彼はやはり恵まれない星の下に生まれたのだと想う
「くそっ! マジ死ね!!」
扉に向かって呪阻の言葉を吐くと同時にアディシェスは苛立ちをぶつけるように手元の本を扉に投げつけた
だがその時と同時に、ノックの音と共に誰かが室内に入ってきた
勿論その人間に本は勢いよくぶつかった
「おい、アディシェス……っつぁ!」
「……あ、ごめん」
入って来たアッシュは顔面で本を受け止めてしまったようで顔を手で抑えて唸りながら屈み込んでしまった
慌てたアディシェスはアッシュの所へ座り込み思わずその背中を摩った
「ごめんごめん。大丈夫?でも返事を聞かずに入ったアッシュも悪いんだよ?」
気遣うように顔を覗き込むと、ようやくアッシュの顔から手が放された。だが彼の顔を見て思わず笑ってしまい、そのアディシェスを睨みつけるようにアッシュは眼を吊り上げた
「っ~!なに笑ってやがる!!」
「……っ!だ、だって……!!おでこ、おでこ赤いっ……!!」
アディシェスはアッシュの赤くなったおでこを指差して笑い転げた
「っざけんな!てめぇが突然投げつけて来たのがいけねぇんだろうが!!」
言われた途端にアディシェスは笑いが止まり、その顔からは表情が消えた
突然のアディシェスの変化にアッシュは眉間に皺を寄せたまま唸った
「なに機嫌悪くなってんだ」
「あ?別に?」
アッシュに構うのをやめてアディシェスは不機嫌顔のまま執務机に向かった
それについていくようにアッシュも立ち上がって机上を眺める。途端に眉間に皺が寄った
途端に指が眉間に迫ってきて、避けようとする間に眉間に指が押し当てられた
「あっさん。皺が残るよ?」
「余計なお世話だ!それにあっさん言うな!……それよりこの書類の山は何だ」
アディシェスの机の上にあるのは書類の山、山、山、山
「あ?山っつったって、部下達からの嘆願書にー会計報告にー次回演習の計画草案にー」
「ちょっちょっと待て。それはアイツの仕事じゃないのか?」
アッシュが近くにあった書類を持ち上げるがそれらは全てアディシェスの上司であるシンク宛の仕事である。それを指摘されると不機嫌顔が途端に物凄い笑顔になった
思わずアッシュは一歩後退する
「知らないわよ。突然やってきて『アンタ、優秀な副官なんだって?ボクは忙しいからアンタ暇でしょ?やっといてよ』とか言って去って行きやがったの」
声真似が妙に似ている為にアッシュはその状況が易々と想像できた
「あのラップだか、仮面だか、疾風だか知らないけど、己の仕事は己でやれ!!……で、アッシュは何の用なの?」
何とも酷い言われ様だがアッシュは自分の通り名は覚えていてくれているのか心配になったが、やっと用件を聞かれたので答えた
「ああ、昨日話していた本を貸してくれないか?」
「………あーあれね」
アディシェスの部屋には大量に本がある。料理本から始まり兵法書や健康本、音素学の本に百科辞典
なのでよくアッシュはアディシェスに本を借りに来る
少しの間席を立ったアディシェスは三冊の本を持って戻って来た
「これだね」
「ああ、ありがとう。いつまでに返せばいいか?」
「一週間以内」
即答で帰って来た返事に彼女が仕事に取り掛かるのを察知したアッシュは踵を返した
「………あまり無理をするなよ」
小さく声を投げ掛ければ小さく礼の言葉が帰って来た
それに満足して小さく微笑むと扉のノブに手をかけた
だがそれを回す前に向こう側から回され、すぐに扉が開かれた。それも勢いよく。
痛々しい音が部屋に響いた
「アディシェス~ディスト様が来ましたよ~! ……一体そんな所で何をしているのですか、アッシュ」
勢いよく扉を開けて入って来たディストはそばで屈み込んで唸っているアッシュを見て首を傾げた。よもや自分のせいであるとは微塵も思っていないのであろう
「~~テメェのせいだよ!屑がぁっ!!死ね!!」
「うわっ!何をするのですかアッシュ!ギャアアアアァァァァ!!」
「アッシュ!帰りに医務室寄りなさいよ!それとそいつは少し離れた廊下に捨てて置いて頂戴」
***
アッシュとも仲がよいそうです(笑)
ちなみにアディシェスはアッシュの通り名は
「アッシュの通り名?……献血?」
「鮮血だ。…じゃあディストは何だ?」
「ディストォ?死人?」
「死神だ。じゃあリグレットは何だ」
「魔弾」
「…アリエッタ」
「妖獣」
「ラルゴ」
「黒獅子」
「…贔屓野郎め」
「教団の女性の名前は全員言えるわ!」
「威張るな!」
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