それは赤く染まった雪。
ぽたり、ぽたりと白き着物に落ちる赤き雫。
美しい、と一瞬でも思ってしまうのはそれが生命を象徴する朱だからだろう。
「……っ、く……」
傷口が焼けるように痛む。
視界は霧がかかったように霞む。体を動かすことはままらなくて、けれど、前へと足を踏み出さなければならない。
―――このような場所で最期の時か……
けれど、自分の真っ当ではなく、暗い闇の底を歩く生き方では仕方のないことかもしれない。
身に纏わりつくように漂う怨恨、呪詛、血の穢れ。
それらが傷口に纏わりつきいっそう血が止まらない。
自力でそれらを祓えない今、彼女に術は一つしか残されていなかった。
けれどそれは失敗しればもう二度と戻れない。
選択肢はあってないようなものだった。彼女は、儚くなることができないのだ。
「……清水はどこに…」
穢れだけでも祓わなければならない。原始的な方法でいいのだ。それしか今は行えない。
雪を踏む音が聞こえた。
――嗚呼……、これまでか
雪の上に座り込み顔も上げない彼女に諦めが襲いかかった。
「曙未ちゃん!?」
けれど駆けられた声は聞き覚えのあるもので、曙未は体の力が抜けていくのを感じた。
「そんな怪我をして……っ! どうしてこんなところに…っ」
少しだけ首を上げると緑色の着物と苦しそうな顔が目に入った。
「か……わ…ど」
梶原殿。そう呟いた言葉は言葉にならず霧散し、それにつられて曙未の意識も飛んだ。
意識を失う直前暖かい腕に支えられたことと、また自分はこの人に苦しそうな顔をさせてしまったとぼんやりと感じた。
意識を失った曙未を抱き上げるとその冷えた体がけれど燃えるように部分部分が熱いことに歯噛みした。
そしてこの華奢な身体を蝕むように黒い怨念がつきまとっている。
悔しさに力が籠もるがまずは彼女の治療が先だと、源氏の薬師であり参謀の弁慶の元へと足を進めた。
(不思議な言葉でいくつかのお題)
綺麗なお題だとあえて真逆に走りたくなる性格の悪さ。
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