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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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薄桜鬼14

デフォルト名:立花眞里


 先行く斉藤の後ろを追いかけて廊下を歩く。一定距離まで追いついた途端に彼は足を止め、眞里を振り返った。

「斉藤殿?」
「支度が出来次第玄関で落ち合おう」

 支度も何も眞里にはないのだが、斉藤にはあるのだろうと思い静かに頷き、目の前に来ていた眞里と千鶴の部屋へと足を踏み入れる。
 斉藤が立ち去るのを足音で確認して、部屋の中を見回す。
 腰に下げるべき刀は既に下げているし、特に突出して持ち歩くべきものは見あたらない。

 外出するなら多少の金子を持って行くべきだろうが生憎と眞里には持ち合わせがない。
 副長補佐の返礼に渡すと言われたが、眞里や千鶴の替えの着物代にあててもらった為に無一文である。

 暫し考えるも何も思いつかなかった為に手拭いを確認して軽く身だしなみを整え直すと、玄関へと足を向けた。





 草履を突っかけたまま腰を下ろして斉藤を待っていると、原田と永倉が眞里を見つけたらしく大声で名を呼びながら傍らまでやってきた。

「おう、どっか行くのか?」
「外出禁止解けたのか?」

 矢継ぎ早の質問に気圧されて思わず口を噤むが、間が空き答えを求める視線に土方に千鶴と呼び出されたことを先に伝える。合点がいったのか原田と永倉は頷き合う。

「千鶴は一番組の巡察に同行して、私は非番の幹部の方とということで外出許可が下りました」
「なにっ!? 俺らも今日は非番だぜ?」
「……あー、もしかして」

 思い当たる節があるのか原田が頬を掻くと、彼らの後ろから斉藤が姿を表す。音もなく現れた斉藤に驚く原田と永倉を気にも止めずに草履を履くと眞里に向き直った。
 一見したところ、斉藤も何も変わっていないが部屋から何かを持ってきたのだろう。
 眞里が頷き返し立ち上がるとその肩を永倉と原田が掴み押し留める。

「もしかして斉藤と出掛けるのか」
「二人で逢い引きとはずりいぞ!!」

 振り払おうと思えば振り払える二人をどうしたものかと考え、斉藤に目配せすると彼は表情が薄いまま眞里の肩にしがみつく同僚を眺める。その静かな双眸には呆れが混ざって見えるのは気のせいではないだろう。

「非番の幹部に声をかけたが皆用事があると言われたと副長が言っていたが。用があるのだろう?」
「うっ……」
「……やっぱ、あれってそう言うことだったんだな」
「あれ、とは?」

 原田は罰が悪そうな顔をして、昨晩土方から今日の非番の予定を聞かれたことを話す。永倉も重ねるように、非番に仕事を言われるのかと思ったから用事があることにした、と溜め息混じりに白状する。

「まさかあんたとの逢い引きの権利がかかってるとは思わなかったな。ま、次の非番の日に楽しみに待つか!」
「そうだな、じゃあ斉藤。任せたぞ」

 原田と永倉に見送られ屯所を出発する眞里は一度振り返り二人の姿に一礼すると先を行く斉藤に追いつき疑問を口にした。

「外出されたいなら私を伴わずともよいのでは?」
「……そういった意味ではないだろうが……」

 ちらりと斉藤の視線を受けて、首を傾げる眞里の仕草を見て何かを理解したかのように頷き納得するとそのまま足を進むめる。続いて斜め後ろを追いかける眞里は、斉藤の口元がゆるりと笑みを浮かべていることには気づかなかった。
 隣に並んだ眞里へと一瞥した斉藤は既に表情を消していて、事務的な口調で眞里を呼んだ。

「あんたの外出では巡察では廻らない地区での聞き込みが主となる」
「それは何となくは予想済みです。京の地理には明るくないので道順は斉藤殿にお任せしても?」
「問題ない。何かあればすぐにオレに言え」

 小さく頷くと、斉藤はこちらだ。と囁くように告げると、巡察路では含まれない方へと足を向けた。
 つれたって歩く二人の姿が見えなくなった頃、一番組が千鶴を連れて屯所を発った。




 京の町に来るのは何度目になるだろうか。そんなことを考えながら眞里は茶屋から見える京の光景に昔を思った。

 陽が傾く前には屯所に戻らなければならなかったが、歩き回ったが大きな手掛かりは得られず。屯所に戻るかと踵を返した斉藤が立ち寄ったのは茶屋であった。
 持ち合わせがないと固辞する眞里を気にすることなく腰を掛けた斉藤は、二人分の茶と団子を頼むと先に出された茶を飲み一人人心地ついていた。
 頼まれた以上立っているわけにもいかずに眞里もまた腰掛けて人心地つける。

 京に来たその日に新選組に連れて行かれた為に、町並みをのんびりと眺めるのは初めてだった。

 以前に来たのは、まだ信玄公も存命の頃、幸村とやんちゃばかりしていた頃だ。
 見聞を広めてこいと、得物と僅かばかりの金子を手に幸村と共に武田を放り出された。その時に京を訪れたのだった。
 友を思いだし、眞里は思わず柔らかい表情が浮かぶ。お付きにと猿飛佐助と霧隠才蔵がついていたが、まさに珍道中というに相応しい見聞の旅だった。
 その時に訪れた京も、この様に暑い日が続く夏で、前田慶次が率いる京の人々が祭の夜を盛り上げていた。京の思い出は賑やかで疲れた記憶で埋もれている。何と勿体ないことだろうと苦笑が浮かぶ。

 ふと、視線を感じて意識を戻すと斉藤が眞里をじっと観察していた。

「斉藤殿?」
「何か不審なことでもあったか」

 何故、と尋ねると心此処に在らずといったように見受けられた、と答えが返ってくる。眞里が昔を思い起こしていたのを観察されていたようだった。
 またもじっと見てくる斉藤に否定の意を示すために緩く首を振る。

「町が賑わっているような気がしたので、昔見た祭を思い出しました」
「……確か祇園祭が近かった筈だ」
「祇園祭……?」

 なるほど、と眞里は納得して道行く人々を眺める。
 時代や世界が違っても、その時を生きる人々はやはり同じ人なのだと実感する。江戸にいた一年でも感じたことだが、訪れたことのある場所では殊更その実感は強くなる。

「甘い物は好きだったな」
「はい」

 確認の言葉に素直に頷く。此処最近は非番の幹部がよく土産と称して団子や甘味物を買ってくる。
 千鶴も眞里も好きなので素直に受け取っているが、あまりにもよく渡される。決して安い物ではないのもよく渡される為、余計なお世話だが彼らの懐が心配になる。

 斉藤は二人前の団子を目の前に置くと自分のを手に取り、皿ごと眞里の傍へと寄せる。
 短く礼を言い眞里も団子を手に取る。


 その後まったりと団子を堪能して屯所に戻った二人を待ち受けていたのは、長州間者捕縛。という大事だった。

 広間で幹部は待機と声を掛けられ、眞里も共にと言われそのまま斉藤と広間へと向かう。
 広間の襖を開けると、そこには土方以外の幹部や一部の監察方が揃い、沖田と千鶴は並んで山南から説教を受けているようだった。
 襖を開けたことで、室内の視線を集めるが斉藤も眞里も気にすることなく足を踏み入れる。どこに腰を下ろすか迷うが、斉藤が沖田の後ろに座った為、眞里も千鶴の後ろに腰を下ろす。
 途端、千鶴が顔を歪めて眞里を振り返る。

「眞里さんっ」
「千鶴、ただいま」
「おかえりなさい! 聞いて下さい、私……」

 悲壮感さえ漂う千鶴の説明を受けると眞里はお疲れさま、と妹分の頭を撫でる。

 千鶴は一番組の巡察に同行し、父親である雪村綱道の行方の聞き込みをしていた。何人かに尋ねた時、桝屋という店でそれらしき人を見たことがあると言われた。やっと見つけた手掛かりに喜ぶのも束の間、傍で一番組と浪士達との斬り合いが始まり沖田の傍を離れてしまう。
 裏道に入り、騒ぎが落ち着くのを待とうと思ったところで側にあった店主から中で待たないかと声を掛けられたところ、店内の客に新選組の沖田と共に居たと叫ばれた。結果、店内の客が逃げ出し大騒ぎになってしまった。そこへ沖田達が店内に乗り込み大捕り物が始まってしまった。
 桝屋からは大量の武器が発見され、桝屋の主人桝屋喜右衛門は長州の間者である古高俊太郎でありその場で捕縛された。

 千鶴の説明から要領を得たのか斉藤は暫し考え込むと確認を取るように山南を見つめる。

「……桝屋というと、泳がせていた?」
「ええ」

 肯定の答えに、また暫し考え込む。誰も発言しなくなった為に訪れた沈黙に堪えかねたのか千鶴があの、と小さな声をあげる。

「私が悪いんです……」
「君への監督不行き届きは、誰の責任ですか? 一番組組長が監視対象を見失うなど……。全く、情けないこともあったものですね?」

 千鶴の弁明は山南の冷えた視線と正論で真っ向から潰された。一瞬の鋭い眼光に千鶴は俯くが、反対に沖田は苦々しい顔で腕を袖に入れている。
 永倉も鋭い視線で沖田を見ているが、他の者達は一転苦笑いに近い表情である。

 運がなかった。その言葉で片づけてしまいたくなるような出来事だったらしい。


 しかし、山南の辛辣な物言いは若干刺々しすぎる。
 大坂での負傷以来、見かけは穏やかな物言いだった山南は厳しさや荒々しさが目立つようになった。

 片腕でも器用に生活していた眞里を何度か尋ねてきていたが、半年程度の月日で眞里の様に器用に振る舞えるはずもなく。力に成れず申し訳なく思っている眞里だったが、この様な物言いを真っ正面から聞くと眉を寄せたくなる。

 その時、廊下に足音が響き静かに襖が開かれ土方が姿を現した。吹き込んだ風に乗って漂う微かな血の臭いに眞里は目を伏せる。

「外出を許可したのは俺だ。こいつらばかり責めないでやってくれ」

 怒りも焦りもなく、穏やかな声に山南は苦笑を浮かべたが、苦言を飲み込み口を閉ざした。
 土方が上方に座るのを待ち、一瞬の静けさが広間の空気を変えた。

「土方さんが来たってことは、古高の拷問も終わったんですか?」

 原田の言葉に土方は平静そのままの表情で頷く。

「風の強い日を選んで京の都に火を放ち、あわよくば天皇を長州へ連れ出す――それが、奴らの目的だ」

 静かな凛とした声が広間に響いた。


***

いったん切ります。
斉藤さんとデート!!
団子を食べて思い出すのは、幸村との思い出。

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薄桜鬼13

デフォルト名:立花眞里




 眞里は土方の部屋で書状を纏め上げると処理済みの山に積み重ねた。
 座った姿勢のまま振り返り、黙々と書を認める男の背中を眺めて幾許か考えると静かに気配もなく立ち上がる。部屋の隅に置かれていた急須に冷めてしまった湯を注ぎ、湯飲みに茶を淹れる。

 湯飲みを盆に乗せると再び立ち上がり、筆を置いた男の横手に湯飲みを静かに置く。

 眞里の手と湯飲みを置く音でようやく気付いたのか男――新選組副長、土方歳三は眞里を振り返る。

「終わったのか」
「はい、一通りは。そろそろ一息入れませんか?」
「……ああ」

 紫苑の双眸から剣呑な色が瞬きの間に消える。整った顔立ちの土方だが、その顔に疲れが浮かんだまま数日が経っていた。

 季節は夏。
 眞里が土方の仕事の簡単な手伝いを始めて一月が経っていた。

 きっかけはもう覚えていない。小さなお節介からだったか、何だったかは分からないが、結果として眞里は土方の小姓の様な役割をこなし始めている。という現状認識で足りる。

 朝や夜の食事担当は気づけば千鶴が担い、眞里は剣術槍術指南と副長の補佐擬き。平隊士の中ではそのような扱いだった。

 ぬるい茶を飲み干すと、土方は眞里が終えた仕事の山を見る。
 書を試しに書かせれば、武家の跡取りとして育てられた為か達筆であり、学もある。武に一辺倒かと思いきや、勘定方のような仕事も一通りはこなす。
 何より、仕事を任せた際に安心感が先に立つ。

 生きた時代が古いためか、学は古いがそれでも幹部達よりよほど役に立つ。何より誰より気が利く為傍に置いておくと楽に仕事が片付く。

 新選組の内部の仕事は土方がほぼ統率している。新選組に深入りさせないためには手を借りるべきではない。それは分かっているのだが、首が回らなければどうにもならない。
 近藤からの薦めと、眞里本人からの申し出により土方の補佐の様な仕事を行うようになった。

 眞里を補佐に据えた出来事を思い出しながら眞里へと視線を投げる。静かな顔で湯飲みを膝に乗せた両手に持ちながら外を眺めていた。

 普段は男装しているからか、人目のつく場所での振る舞いは『男』そのものである。やはり、生きてきた年数の大半を男ばかりの軍で生きてきたからだろうか。
 だが土方の傍らで補佐擬きをさせていると、ふとした瞬間の仕草で、こいつも『女』なのだと思わされるときがあった。
 人が大勢居るときは無意識に、男と見せる仕草をしているが、気を許しているときはやはり本性が先にでるようだった。

「流石は武田信玄の小姓をしてただけあるな」
「小姓と言っても名ばかりでしたよ」

 笑いが含まれた声に土方を振り向かない眞里の顔へと視線が向く。
 無に近い表情で庭を見ていたその顔に、複雑な感情が浮かぶ。嘲りと、懐慕、哀惜。それに近い色に瞳が翳る。

「御館様の所に居た頃は毎日が修行でしたから。嫡子としての教育と……あとは」
「あとは、何だ」

 続きを問うと、懐古したのか柔らかな笑みを浮かべてそっと目を伏せた。

 平隊士の目がないとき、刀を握る必要がないとき。それらの時は眞里は、普段と印象ががらりと変わる。歴とした年頃の娘なのだと、改めて思い知らされる。

「お目付役の忍の目を盗んで毎日のように街に行って、茶屋巡りをしたり、時には幸村に付き合わされて奥州まで行ったり」
「奥州だぁ?!」

 ちょっと出掛ける。にしても遠出過ぎる目的地に土方は目をむく。土方の反応も予想通りだったのか苦笑いで応えると、遠い目をしてどこか懐かしむ表情を浮かべた。

「武田は奥州伊達と同盟関係で、筆頭の伊達政宗殿と幸村は良き好敵手でしたから。文で呼ばれると喜んで飛び出していきましたよ」

 私も巻き込んで、とくすくすと笑いながら眞里はそのときを思い出す。
 巻き込まれていっても、自分は伊達領を見学させて貰ったり、片倉の畑の手伝いや、成実と街を散策したりと眞里なりに楽しんでいたのだが。

 土方はそんな眞里を眺めながら自身も気づかぬうちに優しい目をしていた。
 保護という名目で新選組に置かれた二人には窮屈な思いをさせているのは重々承知している。そのことに二人が不満を一切口にせず耐えていることも。
 千鶴もようやく隊士達と馴染んできたし、毎日の食事もまともなものが出るようになった。
 眞里の稽古指南という無理矢理作られた役も、よく機能しており、伸び悩む者で自棄になる者も減った。
 加えて眞里は土方の仕事の補佐もそつなくこなしている。

「(――潮時だな)」

 土方は深く息をつくと眞里を呼び彼女の意識も土方に向けさせた。
 和らいでいた空気から少し緊張感のある空気へと変えると眞里は静かに言葉を待っていた。

「意見を聞きたい」

 相槌を求めていないことを理解した眞里は小さく頷いた。

「綱道さん探しも行き詰まってきた。お前らを半年も待たせちまったが……。雪村を巡察に同行させる。立花。お前はどうする」

 千鶴を巡察に同行させる。それに対して叛意はない。むしろ賛成である。そしてそこに眞里を含ませないのは恐らく土方なりの配慮だろう。
 指南役として座しているために眞里が隊士だと思っている平隊士は多い。その誤解は敢えて解かれずにおいている。
 しかし巡察に同行すれば、眞里は隊士と共に微塵の躊躇もなく鯉口を切る。
 そのことは土方の避けたい処であり、近藤も許さない。

「出来れば私も綱道殿の捜索を手伝わせていただきたいのですが、手段は土方殿にお任せいたします」

 監視ありでも、特定人とのみの外出でも構わない。
 その意を含めた解答に土方は予想通りだったのか、深く息を吐くと視線を逸らす。

「……昼の後にもう一度呼ぶ。それまで休んでろ」





 昼の後、千鶴と共に土方に呼ばれた眞里は広間に沖田、藤堂、斉藤が座していることに内心首を傾げながら静かに腰を下ろした。
 襖が閉じられたのを見て、腕を組み、目を閉じていた土方は静かに二人を見据えると口を開いた。

「てめぇらに外出許可をくれてやる」

 眞里は朝のやりとりがあったためにああ、やはり。と納得しただけだが予想できていなかったらしい千鶴は驚きに目を見開いている。
 反対に幹部三人のうち沖田と藤堂は納得したように頷き、膝を打つ。

「なーるほど。だから俺たちが呼ばれた訳ね」
「雪村は市中を巡察する隊士に同行しろ。隊を束ねる組長の指示には必ず従え」
「はい!」

 途端に破顔した千鶴に藤堂は優しい眼差しを浮かべる。眞里も軽く千鶴の頭を撫でる。

「総司、平助。今日の巡察はお前等の隊だったな」
「でもさ、土方さん。俺の隊は今日は夜の巡察担当だから、昼の担当の総司の一番組の方がいいと思う」
「夜より昼の方が安全っていうのは僕も同意見かな」

 でも、と悪戯の様な光を宿した瞳を輝かせると沖田は千鶴を見て冷たく笑う。

「逃げようとしたら殺すよ? 浪士に絡まれても見捨てるけど、いい?」

 冗談に聞こえない冗談を笑顔で言う沖田に千鶴の背筋に冷たいものが走る。
 萎縮してしまった千鶴の様子を見てか、土方は深く苦々しい息を吐くと沖田を睨みつける。

「いい訳あるか馬鹿。何のためにお前に任せると思ってんだ」
「あはは、冗談ですよ」
「冗談に聞こえる冗談を言え」

 斉藤の素っ気ない言葉に沖田はやだなぁ、とからからと笑う。
 言いようのない空気に千鶴は固く手を握り袴を掴む。
 千鶴は千鶴なりの決意を固めそれを彼らに告げる。決して逃げずに父である綱道を探す。そのために新選組の力を貸して欲しいと。

 真剣に頭を下げる千鶴に、沖田も意地悪な発言についての非を認めたのか困ったように微笑みを浮かべる。

「ごめんね、少しからかいすぎたかな。でも、何が起こるか分からないのは本当のことだから。そういう危険を承知でついてくるっていうなら僕の一番組に同行してもかまわないよ」

 ありがとうございます、と再び頭を下げる千鶴に若干の緊迫した空気は収束を見せた。土方は苦々しく思い息を吐くと厳しい顔つきで眞里と千鶴を見る。

「長州が不穏な動きを見せてやがる。本来ならお前等を外に出せる時期じゃない」
「ならば何故許可を?」

 じっと言葉を噤んでいた眞里の言葉に土方は決まりが悪そうに視線をそらす。

「江戸の家にも帰ってないらしいし、京の町中でも綱道さんらしい人を見たっていう証言も上がっている」

 それに、と言葉を切る土方は静かに瞳を閉じる。その怜悧な顔に一瞬、優しい色が浮かぶ。しかし、すぐに消えてまた厳しい顔へと戻り今のは幻を見たのではないかと思えてしまう。

「半年近くも辛抱させたしな。機会を見送り続けた処でこれ以上の進展も望めねえだろう」
「それに今は腹を壊してる隊士も多いしなー。オレらも万全の状態じゃないし」

 茶化すかのような藤堂の声に土方は渋面を濃くする。
 この夏、京は猛暑に襲われていた。いくら強者曲者揃いの新選組も自然には勝てなかったらしい。多くの隊士が猛暑に伏せって居る。
 だからこそ、眞里も土方の手伝いで部屋に籠もっていた。土方の部屋は比較的涼しかった為に体調を崩すという事態には至っていない。

「とにかく、俺は許可を出してやる。行くか行かないかは雪村。お前が判断しろ」
「はい」

 そう言いつつも土方は反対なのだろう。
 考え込むように俯く千鶴から眞里へと視線をやると斉藤を見て渋面のまま頷く。

「立花、お前は巡察には同行するな。非番の幹部を連れてなら許可する」
「土方さん、今日はオレということで宜しいのですか」
「他の非番の奴らは予定があるらしいとかって言われたからな。斉藤も用事があるなら他を当たるが」

 土方の言葉に考える間もなく斉藤は用事はないことを告げると、眞里を呼び静かに退室した。
 土方に目線で促されて眞里は、慌てながらも微塵も感じさせない動作で立ち上がると斉藤の後を追いかけた。

 一連のあまりにも早い展開に千鶴と藤堂が目を丸くする中、沖田が笑いを含んだ声で土方を呼ぶ。

「何で眞里ちゃんは幹部だけでいいんですか?」
「分かってて聞いてくんな」
「嫌だなあ。とりあえず、剣の腕ってとこかなとかは思いますけど」

 藤堂は納得したように手のひらを打つが再び疑問が浮かんだのか首を傾げる。
 確かに眞里の腕ならば、幹部一人と出歩いても不測の事態には対応できるだろう。

「確かに眞里の腕なら護衛なんていらねえけど、なら一人でもよくない?」
「一人で行かせてどうする」
「……あ、そっか」

 目の前で弾む会話について行けずに千鶴は目を白黒とさせるが、やがて息を飲むと沖田へと向き直り。

「沖田さん」
「ん? 決めた?」
「はい。……よろしくお願いします」

 静かに頭を下げた千鶴に沖田は同行の許可を再び告げて静かに立ち上がる。藤堂も同じように立ち上がると、千鶴にも立ち上がるように促す。
 連れたって退室する二人を見送り、土方は深くため息をついた。


**

気づけば、庖厨と副長室を手玉に取っています。末恐ろしい子!

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薄桜鬼 マシンガントークな彼女

デフォルト名:明智直実(あけち なおみ)

現代トリップ主




 私は明智直実。現在19歳の大学二年生である。早生まれのため、12月現在まだ未成年である。
 ちなみに大学の専攻は法律である。よく何学部と聞かれ、法学部だと応えるとなにやら尊敬のような変人を見るような何とも形容しがたい眼差しで「へぇ、すごいね」と言われるが、私自身は何もすごくない。

 法律という分野でいろいろな論争を行うことの出来る頭の良い人々がたくさんいて、たくさんの学派や本があるから学問が成り立つわけであり、私が法学部というものに入ったのもたいそうな理由があるわけではない。
 中には法律の専門家、いわゆる弁護士や裁判官、検察官になるのだといって信じられない量の勉強をしている立派な学生もいる。しかしてそれらは一部の学生のみであるという私の認識は間違っていない筈である。
 ではその他大勢は何なのかと問われれば、『夢がない学生』というのが端的に表しているといえる。中には夢がありそのために選んだ学生もいるかもしれない。彼らに対しては失礼な発言だと重々承知しているため深く謝罪しよう。
 私はどちらかといえば中間である。長く社会人として働く意欲があるので、そういった方面に就職が有利な大学と学部を選んだらこの大学の法学部だったのみのこと。

 ところで法学部というからには学ぶべきは法律であり、多くの人は好みが分かれるだろうといえる。
 あるものは憲法が得意であり、刑法が得意であり、また苦手でもある。
 ちなみに私は刑法と憲法が苦手である。何故か。
 固く、融通が利かず、また訴訟判決を読んでも納得できずやはり堅いからである。
 しかしてこれらがなければ日本国民の人権も平穏も勝ち取れない。
 しかし、苦手な私でもきちんと覚えている条文もある。


「刑法第199条、人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。更に、日本国憲法第31条、何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。よって私は司法官の発する礼状を持たないあなた方に生殺与奪権を握られる覚えはありません」

 人を殺してはいけません。なんて、モラルの薄まってきた現代でも怪しくなってきているが、当たり前のことである。さらに銃刀法というのがあり、たとえ鋏であろうと何だろうと刃渡り何センチ以上は持ち歩いたらだめなはず。っていうか彼らが腰に下げているのは日本刀。列記として刃物だ。
 銃刀法とは申請すれば、家にある分にはいいが振り回すのはもってのほかだ。なんなら私が通報してもいい。

 と、とりあえず謂われのない身体拘束とちらつく殺害宣言に学校で習った知識を分かりやすくかつ簡潔に説明してみた。


 ちなみに私と昨夜知り合った袴の少女は手を縛られ、畳に正座でやたら美形な男の集団に睨まれている。

「だいたい甘いんですよ。証拠残したくないなら目撃者はその場で口封じが定石。翌朝には物言わぬ目撃者が近所のマダムに発見されて数時間後には警察登場で現場封鎖。駆けつけたマスコミが、通り魔やら不審死やらで騒ぎ立てる。それで終わりの筈。私もかくや親元離れて一人寂しい下宿暮らし。マスコミのいい的。で、何でわざわざ連れてきたんですか?」

 まあ、私も問答無用であの世に生きたくなどない。大学に通うため借りた奨学金は返済しなければ見ず知らずの後輩達の迷惑になるし、まだ親孝行もできていない。
 旅行したかった場所は全然行けていないし、買ったばかりの本もまだ読んでいない。何より、今目の前にある六法はラインも何も引かれていないのだ。
 なけなしのお金で買った六法。前まで貰い物を使っていたため古かったためか、民法が読みづらくて仕方なかった。口語体というのだろうか、そういった書き方がされる前の六法だったのだ。
 ようやくなけなしのバイト代で読みやすい民法収録の六法を買ったのだ。珍しく自習でもしようと思い、大学に行こうとおんぼろアパートの階段を降りていたら一段踏み外し、意識を失い気づいたら隣にいる彼女に声をかけられやたら時代劇を思い浮かべる町並みを走っていた。

「で、あなたがたはいったい誰ですか?」
「……手前ぇが言ってることはさっぱり理解できんが、ここは新選組の屯所だ」
「――Pardon?」

 今、なんて言った?

「ここは壬生、新選組の屯所だっつったんだ」
「新選組って……幕末から明治初期に活躍した組織で、歴代大河ドラマの題材になったり、いろんな作家が題材にしたっていう? ――何の冗談? 新手の詐欺?」

 しかし彼らの顔は冗談でもなんでもなく、怖いほど真剣であった。

 とりあえず、現状把握である。

「幕末の出来事……。黒船来航?」
「十年ぐれぇ前だな」
「ってことは1863年前後……? 桜田門外の変」
「それは三年前だ」
「……ってことは文久……」
「文久3年だ」

 なんてことだ。記憶が正しければ私は2009年の12月に階段を踏み外した筈なので、146年ほど時を駆けてしまったことになる。そのような題名のアニメやら映画やら流行っていたような……。

「さっきから何が言いてぇ」
「まあ、信じてもらえないと思いますが、私146年ほど未来の日本から来てしまったようです。ちなみに年号は平成21年。この時代の天皇陛下から、4代後の方です。はい、こちらでよかったら参照して下さい」

 取り上げられて目の前に置かれていた六法をパラパラとめくって一番後ろのページを開いて、平成21年10月発刊を指差す。ちなみに平成21年発刊だが、題名は平成22年度版である。
 労働法の分野も新しい法律が出たのも買い換えた決め手である。以前のは契約法が載っていなかった。

 とりあえず、何故か目の前のみなさんは六法の字の細かさとか印刷技術とかに驚いていたりする。

 平穏で平凡な人生設計をしていた筈の、わたくし明智直実。

 ちまたで人気のタイムトリップ中です。

 無事帰れますように、天国の祖父にお祈りしておきます。



***

なんていうノリ。薄桜鬼が全く生かされていない導入編。

拍手[2回]

薄桜鬼12

デフォルト名:立花眞里




 盆に乗せた茶器一式が揺らがないように、足音を立てながら廊下を歩く。足音を立てる理由はただ一つ。――保身の為である。
 現時点で眞里も千鶴も新選組の『知られたくない何か』の端を知っている状態である。
 根が素直すぎる千鶴は気づいていないだろうが、今ある情報だけでも繋ぎ合わせれば『知られたくない何か』の端から中心へと近づけてしまう。そんな予感がする。
 血に狂う隊士。それを粛正に出ていた平隊士ではなく幹部達。数回だけ訪れていたという雪村綱道。消息を絶った雪村綱道の捜索。

 知られたくない血に狂ってしまった隊士達。躍起になって探す綱道の行方。おそらくこの二つは必ず繋がっている。

「(まあ、ありがちなのは……)」

 蘭方医というのがそれらを結びつける。
 しかし思い至っても誰にも話す気はない。彼らもそれを望んでいないのだろう。現に土方は、眞里が感づいていることに気付きながら何も言及してこない。
 問い質せば、何らかの処分をしなければならないから。それは、土方の本意ではないのだろう。

 仏頂面でいても世話焼きで、鬼畜になりきれない優しすぎる『鬼の副長』の渋面を思いだし、眞里はくすりと笑った。

 一週間も経たないというのに眞里がお茶を淹れても何も言わない。むしろ顔をつきあわせれば淹れてこいとも言われた。余程信用されたか泳がせているのか。

 足を留めて、静かに膝をつく。
 眞里が近づく前に室内から声は止んでいる。

「近藤殿、井上殿。立花です」
「おお、眞里君か。入ってくれ」
「失礼します」

 静かに襖を開き、中に入る。既に話も終えたのか、近藤と井上が柔和な笑みを浮かべて眞里を迎えた。




 部屋の前の縁側に腰掛けて眞里は月夜を見上げる。月は、この場所からでも自分の覚えのある月と変わらない。
 隣に正座する千鶴と違い、眞里は男のように片膝を立てて座っていた。
 端から見れば男女の語らいのようであるが、残念ながら双方ともに女である。

 眞里が立ち去った後の広間でのやりとりを聞きながら眞里は沈んだ様子の千鶴の頭を自分の肩にそっとかき寄せる。軽く頭を撫でられると続きを促されたのを分かったのか千鶴は甘えた仕草で続けた。

「分かってるんです。私は所詮新選組のお客さんで、あの人達との間には大きな壁があるって」
「……そうだね。でもその壁は彼らの優しさから出来ている。他の者達を決して巻き込まないためにね」

 千鶴が眞里を見上げる。その視線に気づきながらも眞里は月を見上げる視線は外さない。
 月明かりに見上げた眞里の横顔は千鶴の知らない人のようで、不安に思い彼女の着物の端を軽く握る。

「千鶴が憎くて黙っている訳ではないよ。……私たちがここにいる理由も彼らの優しさからだ。……知れば否応無しに巻き込まれる。知る必要が来たら、そのときがくれば必然的に知ることになる筈。だから、そのときまでは彼らの優しさに甘えておきなさい」

 ようやく千鶴を見た眞里は、千鶴が見慣れた優しい笑みを浮かべていた。父性の様な、けれど幼い頃に亡くした母が持っていたであろう大らかな微笑みを。

「はい、母様」

 照れた笑みを誤魔化すように言った言葉に眞里は、目を瞬き次いで千鶴の髪を無造作にかき混ぜた。

「確かに、あのままもしかしたら母御になっていたかもしれないけどこんなに大きな娘は持てないなぁ。……ああ、でも誰かの側室だったらあったかな?」

 誰に嫁ぐか等は全く予定になかったが、候補の一人は既に正妻も嫡子もいた。真面目な眞里の応えに千鶴は顔をひきつらせて若干力を込めて眞里を揺さぶる。

「じょ、冗談だったのに大真面目で返さないで下さい!!」
「ふふ、悪かった。さて、湯の時間が来るまで軽い運動をしていてもいいかな、斉藤殿?」

 千鶴の頭をまたも撫でると、静かな動作で立ち上がり、傍らに置いてあった槍と刀を手に取る。立ち上がり際に廊下を振り返ると驚いた千鶴もあわてて振り返った。

「えっ!? 斉藤さん?」

 眞里の視線の先を辿った先には、闇に染まった廊下に溶け込むように斉藤一が腰を下ろしていた。名を呼ばれたからか一歩ずつ足を踏み出し、月明かりの下千鶴のそばに再び腰を下ろすと感情の読めない瞳で眞里を見上げ、小さく頷いた。

「俺もあんたのそれに興味がある」

 それ、とは刀と槍を共に振るうことだろうか。見られても特に困るものでもないために、斉藤の探るような視線を気にせずに中庭へと足を下ろす。

 無造作に構えて深く息を吸う。吐くのに合わせて目を閉じれば、居ないはずの手合わせの相手が目前に現れる。
 左の槍を回転させ防御の型を取りながらも、右の刀で攻めの体制を取る。

『いざ、参る!!』

 幻の幸村相手に口角がつり上がった。



 目を閉じているのに体勢を崩すことなく、槍や刀を体の一部のように振るう眞里の姿に千鶴は見入っていた。
 楽もなく、ただ月明かりのみの舞台での舞のようで。
 手に持たれるのは、飾り紐でも鈴でも、扇でもない真剣。幾人もの人を屠った凶器。それでも今は月明かりに煌めく神聖な神器の一つ。

「きれい……」
「いくら鍛えているとはいえ立花は女人。その身でああも軽々しく槍と刀を振るわれてしまえば、我々の立つ瀬もないな」

 妬みともとれなくもない発言だが、眞里へのそれは賛辞である。眞里の生い立ちを何となくではあるが知っている千鶴は何気なしに頷くこともできてしまう。
 生きた時代が違い、世界も違う。それは仕方のないことではあるが、眞里にとって今の斉藤の言葉は元の時代でも賛辞であろう。

「まるで舞を見ているようで、誰かと試合をしているようですね」
「熟練者の動きは無駄がない。舞に見えるのはそれだけ成熟しているからだろう。……だが、振りが大きいのは巡察には向かないな」
「確か、室内は室内の戦い方があるって仰ってましたよ」

 何処ぞの城を落とした時は、壁の至る所に侵入者対策の仕掛けがあり苦労した、と苦笑い混じりに全国行脚の話を聞いた時を思い出す。
 緑の人の顔のような野菜を取りに、異国の宗教家が牛耳る城に侵入したときの話だったろうか。

 味の感想だけは幾ら聞いても教えてもらえなかった。



 眞里の独り舞台は藤堂が湯の使用許可を告げに来るまで続いた。


***


幸村が『紅蓮の二槍使い』なら眞里は何だろう?
槍と刀という中途半端な仕様にしたのは私だけれど。
武田主従が炎なので、ストッパー的意味合いで属性は氷です。
とりあえず、彼らからの呼ばれ方に迷いが……。
沖田と斉藤と同じ歳。ということにしているので、そのうち呼び捨て……になるかなぁ?でも沖田からの呼び方にちゃん付け?さん付け?とりあえずは試行錯誤で。

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薄桜鬼11

デフォルト名:立花眞里



 夕餉の膳が並んだ部屋で、二人の男は苛立たしげに襖を見ていた。
 そんな様子を見て眞里はくすりと笑うが、音で気づいたのか原田が眉尻を下げて眞里へと顔を向ける。

「笑うなって眞里。こっちはマジで腹減ってんだって」
「分かってますよ。足音もしますし、もう来たみたいですから」

 空腹に鳴る腹を隠さずに目が据わっている永倉は、眞里の言葉に襖を鋭く睨みつける。
 原田も再び襖へ目をやった時、大きく襖が開けられてようやく藤堂達が姿を見せた。

「遅ぇよ」
「す、すみません。私がモタモタしていたせいで」

 原田の低い一言に千鶴が慌てて頭を下げるが、他の遅れてきた男は原田と永倉の恨みの籠もった視線を受け流して自分の席についた。

「おめぇら遅えんだよ。この俺の腹の高鳴り、どうしてくれんだ?」
「新八っつぁん、それってただ腹が鳴ってるだけだろ? 困るよねえ、こういう単純な人」
「おまえらが来るまで食い始めるのを待っててやった、オレ様の寛大な腹に感謝しやがれ!」

 永倉の隣に藤堂、永倉と原田の間に千鶴が腰を下ろす。反対側では、藤堂の向かいに沖田、斉藤、眞里の順で並んでいた。

「新八、それ言うなら寛大な心だろ……。まあ、いつものように自分の飯は自分で守れよ」

 原田の言葉に、千鶴も眞里も分かったように頷いた。食事中におかずが誰かに奪われることをすでに何度も経験している。
 各が手を合わせ、食前の挨拶をすると同時に戦いの火蓋は切って下ろされた。

 永倉と藤堂のおかずの醜い奪い合いに、既に動じない自分に驚く千鶴は素直に盗られて良いものと良くないものをわけて食べ始めた。

「慣れとは恐ろしいものだな……。このおかず、俺がいただく」

 物静かな斉藤は静かに眞里の膳からおかずを奪っていった。
 眞里も千鶴も黙々と食べ続ける中、眞里は不意に箸を置き静かに席を立つ。そのことに気づいた千鶴は声をかけるが、眞里は櫃の側にあった盆を手に沖田の横に膝を突く。
 盆に乗せられた杯と酒に沖田は嬉しそうに眞里を見る。杯と徳利を手に取る。

「あれ、よく分かったね」
「箸を置かれましたから」
「ありがとう、貰うよ」

 沖田が酒を口にしたのを見て千鶴が首を傾げ、もう食べないのか尋ねると沖田はちらりと永倉を見るとにやにやと笑った。

「うん、あんまり腹一杯に食べると馬鹿になるしね」
「おいおい馬鹿とは聞き捨てならねぇ……。だが、その飯いただく!」

 頬を震わせながらも箸を伸ばす永倉を後目に沖田は酒を楽しみ始める。
 眞里は自分の席に腰を下ろす前に、原田へと盆を差し出す。

「原田殿はどうしますか?」
「ありがとな、んじゃ俺も酒にするかな」

 笑って盆ごと受け取る原田に眞里は軽く会釈すると自分の席へと腰を下ろす。一連の眞里の動作を見ていた千鶴に視線を送った沖田は揶揄を込めて声を弾ませた。

「千鶴ちゃんは、ただ飯とか気が利かないとか気にしないで、おなかいっぱい食べるんだよ」
「……わ、わかってます。少しは気にします!」
「気にしたら負けだ。自分の飯は自分で守れ」

 黙々と食べ続ける斉藤の言葉に小さく頷いた千鶴は、若干永倉に減らされた食事を再開した。
 まだ永倉と藤堂が騒ぎながら食べ続ける為、賑やかな空間が続く。
 次第に綻んでいく千鶴を見て、眞里は安堵したように相好を崩す。
 笑みを浮かべた千鶴を覗き込むと原田は笑みを浮かべる。

「千鶴。最初からそうやって笑ってろ。俺らも、おまえを悪いようにはしないさ」
「原田さん……」

 大勢で食べたことの無かった食事は千鶴に複雑で暖かな気持ちをもたらした。整理をつけるためにそっと胸に手を当てて俯く。
 そんな千鶴を見て、眞里が箸を置いた時だった。

 襖が勢いよく開き、広間に井上が入ってきた。

「ちょっといいかい、皆」

 声は穏やかであったが、浮かべた表情は苦悶であり、目は真剣な光を湛えていた。
 和やかな食事の空気が一瞬で硬く真剣なものへと変化した。
 井上は文を軽く上げと見せると、静かに口を開いた。

「大坂に居る土方さんから手紙が届いたんだが、山南さんが隊務中に重傷を負ったらしい」

 皆、一様に息を呑んだ。
 井上は文にあることを淡々とかいつまんで説明した。
 大坂のとある呉服屋に浪士たちが無理矢理押し入ったところに駆けつけた山南達が浪士を退けたが、その際に手傷を負わされたらしいと。

「それで、山南さんは……!?」
「相当の深手だと手紙に書いてあるけど、傷は左腕とのことだ。権を握るのは難しいが、命に別状は無いらしい」

 重々しい事実に千鶴以外の者は、苛立たしげに目を伏せた。
 しかし、千鶴のみが山南の無事を喜び声を上げる。それに対して、幹部は誰も厳しい顔を崩さない。
 眞里は静かに居住まいを正す。

「数日中には屯所へ帰り着くんじゃないかな。……それじゃ、私は近藤さんと話があるから」
「井上殿」

 背を向けた井上に立ち上がった眞里が声をかける。顔だけで振り返った彼は眞里の言いたいことを理解して、眞里が出られるように襖を開けた。
 二人分の足音が去っていくのを聞きながら、斉藤は重苦しい空気が理解できないで居る千鶴に説明するように口を開く。

「刀は片腕で容易に扱えるものではない。最悪、山南さんは二度と真剣を振るえまい」

 ようやく理解が追いついた千鶴は顔を青ざめさせる。
 命は助かったが、武士としては生きていけなくなった。

「片腕で扱えば、刀の威力は損なわれる。そして、つば迫り合いになれば確実に負ける」
「……はい」

 小さく頷いた千鶴を、沖田が酒を舐めながら鋭い目で一瞥する。

「薬でも何でも使ってもらうしかないですね。山南さんも、納得してくれるんじゃないかなぁ」
「総司。滅多なこと言うもんじゃねぇ。幹部が『新撰組』入りしてどうするんだよ」

 永倉の発言を理解しきれなかった千鶴は首を傾げる。

「山南さんは新選組総長ですよね? 今の永倉さんの言葉だと山南さんが新選組ではないような……」

 千鶴の言葉にようやく彼女がいることを思い出したのか、永倉の肩が強張る。一瞬空気も硬くなるが、藤堂は気づかないまま空に字を書くまねをした。

「普通の新選組は、新しく選ぶ組って書くだろ? 今言った新撰組は、せんの字を手偏にして――」
「平助!!」

 藤堂の言葉は原田に殴り飛ばされた為に続かなかった。
 飛ばされた藤堂は勢いよく壁にぶつかり殴られた頬を押さえる。
 思わず立ち上がりかけた千鶴の肩を押さえた永倉は、疲れたように息を吐くと原田を見上げる。

「やりすぎだぞ、左之。平助も、こいつのことを考えてやってくれ」
「……悪かった」
「いや、今のはオレも悪かったけど……。ったく、左之さんはすぐ手が出るんだからなぁ」

 助け起こす原田と起こされた藤堂のやりとりはあまりにも普段通りで、千鶴は改めて自分は新選組の片隅に身を置いているにすぎないことを実感した。

「千鶴ちゃんよ。今の話は、君に聞かせられるぎりぎりのところだ。これ以上のことは教えられねえんだ。――気になるだろうけど、何も聞かないで欲しい」

 優しい声とは裏腹な鋭く真剣な眼差しで千鶴の頭を撫でる永倉を見上げ、反駁しようと口を開く千鶴を押し止めるように総司が淡々と言葉を継いだ。

「『新撰組』って言うのは、可哀想な子たちのことだよ」

 冷たい声と、酒を舐めながらも向けられた底冷えするくらい瞳に千鶴は言葉を無くして俯く。
 そんな場を取りなすように永倉は笑みを浮かべて千鶴の頭にそっと手を置く。

「おまえは何も気にしなくていいんだって。だから、そんな顔するなよ」
「忘れろ。深く踏み込めば、おまえの生き死ににも関わりかねん」

 斉藤の言葉に千鶴は唇を噛む。
 新選組にとって千鶴や眞里は隊士ではなく、ただの客に過ぎない。客は客でも招かれざる客だ。
 その客は新選組の秘密を知る必要はなく、深く踏み込むことは許されていないし望まれてもいない。
 彼らと千鶴の間に聳える、高く厚く、そして冷たい壁を千鶴は改めて認識したのだった。

「そうそう。知りたがるよりも、眞里ちゃんみたいな気の使い方を覚えなよ」

 重たくなった空気を、無かったかのように笑う沖田の言葉に思い出したように藤堂と永倉は首を傾げた。

「そういや、何しについてったんだ?」
「んなこと考えなくても分かんだろ」
「え、左之さん分かんの?」

 穏やかに酒を飲みだした原田は、局長室のある方角を指で指した。

「源さんが近藤さんに話があるったろ。長い話になるのは目に見えてる」
「あ、お茶!!」

 思い至ったのか千鶴が声を上げると肯定するように斉藤や沖田が頷く。

「淡々と食べているようで周りをよく見てるよね。最初から、いい量のお酒も準備してあったし」
「ああ、ありゃいい女だな。腕っ節も強い、料理もできるし気配り上手とくる」

 楽しげに酒を舐める原田の言葉に、藤堂と永倉は笑いながら同意するが首を横に振る。

「だが、最大の難点があるな」
「そうそう」
「難点……ですか?」

 首を傾げる千鶴の目前に指を突きつけると永倉は真面目を装った顔で言った。

「愛想のなさだ!」
「……愛想のなさ?」
「そう! 生真面目で、いつもキリッとしててさ。隊士の中には、あの真面目さがいい!とか言って眞里さんに陶酔してる奴らもいるけど……。いや、気持ちは分かるけど」
「平助君は、眞里ちゃんにもっと砕けて欲しいんでしょ?」
「……まあ、そうなんだけどさ」
「愛想のよさは千鶴ちゃんの方が格段に上だな!」

 永倉に力任せに頭を撫でられるが、千鶴は笑顔で受ける。
 一緒にいる眞里と自分では屯所内での扱いが違うことは仕方ない。眞里の方が千鶴よりも年齢も上で生きてきた境遇も違う。
 気配りがうまい。原田や沖田の賛辞に悲しみを覚えたが、千鶴もこの一年、よく眞里を羨んだ。しかし、眞里はそうでなければ生きてこれなかったのだと言って千鶴を眩しいものを見るかのようにほほえんでいた。

「だが、千鶴への接し方は愛想のなさの欠片もない」
「それは当たり前です! 私はこの一年、すっごい頑張ったんですからね」

 思わず胸を張ってしまう。
 千鶴と眞里が出会って半年が過ぎるまで、眞里の千鶴への接し方は、今の新選組隊士達への接し方と似たようなものだった。

「眞里さんすっごく頑固だから、今みたいに笑いかけてくれたり、柔らかい口調で、千鶴って呼んで貰えるようになるまで半年以上かかったんですから」
「へぇ、そりゃすげえ頑固だな。ただ、それ以上に千鶴ちゃんが頑固だったってことだろ?」

 原田の楽しげな言葉にも誇らしげに頷く。

 眞里は親しい部下でも敬称を外さなかったということを千鶴は聞いている。幼友達の真田幸村とその配下の真田十勇士以外呼び捨てたことがないと聞き、千鶴は嬉しかったのだ。

「だから皆さんは、眞里さんの標準装備になれて下さいね」

 適当な相づちを打つものや、悔しがる者を後目に見ながら、原田は島原から帰った時に見た眞里の微笑を思い浮かべた。

 朝の約束の通り団子を買って帰ってきた原田は、縁側で眞里の淹れた茶を飲みながらのんびりとしていた。
 そのとき不意に目をやった眞里が、嬉しさと懐かしさ、哀しみとやるせなさが内包した微笑を浮かべながら団子を手に取り、沈み行く陽を眺めているのをみた。

 今朝見た淡い微笑とは違う、感情の孕んだ微笑に、どこかが疼いた。

「……なんだったんろうな」

 辛い酒が、喉を通る際に甘く感じて原田は昼の疼きを忘れた。


***


以外とすんなり書けました。

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