庭の片隅に笹を準備され、華美でなく質素でもなくただ見る者の目を奪う華やかさがそこにはあった。
毎年のように、気づけば頼む前に誰かが準備を始めてくれた一夜の行事。温かな家人達に囲まれて、有紀は星空に託す想いを短冊に綴った。
「うう、思いつかぬ……」
彩雲国今上帝の紫劉輝は机案の前で頭を抱えていた。山積みにされた本や書簡に頭を悩ませているかのように見えるその姿に、側近である藍楸瑛は片眉を上げる。
「主上、今はその様に大袈裟に考えられる案件はなかったと記憶していますが?」
「違う……。そっちは後で……」
楸瑛を見上げるために小さく上げられた頭に対して視線は横に逸れていた。跡を辿らなくともその先に誰が居るかは分かりきっていた。
怜悧な眼差しは手元の書簡に注がれている為に成りを潜め、ただただデキル官吏の姿がそこにはあった。李絳攸である。
徐に顔が上げられると彼は眉間に皺を寄せて自分を見つめる視線をにらみ返した。
「何でもありません」
「書き上がりましたか」
何をだ。楸瑛は思わず心のなかで突っ込みを入れた。
楸瑛の知る限りでは絳攸から劉輝に対して課題だとかの類いは今日は出されていない筈であり、近日が期日にされているものもない筈である。
「楸瑛なら何を書く?」
「……何に対してどういったことを書くとしたら、なのかをお伺いしても?」
「願い事を書くとしたら何を書く?」
唐突すぎて答えに窮してしまった楸瑛は助けを求めるように絳攸を見た。
「今日は願い事を短冊に託して笹に吊るす日だ。主上から預かってこいと言われてる」
有紀から言付かったのだろう。絳攸がこのような物言いをするときは幼馴染みの女官黄有紀柄みであることは間違いないということを楸瑛は最近覚えた。
「願い事を? 笹に?」
「楸瑛はまだ書いていないのか? 短冊ならまだ余っているから分けてやろう」
劉輝は仲間を得たと言わんばかりの笑みを浮かべて楸瑛に何枚かの短冊を手渡した。
事情が飲み込めないままに手渡された短冊に言われるがままに無難な言葉を綴った楸瑛は最後まで短冊の意味が分からないままであった。
有紀は絳攸から渡された短冊の枚数に目元を和らげた。
「藍将軍も書いてくださったの?」
「いや、主上が押し付けていた」
答が予想通りだったのか、有紀は笑いが堪えきれずにくすくすと声をたてて笑っていた。その姿に心の片隅で安堵を覚えながら絳攸は家人の先導で庭の片隅に置かれた笹へと向かう。
星空の下、五色の短冊が揺れる。
***
スランプの中でちまっと書くとこんな感じになりました。
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