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小ネタ日記

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青空 原作沿い

 大きな図体をして、こそこそしている人間というのは客観的に見るととても怪しい。


 後宮に来て一週間。有紀は、府庫でそんなことを思った。
 しかも、そのこそこそしている人間は禁色である『紫』の衣を無造作に纏っている。

 例によって例のごとく邵可とお茶をしようと仕事をさっさと終わらせて府庫に訪れた有紀は、茶請けに持ってきたドーナッツをもち困ったようにそこに立ち尽くしていた。


 『紫』を纏った青年は、戸棚に手をかけて邵可がいると思われる個室をちらちらと覗いている。
 さらさらと長い髪が、反動で揺れている。


 声をかけるべきか、かけぬべきか。それが問題である。

 有名な一説を勝手に使用すると、よし。とこぶしを握り締めた。


「邵可様に御用がおありですか?」
「―っ」

 有紀の存在に気づいていなかったのか、青年が鋭く振り返った。
 その機敏すぎる動きで振り返った青年の整った顔立ちが、凄絶さを浮かべている。

 薄茶の透き通った瞳が浮かべているのは・・・――。

 互いの視線が交差し、青年が逸らそうとした瞬間に優しげな府庫の主の声が響いた。

「おや、有紀さん。いらっしゃい」
「邵可様・・・」
「邵可・・・」

 青年と声が被った。
 意外そうに有紀と青年を見た邵可は、有紀が持っているものに視線をやり、あの暖かい笑顔を浮かべて「どうぞ」と二人を招きいれた。
 邵可に誘われると青年も断り辛いのか、青年は苦しげな表情を浮かべて邵可の後に続いた。

 いつものように有紀が茶を淹れる。いつもと違うのは人数が一人増えている。ということである。

 いつまでも強張っている青年の表情に苦笑を浮かべる邵可を見て、首を傾げつつも作ってきた茶請けであるドーナッツを備え付け(何故あるのかわからないのだが)の皿に載せた。
 すると、青年の緊張が一瞬だけほぐれたようだった。
 慎重にドーナッツを手に取る青年。

「これは・・・」
「これを作ってくださっているのは彼女ですよ」
「・・・そなたは」

 再び薄茶色の瞳と視線が交わる。
 先程と違うのは、相手には困惑の色が浮かび、有紀にはなんの感情もわいていないこと。
 静かに青年の前に湯のみを置くと、有紀は略礼をした。

「始めまして、有紀と申します」
「・・・そなたが珠翠の言っていた新しい女官か」
「珠翠様をご存知なのですか?」

 青年はぴしりと固まった。一気に湯のみの茶を飲み干し、咽ている。

「だ、大丈夫ですか?」

 慌てて駆け寄り、背中を軽くさする。慌てている有紀と青年を邵可がのんびりと微笑ましそうに見ていた。
 収まり始めた青年の為に新たに茶を注ぐと、彼はなみだ目になりながらゆっくりと茶を飲んだ。

「・・・すまぬ」
「私こそ驚かせてしまったようで、申し訳ありませんでした」
「この菓子はそなたが作っておったのだな」

 指で涙をぬぐうと、青年はドーナッツをもそもそと食べ始めた。
 そういえば、と。有紀は思い出す。
 ここ数日間。邵可に何か作って持ってくると「少し多くもらってもよろしいですか?」と聞かれては「どうぞ、邵可様の為に作ってきたんですから」といって一人分にしては多すぎる量のものをおいていっていた。

「邵可様が一緒にお食べになっていた方なんですね」
「ええ、ありがとうございました」
「喜んで食べていただけるだけで私は嬉しいですから」

 ものすごい勢いでなくなっていくドーナッツに気づいた有紀はとりあえず自分と邵可の分は確保した。

「お気に召しましたか?」
「・・・餡子の多いものも好きだ」
「おはぎですね。では、今度はそれを作って持ってきます」
「よいのか?」
「ええ」

 又も空になっている湯のみに茶を注ぐ。
 先程、交差したときの彼の瞳には「怯え」という抱くことが不思議な感情が浮かんでいた。それが今は消え、おいしそうに有紀が作っているものを食べている。
 それが嬉しくて有紀は知らず知らず笑顔になっていた。後宮に入ってから浮かべてばかりいるつくり笑顔ではない、やわらかい笑み。

「そういえば」
「・・・うむ?」
「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

 ぴたり。と、青年の動きがまたも止まった。じっと、その顔を見ていると視線が宙を彷徨っている。
 それは、黎深が邵可に追求されたくないことを追及されたときに見せるものや、絳攸が同じく追及を逃れたいときに見せる表情に似ている。

 もう既に、彼の纏っている服装から名前など検討がついているのだが必死になってごまかそうとしている様子がなんだか微笑ましい。
 たとえ彼がどういう考えでごまかそうとしているか、とかはどうでもいいのだ。

「・・・り、劉輝という」
「『劉輝様』ですね」
「う、うむ」

 偽名を言われるかと思ったが、彼は名乗った。姓は言っていないが。
 有紀はクスリ、と笑うとそっと彼の顔に指を伸ばす。
 劉輝がビクリと反応して、眼を閉じた。それにあえて気づかない振りをして有紀は劉輝の頬についていたドーナッツのカスを指でぬぐった。


「ついていましたよ」
「・・・すまない」
「いいえ」


 それが出会いだった。


**


 中途半端ながら、とりあえず終わり。

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コメント

きょうゆなが深に

きょうゆなが深にしずくは彷徨された!
では深にしずくは珠を苦笑するはずだった。
では深でしずくは動きみたいな追求したかった。
では深で礼を追求したいです。
【2007/02/04 15:18】 NAME[BlogPetのゆな] WEBLINK[URL] EDIT[〼]

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