デフォルト名:朔夜
雪深く、風は凍てつくように冷たい。冬は深く、空気は澄んでいた。
朔夜は両手に息を吹きかけて体をぎゅっと縮こませて、堅庭から空を見上げた。
薄闇色の空からは、羽毛のような白い雪が降り注がれていた。手のひらに乗せると、儚い六花はじわりと朔夜の手のひらの温もりによって水へと姿を消していった。
する筈のない、雪が降る音が聞こえる。深々と降る雪をじっと見ているだけで、厳かな管弦を聞いているような面持ちになる。
そっと瞼を下ろすと、全ての光景が閉ざされ、感じるのは風や空気の冷たさと、雪の降る音風の吹く音。
そして、一定の速度で響く誰かの足音。
その音は聞きなれたものであり、朔夜にとっては安心をもたらす音。
朔夜の後ろで止まった音に、自然と柔和な笑みが浮かんでいく。
「妹背の君は、俺に探させるのが好きなようだな」
深い慈しみが混じりで安堵が入った声音と共に、ふわりとあたたかな腕が朔夜に回される。
そのまま静かにアシュヴィンの腕に包みこまれ、頭を彼の肩に乗せる形を取られる。
「アシュ」
「見事な雪夜だな。常世で見慣れたものでも、豊葦原で眺めるとまた違う景色に見える」
「ええ。綺麗でしょう?」
「ああ。……見させて差し上げたいものだな」
回された腕の力がぐっと増した。
彼の言葉の中に込められた様々な想いを感じた朔夜は言葉を紡ぐのはやめて、ただ彼の腕に手を乗せて抱え込む。
厚手の布越しに体温を感じることは難しい筈なのに、布越しに彼の体温を感じる気がした。
「二ノ姫に聞いたのだが」
「何を?」
「今宵は大切な者と過ごす日らしい。一体どこの国の風習かは分からんが、よいものだと思ってな」
「アシュヴィン……」
肩に乗せた頭を傾げて夫の顔を見上げようとするが、それより先に彼の手で朔夜は眼を覆われる。いつの間に外したのか、瞼越しに感じるのは彼の素手の皮の堅さと、冷えた体温だった。
「今宵から昼にかけて、共に過ごそうと思った。なのにお前は室にいない。どれだけ方々を探しまわったと思う」
「あら、最初からここに来たのでしょう?」
「……まあ、そうだがな。だが、何故朔夜はここに居たのだ」
「そうね。理由なんて特にはないけれど……。静かな雪を見上げたいと思ったのかしら」
目を覆う手をそっと外すように促すと、しぶしぶといった様子で片手は外された。しかし、朔夜を抱え込む腕はそのままであった。
「雪見には付き合う故、妹背の君には後で俺の我儘を聞いてもらおうか」
「無理難題でなければ、お付き合い致しますよ。背の君」
「フ……。ならば、暫しこのまま雪見でもしようか」
二人見上げた闇空からは白い六花が静かに振り続けていた。
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この二人のシュチュエーションは、アシュが後ろから抱え込むように抱きかかえているのが好きです。
急ごしらえ感満載のクリスマス夢です。書きあげられたら順次上げて行きますが、タイムリミットは当たり前ながら25日なので、これしかできないかもしれません
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