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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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薄桜鬼19

デフォルト名:立花眞里


 千鶴が原田と巡察に出た数日後のこと。朝から幹部が広間に集まるということを聞き、眞里と千鶴で幹部全員分の茶を準備をし、集まっていた幹部へと配る。

「失礼します」

 二つのお盆に分けられた幹部全員のお茶は二人で配れば早く配り終わる。しかし準備に少し手間取ったために、冷め気味なものが混じっているようだった。そのことをしきりに気にするが、口をつけなければわからない為受け取った幹部は皆笑顔で礼を言う。

「すまねえなあ、千鶴ちゃん。そうやってると、まるで小姓みたいだな」
「あ、ありがとうございます」

 喜ぶべきか分からない言葉に、反応に悩みながらお茶を置いていく。千鶴を後目に眞里は配り終えて数歩下がった位置に腰を下ろす。

「ありがとう、雪村君、立花君。……すまんねえ、こんな仕事まで」
「あ、私なら大丈夫です。皆さんには、お世話になってますし」

 普段があまり新選組の役に立っていると思えていない千鶴は静かに首を横に振る。何も仕事がないより化は雑用でもいいから何かしていたいのだろう。
 しかし、千鶴が現在受け持っている仕事は地味で大切なものばかりである。新選組が日常に煩わされずに過ごせるのは、千鶴の決して小さくはない献身のおかげである。
 本人は全く気づいていないが。

「まあ、でも眞里ちゃんは既に土方さんの小姓みたいになってるけどね」

 そう言って、お茶を一口飲んでから沖田はなぜか目を細める。その細められた視線を受けてしまった千鶴は身を小さくする。

「……あの。お茶、渋かったですか?」
「美味しいよ? ……ちょっと温いけど、これくらい隙のあるほうが君らしいよね」

 首を横に振りつつ言われた言葉に千鶴は慌てて頭を下げる。よりにもよってぬるめのお茶が沖田へと行ってしまったのだ。
「………すみません……」

 沖田が楽しげに笑みを浮かべるのを千鶴以外の者は呆れたように溜息を吐いたとき、引き戸が開き、その場にいなかった近藤が足音も荒く現れた。
 機嫌を損ねているのではなく、気持ちを抑えきれないような動作で腰を下ろすと幹部の顔を見渡し、朗々と声を張り上げた。

「会津藩から正式な要請が下った。只今より、我ら新選組は総員出陣の準備を開始する!」

 おお、と歓喜の声が広間に響く。会津藩からの正式な要請が下るというのは、新選組が会津藩に認められたといってもいいことであった。

「ついに会津藩も、我らの働きをお認めくださったのだなあ」
 号令をかけた近藤自身もとても嬉しそうである。会津藩から直々の要請が届くというのは、それだけ重大なことなのだろう。しかし浮き立つ皆とは対照的に、土方は苦い顔をして浮き立つ幹部の顔を見渡した。

「はしゃいでる暇なねえんだ。てめえらも、とっとと準備しやがれ」

 既に長州が布陣を終えていることは、京に居るものならば誰でも知っている。出陣要請が来るにしても、遅いということはやはり新選組の扱いはまだ低いものであるということを意味している。

「ったく……。てめえの尻に火がついてから、俺らを召喚しても後手だろうがよ」

 吐き捨てるように愚痴をこぼす土方に眞里は苦笑いしか浮かばない。戦は速さが命である。後手から巻き返すのは不可能ではないが、難しい。

「沖田君と藤堂君は、屯所で待機して下さい。不服でしょうが、私もご一緒しますので」

 山南は軽く左腕をさすりながら目を伏せる。皆はちらりと山南へと視線を向ける。

「君たちの負傷が癒えていないように、私の腕も思うように動きませんから」

 自嘲の響きに千鶴は狼狽えたように視線を彷徨わせるが、眞里も含め幹部は既に山南の言動には耐性がついていた。大坂での負傷以降、山南の物言いは鋭さを増し、周囲と自分に傷を付けていく。それを止める術を持つ者が一人もいない。自然と皆は交わす術を身に付けていった。

「傷が残ってるわけじゃないですけどね、僕の場合。でも確かに本調子じゃないかな」
「オレだって別に大した怪我じゃないんだけど。近藤さんたちが過保護すぎるんだって」

 さらりと流した沖田に続き、藤堂は不満を露わに口を尖らせる。彼を見て原田はにやりと笑みを浮かべた。

「大した怪我じゃないとか嘘吐くなよ。昨日も傷口に薬塗られて悲鳴上げてただろ」
「うわ、そういうこと言う!? 左之さんには武士の情けとか無いの!?」
「けど、本当のことだろ?」

 あっさりと切り替えされて藤堂はばつが悪そうに千鶴をちらりと見やる。

「……せめて女の子の前では、黙っててくれたっていいじゃん」

 視線を受けた千鶴は藤堂の声が聞こえなかったのか小さく首を傾げて藤堂を見返した。藤堂は恥ずかしそうに頬を掻きながらそっぽを向いてしまう。
 今は前髪で隠れているが、池田屋で負った傷は痛々しいものである。
 二人のやりとりを眺めていた永倉はふと思い出したように不意に千鶴を見た。

「そういえば、千鶴ちゃん。もし新選組が出陣することになったら、一緒に参加したいとか言ってたよな?」
「……え? でも、あの……」

 不意に振られた千鶴は咄嗟に言葉を探すが、否定の言葉を口にする前に近藤が笑顔で膝を打った。

「おお、そうだな。こんな機会は二度と無いかもしれん」
「――えっ!?」
「うわ。いいなあ、千鶴。折角だしオレの分まで活躍してきてよ」
「――か、活躍っ!?」

 思いがけぬ局長からの賛成の言葉と藤堂の言葉に困り果てた千鶴は隣の眞里の袂を握りしめ眞里を仰いで見た。
 眞里は苦笑すると、決定権を持っている呆れた顔をしている土方を見た。
 土方は呆れたような溜息を吐くとすかさずに反対する。

「今度も無事で済む保障はねえんだ。おまえは屯所で大人しくしてろ」
「君は新選組の足を引っ張るつもりですか? 遊びで同行していいものではありませんよ」

 山南の冷笑に千鶴は肩に力が入る。確かに池田屋の時とは違い、今度は確実に戦場である。危険度は比ではない。
 重々承知している千鶴は、土方の意に沿うことを口にしようとするが、思いもよらぬところからの助け船に言葉をなくした。

「山南総長。それは――、彼女が迷惑をかけなければ、同行を許可するという意味の発言ですか?」

 斎藤であった。千鶴も驚きに目を瞬くが、反論された山南も他の幹部も意外だったのだろう。驚きも露わに皆が斉藤を見つめていた。

「…まさか、斎藤君まで、彼女を参加させたいと仰るんですか?」

 確かめるような言葉に斉藤は少し考えると緩く首を左右に振る。自分の考えを確認するように、言葉をゆっくりと紡いでいく。

「彼女は池田屋事件において、我々新選組の助けとなりました。働きのみを評価するのであれば、一概に『足手まとい』とも言えないかと」

 確かな正論に誰もが続ける言葉をなくした。落ちる沈黙を払拭するように、近藤がよし、わかった。と大きな声を上げた。その場の視線は近藤へと再び集まる。

「君たちの参加に関しては俺が全責任を持とう。もちろん同行を希望するのであれば、だが」
「あ、あの……」

 いいのかなと、千鶴は眞里を伺い見る。気づけば、千鶴はこのような場の判断をするときに眞里の意見を求める。しかし、眞里としては千鶴が決めればいいと思っているために促す笑みを浮かべる。さらに困ったらしい千鶴は幹部を見渡す。
 山南はまだ納得していないらしく冷笑のまま。土方は渋面、他の者達は千鶴の決断を待っている。答えあぐねる千鶴を見かねたのか沖田が助け船を出した。

「戦場に行くんだってわかってるなら、後は君の隙にすればいいと思うよ」

 若干投げやりな言葉だが、千鶴の背中を押すには十分だったらしい。数秒の後、千鶴は近藤に参加したい意を伝えた。


 笑みを浮かべる一部の幹部に対して、土方、山南は苦い顔をする。
 一方の眞里は自分は土方の意を汲んで残るべきなのか、それとも千鶴についた方がいいのか分からずに困ったように土方を見る。
 そのことに気づいた土方は深く苦々しい息を吐くと、眞里の名を呼んだ。

「てめえはどうしたい」
「……出来れば千鶴についていたいのですが、ご指示があればそれに従います」
「――ならお前は、」
「おお、眞里君も勿論俺が責任を持とう!!」

 土方が何事かを言う前に近藤が満面の笑みで胸をたたく。
 予想通りだったのか土方は、苦い笑みを浮かべると「お前も来い」とだけ言うと、幹部を見渡した。

「何呆けてやがる!! さっさと支度しやがれ!!」

 低い怒鳴り声に彼らは不適な笑みを浮かべると、腰を上げた。



**

土方さん贔屓なのは仕様です。

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薄桜鬼18

デフォルト名:立花眞里

 文久4年7月。眞里や千鶴は池田屋事件以降、外出許可が下りることが徐々に増え始めていた。池田屋での働きが認められたらしいが、本人達は大したことは何もしていないと恐縮していた。

 千鶴は単に外出できることは嬉しいらしく、素直に喜んでいた。事件をきっかけにしてか、事情を知らない隊士達も二人への接し方が変わっていた。正式な隊士ではないが、新選組に身を置く人間として認められたのだった。

 気さくに話しかけてもらえるようになり、千鶴は笑顔が増えていた。
 一方の眞里は、土方の仕事の手伝いをしている関係か監察方の面々との交流が増えていた。


「こちらの茶屋の汁粉は絶品なんですよ」

 笑顔で店の奥を指さす島田に促され眞里は小さく頷くと、言われるがままに長椅子に腰掛けた。
 暑い日差しに目を細め、吹き抜けた風が頬をなでるのが心地よい。
 幹部との外出許可だったが、眞里は一部の土方が許可を出した者とであれば外出できるようになっていた。
 その日の同行者は監察方である島田魁と、沖田総司であった。

 当初は島田と二人で出る筈だったが玄関で出会った沖田がそのままついてきたのだった。

「島田さんのオススメなら間違いなく美味しいね」
「いやあ、買いかぶらんで下さい」

 照れた島田が頬を掻くと見計らった様に汁粉が出されてくる。差し出されるままに一番を受け取ると眞里は期待の籠もった島田の視線のままに一口食べる。
 言葉もなく自然と目元が綻ぶのを見て彼はホッと安堵した。自分にも渡された汁粉を手にして、沖田は若干嬉しそうな眞里と島田を見て笑った。

「でも意外だな。眞里ちゃん、甘いもの好きなんだね」
「……友人が無類の甘味好きで、毎日のようにつきあわされても嫌ではない程度には好きですよ」

 苦笑混じりのとんでもない内容の言葉に反応は様々であった。
 沖田は嫌そうに顔を歪め、島田は羨ましそうにぽつりと呟いた。

「毎日……」
「とんでもない奴だね、毎日だなんて胸焼けしそう」
「まあ、……見てる方は胸やけしますね」

 しかし、毎日付き合っていたと会う眞里に対しても沖田が胸やけに近いものを抱いたことを二人は気づかなかった。

 脳裏に浮かぶのは、尋常ではない甘味を簡単に消費していく姿である。自身の金は、槍と給金と甘味に費やすと言っても過言ではなかった。
 彼を思いだし、眞里は胸元に手を当てて笑った。
 その動作に沖田は目を細め、意味深な笑みを浮かべた。

「それ、よくそうしてるよね」
「何がです?」
「昔話をするとそうやって着物の上から何かを握りしめてる」

 何があるの?と、好奇の色を隠さない沖田に苦笑すると眞里は汁粉を横に置いた。襟後ろに手を差し込むと何かを指先にひっかけてするすると引き上げる。

 襟元から取り出すと着物の上に出す。
 二人の視線を感じ、そっと手のひらに乗せると、ちゃり、と銭が擦れ合う音がした。

「それって……お金?」
「はい」
「へえ、変わってるね。普通首から下げるなら新八さんみたいに綺麗な石とかでしょう?」

 じっと眺めていた島田は目を細めて何かを思い出そうとするが、思い出せなかったのか誤魔化すように笑みを浮かべた。

「誰かに貰ったものなんですか?」
「先ほど言った友に」

 動作の答えを兼ねての答えに納得したのか沖田は既に汁粉へと興味を移していた。
 紐に通された六文。紐は外されたとがないのか、結び目も見あたらず通された銭も見覚えがないものだった。
 再び仕舞われたそれを目で追いながら沖田はお茶でのどを潤すと、不意に立ち上がった眞里を視界に納める。脱走するならば、斬らなければと柄に手をかけようとするが島田も立ち上がり眞里の後を追いかけたので止めた。

 駆けていった眞里は、大荷物を乗せた荷車を押している町民と共に立っていた。何かを町民の一家の一人に渡し、何度も頭を下げられている。いつの間にか眞里の後ろには島田が立っている。
 何度も頭を下げられ、淡い笑みを浮かべている所から察するに引っ越しの道中荷物を落としたことに気づかずに先へと進む一家に気づき、荷物を拾い追いかけたのだろう。



「ありがとうございます」
「いいえ、誰かに持って行かれなくて良かったですよ」

 何度も頭を下げられるのは感謝半分、眞里が帯刀しているため不当な礼の要求を阻むためが半分だろう。
 しかし眞里が荷車を後ろから押していた子供の頭を優しく叩き笑う姿を見て親二人は一層畏まって頭を下げ始めた。

「今度は落としたらすぐ気づくようにね」
「ほんまにありがとうございます」
「気にしないで下さい。早く発たれないと」

 眞里がひらひらと手を振ると一家は深く頭を下げると道を急いでいった。
 何度か振り返り手を振る子供に手を振り返すと眞里は島田を仰ぎ見た。彼もまた子供に手を振っていた。

「立花君はよく気づきましたね」
「引っ越される方が多いなと見ていたらたまたま目の端で落とされただけですよ。……それだけ、今の京は不穏な都なんですね」
「ええ、長州の浪人達が再び集まってきているようです」

 町人が逃げ出すのは、戦の前。戦場が近い町や村は人々が次々に逃げ出していく。落ち武者に襲われ、荒らされるからである。落ち武者だけでなく、勝ち軍が理も何もない軍ならば同じこと。
 戦がない時代でも、力の持つものによる弱者への不当な力の振る舞いは変わらないようである。それを思い眞里は深く溜息を吐いた。





 千鶴はその日、十番組の巡察に同行していた。十番組の組長は原田左之助である。
 強面だったり、近寄りがたい者が多い新選組の中で、面倒見がよく優しい人間は希少である。
 千鶴にとって話しやすい人間は少なく、その内に原田は入っていた。よって、巡察に同行するようになってから抱いていた素朴な疑問を問いかけられる貴重な機会であった。

「あの、原田さん。新選組は今日の治安を守るために毎日、昼も夜も町を巡察しているんですよね? それで……、具体的には、どういうことをしているんですか?」

 この様な質問は沖田にすると意地悪なことを言われ、藤堂には気恥ずかしくて聞きづらい。斉藤、土方、永倉は色々な意味で聞きづらい。近藤や井上には質問の機会がない。
 千鶴の予想通り原田は嫌な顔を微塵もせずに、優しく千鶴を振り返り言葉を考えていた。

「ま、ピンからキリまで大小さまざまだな。辻斬りや追剥はもちろん、食い逃げも捕まえるし喧嘩も止める」
「食い逃げ……」
「商家を脅して金を奪おうとする奴らも、俺ら新選組が取り締まってるよ」

 意外だと思った千鶴の顔から考えていたことが分かったのか、彼はからからと笑った。

「案外地味だろう?」
「そ、……」

 否定したいが、否定できずに千鶴は口を噤んだ。素直な千鶴の反応に気を悪くすることなく原田は千鶴の肩を優しく叩いた。

「普段が地味だからな。だからこそ、池田屋ん時はあんなに張り切ってたんだよ」
「納得です。……でも、地味でも大切なお仕事です!」

 地味だが、様々な土地から多くの人が集まる京で不定な輩を取り締まる者が居なければ治安は悪くなってしまう。嫌われ者ではあるが、必要で大切な仕事だと千鶴は思うようになっていた。
 拳を握りしめて断言した千鶴を眩しいものを見るかのように目を細めた原田だったが、不意に顔を上げて道の先を見つめると手を振った。
 千鶴も原田の視線の先を追うと見慣れた羽織姿が手を振っていた。

 二番組の永倉新八である。

「永倉さん!」

 昼の巡察は二つの組で別々の順路を行く。彼は、別の道順で巡察をしていた。

「よう、千鶴ちゃん! 親父さんの情報、なんか手に入ったか?」

 近くまで来た永倉に笑顔で聞かれるが、千鶴は静かに首を振る。

「今日は、まだ何も」
「……んな顔すんなって! 今日がだめでも明日がある。そうだろ?」
「……はい!」

 明るい口調で紡がれる言葉に元気を分けてもらえた気がした千鶴は笑みを浮かべて大きく頷いた。大きな声と喧嘩っ早いところが苦手だが、永倉の前向きな所は千鶴も好感を抱いていた。彼の笑顔は周りを賑やかにさせる。

「で、新八。そっちはどうだ? 何か異常でもあったか?」
「いんや、何も。……けど、やっぱり町人たちの様子が忙しねぇな」

 言われてみて千鶴は巡察の際に見たものを思い出す。確かに町の人の様子は少しおかしかった。そわそわしていた。まるで何かが来るのに不安を覚え立ち去りたいのを堪えているような。
 屯所で、何か悪さをした永倉や藤堂が土方がやってこないかとそわそわしている様子に似ている。

「そういえば……引越しの準備してる人も多かったですよね」

 原田は納得したように頷く。

「戦火に巻き込まれまいと、京から避難し始めてるってことか」
「え……?」

 意味が分からず目を瞬く千鶴を見て、そういえば教えてなかったな、と永倉が説明を加えた。

「長州の奴らが京に集まってきてんだよ。その関係で、俺らも警戒強化中ってわけだ」
「池田屋の件で長州を怒らせちまったからな。仲間から犠牲が出れば、黙ってられないだろ?」

 二人の固くまじめな表情に千鶴も肩に力が入る。
 長州は再び、何かを起こそうとしているのだろうか。新選組は京の治安を守るために戦っていて、池田屋事件でも長州の過激派浪士たちから京の都を守りきった。
 けれど、京の人々は新選組に良い感情を持っていない。

 こうして巡察している間も目を合わせないように顔を逸らされたり、ひそひそと噂をされ、あからさまに避けられるのは日常茶飯事である。
 池田屋事件の後でさえ長州の味方をする町人が絶えないらしい。もちろん新選組の評判も以前より高くなってきているようだが。

「皆さん、京を守るために戦っているのに……」

 理不尽さに悔しさがこみ上げ唇を噛む。しかし、千鶴が口にする不満を永倉はあっさりと笑い飛ばした。

「京の人間は、幕府嫌いだから仕方ねぇって」
「どちらにせよ、俺たちは俺たちの仕事をする。長州の連中が京に来ても追い返すだけさ」

 先ほどの固く真剣な顔から一変して、快闊な笑みを浮かべる二人。
 現状を事実として受け止めて、それに対する不満を言わない。そんなところが凄いと千鶴は一種の感動を覚える。

「対長州か……。もしかすると近いうちに、上から出動命令が出るかもしれねぇな」

 新選組の上は、会津藩である。思い出した千鶴はぽつりと洩らした。

「それ、すごいことですよね?」

 簡素な言葉だが、千鶴の素直な気持ちの籠もった言葉に原田は笑って頷く。

「そんな機会、滅多に無いだろうな。折角だからおまえも出てみるか?」
「えっ!?」

 出る、というのは新選組として出動するということである。
 出たいと言っても簡単なものではなく、気軽に口に出せるものでもない。
 しかし、土方も近藤も代表として参加するだろう。もしかしたら眞里も出るかもしれない。羽織はないが、彼女は隊士達からも一目置かれている。

「んー……」

 戦場になるかもしれない場所に、物見遊山で参加するものではない。しかし、皆と一緒に何かをしたいという気持ちも強く、眞里も行くならばついていきたいという気持ちも強い。何か手伝えることはないだろうかと考えるが戦場を知らない千鶴が思いつくものはない。
 けれど、と千鶴は腕を掴む。戦場に出るのは、まだ怖かった。背筋がヒヤリとする殺気の中で動ける自信はないが。

『何処にいても、千鶴は千鶴がしたいことをすればいい』

 眞里に言われた言葉が脳裏に蘇る。気づけば答えていた。

「私は――ちょっとだけ、参加してみたいです」


 数日後、現実のものになるとは露とも知らず。


***

ゲーム中の描写ばかりであまり楽しくないかもですが。
後々引っ張りたいので六文銭登場です。

うちのバサラ設定は色々吹っ飛んでます。
合い言葉は「だってバサラだから」で何でもありです。
幸村が茶屋に現れるとその店はのれんをおろすほど、大量の甘味を食べます。武田の若き虎。迷惑な人。

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薄桜鬼17

デフォルト名:立花眞里


 四国屋に居た土方隊は、「本命は池田屋」の連絡を受けると直ぐに援軍へと向かった。

 駆けつけた土方は、幹部へと手早く指示を出すと一人監察方の山崎を連れて大通りへと足を運んだ。土方を見送り、原田は裏口の援護、斉藤は宿内の援護に回るため奔走した。


 土方は大通りに一人立ち、役人達の列を向かえていた。
 悠然とした行列の移動に苛立ちが募るのを飲み込み、淡く笑うと立ち並んだ役人の列の前に一歩踏み出しだ。
 ただそれだけの仕草ではあったが、土方の一歩で威圧感は膨らみ役人の列を留めた。
 足を止めた彼らを見渡し、土方は朗々と語り出す。見得きりの様に辺りは彼の空気に飲まれていた。

「局長以下我ら新選組一同、池田屋にて御用改めの最中である!! 一切の手出しは無用。――池田屋には、立ち入らないで貰おうか」

 土方の厳しい口調による宣言に役人はざわつく。

「し、しかし我々にも務めが――」
「小せえ旅館に何十人も入れるわけねえだろ? 池田屋を取り囲むくらいが関の山じゃねえか」

 嘲笑すら含んでいる声に声を上げた役人に怒りが浮かぶ。しかし土方は反論の隙を与えずにたたみかける。

「それとも乱戦に巻き込まれて死にてえのか? 羽織着てねえ奴は間違って斬られるかもしれねえ。我が身が可愛いなら大人しくしとけ」

 騒動に決着がつく前に役人に入られれば、新選組の手柄は彼ら役人のものとなる。決死の覚悟で斬り入った隊士を守るため、そのまま土方は、池田屋での捕り物が終わるまで一人で役人の行列を押し留めていた。




 駆け下りた先に見知った背中を見つけ、彼女の名を叫ぶ。

「眞里さん!!」
「千鶴? 怪我は?」
「私は大丈夫です……。でも、沖田さんがっ」

 取り乱す千鶴の肩を抱き寄せ、背中をそっと叩く。一定の間隔で叩かれるそれに合わせてゆっくりと呼吸をしているうちに、気が落ち着いていった。
 眞里は、ゆっくりと問いかけを始めた。

「沖田殿の意識は?」
「気を失っています」
「そう……。容態は?」
「胸元を蹴り飛ばされて、恐らく内蔵に損傷が……」
「――分かった、まだ千鶴は動ける?」

 千鶴は眞里の腕の中から身を離すと、眞里の目を見つめ返してゆっくりと頷いた。
 立て続けに起こった恐ろしい出来事はまだ恐怖を心に植え付けたままである。しかし、戦いの終わった宿内ではまだ隊士達は働き続けている。
 千鶴だけ休んではいられないし、今は体を動かしていたかった。
 千鶴を見て優しく微笑んだ眞里は、いい子だ、と肩を軽く掴むと静かに千鶴に仕事を告げた。

「すぐ外で負傷者を集めて手当しているからそこに手伝いにいって欲しい。私は沖田殿を運び出してもらうように言ってくるから」
「はい!」
「誰か、手の空いている人は二階へ! 沖田殿も負傷されている!」
「立花さん、俺が行きます!」

 飛び出していく千鶴を見送り、眞里が声を上げると隊士が二人駆けてきた。稽古でよく顔を見た隊士だった為、頷くと千鶴からの情報から彼らにとってもらうべき対応を告げる。

「なるべく動かさないようにして運びたい。板の戸に慎重に乗せて下ろして欲しい」
「分かりました」

 彼らが駆け上っていく傍らを藤堂が運び出されていく。譫言でまだ何かを呟いているようだったが、異変はないようだった。
 ホッと息を吐くと、誰かに肩を掴まれゆっくりと振り向く。

「よう、お疲れ!」
「永倉殿、お疲れさまです」

 全身の至る所を返り血で染まった永倉だった。晴れやかなような曇った笑みに曖昧に返すと、そのまま彼の手を取り外へと引いていく。
 驚きながらもそのままにされる永倉だったが、連れて行かれた先に土方を見つけて慌てる。

「な、何で土方さんのとこ連れてくんだよ! 俺、何もしてねぇぞ?!」
「土方殿ですか……?」
「おい、呼んだか」

 何を言っているのか分からず首を傾げて永倉を振り返ると、何故か土方が姿を現す。目が合うと会釈して、また永倉を引いて歩き出す。
 眞里の意図が分からず、ついていく永倉と土方だったが、眞里が足を止めて手を離し、待つように言われると大人しく足を止めた。

「何やってんだ、あいつ」
「さあ、分かんねえな。それよりさ、土方さん。あいつら今回お手柄だぜ?」
「……だろうな」
「え、もう聞いてんのか?」

 いや、と首を振ると土方は眞里と、眞里についてやって来る千鶴を見て目を細める。日の出が近いのか、東雲空になっている。

「俺が指示出す前に宿内の隊士は動いてやがった。組長でもないあいつの指示に従うって事はそれ相応の働きを見たってこったろ」
「……そうかもな」

 永倉も眞里と千鶴を眺めて笑うが、すぐに千鶴が鋭い声で永倉を呼び目をつり上げるのを見て肩を竦める。
 走ってきた千鶴が永倉の腕を引っ張り、言い聞かせるように淡々と話す。

「手に酷い怪我をしてらっしゃるなら早く手当に来て下さい!!」
「あ、ああ……。わりいわりい」
「ほら、早くして下さい!!」

 連行されていく永倉を見てため息を吐く土方の前に眞里が再び戻り、小さく頭を下げた。

「お疲れさまです、土方殿」
「ああ、お前もな。俺にも何か用か?」

 幹部にだろうと容赦なく指示を飛ばしていた眞里を遠目で見ていた為(同じく見ていた近藤が笑みを浮かべて「流石女子は叱り慣れているな」と言っていた)、ついに自分も使われるのかと思ったのだが、流石に局長と副長は使わないのか首を傾げられた。

「いえ、屯所で湯の準備と食事の準備をしておきたいと思ったのですが……」

 言われた内容に、ああ、と頷きながら流石だな。と心の中で賛辞を述べた。

「こっちの指示は殆どお前がやってくれたからな。その指示はもう送ってある」
「いえ、出過ぎた真似をして申し訳在りません」

 頭を下げ再び動き回ろうとする眞里の肩を掴み、その場に留める。止められた眞里は不思議に思うのか、土方を見上げる。

 視界の端で、空の端に陽の端が見え始めた。京の空気が一掃されていく。

「後はあいつらに任せておけ」
「ですが……」
「副長命令だ」

 眞里は一瞬不服そうな顔をするが、すぐさま消し去り分かりました、と頷いた。
 そのまま、隊士達が帰還の準備を整えるのを土方と並び眺めていた。



 池田屋事件と呼ばれるこの出来事で、池田屋にいた尊王攘夷の過激派浪士二十数名のうち、新選組は七名を討ち取り、四名に手傷を負わせた。一方、新選組は一名が戦死、二名が重傷。他にも負傷者を何人か出した。
 新選組の名を内外に広める一つの事件であり、隊士達の中でも暫くは語り継がれるものとなった。


 こうして長い夜が明けた。


 眞里と千鶴は土方に言われるままに庖厨で熱燗とお茶の準備をしていた。
 何故昼間から熱燗なのか理解出来なかったが有無をいわさぬ迫力にとりあえず準備をするだけして広間へと向かう。お盆には熱燗と土方が置いていった薬包とお茶。

 広間には幹部が勢ぞろいしており、眞里と千鶴が中へと入ると一斉に視線を向けられる。

 千鶴と目配せして、眞里は近藤と土方の間に膝をつき盆からお茶を置く。そのまま薬包も置く。

「おお、すまんな」
「いえ。熱燗はどちらの方に?」
「俺と近藤さん以外にだ」

 言われたままに熱燗を渡していくと熱燗が一つ余る。余った分をお盆に乗せたまま千鶴と一歩下がり腰を下ろす。そう言って湯飲みを持った土方は眞里のお盆の上と千鶴のお盆の上を一瞥した。柳眉を吊り上げ、眞里へと眼差しを向ける。
 眼差しを受けた眞里は目を瞬く。何かしたのだろうけれど、心当たりが全くない。

「おい、お前も飲め」
「はい?」

 意図が分からないまま手招きされるままに土方の隣に腰を下ろすと、熱燗と薬包を渡される。
 意味が分からないがあたりを見渡すと、眞里に見本を見せるように薬包を手にした彼らは中身をさらさらと口に流し込み、そのまま熱燗で飲み込む。
 眞里は思わず目を見開いたまま固まる。

「特別な処方をしたお薬なんですか?」
「土方さんの実家で作ってる薬。石田散薬って言うんだよ」

 千鶴の問いに答えた沖田は楽しげに目を細めると、面倒そうに薬を流し込む。その事務的な動作に、飲むのが始めてではないことが窺えた。

「打ち身挫き切り傷に良く効く万能薬だ」

 淡々と述べる斉藤の言葉に原田や藤堂、永倉は苦い笑みを浮かべる。小さな声でぼそりと、眉唾もんだがな、と呟いた声はしっかりと眞里や土方にも聞こえた。
 彼は眉間に皺を刻むと深く息を吐いた。

「……とりあえず、手前ぇも飲んどけ」
「……頂きます」

 熱燗で流し込むと、清酒独特の熱さが喉を通り抜けていく。
 けろりとした顔で飲み終えた眞里を見て呆気にとられる幹部に、熱燗の猪口を回収する眞里は訝しみ千鶴を振り返る。
 彼らの気持ちが理解できた千鶴は笑みを浮かべる。

「眞里さんはお酒強いんですか?」
「昔から何かにつけて宴ばかり開かれて朝まで飲まされたから。それに元々うちの一族は酒豪が多いから」

 信玄が亡くなってからは滅法少なくなったが、同盟国に赴けば飲めや歌えの大騒ぎだったことを思いだし自然と笑みが浮かぶ。しかし、楽しげとは違い儚さを纏う笑みに事情を知っている一部の者は目を伏せる。

「なんだなら今度一緒に島原に行くか?」
「な、なに言ってんだ左之。島原に女は連れて行けねぇだろうが」
「でもよ、男装してんだから別に問題ないだろ」
「……それもそうか」
「っていうか土方さんが許可を出さなきゃ行けねぇって」

 藤堂の指摘に原田と永倉が土方を見るが、彼は渋面を作ると低い声で唸った。

「馬鹿野郎。んな許可出すわけねぇだろうが」
「だよなぁ」
「酒盛りしたけりゃ屯所でやりやがれ」

 土方の言葉の意味を正確に読みとった原田は笑みを浮かべ永倉の肩を叩いた。
 騒ぎ始めそうな二人を見て、場をただすように近藤は咳をすると眞里を呼ぶ。

「池田屋で、平助の相手と言葉を交わしたと聞いたが」

 頷くと眞里は名乗った浪士を思い出す。

「はい。長州者ではないと感じましたし、本人も違うと言っておりました。新選組と戦う理由がないと言ってもいました。名は天霧九寿。……得物を使わない様でしたが、勝てるかどうかは五分、でした」
「眞里ちゃんで五分なら平助は引いて正解だったね」
「うるせー!」
「……五分にしてもなぜ逃がした」

 冷えた声に、眞里は新選組の厳しいと呼ばれる法度を思い出す。
 士道に背くべからず。だったろうか。
 背中の傷も切腹、敵前逃亡も切腹なのだろうか、と考えたところで眞里にはこの時代の士道はよく分からない。

 侍はこの時代に既になく、武士という身分はあっても武将はいない。
 暫く考えて眞里はじっと土方を見つめ返す。紫苑の瞳は責めの色はなく、ただの質問であることを見て取るとゆっくりと口を開く。

「敵の情報を持ち帰るのは、自陣の利益。刀を交える場所を選ぶのは双方への敬意。敵でも相手への敬意を。それが私の士道ですので」
「……はっ、なるほどな。で、手前ぇが得た情報はなんだ」
「身体能力も高いようです。沖田殿の相手も天霧殿も腕力脚力も人間離れのようです。戦闘に持ち込むなら一対一は危険です」

 しかし。と眞里は昔を思い出す。徳川陣営の最終兵器、戦国最強と名高い本多忠勝に比べればまだ勝機はある。
 刃を交えるならば、全力で闘ってみたい。そんな懐かしい高揚感を抱く。自然と口角が上がり、顔には不敵な笑みが浮かぶ。

 眞里のその表情を見て土方は喉の奥で笑った。

 しかし、一息つくとすぐさま真剣な表情を浮かべ幹部たちを見渡す。

「隊務は明日から再開する」
「はっ?! 土方さんそれ本気かよ」
「平助、総司、新八。お前らは外す。他隊士も重傷人は療養だ。動ける奴らで隊務を行う」
「俺は動けるぜ?」

 ホッと息を吐いた藤堂とは違い、永倉は不満を隠そうとせずに顔をしかめる。沖田も似たような顔をしている。
 土方が柳眉を吊り上げる。

「お前等は寝てやがれ」
「でもよ」
「副長命令だ」

 翌日から、数人の副長助勤を欠いたまま巡察が再開された。

**

文字数ぎりぎり!!
もうすぐ禁門の変!

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薄桜鬼16

デフォルト名:立花眞里


※残忍表現あり


 闇の帳が下ろされた京の町。静かな宵闇に怒号が響き、剣戟の音が高く鳴る。
 絶え間ない怒号、階段を駆け下り上る音、誰かの断末魔。そこは現実から切り離された、芝居の一部のようで。
 眞里にとっては懐かしい空間であり気分が高ぶるのを抑えなければ飛び込みそうであっても、千鶴は激しい剣戟の音などに竦み上がっていた。

 震える肩を自分で抱きしめる千鶴を後ろ目で見ながらも、眞里は前方への注意を怠らない。千鶴の目の前で、彼女を守る為に人を切りたくない。――斬るところを見せたくない。しかし、それは眞里の我が儘である。
 そんな時、池田屋から聞き慣れた人々の怒鳴り声が聞こえた。

「畜生、手が足りねぇ……! 誰か来いよ、おい! 誰かいねえのか!!」

 永倉の声だった。辺りを見渡すが、人っ子一人見あたらない。正面から突入しなかった隊士達は裏口に回っている為永倉の声が聞こえないようだった。
 耳を澄ませば裏からも物音が聞こえる。激しい打ち合いの様だった。

「眞里さん、どうしよう……!?」

 取り乱す千鶴の肩をそっと抑え千鶴と向き合う。横目で池田屋の様子が窺える。
 眞里が突入すれば彼らは少しは楽になる。けれど、眞里が離れれば千鶴を守る者がいなくなってしまう。

「……千鶴、私が言ったこと。覚えてる?」
「え?」

 千鶴が眞里の言葉を思い返したのと同時に池田屋から近藤と永倉の怒号が聞こえる。

「大丈夫か、総司!?」
「くそっ! 死ぬなよ、平助!!」

 その瞬間、眞里と千鶴は顔を見合わせて頷き合いそのまま池田屋へと飛び込んだ。

 噎せ返るような血の臭い。消された灯りのせいで薄暗く、人の顔形は遠目でははっきりとは分からない。

 剣戟の激しい音に気を取られるが、すぐさま眞里は刀を抜き放ち背後から迫っていた浪士を切り捨てた。千鶴は気づいて振り返ると既に浪士は倒れ伏し、眞里の太刀筋は全く見えなかった。

「眞里さ――」
「眞里、千鶴ちゃん!」

 千鶴の声を遮った永倉の声に千鶴がそちらを振り向くと、眞里が再び誰かの刀をすり抜けて斬り倒す。倒れ伏す音で千鶴がようやく気づいて振り返る。
 傍にやってきた永倉は眞里の動きを見ていたのか場違いなほど高揚した眼差しで笑う。

「実践は始めてみたが、流石だな。それにしてもこんなとこに呼んじまってすまねぇな。奥に平助がいる。行ってやってくれるか?」

 千鶴と眞里。どちらに向けられた言葉かは把握できないが、どちらが行けばいいのか一瞬迷う。
 千鶴が手を握りしめて俯くのを見て眞里が言葉を発しようとした瞬間、千鶴は様々な感情を混ぜた緊迫した顔を上げた。

「近藤さんが、沖田さんを呼ぶのも聞こえました」
「君たちが来たのか……!!」

 気づけば近藤が傍で浪士と切り結んでいた。永倉が手を貸そうとする前に他の浪士が切りかかってくる為、彼はそれを迎える。

「他の隊士はなにをやってるんだ!」

 近藤の焦りの滲んだ声に、眞里は外に居た隊士は裏口で応戦中であることを淡々と告げ、刀とは別に槍を構え直す。
 隙を突こうと伺っていた浪士を何人かを柄で払い飛ばす。それを見ていた永倉が不謹慎であるが口笛を飛ばす。

「お、やるなぁ!」
「すまんが、総司を見てやってくれるか。二階にいるのは、総司と浪士がひとりだけだ。総司に限って負けはせんだろうが、手傷を負うかもしれん。敵も相当の手練れだ」
「私……」

 藤堂も沖田も千鶴にとっては、助けに走りたい相手である。けれど、同時に二人の様子を見に行くのは不可能だ。

「……お昼に迷惑をかけてしまった沖田さんのお役に立てるなら……」
「なら私が藤堂殿の援護に向かおう。千鶴程ではないが私も応急手当てぐらいなら心得ている」

 頷き合い、千鶴は眼差しに力を込めて急な階段を見上げた。
 身の振り方を決めた二人を横目で見ながら近藤と永倉は不敵に微笑み、浪士を斬り倒す。
 新たに切り結ぶ剣戟の音を響かせなから去っていく二人の背中に声を張り上げた。

「任せたぜ! こっから先は誰も通さねぇよ!」
「ああ!」




 中庭へと駆けていくと、先から厚い威圧感を感じ高揚する気持ちを抑えるのに意識を使った。喧噪は遠く、一騎打ちの場であった。

「藤堂殿!」

 そこには、額の鉢金を落とし額から夥しい血を流しながらがたいの良い浪士に刀を向けている藤堂の姿があった。相手には殺意は感じられなかったが、隙はまるでなくただ存在感が大きかった。

「眞里、か何で、きたんだよ!」

 息が上がり途切れ途切れの声は藤堂に限界が近いことを示していた。

「お怪我は?」
「べ、別に大したこと、ないし……! こんなの、ツバでもつけときゃ治るっつの!!」
「……それだけ話せるならば大丈夫そうですね」

 苦笑するも、藤堂の足下はふらつき、刀を握るのもやっとの状態であるのは月明かりでも見て取れた。対して、黙したまま油断のない瞳で眺める浪士。
 見事な赤毛を背で括り、じっと眞里を眺めるその眼差しに眞里は藤堂の前へと一歩踏み出て槍の先を彼の喉元へと一瞬で突きつけた。
 彼は臆することなく、穂先を見つめずに眞里を見つめ返す。眞里も構えもせずにただ槍を突きつけたまま動かない。
 視線が絡まり、沈黙が長い間流れた。しかし、それはほんの数秒であり、先に口を開いたのは浪士であった。

「――私には戦う理由がない。君たちが退くと言うのなら、無闇に命を奪うつもりはありません」
「……オレらには、理由があるんだっての。長州の奴らを、見逃すわけには――」

 言葉を返さない眞里の代わりに藤堂が言い返すが、体も揺れ言葉も揺れていた。藤堂を制するように刀を納めた右手を伸ばすと、眞里はゆっくりと言葉を選びように話した。

「殺意を感じない。慌ててもいない。……長州者ではないということか」
「ほう……。新選組の中にも貴女のように戦いの最中冷静な方もいるようですな。しかも…。強い」

 浪士の目が楽しげに細められる。刃を交えずとも気迫で分かる実力。浪士は素手での戦法をとる者のようだったが、藤堂の額の傷は彼が負わせたものだろう。

「誉め言葉として受け取っておこう。こちらとしてもほかに手を回したいので、引いていただけぬか」
「おいっ!!」
「……いいでしょう。こちらもあなた方と争う理由もありませんからね」

 威圧感を無くした相手に敬意を表してか、眞里も槍を下ろす。その動作をやはり楽しそうに見る浪士。その声は高揚していた。

「私は天霧九寿と申すもの。よければ――」
「私は立花眞里。訳あって新選組に身を置いている剣客のようなもの」
「……フ、立花ですね。では私はこれで失礼させていただきます」

 背を翻す浪士を追いかけようと藤堂が一歩踏み出すが、彼は血溜まりに足を取られて転倒する。既に四肢に力が入らない身体でありながらもがく藤堂の手を取る。

「藤堂殿、今はこちらが不利でした。今の場はまた次回に持ち越しましょう」
「畜生、畜生っ…! 次に、会うときは、覚えとけよ…!」

 藤堂は眞里の言葉が聞こえていないのか、譫言めいた口調で何度も悪態を吐きそのまま意識を失った。
 力をなくした腕を床に下ろし、眞里は手早く応急処置を始める。幸いと言うべきか傷は骨で止まっていたため、最悪の事態は避けられそうだった。止血して、静かに立ち上がると手短な板の戸を外し隣に置く。

 宿内の音は、静まっていた。




 千鶴は階段を駆け上がり、室内に転がり込むと言葉を無くし立ち竦んでいた。
 窓から差し込む月明かりに照らされていた光景は、目を疑う。

 新選組でも一二を争う剣豪である沖田が、身なりのよい浪士に圧されていた。
 猫柳の様な髪の合間から覗く赤い瞳はつまらなさそうで、彼と沖田の打ち合いも彼にとっては遊技にもならないようであった。浪士の剣は、沖田の技術には劣っているが、速さと重さに勝っていた。

「貴様の腕もこの程度か」

 浪士は目を細め微かに笑う。

「さて、そろそろ帰らせて貰おう。要らぬ邪魔立てをするのであれば容赦せんぞ」

 その声調は池田屋の惨状には全く興味がなく穏やかであり、沖田の敵意を事も無げに受け流していた。沖田は浪士の態度に激昂することもなく柔らかく微笑むと、前触れもなく床を蹴った。

「悪いけど、帰せないんだ。僕たちの敵には死んでもらわなくちゃ」

 激しい切り合いが続行される。
 千鶴は畳に転がった茶碗が目にはいると咄嗟に掴み、浪士に向かって投げつけた。何も考えずただ反射的に行ったことだったが、どこか確信めいた考えもあった。

「(隙が出来れば沖田さんが何とかしてくれる筈!!)」

 浪士は飛来する茶碗に気づき刀で叩き割った。その隙を突くように沖田が一撃を仕掛けると浪士は体勢を崩し、不愉快そうな顔になった。
 沖田も体勢を建て直し、千鶴のみ聞こえるような小さな声で囁く。

「いい子だね、千鶴ちゃん。後で、いっぱいほめてあげる」
「こしゃくな……!」

 自尊心を傷つけられたのか浪士は切り結ぶ速さを上げた。それについていく沖田に上段から刀を振り下ろし、受け止めた沖田が体勢を崩した所で凄まじい脚力で沖田を蹴り飛ばした。

「沖田さん!」

 呆気なく飛ばされ、床を転がり血を吐く余裕もなく咳き込む沖田に慌てて駆けより支えた千鶴は浪士を睨みつける。

「おまえも邪魔立てする気か?俺の相手をすると言うのなら受けて立つが」

 愉快さが滲むぎらついた眼差しで千鶴を睥睨し、構えられた切っ先が千鶴に向かうと沖田が庇うように立ちはだかる。口元から胸元までを真っ赤に染め、おかしな呼吸音をさせながらも浪士に刀を突きつける沖田に千鶴は焦りしがみつく。

「駄目です、沖田さん! 骨が折れているかもしれないのに!」
「あんたのは相手は僕だよね? この子には手を出さないでくれるかな」

 浪士は沖田と千鶴を観察していた様だったがせせら笑うと。

「愚かな。その負傷で何を言う。今の貴様なぞ、盾の役にも立つまい」
「――黙れよ、うるさいな!僕は、役立たずなんかじゃないっ……!」

 怒りを露わに大声を上げる沖田に千鶴がしがみつく指に力を込める。

「大きな声を出しちゃ駄目です! 沖田さんは、血を吐いたばかりなのに…!」

 興味もない眼差しで観察していた浪士だったが視線を明後日の方へとやると唐突に刀を納める。
 目を瞬き、疑問の声を上げた千鶴の声は掠れていた。

「どうして……」
「会合が終わると共に、俺の務めも終わっている」

 浪士はつまらなさそうに答えると、身軽な仕草で窓から飛び降りる。逃げると言うよりも、見逃すといわんばかりの動作に沖田は前へと足を踏み出すが、支えきれず転倒する。

「くそっ……! 僕は、僕はまだ戦えるのに……」

 弱々しい叫び声に、千鶴は沖田の傍らに座り込むと彼の顔をじっと見下ろす。動かない体を必死に動かそうとする沖田は平生の彼からは想像もつかない。

「沖田さん…どうして、守ってくれたんですか……? 私がじゃまになれば殺すって、いつも言っているのに…」

 千鶴の言葉に四肢の動きを止めると、不思議そうに目を瞬いた。そのまま眠たげな声でぼそぼそと呟く。

「……そういえば、なんでだろう? 僕にもよくわからないけど、でも、次は、ちゃんと殺さないと――」

 そしてそのまま沖田は意識を失った。
 泣きそうになりながらも千鶴は、池田屋の喧噪が遠のいていることに気づき立ち上がると階下へと駆け下りた。


***

土方さんが入らなかった!!!

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デフォルト名:立花眞里



 土方がもたらした情報にそれぞれが渋面を浮かべる。
 眞里も千鶴も口を挟まないが、あまりの内容に絶句してしまう。

「町に火を放つだあ? 長州の奴ら、頭のねじが緩んでるんじゃねえの?」

 永倉が苦々しげに吐き出した言葉に、眞里は場違いにも南蛮宗教のザビーが操っていた絡繰りザビーを思い出した。メカザビーと呼ばれ、倒すのに苦労した。
 あれは確かに頭にねじが使われていた。

「それ、単に天子様を誘拐するってことだろ? 尊王を掲げてるくせに、全然敬ってねーじゃん」

 脱線してしまった眞里を知らない藤堂の言葉が眞里を現実に引き戻す。
 隣の斉藤は小さく頷き。

「何にしろ、見過ごせるものではない」
「奴らの会合は今夜行われる可能性が高い。てめえらも出動準備を整えておけ」
「……了解しました、副長」
「よっしゃあ、腕が鳴るぜぇ」

 皆それぞれな反応ではあるが、了承の意を示し順に腰を上げていく。土方は思い出したように千鶴を見た。

「綱道さんの件だが。長州の者と桝屋に来たことがあるらしい」
「え?」

 わかったのはそれだけだ、と言い捨てる土方は眞里へと視線をやるが、眞里は首を横に振る。
 そうか、と呟くと土方も広間を後にした。

 後に残された眞里と千鶴は、出来事を整理するように二人とも言葉を噤んでいた。やがて整理を終えた眞里が立ち上がろうとした時、千鶴が不意に声を出す。

「長州と幕府は仲が悪い筈、なのにどうして父様が一緒に……?」

 眞里は、新たに出た答えを言葉にはせずに「夕餉の準備に行こう」とだけ答え、千鶴の肩を押した。




 眞里には夜襲の経験はあるが、討ち入りの経験はなかった。しかし、同じ様なものだろうと判断して手の空いている隊士を捕まえて握り飯の大量生産を行い始めた。戸惑っていた千鶴には、すぐに負傷者を手当できるような準備を頼んである。
 それならば、と安心した千鶴は今頃屯所中の清潔な布を集めていることだろう。治療に関しては千鶴の方が一枚も二枚も上手なので何の心配もしていない。
 戸惑う隊士に握り飯の作り方を教えると、自身は素手で摘める簡単な物を作る。
 ついでに体調を崩している隊士用の粥も作る。

 粗方作り終える頃には、慌ただしい音も遠くなっていた。
 膳に乗せられるだけ乗せるように指示を出し、どこに運ぼうかと思案している時、庖厨に声が響いた。

「眞里君はいるかな」
「局長!? 立花殿、局長がいらっしゃいました!!」
「ん? ああ、握り飯を作ってくれていたのか」

 近藤の所へ、幹部用に寄せた膳を手にして足を運ぶ。
 眞里が持っているものに気づいた近藤は、討ち入り前とは思えないほど穏やかな顔を浮かべて膳を受け取る。

「助かったよ、眞里君。広間に運んで貰えるかな」
「分かりました。私に何かご用ですか?」

 隊士へと目配せすると、一人は広間へと駆けて行き残る者で膳を運び始める。それを見送ると近藤は満面の笑みを浮かべて予想外の事を言った。

「雪村君に、伝令役を頼もうと思うんだが。トシに眞里君も一緒なら許す、と言われてな。元々君にも声をかけるつもりだったんだが。一緒に来てくれないだろうか」

 長州は四国屋と池田屋という場所でよく会合を開いていて、今夜もそのどちらかだろうと予想されている。
 池田屋が頻繁に使われていたことから、おそらく今夜は四国屋で行われると予想されるために本命を四国屋とし、万一の為に池田屋にも向かう隊を作る。
 本命四国屋には土方率いる24名が。池田屋には近藤率いる10名が向かうという。

 体調を崩している隊士が半数いるため、動けるのは僅か三十数名しかいない。山南と辛うじて動ける隊士は屯所の警護に周り、他はすべて出動する。

 池田屋がどのような規模の建物かは知らないが、確かに10名という少数で、万一本命だった場合伝令に割ける人数はいない。

 眞里が行く分には構わないが、問題は千鶴だった。いくら護身術は心得ているといっても、彼女は殺気を知らない。実践で、自衛はできないと見ていい。
 しかし、新選組の役に立ちたいと思っている千鶴は行きたいと願うだろう。それによって自分が危険に晒されたとしても。
 加えて、千鶴の参加には眞里の同行が条件になっているのは土方が千鶴の自衛について理解しているからであろう。
 そして土方は、眞里が土方が二人に願っていることを理解していることを知っている。血生臭い出来事に関わらせたくない、という願いを。
 眞里が断ることを願いつつ、眞里の判断に委ねるということなのだろう。


 千鶴の願いを叶えるためには、眞里が同行して護ればいい。ただそれだけのこと。それが、土方の本心からかけ離れていると知っていても眞里が選ぶのは千鶴の心である。

「喜んでお供させていただきます」
「そうか! いやぁ、眞里君が来てくれれば百人力だな」




 広間に刀と槍を持って現れた眞里を見て土方は苦い顔をした。ため息を吐くと、表情を切り替え。

「助かった、礼を言う」

 何について言われたのか理解できず首を傾げると、土方は咳払いをして眞里から目をそらす。
 横で眺めていた原田は困ったように笑いながら、握り飯を両手に持ち、一つを眞里の手に渡した。

「飯の準備のことだよ。幹部全員忘れててな、マジ助かったんだわ」
「ああ……。討ち入りは経験したことがなかったのですが、夜襲と同じ様なものかと思ったので。私は武器類は知らないので、食事だけお節介させていただきました」
「(や、夜襲……?)あ、いや。マジ助かったわ。ありがとな、お前も飯はまだだろ? 一緒に食おうぜ」
「良ければご一緒させていただきます」

 握り飯を食べ始めた眞里を見下ろしながら、原田も食事を再開する。先ほどまで原田が居た場所では、いつものように永倉と藤堂が騒がしく食事をしており、時折千鶴の仲裁が入る。
 ふと、眞里の槍が目に入り原田はじっと眞里を眺めた。視線に気づいた眞里が原田を見上げる。

「どうかされましたか?」
「いや……。槍、持って行くんだと思ってな」
「大人数を相手取るときは槍の方が楽ですし」

 戦闘に加わる気で満ちている眞里の言葉に原田は苦笑を浮かべる。

「女は男の背中で守られてろ、って言いたいが今回は仕方ねえな」
「……私は武士ですから。守られる側ではなく、弱きを守る側ですよ」

 眞里の中には男も女もない。ただ、武士となったからにはその力をもって弱者を守るべきである。それだけだ。
 淡々と語る眞里に原田は眉を寄せるが、眞里の真剣な色を孕む眼差しに口を噤んだ。
 場の空気を変える為、明るい口調で言おうとしたのとは違う言葉を選ぶ。

「ま、こっちが本命ならお前が槍を振らずに済むな」
「そうですね。……ですが、私はこちらが本命だと思いますよ」
「……そうだな。ま、どっちも本命に近いってことだな」

 次々と片づけられていく膳を見て、眞里は会話を打ち切ると片づけに手伝うべくそちらへと駆けていった。




 会津藩や所司代に連絡は行っている筈だったが、池田屋につき眞里と千鶴が周辺を走り回ってもその姿は見受けられなかった。

 眞里の予感は的中し、長州勢は池田屋で会合を行っていた。

「……こっちが当たりか。まさか長州藩邸のすぐ裏で会合とはなあ」
「僕は最初からこっちだと思っ
てたけど。奴らは今までも、頻繁に池田屋を使ったし」
「だからって古高が捕まった晩に、わざわざ普段と同じ場所で集まるか? 普通は場所を変えるだろう? 常識的に考えて」
「じゃあ、奴らには常識が無かったんだね。実際こうして池田屋で会合してるわけだし?」

 永倉と沖田は世間話のような軽い口調で話を続けていた。
 永倉と沖田はあまり緊張していないやりとりに千鶴が呆気に取られていると、戻ってきた二人に気づいた藤堂が駆け寄った。

「どうだった? 会津藩とか所司代の役人、まだ来てなかった?」
「はい……」
「この辺りには、誰も居なかったようです」

 藤堂は顔を歪めると舌打ちをした。

「日暮れ頃にはとっくに連絡してたってのに、まだ動いてないとか何やってんだよ……」
「落ち着けよ、平助」

 焦りを露わにする藤堂とは対照的に永倉は焦りを感じさせない笑みを浮かべた。

「あんな奴ら役に立たねぇんだから、来ても来なくても一緒だろ?」
「……だけどさ、新八っつぁん。オレらだけで突入とか無謀だと思わねーの?」

 落ち着きのない隊士、落ち着きはらった隊士。対照的な彼らを束ねる近藤の判断で身を隠しつつ援軍を待つことにした。

 池田屋に到着したのが、戌の刻。それから更に、亥の刻へと過ぎた。
 月の位置も傾ぎ、援軍の姿は見えない。

「……さすがに、これはちょっと遅すぎるな」
「近藤さん、どうします? これでみすみす逃しちゃったら無様ですよ?」

 その場の隊士の視線を受けて、局長近藤は静かに伏せていた瞼をあげた。そのまま隊士を見渡し、眞里と目が合うと静かに頷いた。頷き返した眞里を見て不意に立ち上がり、千鶴の肩を叩いた。

「雪村君、眞里君。少し、池田屋から離れていてくれるか」
「え……?」
「ここは危険だ。浪士が下りてくるかもしれん。……もっとも、逃がすつもりは無いがな」
「千鶴、私の後ろに」
「眞里さん?」

 静かに池田屋に向かう近藤の背中をぼうっと見ていると肩を引かれ、視界が眞里の背中で埋まる。
 いつ構えたのか、槍を左手に鋭い顔をしていた。

 再び視線を近藤に向けた時。
 鈍い音をたてて、近藤は池田屋へと乗り込んでいた。

「会津中将お預かり浪士隊、新選組。――詮議のため、宿内を改める!!」

 高らかな宣言に、静かだった池田屋に悲鳴が上がり、次いで走り回る音が続いた。

「わざわざ大声で討ち入りを知らせちゃうとか、すごく近藤さんらしいよね」
「いいんじゃねえの? ……正々堂々名乗りを上げる。それが、討ち入りの定石ってもんだ」
「自分をわざわざ不利な状況に追い込むのが、新八っつぁんの定石?」

 楽しげな三人の声は屯所に居るときのようで。しかし、張り詰めた緊迫感が現実を思い出させる。再び近藤が大声をあげた。

「御用改めである! 手向かいすれば、容赦なく斬り捨てる!」

 激戦の火蓋は切られたのだ。

***

ということでこの二人は近藤組で。

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