たとえ目的が違えども、同じことならば同じはず。
全国津々浦々点心修行、という名目で王位争いが集結した直後彩雲国を旅している有紀は、旅の目的であった点心よりも、自身にとっては馴染みの深い音楽に興味をひかれていった。
国が大きく八つに分かれていて、それぞれに特産があり、風習があり、それぞれの暮らしにひっそりと音楽が馴染んでいた。
その発見は驚きと喜びと、幾ばくかの郷愁をを有紀にもたらした。
生活に密着した音楽、その土地柄を表す芸術的な音楽。
それらはどんどんと際限なく有紀を魅了していった。
けれど、同時に恐怖も与えた。
新しい曲を覚える度に身に染み着いていたはずの故郷の数々の曲を忘れゆく気がしたのだ。
思い起こせば、彩雲国にたどり着き、帰郷を諦め、彩雲国に根付くと決めたときから10年近い歳月が過ぎていた。
時たま思い出したように弾いていた曲以外にも、18年間で覚え、感動し、好きになった曲はたくさんある。
けれど、この世界では有紀以外に知るものはいないのだ。
何十人の演奏者が奏でるオーケストラも、一台で多彩な音を奏でるピアノも、愛用していた楽器も。
彩雲国には存在しない。
有紀の中にある曲を奏でられるのは、有紀のみ。けれど有紀には、二度と耳にすることはできないのだ。
そんな有紀に、雪解けをもたらしたのは保護者ではなくて、幼なじみの彼だった。
彼は、突然貴陽を飛び出した有紀を詰るのではなく、あの苦笑に近い笑みを浮かべて言った。
『“やりたいこと”見つかったんだろ?』
やりたいことが見つからず、焦って投げ出したことのある有紀の、少しかさついた心にそれは優しく沁みいった。
そうだ。やりたいことが見つかったんだ。
「そうだね。……私は、私の中にある曲を残しておきたい」
その日から、五線譜を作る日課が始まった。
この国独特の楽譜はつきあっていくうちに読めるようになった。
けれど、曲を書く、ということをする場合においては有紀は五線譜ではないと書きたくなかった。
だから、まずはじめの一歩は五線譜から。
後々。旅の途中で出逢った龍蓮のすすめで有紀も自作の曲を作ってみるようになり、それらは五線譜にのみ書き残されていった。
(不思議な言葉でいくつかのお題2)
リハビリリハビリ。
[1回]
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