夜は眠るのが怖いときがある。
あの暗闇の中に永遠に閉じこめられてしまったら。おそらく自分は、怖くて、寂しくて……悲しくて、哀しくて死んでしまう。
だから彼が、自分と同じと私の彼が怖くて眠れないと言っても別に不思議にも思わなかっし、哀れみの気持ちも起きなかった。
眠れないのだと言ったときの体制のまま彼はじっと答えを待っていた。心優しく、臆病な彼は帰れと言えばすごすごと自分の部屋へと戻るのだろう。自分の部屋と行っても、自分の部屋からすぐそばの位置にあるのだけれど。
主上付きの女官の部屋故、彼の部屋の近くにある。だからといって信用していなければ彼はやってこないだろう。
不安を隠さずに頼ってきてくれたことがとてもうれしかった。
「廊下は冷えます。劉輝様のお室に移りましょうか」
「……いいのか?」
ぱあっと顔を輝かせる彼は、贔屓目なしに可愛らしかった。
年不相応ながら、だが違和感のないかわいらしさ。自分は彼が好きだった。
損得勘定なしに慕ってくれる、彼の純粋さに救われていた。
「有紀の知っている曲は余の知らないものばかりだから聞くのは楽しい」
いそいそと自らお茶の準備までして、彼は取り出した二胡を差し出した。
普通ならば、それらをするのは女官の自分の仕事なのに、自分はそれらを甘んじて受ける。
だが、彼が準備をしている間に自分は彼が聞きながら寝れるように寝台を整え、自分が座る位置を確保する。
「何が聞きたいですか?」
「何でもいい。有紀が余の為に弾いてくれるものなら」
「……秀麗ちゃんには及びませんが、主上の為に奏でます」
月の隠れる夜は怖い。
星が見えないし、唯一の明かりもない。
でも、毛布を被って一人で居るよりも、怖がるもの同士寄り添え合えば怖くないかもしれない。
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おそらく彩雲国の話は音楽ネタが多くなります。確実に。
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