煌めく、鉄光は美しいとは言えないが、その閃光は美しかった。
「ケント様…伏せてっ」
「キリエ殿っ?!」
馬上で聞こえた突然の言葉に言われたままに伏せると、頭上を何かがすごい勢いで通り過ぎていった。己に切りかかろうとしていた者がうめき声とともに倒れるのを視界の端に捉えながら、先ほど飛翔したもの……おそらく敵方の剣、が目に付き知らない振りをした。
「粗方片が付いた感じだな」
「そうね。みんなには戻ってもらう?」
「ああ。深追いはしないように」
キアラン領を目指す旅にて、候弟の妨害を受けながらもリンディス一行は先を目指す。
足場の悪い場所での襲撃に辟易しながらも応戦し、指示を出しながら勝利を勝ち取ったレフィルは安堵のため息を隠さずに苦笑した。
ふとあたりを見渡すと、親友と、今の君主の側近とも言える青年の姿がなかった。
「リン、キリエとケント殿を知らないか?」
訪ねた彼女は肩を少し震わせると、暗い顔で首を横に振った。
先ほどの乱戦ではぐれてしまったらしい。
「大丈夫だ。キリエの運の強さは私が身を持って知っているから」
「ええ…」
騎士と、歩兵ということでかうまい具合に森に誘い込まれてしまったキリエとケントは取り囲んでいた敵を2人で破り疲労が籠もったため息をついた。
気づけばリンディスとレフィルの居る本陣から離れてしまっていたのだ。はぐれてしまったとはいえ、何となくではあるがレフィルのもとへ帰りつく自信のあるキリエはとりあえず一心地つくために、戦場となった場所から少し離れて座り込んだ。
「すっかり迷ってしまいましたね」
「そうですね……まあ、しばらくしたら戻りましょう」
「キリエ殿は、道を覚えておいでで…?」
馬を傍らに座らせ、そっと頭をなでていたケントが驚いたように振り返った。
けれど、乱戦中に道何ぞおぼえている訳もなくキリエは苦笑とともに首を横に振り否定を示した。
「ならばどうやって…」
「私はレフィルの元に帰れる自信があるので」
「根拠は…伺っても?」
「ただの勘ですよ」
槍を手にそっと立ち上がると同時に懐紙を取り出して穂先を拭う。
己の背中にかかる重石を思いそっと目を伏せた。
「それにしてもとっさの機転で剣が飛んでくるとは思いませんでした」
「ああ、つい……。すみません、ケント様。お怪我はありませんか?」
「きちんと回避できたので大丈夫ですよ。……キリエ殿」
「何か?」
「その……様付けは取っていただくわけにはいかないでしょうか?」
突然そんなことを言われるとは思っていなかったキリエはきょとんとケントを見た。けれど彼はからかう気配はみじんもなく、前から機会をうかがっていたということに今気づいた。
「…お嫌ですか?」
「いえ……いえ、そうですね。あなたはレフィル殿に雇われた傭兵です。ならば私たちもリンディス様に仕えるもの。立場的に同じではないでしょうか?」
「同じではないですよ。私は雇われの身。けれどケント様は」
「ですが、私はあなたも私たちと同じ、リンディス様やレフィル殿をお守りする人間です。それならば、雇う雇われは関係ない。違いますか?」
「…屁理屈よ、ケント。……これでいい?」
さっさと会話を切り上げるにはこの選択肢が一番手っとり早いことに気づき、別段呼び方にこだわりなどなかったキリエは譲歩することにした。
戻ると煩くわめく人間がいそうで面倒だなぁと思わないでもない。
けれど、口調が砕けた瞬間に彼が浮かべた笑みにまあ、たまにはいいか。とのんびり自己完結した。
「それなら、ケントも私に敬語は使わないでね」
「……わかった」
「じゃあ、戻りますかー」
槍を軽く振ると背中越しに腰に収めてキリエはさくさくと歩みを進める。
「こっちで本当にいいのか?」
「大丈夫。…たぶん」
「不安だな……」
まあ、信じてみてよ。そう笑うとキリエはなんとなくの方向に進む。
ケントの不安とは裏腹に森を抜ければ、食事の準備をしているセインとウィル、泣きそうな顔をしたフロリーナ、 あきれた顔をしたリンと、いつもと同じ笑みを浮かべているレフィルが2人を待っていた。
「……キリエ殿…の勘のよさには正直脱帽です」
「そうだな。あれは言葉に表すのは難しいものがある」
(様々な曲で21のお題)
勇者としては幼い、ということで。
キリエは野生的本能の持ち主です。
とりあえず、ケントです。彼、好きなんですよ。
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