それは楸瑛にとっては全く耳に馴染まないものだった。
だが、穏やかな旋律はそっと心に沁み入り、静かに目を閉じる気分にさせる。真っ白な空間に閉じこめられ、けれど波風を立てることのない静かな空間。
聞き入っていた楸瑛は静かに拍子を叩いた。
「とても美しい曲ですね」
「ありがとうございます」
「まるで貴女の心のようだ。繊細で、けれど芯があり凛としている」
それは若干お世辞が入ってはいたが、ほぼ楸瑛が思った通りの賛辞だった。
「題名をお聞きしても?」
「『主よ、人の望みの喜びを』だったと思います。のだったか、よだったか覚えがないんですけどね」
「『主よ』ですか…?」
首を傾げる楸瑛に有紀は苦笑した。神という概念があまりなさそうな彩雲国では、『主』といって思いつくのは『主上』ぐらいではないか。
「主上ではないですよ」
「では、あなたの言う主とは…?」
「…人々が祈りを捧げて、救いを求める存在。…のことかもしれません」
彩雲国では神に変わる存在はなんなのだろうか。
「とても美しい音のかけ合いで私はとても好きです」
「かけ合い……」
「演奏者が一人よりも二人の方が私は好きです」
それを聞いて楸瑛が若干青ざめたのを見て彼が何を想像したのかすぐにわかった。
「龍蓮は聞いてくれるだけですよ?」
「そうではないかとは思ったけどね、まあ…」
今の有紀に特に願いはない。ただ、心優しい彼らが穏やかにあれとただそれだけである。
だが……。
「楸瑛様は、願うとしたら」
何を願いますか。
その問いかけに彼は曖昧に笑っただけであった。
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特に意味はない散文です。それはいつものことですが…
楸瑛のキャラがいまいちつかめない…
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