虹の向こうに
デフォルト名:春日綾音
014:痛み
「望美ちゃんはそんなことしないよ」
幼なじみの男の子は姉のことが大好きだ。
小さな頃からわたしは、一人の姉が大好きでやることなすこと何でも「おねえちゃんと一緒がいい」が口癖だった。
似た顔をして、似た髪の色。いつも笑顔で喧嘩も強い姉が大好きだった。
だから幼なじみでもあるお隣の兄弟の弟の方が姉のことを好きだということを知ったときも誇らしかった。
誰にでも好かれる姉。みんなにかわいがられる姉。みんなに大切にされる姉。
誇らしくて大好きで、同じことをしていれば私も同じになれると本気で信じていた。
「綾音は、いつもお姉ちゃん、お姉ちゃん、だな。綾音もたまには望美と違うことしてみたらどうだ?」
そんな時、お隣の兄弟の兄の方、姉と同じ年のおみ君にそんなことを言われた。
たまには違うこと。違うことって何だろう。
違うことが分からなくて、分からないことが悔しくて、だからいつも「おねえちゃんと一緒がいい」と言っていたことで違うことをしてみた。
髪型を変えてみたり、一人でお散歩に行ってみたり。
今まで見てこなかったものが見えてきて、なんだか楽しかった。
だから今までの自分にさよならをするつもりで中学にあがると同時に髪の毛を切ってみた。お母さんにも勿体無いと言われたけど、でも新しい自分が見えた気がした。
「望美ちゃんならそんなことしないのに」
そんなとき、ゆず君に言われた一言がショックだった。
私は、春日綾音であって、春日望美じゃないのに。
何で、違うことをしたらそんな風に言われなくちゃいけないのか分からなかった。
俺には幼なじみの姉妹がいる。姉は俺と、妹は俺の弟と同じ年だ。
俺達兄弟は全く見た目に共通点はないが、姉妹はやたらそっくりだった。
小さい頃は馬鹿の一つ覚えのようにずっと一緒に育った。弟と譲は、姉妹の姉の方、春日望美に長いこと片想いしている。
そのこと事態は弟、譲の問題なので俺には関係ないが、どうやらオトシゴロというのか、譲は綾音への接し方が分からなくなったらしい。
なんでも望美とお揃いにしていた綾音が、自分探しを始めたのも要因かもしれないが。
その影響かは分からないが、中学に上がった途端に、綾音は徐々に俺たちに寄りつかなくなった。
望美の方は年が上がっても変わらず昔のようにべたべたと引っ付いてくるが、綾音は必要以外寄り付かない。
時節の挨拶に行くか、用事を言いつけられるかしない限り、うちの敷居をまたぐことはなかった。
思春期なんてそんなもんか、と思っていながら俺と望美は近くの高校に入学した。
その近辺の中学生はだいたいがそこに通うのだから、綾音も譲も受けるのだろうと思っていた。
だが、あいつらの母親に相談された時にようやく知った。
綾音が県外の高校を受けようとしていることを。
長い通学時間も寮暮らしも厭わないという綾音の意見は尊重したいが、やはり心配だからせめて近場にしてくれるように説得してくれ、と言われるまで当たり前のように疑ってなかった。
「なあ、綾音。俺らのこと嫌いか?」
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描写する100のお題(追憶の苑)
[7回]
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