃあっ!?」
立ちふさがる人影に一刀のもとに切り伏せられた。倒れ崩れる人が赤く染まっていきのを見て千鶴は息をのむ。
「てめえ、ふざけんなよ! おい、大丈夫か!?」
永倉は声を荒げながら、倒れた隊士を抱き起こすが、隊士の意識は既になかった。斬られた身体から、じわりと血溜まりが広がっていく。
突然の攻撃に驚きながらも、隊士達全員が彼へと殺意を向けた。
しかし、殺気を向けられた男は飄々としていた。猫柳色の髪に上質な着物に身を包み、刀を無造作に手に持っていた。
「その羽織は新選組だな。相変わらず野暮な風体をしている」
からかうような言葉に、隊士たちの怒気はますます高まった。そんな中、千鶴は池田屋の夜を思い出した。
この男は、池田屋に居て、沖田に重傷を負わせた男。千鶴は声を震わせながら、指先で男を指し示す。
「土方さん、あのっ……! その人! あの夜、池田屋に居ました!」
土方は不機嫌そうに顔を顰め、千鶴の言葉に男はにやりと笑った。
「あの夜に池田屋に乗り込んできたかと思えば、今日もまた戦場で手柄探しとは……」
その場に居合わせたと示すような口調で言う。
「田舎侍にはまだ餌が足りんと見える。……いや、貴様らは【侍】ですらなかったな」
新選組の神経を逆なでするような、失礼な台詞が次々に彼の唇から語られる。明らかな挑発に隊士達は殺気立つが、土方だけは冷静に凍てつく眼差しで男を射抜く。
「……おまえが池田屋に居た凄腕とやらか。しかし、ずいぶんと安い挑発をするもんだな」
「【腕だけは確かな百姓集団】と聞いていたが、この有様を見るにそれも作り話だったようだな」
男は倒れた隊士を見て笑う。土方のいうことなど端から聞いていないようであった。気付いた土方は眉をぴくりとつり上げる。
「池田屋に来ていたあの男、沖田と言ったか。あれも剣客と呼ぶには非力な男だった」
土方は瞳を細めて、きり、と奥歯をかみしめた。
千鶴は反論しようと息を飲むが言葉にできず唇を噛みしめる。
沖田は強い。強いが、怪我を負ったのは事実であり、負わせたのはこの男である。
「――総司の悪口なら好きなだけ言えよ。でもな、その前にこいつを殺した理由を言え!」
殺意をみなぎらせた永倉が刀を抜き放つ。隊士は事切れていた。
日頃率先して大騒ぎをするのは永倉だが、彼が声を荒げるのは聞き慣れていない千鶴はびくりと肩を竦ませる。
馬鹿だ馬鹿だと言われているが、いつもつるむ三人の中で一番理性的なのは永倉である。その彼が声を荒げるのは、それだけ彼の怒りを買ったということ。
「その理由が納得いかねぇもんだったら、今すぐ俺がおまえをぶった斬る!」
怒鳴る永倉を、彼は鼻で笑った。しかしその顔は微かな怒りが滲んでいた。
「貴様らが武士の誇りも知らず、手柄を得ることしか頭に無い幕府の犬だからだ」
彼は新選組から視線を背後に見える天王山に移す。
「敗北を知り戦場を去った連中を、何のために追い立てようと言うのだ。腹を切る時間と場所を求め天王山を目指した、長州侍の誇りを何ゆえに理解せんのだ!」
「え……?」
その言葉を聞いて、初めて千鶴は長州の浪士達が切腹するつもりであることを知った。思わず土方を仰ぎ見るが、彼らは驚いた様子を見せていなかった。
千鶴の以外の誰もが承知の事実であったことを、そして男が激怒するのは、自分とは無関係な長州侍のためであることを知る。
彼は、彼らの誇りの為に、新選組の足止めをしようとしている。
しかし、千鶴には納得がいかなかった。誇りとは、千鶴が知る誇りは。眞里が一番身近だが、それに近い。誇りとは自分で守るものである。心の中にある大切なものは、他人の手が触れることはできない。誰かに守って貰うものでもない。
「誰かの誇りの為に、誰かの命を奪ってもいいんですか? 「誰かに形だけ【誇り】を守ってもらうなんて、それこそ【誇り】がずたずたになると思います」
男が言う誇りは、千鶴の思うそれとは違う。
「ならば新選組が手柄を立てるためであれば、他人の誇りを犯しても良いと言うのか?」
「そういうわけじゃ、ないんですけど……」
鋭い視線に思わず口ごもる。言いたいことが伝えられないもどかしさに唇を噛む。
土方はやり取りをみて、分かりやすい呆れを浮かべていた。
「偉そうに話し出すから何かと思えば……。戦いを舐めんじゃねえぞ、この甘ったれが」
「何……?」
刀の柄を握り直す彼に対して、土方は平然と言葉を重ねて行く。
「身勝手な理由で喧嘩を吹っかけたくせに、討ち死にする覚悟も無く尻尾巻いた連中が、武士らしく綺麗に死ねるわけねえだろうが!」
言葉が響きわたる。土方の威圧感に千鶴は我知らず後ずさっていた。
「罪人は斬首刑で充分だ。……自ずから腹を切る名誉なんざ、御所に弓引いた逆賊には不要のもんだろ?」
凛とした声音が、理路整然とした論を紡いでいく。こういった言が土方らしかった。周囲を持論に組み込む。隊士達は男に煽られた激情を土方の論に添え、闘志へと変えていた。
「……自ら戦いを仕掛けるからには、殺される覚悟も済ませておけと言いたいのか?」
「死ぬ覚悟も無しに戦を始めたんなら、それこそ武士の風上にも置けねえな。奴らに武士の【誇り】があるんなら、俺らも手を抜かねえのが最期のはなむけだろ?」
とうとうと語る土方の言葉は、彼の誇りや理由を紡がれている。言いたいことはわかる気がするが、千鶴に完全に理解できた自信はない。けれど、この二人は相反するものを抱えているからこそ、いくら言葉を重ねても互いの線が交わらないことはわかるような気がした。
土方は刀を抜き放つと、構えている永倉を目で制した。永倉は顔をしかめるが、数秒の間を置いてから素直に刀を納める。
「で、おまえも覚悟はできてるんだろうな。――俺たちの仲間を斬り殺した、その覚悟を」
「……口だけは達者らしいが、まさか俺を殺せるとでも思っているのか?」
二人の鋭い視線が交錯した次の瞬間、金属同士のぶつかり合う音が、真昼の町中に響き渡った。
噛み合った刀と共に身を離し、土方は慎重に彼我の距離を取る。土方は強いが、相手は沖田を倒した相手である。油断はできない。
永倉は刀の柄を握り締め、わずかに身体を前傾させるが、暫し考え込む。今にも飛び出さん限りの姿勢を見て、千鶴ははらはらとする。しかし、永倉は永倉は数秒の沈黙を経て、刀の柄から手を離した。
「土方さんよ。この部隊の指揮権限、今だけ俺が借りておくぜ!」
彼と戦うことは本来の仕事ではない。この部隊は天王山へ駆けつけることが仕事である。
土方は敵だけを見据えていたが、その唇は笑みの形に歪んでいる。永倉は肯定と見て頷き返すと隊士を振り返り号令を出す。
「いいか、おまえら! 今から天王山目指して全力疾走再開だ!」
隊士たちは声を上げて了解の意を示す。土方の目論見を察し、殺気走った眼孔で隊士等を睨むが土方が阻むように刀で注意を引く。
「貴様ら……!」
「余所見してんじゃねえよ。真剣勝負って言葉の意味も知らねえのか」
彼が部隊の邪魔をできないよう、土方は油断なく構え続けている。千鶴は走り行く隊の後方について駆けながら振り返る。
「……天王山で待ってますから!! 絶対、追いついてくださいね!」
刀を構えたまま彼は数かに瞳を細めて笑う。
「おまえ、俺が誰だかわかってんのか?」
聞くのも野暮だと思わせる、頼もしい声。千鶴は後ろ髪引かれる思いを振り払い、隊士に遅れないように天王山への道を走った。
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