移り往く~
季節ネタ
デフォルト名:朔夜
吐息が白く煙り空へと消えていくのを見守ると、黄金色に輝く草原を見やる。
恒例になりつつある、季節の移り変わりの時の夫婦の散歩で豊葦原へと訪れていた。眼下に広がる一面の葦原に立ち竦む朔夜を見越してか、アシュヴィンと黒麒麟は彼女が動き出すまで待ち続けるのも恒例になっているようだった。
頬を刺すような痛みを覚える風の冷たさに肩を揺らすと、気遣うような気配を感じた。
己の身体を乗せて飛翔している黒麒麟の身体をそっと撫でて、気遣いの礼を伝える。応える様な気配に自然と相好を弛めると、朔夜の意識を引くように腰に回された腕に力が込められた。
「時期に冬だ。お前の好む時節は間もなく過ぎるな」
「毎年連れて来て下さってありがとうございます。……やはりこの時期はこの景色を見ないと落ち着かないみたいだわ」
幼い姫と姉姫と従者達と訪れていた息抜きの場所。忌み嫌われる御髪の色と同じ場所だと、鬼事や隠れあったりとした想い出。
その時の人々は二度と会うことが叶わないと知っていても。ーー知っているから、解っているからこそこの景色を見たくなってしまうのかもしれない。
「秋は、他にも美しい景色も、見るべきものもあるのよ?」
「ああ。紅に染まる山々や、熟した食い物。祭事や、他にもあるな。ここよりも美しい場所は山程あるだろう」
だがな。アシュヴィンはそう続けると、言葉なしに黒麒麟へと指示を出し、黒麒麟は音もなく高度を下げると蘆原へと近付いていく。触れることは叶うが降りることは叶わない高さへと。
「俺はお前が美しいと思うものを共に見たいと思うのだ。お前が、見たいと願うものを共に見たいのだ。そんな俺のいじらしい想いを邪魔立てする訳ではあるまい?」
***
大変、大変遅くなりましたがリクエストを頂いていた、移り往く季節を君との朔夜とアシュヴィンから季節ネタです。
秋の夕日を映す蘆原は本当に金色に輝いていて、一度肉眼で見てみたいものです。
[2回]
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