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小ネタ日記

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薄桜鬼2

デフォルト名:立花眞里



 闇が支配する京を男達に腕を掴まれて歩く。
 眞里は、霞む視界にふらつく足を叱咤して歩みを進める。失血にここまでふらつく自分の衰え具合に眞里は舌打ちを堪える。

「おい、大丈夫か」
「……」

 あまり大丈夫ではない。そう告げようとして、眞里はそのまま意識が遠退いた。背後から聞こえる千鶴の悲鳴に心の中で謝罪を述べながら、見知らぬ男の腕の中で意識を失えてしまう自分に驚く。

 意識を手放す瞬間に、腕を掴む男の狼狽えた声を聞きながら。


 意識が浮上した時、咄嗟に身を守るために刀の柄に手を伸ばす。と同時に手を取られた。

「ってめぇ、今頃起きたのか」

 低く這うような声にと刺すような複数の視線に、閉じていた目を開く。

 見知らぬ場所だった。
 男数人に囲まれている状態に、時が遡ったように感じた。しかし、視界の向こうに千鶴が縄に戒められているのを見つけた瞬間それが間違いであると思い知らされる。

「……ここは…」
「新選組の屯所だ」
「しんせんぐみ……?」
「一君、この人まだ寝ぼけてるのかな」
「さあな」

 戦闘狂の毛がありそうだった、沖田と名乗った男が楽しげに目を細めて眞里を見た。

「あんた、自分が置かれた状況は把握しているか」
「……私達は、そちらに取って都合の悪い者。処遇を決するために連行された。ひとまずは、夜明けを待つ」
「その通りだ」

 土方と呼ばれた男が眞里を冷たい眼(まなこ)で見下ろした。先程、感情に揺れていた瞳は今はただ静かに凪いでいた。

 ふむ、と己の置かれた立ち位置を考える。
 千鶴は拘束されているようだが、眞里はまだ何もされていないし、何も取り上げられてはいない。ただ、板の間に座らされている。
 背には、槍。腰には刀がまだ挿されている。おおかた取り上げようとしたところで眞里の意識が戻ったのだろう。

 逡巡の後、眞里は素早く槍と刀を傍らに置いた。

 眞里の真意が読めずに、土方、沖田、斉藤はじっと眞里を見つめた。そこから眞里の意図が読めるのだと言わんばかりに。しかし、顔色一つ変えずにじっと座る眞里に土方が深く息を吐いた。

「どういうつもりだ」
「どういうつもりも何もない。あなた方は私から獲物を取り上げたいのだろう? この二振りをぞんざいに扱いそうな輩には預ける気も起きないが、あなた方はそうではないと判断した。だから大人しく預けるまで」
「へぇ、盗られる、とは思わないわけ?」

 眞里は深く息を吐き、目を光らせて楽しげな沖田をじっと見返した。

「主君から下賜されし私の半身。もぎ取られたら、黄泉でお詫びするのみだ」

 鋭い眼光と声音に緊張が走る。眞里は全く気にせずに両手を差し出した。

「拘束しないのか。私は丸腰でも逃げる自信があるが」
「……手負いの腕を縛る訳にゃいかんだろ」
「あんたは、一人では逃げない。…違うだろうか」

 斉藤の問いかけに静かに首を横に振る。ぶっきらぼうな言い分の中に見える彼らの心に、懐かしさを覚える。
 とりあえず一晩明かしてもらう。と放り込まれた部屋には布団が二組あり、全身を戒められた千鶴の不安を宥めながら夜が明けるのを待った。




 陽が上り、明かりが室内に差し込まれる。
 千鶴は戒められた状態でも深く寝入っているようだったが、眞里は眠ることなく壁に凭れて夜を明かした。流石に小寒かったので掛け布団は被っていたが。まだ体は若干だるい。

 遠くから懐かしさを覚える掛け声が聞こえ、大勢が活動を始める音がした。遠くはないはずの記憶を思い起こし、眞里は寂しさに目を伏せた。
 この一年。江戸の千鶴の家で過ごした日々はこのように賑やかな喧噪とは無縁だった為に懐かしく、哀しい。

 そろそろ誰か呼びに来るだろう。そう眞里が意識を現に戻した時、千鶴が目を覚ましたのか布団の動く音がした。

「朝…?」

 目を覚ましたらしい千鶴は身動きのとれない布団の中で深いため息をついていた。

「おはよう、千鶴」
「おはようございます、眞里さん。……全部悪い夢なら良かったのに……」

 その呟きに苦笑うしかない。
 不安を口にし、ため息をつく千鶴の表情を思い浮かべ、眞里は笑みを浮かべると人の気配を感じた廊下に意識をやる。同時に静かに襖が開いた。

「目が覚めたかい?」

 人の良さそうな笑みを浮かべた男性が顔を覗かせていた。彼は井上と名乗り、壁に寄りかかる眞里と布団の中で簀巻きにされている千鶴を見て辛そうに顔をゆがめた。

「すまんなあ、こんな扱いで……。今、縄を緩めるから少し待ってくれ」

 千鶴は手の縄以外の戒めを解かれ、彼に起こされていた。礼と共に頭を下げる千鶴に彼は少し笑った。

「ちょっと来てくれるかい。今朝から幹部連中であんたらについて話し合ってるんだが……。何を見たのか確かめておきたいってことになってね」
「分かりました」

 千鶴は頷くとよろけながらも立ち上がる。その瞳は陰っていて、自分の置かれた立場を正しく理解しているようだった。

「心配しなくても大丈夫さ。なりは怖いが、気のいい奴らだよ」
「はあ……」

 井上の笑顔と言葉にひとまずうなづいた千鶴だが、あまり納得しているようには思えなかった。反対に眞里は井上の言葉に心の中で同意して、ゆっくりと立ち上がった。
 昨夜は血を久し振りに流したが、一晩大人しくしたら少しは回復したらしい。けれど、何か食べてきちんと睡眠を取らない限り完全回復は不可能だろう。

「ああ、君は腕を怪我しているそうだったね。歩くのに手は必要かい?」
「いえ、お気遣いありがとうございます」

 断りを入れて首を振った眞里に井上は優しく笑うと、欲しくなったらすぐに言うんだよ。と窘めると、眞里と千鶴を先導して歩き始めた。




 井上に連れて行かれた部屋では、昨夜見た男達以外の男が揃っていた。この集団の上層部なのだろう。
 突き刺すような視線が一斉に向けられ千鶴は身を固くするが、眞里は微動だにしなかった。
 進められる場所に腰を下ろした千鶴に沖田が早速声をかけに行くのを横目で見つつ、体の均衡に気を使いながら眞里もそっと腰を下ろした。

「昨日はよく眠れた?」
「……寝心地はあまり良くなかったです」

 知らない顔ばかりの中で、名前を知っている相手との会話で千鶴の緊張は若干解れたらしい。
 千鶴の返答に沖田はにやにやと千鶴の顔を眺める。見知らぬ場所で体の自由を奪われながらも熟睡していたのを知っているのは眞里だけの筈だが、それを揶揄るように沖田は楽しげに言葉を紡ぐ。

「さっき僕が声をかけたときは全然起きてくれなかったよね」
「っ!」

 千鶴が勢いよく眞里を振り返る。愕然とした顔が見慣れぬもので眞里は目を瞬く。眞里が訂正しようと口を開く前に、呆れた様子の斉藤がため息混じりに沖田が部屋に来ていないことを告げる。

「ひどいなぁ、一君。もうちょっと楽しませてよ」
「……ひどいのは斉藤さんじゃなくて、沖田さんだと思いますけど……?」

 千鶴が恨めしそうに言うと、上座の隅に腰掛けていた土方がこめかみに指をやりつつ唸った。
 沖田は肩をすくめて口を噤むが、その顔は笑顔のままだった。

「でさ、土方さん。そいつらが目撃者?」

 彼らの中で一番年若い者が千鶴と眞里を一瞥し、土方に問いかけた。

「ちっちゃいし細っこいなぁ……。まだガキじゃん、こいつ」

 その言葉は明らかに千鶴へと向けられていた。
 この部屋に連れてこられる途中、井上から上層部……幹部の説明を受けていた二人は彼を藤堂平助だと推測した。最年少幹部、藤堂平助。

「おまえがガキとか言うなよ、平助」
「だな。世間様から見りゃ、おまえもこいつも似たようなもんだろうよ」

 壁により掛かり様子を見ていた二人組がくつくつと笑いながらの言いように藤堂は鬱陶しそうに払う動作をした。
 先の発言者が原田左之助に、次の発言者が永倉新八だろう。
 軽い口調でやりとりを交わしつつも、その好奇を含んだ視線は眞里と千鶴から外れることはない。
 その裏にある敵意を正確に読みとった千鶴は再び身を固くし、眞里は面倒そうに軽く頭を振った。
 言葉を紡ぐのも億劫な眞里はじっと上座に座るがたいのいい男をじっと見ていた。彼もまた眞里をじっと見返す。

 彼の澄んだ瞳に、眞里は懐かしさを覚え哀しげな微笑を浮かべた。そのことに男は不思議に思ったのか口を開くが、彼の他に上座に座る男二人のやりとりに仲裁をいれた。
 仲良しとは言えない二人のやりとりを朗らかに『仲良し』と言い切った彼は、剛毅な笑みを浮かべた。

「自己紹介が遅れたな。俺が新選組局長、近藤勇だ」

 彼の自己紹介に千鶴は喉を震わすが、眞里は不思議そうに首を傾げた。そんな眞里に土方から鋭い視線が飛ぶが、気づかない近藤は紹介を続ける。

「そこのトシが副長で、横にいる山南さんは総長を勤めて――」
「いや、近藤さん。なんで色々教えてやってんだよ、あんたは」

 土方の呆れた様子に慌てた近藤は口ごもる。

「…む?ま、まずいのか?」
「情報を与える必要が無いんだったら、黙ってるほうが得策なんじゃないですかねぇ」
「わざわざ教えてやる義理は無いんじゃね?」

 永倉の言葉に藤堂も小さな声で同調する。
 次々と窘められた近藤はうろたえるが、原田は一人見回して笑った。

「ま、知られて困ることもねぇよ」

 落ち込んでいた近藤は少しの間を置くと気を取り直したように居住まいを正した。

「……本題に入ろう。まずは改めて、昨晩の話を聞かせてくれるか」


***


眞里は、刀か槍が手元にないと寝付けないため貫徹です。

彼女はガラが悪い集団を見ても、伊達軍を見慣れているのでなんとも思いません。

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