デフォルト名:天河 華織
見知らぬ世界で、気まぐれだとしても衣食住を保障してくれただけでなく、好奇心と興味を満たす手を貸してくれたことに感謝の意を。
華織はその日に向けて、慣れない手仕事に勤しんでいた。日頃は、友雅の手が空いた日に琵琶や舞等の手解きを受けていたが、ここ数日は白龍の神子が物忌みだということもあり出所が続いていた。
そんな中華織がいそいそと手仕事に精を出す理由は存在していた。じっとしているのが苦手な筈の華織が毎日朝から晩まで友雅まで秘密にしながら続ける理由を知っているのは、屋敷の女房たちだけである。
「あれ、友雅さん。今日はお休みですか?」
無事完成した翌朝、間に合った喜びと達成感でほくほくとしていた華織は朝餉の席に友雅がいるのを見て、目を丸くした。同時に首を傾げる。
そんな華織に扇で微笑を隠しながら、彼は着席を促した。
「ああ、今日は久しぶりに邸でゆっくりしようと思ってね」
私がいるとなにか都合が悪いかな?
目を細めて浮かべる妖艶な笑みに華織は目をそらす。勝手に赤くなる頬を誤魔化すようにぱたぱたと顔をあおぐ。
「今日は、友雅殿の誕生日と聞いたので」
「たんじょうび? ああ、誕生日かい?」
どこか楽しげな友雅に、はて、と華織は疑問に思う。この時代は生まれた日を祝うという習慣はなかった気がしたのだが、異世界だからこそ存在するのだろうかと。
そんな華織の疑問に気づいたのか、友雅は実はね、と昨夕の出来事を話始める。
「神子殿に生まれた日はいつかと聞かれてね、お教えしたらその日は誕生日というのだと教えて頂いたのだよ」
「成る程。なら私からの説明は不要ですね」
「で、私の生まれた日だと何かあるのかい?」
「私達の時代は生まれた日が来ると年を取ることになるのでおめでとうございますってお祝いするんです」
友雅は華織に渡された刺繍の入った小さな手拭いを手に月を見上げる。
さらりと上質な手触りは華織の為にと仕入れた絹。そこに秀麗な橘の花が咲いていた。花をそっと指で撫でれば、まるでそこに花が押してあるかのような質感がそこにはあった。
「どうして橘なのだい?」
「どうしてって……友雅殿、橘好きですよね」
問われた華織が訝しげに答えると、意外な返答だったのか友雅は珍しく不意をつかれたような顔をして目を瞬いた。
「ああ、そうだね。とても」
「あかねちゃんからは何も貰わなかったのですか?」
「ああ、神子殿は今日を頂いたのだよ」
「今日? ……ああ、だから1日お休みされていたんですね」
「そう。……けれど、聞けば聞くほどに君達の世界は興味深い。退屈など、存在しないのだろうね」
華織は答えを避けて、曖昧な微笑みを浮かべた。
友雅がまさか、華織達の世界に興味を抱き始めたことなど気づきもせずにその日は終わりを迎えた。
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偽物注意報ですね。
友雅さんお誕生日おめでとうございます!
友雅さんがいなかったら私は遙かに興味を抱かなかったと思います。
[1回]
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