それは、最後の意地なのだろうか
「…今、なんて言った……?」
驚きに見開かれた眼から反らさずに彼は真剣な表情を変えない。だから嘘だとは想わない。だが信じられない
「…今っ! なんて言ったの!?教えなさいよ!!」
「言葉の通りさアディシェス。僕は12歳までしか生きられない。ユリアの預言にそう詠まれているんだ」
「預言なんて、ただの地図じゃない!」
激情に揉まれてアディシェスは眼の前の彼の胸倉を掴んだ
自分よりも5つ下の彼は幼いながらに聡い。だが、それ故に脆い
「話はまだ終わってないよアディシェス」
特別な術を使う為に鍛えられた彼の腕で無理矢理手をほどかれると彼は感情が読めない表情を浮かべて続けた
「秘預言には次の導師が生まれる時期が記されているけど僕はそこまで長生きができない」
アディシェスは彼の顔を見ていられなくなりそっと肩を抱き寄せた
彼はされるがままになっている
「そこで僕はアイツの策にのってやることにしたよ」
アイツ。彼が指している人物はすぐに思い浮かんだ
ヴァン・グランツと名乗っている爽やかな青年。だがあの顔は何を企んでいるのか分からない
「アイツの策…?」
彼は無理矢理アディシェスの体から少し離れ見上げた。その瞳に宿している色は分かりたくもない。思い切り眼を反らしたくなる
「僕のレプリカを作るのさ。出来のいいやつが導師をやればいい。これで後継ぎ問題も解決さ」
「別にマルクトじゃないでしょ」
導師は次代導師を教育し、育てる。確かにレプリカが彼の代わりを務めればいいのかもしれない。だが……
「ねえ、泣きたいなら泣きなさいよ」
「………」
瞳からは色がすっと消えた。まるで風に吹かれて蝋燭の火が消えるように
彼は満足したように微笑む
「アディシェスだけだな。…そんな風に何も言わなくても通じるのは……でも」
彼は今度は自分からアディシェスに抱きついた
何かの衝動に駆られたように強く。アディシェスは何も言わずに生命の伊吹の色をした彼の髪をそっと撫でた。やわらかい髪が指に絡み付く
「…でも僕は泣かないよ。僕は決めたんだ。泣くときは最期だと」
「…あっそう。それならせいぜい胡散臭い笑顔でも浮かべときなさいよ」
その言い方に彼は笑った
「アディシェス。約束してくれ」
「…何を?…言っておくけど無理なことはできないわよ」
彼はおかしそうに笑い、首を振った
「簡単なことさ。僕のレプリカを呼び捨てにするな」
「……は?」
「アディシェスに『イオン』と呼ばれるのは僕一人で充分だ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる彼にアディシェスは楽しそうに口角を吊り上げて笑い、頷いた
「分かりました『導師イオン様』」
途端に彼はむっとする
「…僕はイオンでいいって言っただろ」
「はいはいイオン」
「ハイは一回だろ」
「はい」
予告通り彼は12歳で静かにこの世を去った
表向きにはしばらく導師イオンは病気療養といって表舞台から姿を消した
すぐにアディシェスは同僚達と共に導師守護役を解任された
導師イオンが育てたアリエッタはずっと不安がっていたがアディシェスにはどうすることもできない
神託の盾騎士団の第五師団師団長に仮面をつけた人物が配属され、アディシェスも第五師団に配属された
それから間もなく、導師イオンが姿を現すようになった
心なしか穏やかになった彼を見て病気をすると人が代わるという噂が流れた
そんな噂が消えていったある日
「……すみません」
声をかけられたアディシェスは立ち止まった
振り向くと彼が立っていた
「何でしょうかイオン様」
「モースが何処に居るか知りませんか?」
『アディシェス、モースは何処に居るか知ってるか?』
「…いえ、存じ上げませんが」
「そうですか。ありがとう。…えーと、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「構いませんよ。はじめましてイオン様。第五師団所属アディシェス=アスタロト響士であります」
『よろしくお願いします』そういって微笑んだ顔は彼の浮かべた満足した顔に似ていた
そのことに不覚にも涙が出そうになった
***
構想されたアッシュとシンクとディストをからかう為に生まれたヒロインです。でも何をどう間違えたのか被験者イオンと親しいです
そしていつのまにか元・導師守護役になっていました。何故?
被験者イオンは鬼畜だったんですよね?なんか独占欲強そうですよね?
そう思うのは私だけでしょうか?同士求む(笑)
生意気でも一人の前では素が出る。そんな風だったらいいなぁ…(願望)
[2回]
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