何気なく100のお題
071 泣き落とし(遙か・明烏)
彼女は後悔した。
えぐえぐと泣き始めた子供――のような外見の神をどう扱えばいいのかわからなくなった。
「・・・・・・っ」
迷ったあげくにそっと小さな肩を抱きしめた。幼い甥や姪を泣きやませた経験が殆どない曙は戸惑いながら白龍の髪を撫でる。
「・・・お願いですから泣きやんでください」
「・・・・・・願い、聞いてくれる?」
「え、ええ。私にできることでしたら・・・」
「私の神子の願い、叶えて」
何故そこで神子が出るかわからなかったが曙はとりあえず頷いた。
同時期、物影からひっそりと盗み見する白龍の神子と天地の白虎の姿が。
「・・・先輩、白龍使って何してるんですか」
「むぅ。だって、曙さん最近忙しくて構ってくれないんだもん」
「望美ちゃん、彼女にも一応仕事があってね?」
「時間が余ったら景時さんも入れてあげます」
「・・・・・・ホント?」
**
072 拒絶反応(彩雲国・楸瑛)
軍人らしく剣ダコがあるが綺麗な指で彼は髪を掬い軽く口づけた。
そして片方の指で彼女の頬をそっとなぞる。
「つれない人、どうかその瞳に私も映してもらえないだろうか」
彼の経験では相手は頬を染めて何かしらの言葉を紡いでくれる筈だった。
はずだったのだが
問答無用で突き飛ばされ、楸瑛は転ばなくとも後退った。
そして彼女は涙目で腕を摩っている。
「有紀、どうした! 常春頭に何をされた?!」
「嫌だな絳攸。私は何もしてないよ」
けれど(ある方面では)信用のない楸瑛の言葉は聞かず絳攸は怒鳴った。
彼から視線を有紀へと戻すと楸瑛は目をみはった。
顔は赤いがまだ一生懸命腕を摩っていた。そして、ポツリと床へと零した。
「……鳥肌たった……」
楸瑛は有紀の認識を改めた。
**
073 下剋上(コーセルテル・アータ)
マシェルの代わりに留守番を引き受けたセレスティアは子竜立ちに囲まれながら本を読んでいた。
だがまだ卵からかえって間もない彼等はすぐに昼寝の時間へと変えてしまった。
「アータも、眠いなら寝ていいよ?」
セレスティアの膝に乗り本を覗き込みながら船を漕いでいた彼は必死に首を振った。
「子竜は寝て遊ぶのが仕事だよ? マシェルが帰って来たらこんなに本を読んだって驚かすの?」
知の竜である地竜のアータ本を読むのが好きだった。
彼の言い分は何となくわかるのだがセレスティアはアータの頭に手を乗せそっと撫でた。
気持ち良いのか眠たそうに瞼が落ちる。
「驚く前に心配しちゃうよ? だから、もうお休み? ……え?」
抗えなかったのか、アータの目が閉じられる寸前に聞こえた言葉にセレスティアは苦笑を浮かべる他なかった。
「はーい」
下克上はまだまだ遠い。
**
074 えぐられる(軍人主・ジェイド)
大量の書類にもたれかかりたいのを堪えてラシュディはため息をついた。かれこれ本日二桁目のため息である。
「フォルツォーネ大尉。こちらの書類もお願いしますねー」
「……カーティス中佐。私は何故こんなことを?」
敬愛している上司に「明日からはあの坊やに可愛がってもらうんじゃよ」と言われたラシュディは本日ジェイド・カーティスの執務室に居た。
「」何故? と聞かれましても貴女が私の部下になったからですよという答えしか私は持っていません」
いやー流石元帥の秘蔵っ子ですねぇ。という厭みにしか聞こえない言葉にラシュディはため息を吐くと書類整理を再開した。
**
075 絶交(旅主・ユアン)
「貴様はどちらにつく」
友人の声にアトラスは振り向くことはなかった。
否、"振り向けなかった"。
「私は、……臆病だからね。どちらにもつくことはできない」
「……ならば、あちらにもつかん。そう言うことだな?」
確かめるような口調には小さく顎を引くことで肯定の意を示した。
「…どちらにもつくことはないよ」
繰り返された言葉に彼は失望したように荒々しく踵を返した。
**
[1回]
PR