デフォルト名:藤丸ゆりえ
藤丸ゆりえには父親と八歳年下の妹がいる。父は当たり外れの大きな仕事ばかりを選ぶ浪漫溢れ家族には迷惑窮まりない癖のある人間で、藤丸家は常に上昇と下降の激しい生活をしていた。
夜逃げを含むサバイバルな生活を送りながらゆりえは家事手伝いで母を支えながらその生活を楽しんでいた。妹も家事手伝いが出来るようになると二人でちぐはぐな家族を支えようと奮起しながら。
しかし、母は妹が小学生の時に家を出て行ってしまった。
その時から藤丸家の絆はゆりえと妹のゆかりによって堅く太く結び直された。
収入の安定しない父親の手綱を上手く操り、ゆりえ自身は大学まで卒業を果たしたし、妹もこの春高校に入学した。
少し予定と異なったのはゆりえは念願であった公務員は受けずに一般企業とはいえない会社に事務員として就職したことだが、『やってみたいこと』と『なりたいもの』の乖離した結果であり、本人は現状を満喫しているので支障はない。
「新入生代表、藤丸ゆかり」
真新しい制服に身を包んだゆかりが壇上に上がる。緊張からか少し堅い声で文章を読み上げるその姿にゆりえはそっと胸をなで下ろす。
地域でも有名な進学校に妹のゆかりはトップの成績で入学を果たしたらしい。というのは本日知ったゆりえであるが、流石ゆかりであるという感想を抱いたのと同時に申し訳なさを覚えてしまう。
だが、そんな想いを見せてしまえば妹が気に病むことなど解りきったことであるので、ゆりえは満面の笑みで妹の晴れ姿を誇らしく思うにとどめる。
「ゆかちんかっこよかったよ!」
式も終わり、教室での行事を終えた妹をゆりえは門で待っていた。職場の同僚に借りたカメラで記念撮影をすると姉妹は昼食を兼ねて街へと繰り出した。
若い女性に人気なレストランでのリーズナブルなランチ。渡された破格の割引券は臨時ボーナスだと渡された物の一部だった。
こんな高そうな店でランチなんて! と目を丸くして後退りする妹は割引券を見せると大人しくなったのだが、やはり店内では慣れていないからか少しかそわそわしていた。
「そんなことないよ、お姉ちゃんだって大学の卒業式で表彰されていたじゃない。それよりも、どうしたのその割引券」
「あー、今年一年間特殊業務が増えるからそのお手当だって。あ、だから後で携帯電話買いに行こうね!!」
「えー、もう持ってるよ?」
二台とかいらないし! と笑って手を振るゆかりだが、ゆりえは堅く拳を握り締め首を横に振った。
「駄目! あれは父さんが契約者だから安心できない! 私がお金払うからゆかちん名義で作っておかないと」
「……うーん、いつ契約が切られるか分からないもんね」
「今年は学費払い終えてるけどマンションもバカ高いの契約しちゃうし……また突然姿を消されたときにゆかりと連絡手段がなくなるのは怖いから……。お姉ちゃんを安心させるためだと思って、ね?」
突如連絡の取れなくなった妹が公園で夜を明かしていた時の恐怖といえばない。二度と経験したくないと何度も思いながらもゆりえにも妹を養う稼ぎがあったわけではなかった為に何度も辛酸をなめた。
あまり乗り気ではないゆかりにプレゼン紛いの説得をし、姉妹だけの家族携帯を持つことに成功したゆりえは、夕暮れの別れ際満面の笑みで妹と手を振り合った。危惧していた事が数ヶ月先に実際に起こるとは露とも思わず。
帰ってこなくてもいいと言われておきながら夕方過ぎに顔を出したゆりえを事務所の者は笑みを浮かべて迎え入れた。
簡単な事務処理をしながら今日の出来事(主に妹について)を語っているとひょっこりと顔を出した林檎に早速携帯電話を奪われてしまった。
「ゆりえちゃん! ついに携帯買ったんだって? 番号教えてねん!」
「わわ、林檎さんちょっ、返して下さい!」
ロックも何もかけていない為にあっさりと操作される。どこに行った個人情報保護。
「あら、待ち受け妹さん? やーん、可愛い~! ミニゆりえちゃんだわ~」
「そうなんです! うちの妹はかわいいし優しくて料理上手で頭もいいんです!」
思わず力一杯力説するがその間に龍也の元へと移動していた携帯電話はやはり勝手に操作されていく。
「あ、ちょっと日向さんまで!」
「俺のと社長のと事務所と学校のは登録しといたぞ」
あっさりと手のひらに帰ってきたが妹と妹の学校と父親しか登録されていなかった電話帳はいつの間にか登録が増えていた。よく見ると取り付けた覚えのないストラップまでついている。
「ありがとうございます! っていつの間に……!」
「まあ餞別だ」
「でも今日割引券頂きました」
「あれは林檎からだからな。ああ、そうだ。ある意味流失したらやばいもんだからな。パスワードしっかりかけておけよ?」
「分かりました!」
シャイニング早乙女の電話番号など恐ろしすぎるものを持ってしまったので、ゆりえは自分の携帯電話であるというのに恐る恐る操作していた。
電話帳に気を取られていたが、ストラップのデザインが龍也の持つものに似ていることに気付くのはかなり先のことであった。
***
書いていて途中何度かゆかりとゆりえが入れ替わってしまいました………!
事務所の携帯は持っていましたが、個人のは父親が使用料等を支払う携帯を使用していました。ゆかちんの高校入学祝いにゆかりのと同時に買えばお得に買える!との思いで1年間は我慢してついに自分のお金で新しく契約(切られる心配のない携帯)
事務所ではたまに都合がつかない携帯と言われていたり(料金未払いで「お客様の都合により御利用できません」のアナウンスより)したので念願とも言える携帯ゲットです。
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