『もしも君と』
季節は夏の盛りが通り過ぎ、木々や草花が一年で最後に彩り鮮やかになる時。
この時節になると、『食欲の秋だから』と言って、様々な食事やお菓子を振る舞う有紀だったが、この年は体調を崩し鳳珠や絳攸や秀麗に言い含められ邸で大人しくしていた。
けれどいくら医者に見せろと言われても、「季節の変わり目だから」と言って効かない有紀に絳攸や邸の者達は手を焼いていた。
「で、今日も言いくるめられた訳だ」
「喧しい! 俺が譲歩したんだ! ……だが、そろそろあの方々が乗り出してきそうだからな。いい加減に首を縦に振らせてやる」
数冊の書物を脇に抱え、絳攸は拳を固く握りしめ高らかに宣言していた。
その姿から劉輝はとばっちりを受けないようにといそいそと書簡の山を片付け始める。
近頃の絳攸は怒りっぽいというのが劉輝の思うところであり、恐らく(かなりの確率で)有紀の行動が原因だった。
劉輝も有紀が心配であるが、秀麗や楸瑛や静蘭から夫婦間の問題だから口を挟むなと厳重注意を受けていた為に絳攸にいつも以上に厳しくされても、楸瑛が必要以上に怒鳴られていても『夫婦の問題』なのだからと口をつぐんでいたが。
(余も有紀の心配をしたっていい筈だ。……ついでにちょこっと絳攸の事を考えてくれると嬉しい)
楸瑛と絳攸のやり取りを聞きながら書簡の陰で文をしたためた劉輝は、所用で部屋を通りがかった秀麗に文を託した。
文を手に秀麗はちゃっかりと休みを貰い、平日に有紀を訪ねた。
勿論手放しで迎え入れた有紀と家人達だが、有紀は何かを楽しむかのように相好を崩していた。
そんな有紀の様子に何かを察したのか秀麗は仕方がない、と言わんばかりに溜め息を吐きながら劉輝からの文を手渡した。
「劉輝様が?」
「私からは何も言わないわ。でも有紀姉様なら分かってくれるわよね?」
「そうね……。劉輝様にも心配させてしまっているようだし」
降参します。そう両手をあげると秀麗は深く頷き、廊下で控えていた家人に医者の手配を頼んだ。
秀麗が来た時点でこうなることは予想済みだった家人達は控えていた医者を有紀たちの部屋へと呼び寄せたのだった。
その日、李絳攸は眉をつり上げながら帰路に着いた。
今日こそは自分の言い分が正しいのだと己が妻に理解してもらうために丸め込むための持論も幾らか準備を整えてあり、負ける気など更々なかった。
気合いも万全に帰宅した絳攸を待っていたのは、有紀の満面の笑みと。
「絳攸、男の子と女の子のどちらだと思う?」
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大変遅くなりました。
青空の下での『もしも君と』より妊娠発覚でした。
恐らく義親三人には既に情報が渡っていて、でも自分から伝える相手は絳攸が最初がいい、という希望を叶えて貰っているから誰も屋敷には来ていないのかと。
[10回]
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