Wヒロイン
軍師:レフィル・サンディア
傭兵槍使い:キリエ・ウェスティン
あなたが黒というのなら白も黒になる。
そういう訳ではないけど、私はあなたの敵にはなりたくないの。
「キリエ?」
荒れ果てた街で槍を振り、人知れず稽古に励んでいたキリエ・ウェスティンは懐かしさのする声に素早く振り返った。尻尾のように頭の後ろで結ばれた灰色の髪が宙を舞った。
「レフィル…?」
振り返った先には、濃い緑のローブを相変わらず目深にかぶり、その先から覗く瞳を隠しながらもじっと前を見据える女。幼なじみのレフィル・サンディアが居た。
いったい何年ぶりの再会だろうか。いや、何ヶ月かもしれない。とりあえず久しく会っていなかった彼女がそこにいた。
「久しぶり、レフィル」
「ああ、久方ぶりだ。……キリエ」
「うん、いいよ」
何事かを言われる前に承諾の言葉を言ったキリエは素早く槍を回すと背中越しに己の腰に収めた。
頼む前に承諾されたレフィルは、一瞬呆気にとられるがすぐに苦笑いに近いものを浮かべそっとフードを取り払った。
赤い、紅く丸い瞳が優しく微笑んだ。
「キリエはいつもそうだ。私が何かを頼む前にすぐに肯いてしまう」
「だってこんな場所であった私にレフィルが頼むことは一つでしょ?」
「…やはり君は計略を立てるのにも向いていると思うのだが」
だがキリエは冗談とばかりに首を横に振ると、傍らに置いてあった荷袋を手に取った。
「無理だよ。私のはただの勘だもの。どんな感じ?」
「騎士2人に剣士が1人だ」
キリエの聞きたいものを即座に答えたレフィルはふと今更のようにキリエの全身をゆっくりと見た。
「…キリエは今、誰かに仕えているのか」
「残念ながら、ね。今は自己修行の旅」
相変わらず流浪の民を気取っていると肩をすくめたキリエにレフィルは安堵のため息をついた。
キリエはレフィルと再会すると、たとえ敵対していたとしてもあっさり裏切ってレフィルの側についてしまう。あっさりと裏切れない場合は話し合いの末の協定を設けさせたりと、それこそあっさりと敵対したことがない。
「……君はいつも即答で頷いてくれるが、いいのか?」
確かに。これまで彼女に遭遇するのは何かしら兵力が足りないときで、キリエはレフィルに頼まれると事情も聞かずに承諾をしてきた。
その回数は両手では足らない。裏切ってレフィルについたことは片手の範囲内ではあるが。
「そんなの決まっているよ。他ならぬレフィルだから、に決まってるでしょ」
「……すごい殺し文句だな」
「そう?それよりレフィル呼ばれてない?」
遠くから聞こえる少女の声にレフィルはようやく気づいたように肯いた。
「あ、ああ…。それにしても毎回毎回出逢う場所がこんなんとは私たちも不思議な巡り合わせだな」
困ったように笑うと彼女は元のようにフードを被った。
「また厄介事?」
「お家騒動みたいなもんさ。恩がある……それに、大切な友達なんだ」
「そう…」
嬉しそうに、けれど寂しそうにキリエは笑った。そんな笑顔はあまり見たくなくてレフィルは無言で彼女の手を取ると、問答無用と言わんばかりに手を引いて走りはじめた。
「私についてくれるというのなら遠慮なくつかわせてもらうからな」
「うーん、人使いが荒いなぁ」
「今更だ」
「確かに」
できれば私も君と敵対したくない。たった1人の、自分の半身のような幼なじみ。けれど頑固な自分は譲歩はなくて、いつも君ばかり。
いつか私も君に譲歩する時がくるのだろうか。
こうしてキリエはレフィルとともにキアランの騒動に巻き込まれていった。
(様々な曲で21のお題)
何が書きたいってダブルヒロインを愛しすぎたからこの子たちを書きたいんです。
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