固く結んでいた蕾もはちきれんばかりに膨らみ、いつの間にか存在を誇張するように薄桃色の花びらを広げていた。
「お団子が食べたいな~……」
「団子?」
聞き返された単語に有紀は思わず手を口に合てた。
だが、なかったことにするには少し注目が集まりすぎていた。
その場には、いつもの三人と邵可夫妻が居た。夫妻は楽しげに有紀を見つめていたし、特に鳳珠と黎深が意味ありげな視線で有紀を見ていた。
「団子が食べたいのか?」
黎深が嬉しそうに笑いながら扇をパチリと閉じた。だが、有紀はその場の注目を集めながらも必死に手を振る。
「い、いえそうじゃなくて……!」
「そうじゃな、天気の良い日じゃ。旨い団子を食いながら花を眺めるのもよい。のぅ、背の君」
「そうだねぇ」
食い意地が張っているとか、迷惑をかけたくないとかの必死の否定もむなしく。というよりも薔君と邵可の賛成により団子の用意が決定されたようなものだった。
だが、何故か黎深と鳳珠はまだ有紀を見ていた。
しかも鳳珠はどことなく嬉しそうだ。
「有紀、どんなものが食べたい」
「何でも言え」
唐突な申し出に有紀は目を丸くした。そもそも黎深は邵可を目の前にしたら彼以外の人に構うなんてことはないのだ。
それがいったい何故。
鳳珠はいつだって有紀には優しいのだが。
しかも、今は何故か黎深の方が張り切っている。
「えと……三色団子とか…?」
「何色だ?」
「白と緑と薄桃色です……」
「どんなのだ」
だんだん尋問されているような気分になってきた有紀は泣きそうになりながら悠舜に助けを求めた。直ちに察知してくれた彼は不自由な足でありながら有紀の隣にやってきて、優しく肩をたたいた。
「黎深、有紀さんが驚いています。もう少し優しく訊いてあげて下さい」
「………」
途端に黙ると黎深は不機嫌そうに扇を広げ顔を隠した。
たが、有紀には決まりが悪そうにしているように見える。
「三色団子は三色のお団子を串に刺してあるんです。白いお団子とよもぎのお団子と……」
そこで問題が一つ浮上した。薄ピンク色は何で染めてあるのか有紀は知らない。
「なんだ、二色でもいいのか」
言うやいなや黎深は閉じた扇を無造作に振った。
黎深の動作を有紀は不思議そうに見守ったが、ただ二人。邵可と薔君だけがあきれたように黎深を見ていたことに誰も気づかなかった。
団子の話がそこで終わったことにほっとした有紀は、秀麗を連れた静蘭が来たことに安堵した。秀麗が来ると黎深の興味は彼女に集中する。人身御供にしている気になってしまうが、だが自分が近づくと秀麗が有紀にへばりつくために黎深のご機嫌がよろしくなくなってしまうので、最近では少し会話が弾むようになってきた(気がする)静蘭とともに秀麗を構う黎深たちを見ることが日課である。
この場にいる人たちは有紀がぽつりぽつりと話す内容から、彼女が別の、彼らが知らない場所で生まれたことを察している。
だが、敢えて質問するような彼らではないために有紀は気がゆるむとつい¨故郷¨の話をしてしまうのか癖になりつつあった。
「有紀は団子が好きなのか?」
「……お団子が好きな女の子は多いと思うよ?」
「だが、何故桜を見て団子に発想がいくのか私には理解できないな」
何故と首を傾げて銀の髪を散らしても、有紀には答えがない。
**
強制終了。改良の余地あり
また不調の波におそわれております。最近はなかったのになぁ…。
黎深が妙に張り切っている理由は、団子で有紀ちゃんを喜ばせれば邵可に褒められる!!と思っているからです。結局、ありがとうございますと笑顔で礼を言った有紀ちゃんに邵可が礼を言ったり、薔君が黎深をつっついたりして彼のたくらみは消えます。鳳珠が張り切るのはただ、日頃自分から欲しいものしたいことを言わない有紀ちゃんの願いぐらい叶えてやりたい!!という親ばかからです。
そろそろ鳳珠さまと有紀ちゃんの関係をはっきりさせてあげないと…父なのか、兄なのか
[2回]
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