見事侯弟ラングレンを下し、リンディスの祖父であるキアラン侯爵の元にたどり着いた“リンディス傭兵団”
侯爵唯一の孫娘を領民は暖かく迎え入れ、彼女を守ってきた仲間たちをも歓待した。
客人だから。リンディスの命の恩人だから。そんな理由で城に一室用意されたレフィルは数日かけて旅の疲れを癒すと、幼なじみ兼心の相棒の部屋を訪れた。
レフィルに用意された部屋に比べると若干華やかさが落ちる扉の前に立ち、彼女は深く息を吸い込んだ。
そっと手をあげてノックをしようとするがなぜか躊躇われて音もなくおろす。
だが少し逡巡した後やはり手をあげて……やはり下ろす。
そんなことを何回か続けたとき、扉が音もなく開かれた。
びくりと肩をふるわせて作られた隙間から覗くキリエの呆れた顔を見てレフィルは苦笑を浮かべるしかなかった。
自分が部屋の前でしていたことは室内の彼女に筒抜けだったと悟ったのだ。
「すまないな」
「いいよ、気にしなくても」
「……少し話したいんだが……大丈夫だろうか」
キリエは曖昧に笑うと室内を振り返った。
「私が退出するから、レフィル殿に」
「ごめんなさいね、ケント」
「いや」
なぜケントがここに居るのだろうか。立ち去る紅い背中を見て不思議に思うレフィルの心を読んだのかキリエが面白い物を見たかのように笑った。
「とりあえず入らない?」
「あ、ああ…。失礼する」
室内に足を踏み入れるとやはりレフィルが使っている部屋とは華やかさが違った。どちらかというとレフィルの好みはキリエの部屋だったが、城の者に押し切られたために仕方なく妥協している。
「なぜ、ケント殿が」
促されて腰掛けたレフィルにキリエが淡い微笑を浮かべて茶を淹れる。問いかけの言葉の後ろを正確に読みとったキリエはそっと茶器をレフィルの前に置いた。
「このまま城に残ってリンの臣下にならないかって勧誘されていたの」
ふうわりと柔らかな香りがした。
同時にレフィルはぴくり動きを止めた。やはり、という言葉が重く心にのし掛かった。
「……それで…」
「受けないよ」
当たり前でしょ。と笑むキリエに思わず安堵の息をのんだ。
「私は特定の主を決めるつもりは微塵もない。……それは、レフィルが一番理解していると思ったんだけど」
怒っている、というよりも拗ねたようなキリエの様子にレフィルは思わず笑った。
キリエは特定の主を持たない。それはレフィルとて同じ事。
理解していなかったわけではないが、キリエが……傭兵として雇われたキリエが楽しそうに笑い話し合う姿を見て“もしかして”と言う思いが鎌首をもたげたのだ。
「すまなかった」
キリエを疑って。隠された言葉は果たして伝わったのか。
それは彼女の顔を見れば明らかで、レフィルはお茶の淹れられた茶器を静かに持ち上げた。
「で、レフィルはいつ発つの?」
前置きも何もなしにずばりと本題を切り出したキリエにやはりとレフィルはこぼした。
「……リンディスが落ち着くまでと思っていたのだが彼女もだいぶこの状況に慣れてきたようだ。できれば、明日にも」
「じゃあ、私と一緒だね」
涼やかに笑ったキリエにつられてレフィルも静かに破顔した。
「レフィルと二人だけで旅に出るなんて初めてだね」
「そうだな。……“旅立ち以来だ”」
懐かしさと寂しさ。そしてひとつまみの郷愁を胸に二人は目を合わせ、そして笑った。
(様々な曲で21のお題)
もともと私が書くのは世間一般“夢”でもなく“名前変換”とも少し違う物みたいです。FE烈火の世界設定で、心に傷を負った二人がどう生きていき、どこに行き着き、どんな結論を生むのかを書きたいです。
地の文が続かなくなってきたので描写力と想像力がピンチを迎えている気がものすごいします。
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でも、きょうゆなが郷愁とか前置きしたの?