おまえは、おれのようにならないでくれよ
力なく落ちた腕に、私は全身に力が入りどうしようもなく途方に暮れてしまった。
大切な人だった。それはもちろん私だけの大切な人というわけではない。母にとっても、あの方にかわる大切な人だった。
おそらく母の方が私よりも、絶望の色は強い。
何故。何故、この家ばかりが失わなければいけないのか。
『お前にはこの蒼色が似合うな』
暖かな笑顔とともに渡してくれたものは、とてもまぶしくて今でも大切に身につけている。
「あにうえぇっ!」
弟のようにすがりついて泣くこともできず、ただただ兄の手を握りしめて泣くしかできない。
母は、静かに涙をこぼしながら暖かさが失われていく兄の手を頬に当てていた。
亡骸すら戻らなかった父を思えば、まだましなのかもしれない。
――だけど……
「…兄上も、父上も何故……」
「……姉上……?」
弟が泣きはらした眸で見上げてくる。その顔は、兄や父が揶揄ったように、私に瓜二つだった。
違うところと言えば。
「……ライナス、兄上がみまかられた今、私ではなくお前が一族を背負って立たなくてはいけません」
「姉上?!」
「……母上、わかっていただけますよね」
静かに涙を流し続ける母は、ゆっくりと顎を引いた。
父が亡くなり、兄へと移るまで一族を率いたのは母だった。
弟は、大きな目を目一杯開くと、私の服の裾をつかんだ。
「なぜですか?! 僕の前には姉上がいらっしゃるのに!! それに……今このときにそんなお話をされないで!!」
「……私は、お前には劣ります。率いるのに何よりもふさわしいのはライナス、貴方です。…兄上も、お前が然るべき年齢になったときに伝えると言っていました」
フォルツォーネを纏め上げるのは、銀髪碧眼に優しい心根の持ち主。
兄も私も決して当てはまらない一生揺るがない決まり事。
「ライナス、お前は私や兄上にはない大切なものを持っています」
私は大切な役目から逃げ出しそうになった。だから大切な弟に辛い道を選んで欲しくはない。
大変な役目を押しつけてしまうけれど、貴方は変わらないままでいて欲しい。
私は、父と兄に託された願いを必ずかなえてみせる。最期まで叶えられなかったら貴方に託そう。
**
突然ですが、ラシュディさんは三人兄弟に落ち着きました。(ようやくな)
前はもっと居たんですが、名前を考えきれないのと、いろいろほかにもあり人数が減り、兄、ラシュディ、弟。と落ち着きました。
まあ、本編の年には弟と母しかいないのですが。
一族というわりには数が少ない不思議な家系です。
あちこちに絡めたいネタがたくさんあるのですが、スキエッタメンテをもっと進めないと書きにくいのです。…がなかなか進まない。
父と兄のエピソードは連載のネタを練っているときからあります。が、結構変更あり。特に亡くなる年とか性格とか。
書きたい衝動が抑えられなくなったらこっちでいきます!!個人的に父と陛下の話が書きたいです!(オリキャラ大好き)
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