ラストバトル後~エピローグ前の間の時期に当たります。
ネタバレOKの方のみどうぞ。
「陛下、いらっしゃいました」
「お通ししろ」
すぐに謁見の間ヘと続く扉が重厚な音を立てて開かれた
入って来たのは旅の時よりも大人びた、教団の服を来た少女
「本日はお呼び頂き有難う御座います」
「いや、呼び立ててしまってすまないな……ラシュディから説明は?」
「……いえ?」
首を傾げた少女にピオニーは傍らのラシュディに目配せする。ラシュディはそっと微笑んだ
「ティア。今日は来て下さってありがとうこざいます。お呼び立てしたのは…」
「まあ一言で言えばワガママな陛下が貴女の歌を聞きたいと駄々をこねたんですよ」
「…あることないことを言うな」
ラシュディの反対側に控えていたジェイドがあの食えない笑みを浮かべていた
その彼等の会話を聞いてティアは慌てて首を振る
「ラシュディ。私は言ったわよね。私は…私はもう歌えません……」
「ですが私も言いましたよ?貴女の譜歌は彼等の希望だと。契約の歌は例え離れていてもローレライに、彼等に届くと思います」
ラシュディの笑顔から眼を反らしたティアは何故か玉座に座るピオニーと目があってしまった
気まずくなり反らしたいが反らせず、困っているとピオニーは朗らかに笑った
「実はラシュディが君の独唱も素晴らしいが、重厚なパイプオルガンを伴奏にしてもとても美しいだろうと言ったものだからな」
「…パイプオルガン、ですか?」
設置費は云百万かかるという?ティアの言いたいことが分かったのかピオニーは頷いて続けた
「何代か前の皇帝が音楽にかなり凝っていたらしくてな、ちょっとしたところにあるんだ」
「武器の収集よりも余程有意義だと思いますけどねぇ」
「…何か言ったかな」
「いえ、別に」
二人のやり取りを無視してラシュディはティアの肩を押して促した
「私も一度弾かせていただきましたがきちんと手入れがされていてとても素晴らしい音がします。歌う歌わないは別にして見てみませんか?」
「え、放っておいていいの?」
困惑するティアにラシュディは頷くと兵に目配せして部屋を出た
「ええ。いつものことですから」
案内された部屋はとても簡素な部屋だった。だが、とても立派なパイプオルガンがそこに鎮座していた
「すごい……」
立ちすくむティアをその場に残してラシュディはオルガンへと近づき、そっと鍵盤の蓋を開けた
するりと指を滑らせて静かに響いたオルガンの音楽はティアも耳に慣れている音楽であった
兄の最期に歌った、悲しみを思い出させる曲
それに伴奏がついている
第七譜歌までをラシュディが弾き終わり、再び繰り返しイントロに戻った
重厚なパイプオルガンの音が体に、心に染み入る
『…どうぞ』
言葉ではないラシュディの声が聞こえた
気付くとティアは息を大きく吸い込み彼女の伴奏に合わせて旋律を紡いでいた
かたくなに歌うことを拒んでいた心が、唇が自然に音を紡ぐ
今まで当たり前にしていた、彼女の体の一部が帰って来た
そのことに歓喜し、ティアは揺れる視界を閉じることで封じ、想いを音に織り交ぜて糸を紡ぐ
最期の一音が部屋にそっと響き、その余韻を味わい終わるとティアはそこに崩れ落ちるように座り込んだ
彼女は静かに涙を流している
ラシュディはそっとオルガンの蓋を閉じるとティアの横に膝をついて座り頭をそっと撫でた
その行動に子どもが母に縋るようにティアはラシュディに縋り付くようにして抱きついた
「歌えましたね」
それに返事を返さずにティアは何度も頷いた
「ルークは、貴女の歌が好きだと言っていました。イオンもです」
「……ええ」
「私も貴女の歌が大好きです。つらいかもしれませんが希望は貴女の歌しかないんです。どうか、歌ってください」
「ええ・・・・・・。でも、きちんと練習したいわ。だって、音が取れていないんだもの・・・」
ラシュディはティアと顔を見合わせて笑った
***
ティアは絶対一時期歌えなくなったと思います
心の奥底から歌いたいと願い、ふとした瞬間から歌えるようになったらいいなぁ…
と勝手に想像。あらわしたいことが表現できていないのは私の力不足です。陛下と大佐は何処へ…(泣)
まあ後日ティアの大譜歌がマルクトの宮殿に響くようになりましたとさ
最後の迎え方にやっぱりティアの譜歌はかなり影響していると想うのですが、どうでしょう(苦笑)
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