機材の説明を受けながら、麻衣と共に機材を運び終える。
ひとまず一息つこうかと手短な椅子に腰掛けた華織に続き麻衣も椅子に手をかけるが渋谷一也に待ったをかけられる。
「谷山さんは部屋ごとの温度を測ってきてくれ。デジタル温度計を使って全部屋だ」
「え~」
不満の声を上げる麻衣に一也は「何か文句でも?」と言わんばかりの視線を投げかける。
まだ知り合って数時間だというのに仲がいいことだと思わずくすりと笑ってしまう。
麻衣にデジタル温度計の使い方を教えているのを聞きながら、華織は自分だけ座っているのも嫌なために立ち上がると機材の簡単な配線をわかる範囲でつないでいく。
「天河さんは、使いなれているんですか?」
「幼なじみの父親が新しい物好きでね。コンピューターも少し触らせてもらえるの」
いつの間にか麻衣は部屋を出ていったらしく、迷いなく配線を終えていく華織の手元を興味深げにのぞき込む一也が居るのみだった。
「……そうですか。ではこっちはお願いします」
離れていく黒い背中を静かに呼び止めると彼は無表情のまま振り返った。
「なんですか」
「敬語。なしでいいですよ。使い慣れていなさそうですし」
「……わかった」
黙っていれば、人形のように整っている外見で目の保養になるのだが、ひとたび口を開けば嫌味の嵐で、とてもではないか保養どころではない。
けれど今のところ嫌みを言われているのは麻衣だけで、華織は聞いているだけだ。
それにしても心霊現象を科学的に解明するというのは、おもしろそうだ。
怪しい分野とかではなくて、れっきとした学問にしようとしている人たちでもいるのだろうか。
機械の山を眺めながらぼんやり見ていた華織は後ろからかけられた声に反応か遅れた。
「え?」
「……天河さんは、霊能者なのか?」
その言葉に思わず目を瞬いた。
「…実家は神社なんですけどね」
「その言い方だと自分は巫女ではないと?」
「うーん…巫女としての修行は昨年の暮れから始めたばかりなので」
巫女の修行はしているが、巫女になるためではない。むしろ自分は神子であって、巫女ではない。
「こうやって、それほど深刻には思えない事件にだけ行かされてる感じかな。やっかいになったらきちんと祖父を呼ぶけど」
自分の力を制御するために巫女という形を取っているだけであり、自分は巫女と名乗る資格はないと思っている。
重くなった空気を払拭するように部屋の扉が勢いいよく開き、麻衣が顔を覗かせた。
「測定終わったよ~。どうかした?」
「ん? お疲れさま、麻衣ちゃん」
「どうだった」
きょとんと目を瞬いた麻衣は一也のその言葉にデジタル温度計と測量結果の記入されたボードを手渡した。
「便利だね~デジタル温度計」
渡されたデータを眺めると、誰に言うわけでもなく一也は口に出して要点を整理し始めた。
「…異常はないな。特に低い場所はない。強いて言えば一階の奥の部屋が低いが…問題になるほどの温度じゃない」
「じゃ霊はいないってコト?」
霊が現れる場所は著しく室温が低下するらしい。
他の部屋と比べて少し低い程度は問題でないというのならば、問題のある低さというのはどれほどの低さなのだろうか、と疑問を抱く。
「まだわからない。霊はシャイだから。心霊現象は部外者が来ると一時的に治まるのが普通なんだ。とにかくこれじゃターゲットの決めようがないな」
測定結果を一瞥すると麻衣に言う。
「とりあえず、一階と二階の廊下に四台。玄関に一台暗視カメラを置いてみよう」
一也の視線を辿ると、どでかい大きさのカメラ。計五台をこの三人だけで運ぶというのだ。麻衣はげっそりと肩を落とし、華織は幼なじみを連れてくればよかったなぁと後悔していた。
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幼なじみ=有川将臣
使えるものは誰でも使う渋谷一也(ナル)におとなしく使われるお人好し主人公
いろいろ頭の中で考えているときは何故か将臣の迷宮ルート後の主人公が思い浮かびます。
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それで低下しなかったよ。