デフォルト名:明智直実(あけち なおみ)
現代トリップ主
私は明智直実。現在19歳の大学二年生である。早生まれのため、12月現在まだ未成年である。
ちなみに大学の専攻は法律である。よく何学部と聞かれ、法学部だと応えるとなにやら尊敬のような変人を見るような何とも形容しがたい眼差しで「へぇ、すごいね」と言われるが、私自身は何もすごくない。
法律という分野でいろいろな論争を行うことの出来る頭の良い人々がたくさんいて、たくさんの学派や本があるから学問が成り立つわけであり、私が法学部というものに入ったのもたいそうな理由があるわけではない。
中には法律の専門家、いわゆる弁護士や裁判官、検察官になるのだといって信じられない量の勉強をしている立派な学生もいる。しかしてそれらは一部の学生のみであるという私の認識は間違っていない筈である。
ではその他大勢は何なのかと問われれば、『夢がない学生』というのが端的に表しているといえる。中には夢がありそのために選んだ学生もいるかもしれない。彼らに対しては失礼な発言だと重々承知しているため深く謝罪しよう。
私はどちらかといえば中間である。長く社会人として働く意欲があるので、そういった方面に就職が有利な大学と学部を選んだらこの大学の法学部だったのみのこと。
ところで法学部というからには学ぶべきは法律であり、多くの人は好みが分かれるだろうといえる。
あるものは憲法が得意であり、刑法が得意であり、また苦手でもある。
ちなみに私は刑法と憲法が苦手である。何故か。
固く、融通が利かず、また訴訟判決を読んでも納得できずやはり堅いからである。
しかしてこれらがなければ日本国民の人権も平穏も勝ち取れない。
しかし、苦手な私でもきちんと覚えている条文もある。
「刑法第199条、人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。更に、日本国憲法第31条、何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。よって私は司法官の発する礼状を持たないあなた方に生殺与奪権を握られる覚えはありません」
人を殺してはいけません。なんて、モラルの薄まってきた現代でも怪しくなってきているが、当たり前のことである。さらに銃刀法というのがあり、たとえ鋏であろうと何だろうと刃渡り何センチ以上は持ち歩いたらだめなはず。っていうか彼らが腰に下げているのは日本刀。列記として刃物だ。
銃刀法とは申請すれば、家にある分にはいいが振り回すのはもってのほかだ。なんなら私が通報してもいい。
と、とりあえず謂われのない身体拘束とちらつく殺害宣言に学校で習った知識を分かりやすくかつ簡潔に説明してみた。
ちなみに私と昨夜知り合った袴の少女は手を縛られ、畳に正座でやたら美形な男の集団に睨まれている。
「だいたい甘いんですよ。証拠残したくないなら目撃者はその場で口封じが定石。翌朝には物言わぬ目撃者が近所のマダムに発見されて数時間後には警察登場で現場封鎖。駆けつけたマスコミが、通り魔やら不審死やらで騒ぎ立てる。それで終わりの筈。私もかくや親元離れて一人寂しい下宿暮らし。マスコミのいい的。で、何でわざわざ連れてきたんですか?」
まあ、私も問答無用であの世に生きたくなどない。大学に通うため借りた奨学金は返済しなければ見ず知らずの後輩達の迷惑になるし、まだ親孝行もできていない。
旅行したかった場所は全然行けていないし、買ったばかりの本もまだ読んでいない。何より、今目の前にある六法はラインも何も引かれていないのだ。
なけなしのお金で買った六法。前まで貰い物を使っていたため古かったためか、民法が読みづらくて仕方なかった。口語体というのだろうか、そういった書き方がされる前の六法だったのだ。
ようやくなけなしのバイト代で読みやすい民法収録の六法を買ったのだ。珍しく自習でもしようと思い、大学に行こうとおんぼろアパートの階段を降りていたら一段踏み外し、意識を失い気づいたら隣にいる彼女に声をかけられやたら時代劇を思い浮かべる町並みを走っていた。
「で、あなたがたはいったい誰ですか?」
「……手前ぇが言ってることはさっぱり理解できんが、ここは新選組の屯所だ」
「――Pardon?」
今、なんて言った?
「ここは壬生、新選組の屯所だっつったんだ」
「新選組って……幕末から明治初期に活躍した組織で、歴代大河ドラマの題材になったり、いろんな作家が題材にしたっていう? ――何の冗談? 新手の詐欺?」
しかし彼らの顔は冗談でもなんでもなく、怖いほど真剣であった。
とりあえず、現状把握である。
「幕末の出来事……。黒船来航?」
「十年ぐれぇ前だな」
「ってことは1863年前後……? 桜田門外の変」
「それは三年前だ」
「……ってことは文久……」
「文久3年だ」
なんてことだ。記憶が正しければ私は2009年の12月に階段を踏み外した筈なので、146年ほど時を駆けてしまったことになる。そのような題名のアニメやら映画やら流行っていたような……。
「さっきから何が言いてぇ」
「まあ、信じてもらえないと思いますが、私146年ほど未来の日本から来てしまったようです。ちなみに年号は平成21年。この時代の天皇陛下から、4代後の方です。はい、こちらでよかったら参照して下さい」
取り上げられて目の前に置かれていた六法をパラパラとめくって一番後ろのページを開いて、平成21年10月発刊を指差す。ちなみに平成21年発刊だが、題名は平成22年度版である。
労働法の分野も新しい法律が出たのも買い換えた決め手である。以前のは契約法が載っていなかった。
とりあえず、何故か目の前のみなさんは六法の字の細かさとか印刷技術とかに驚いていたりする。
平穏で平凡な人生設計をしていた筈の、わたくし明智直実。
ちまたで人気のタイムトリップ中です。
無事帰れますように、天国の祖父にお祈りしておきます。
***
なんていうノリ。薄桜鬼が全く生かされていない導入編。
[2回]
PR