デフォルト:立花眞里
※連載終章後の設定で原田×眞里、沖田×千鶴描写があります。
※連載のネタバレになります。ご注意を。
ふと、衣が舞う合間の空を見上げた。
白妙の衣が映える青空で、雲一つない。
幼い頃は空など見上げず、刃を握り前ばかり見据えていた。御館様の御為に。打倒佐助を掲げ、幸村と切磋琢磨した日々。
ちらつく太陽の眩しさに目を細め、乾いた風に髪が靡く。
こうして空を眺めるようになったのは、江戸に来てからである。それまでは空を見上げることはしなかった。
気づけば、二百年先の世に居て。違和感ばかりの時代。
けれど、眞里は武士として時代の移り変わりを駆け抜けた。ただ、それだけで満たされた。
刃をふるうことが存在意義になっていた。何故、刀を振るうのかを忘れそうになっていた。そんな時に千鶴と出会い、年を挟んで新選組と出逢った。
何故、刀を振るうのか。
何かを守るために振るうのだということ。
それは、民の命であり、平穏であり、誇りでもある。
「……御館様、眞里は今。刀を置いております」
武士であることを捨てられない眞里が、愛おしいのだと言ってくれる人がいた。
刀をおいても眞里であり、それは変わらないと。
「御館様はいつも私を案じてくださっていましたね……。ご安心ください」
眞里が生まれた場所の先の世ではないが、空は同じだと思ったら眺めずにはいられなかった。がむしゃらにかけぬけた大地の上にあった空と、江戸の上に浮かぶ空は同じだと。
「おーい、眞里?」
「はい」
呼ばれた名に振り返れば、室内から彼が顔を出す。下駄のままであるから縁側の傍まで寄れば彼も縁側まで出て目線を合わせるように屈む。
「どうかされましたか、左之助殿」
「ああ、そろそろ総司達が来るんだが俺は何を手伝えばいいのかと思ってな」
どこか擽ったそうな笑みを浮かべる左之助に眞里は少し考える。
幕末の動乱を生き抜いた眞里と左之助は、祝言を上げ夫婦となった。東北の街中に道場を構え、眞里は刀を置き奥方として振る舞っていた。だがたまに(たまにというが三日に一度)木刀を手に、左之助の門下生を叩きのめすときもある。
そんな二人の元に文が届いたのは数日前で、差出人は千鶴であった。
「支度は整えてありますから、あとは迎えるだけです。お気遣いありがとうございます、左之助殿」
「……やっぱいいよな」
「左之助殿?」
幸せそうな笑みに手招きされ首を傾げながら身を乗り出すと、力強い腕にすくいあげられあぐらをかいた彼の腕の中にいた。
「左之助殿?」
「……俺は、お前にそう呼ばれるのが好きだな」
「そうですか?」
好きも何も、そう呼ばなければ返事をしてもらえなくなった為に必然的にそうなったのだが。
抱え込まれた体制のまま目線を上げて左之助を見上げる。
夕焼けのように見事な赤毛は、どこか懐かしさがこみ上げる。
眞里の目が優しげに細められるのを見て、左之助は彼女が武田を思い出していることを知る。
京で新選組として活動しているときから、時折寂しげに瞳を揺らしてどこかを見つめる眞里を見てきた。不自由な身であることに浮かべた色だと、そのときは思っていた。
しかし、眞里の過去を知り。もっとたくさん知りたくなって、彼女を少しずつ知っていくうちに哀惜や郷愁であることを知った。
奇跡が起こらない限りもう見(まみ)えることのない人々、踏むことない大地、交わることのない視線、交わすことのない刃。
それらを贈ることは出来ないけれど、新しい幸せの形を彼女と築くことが出来ればと願った。
願って、願って。そして諦めて。でも諦めきれずに願って。
そうして手に入れたこの幸せ。この、眼差し。呼ぶ声も左之助のもの。
「……来年は、伊予の桜を見に行かないか」
「はい」
優しさと幸せを浮かべた瞳に映るのが自分だということに幸福を感じる。
***
左之さんとのんびりほのぼのしてるのを書きたいなぁと最近思っていて。
本編はプロットを組み立てても中々左之さんが動かなくて……。というより左之さんが動かないと眞里は土方さんと一緒に蝦夷まで行って果てるか、斉藤さんと一緒に会津に残って果てるかしてしまうので。ようはキャラクターがそれぞれ動かないと薄桜鬼のノーマルルートを辿ってしまいます。
ほのぼの甘はかなり先まで行かないとかけないことに気づいたので、そんなときの小ネタ日記。とりあえず沖ちづです。
ただ千鶴ちゃんは斉藤さんルートでも良い気がします。
[4回]
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