「虹の向こうに」
デフォルト名:春日綾音
一つ違いの妹はほやほやとしていてとても可愛くて、自分が守ってあげなければといつも思っていた。そんな感情をはじめから持っていて、それが『庇護欲』というものだと知ったのはつい最近だけれど、そんな名前なんて知らなくても私は妹が大好きだ。
「お姉ちゃん」
なにをしても、何をしようともふわりと優しい笑顔で私を呼んで後ろを一生懸命ついてくる姿を見るのが大好きで、「お姉ちゃんまって」とか「お姉ちゃんといっしょがいい」と言われることに優越感を抱いていた。
この子は私が守らなくてはいけないんだという使命感。
幼なじみの将臣君や譲君にはあまり懐いていない綾音が唯一懐いている存在。それが自分だったから。
けれどいつからだろう。
多分、私と将臣君が中学校に上がったときぐらいだろう。
何でもお揃いで、双子みたいね。と言われていた私たちだったけど、綾音がそれを順にやめていくようになっていた。
「綾音が冷たいの。私何かしたかなぁ……」
「そりゃあ、この年になれば姉離れじゃねぇか? 譲だって、お兄ちゃんから兄さんなんて呼ぶようになったしな」
気にするなと笑う将臣君は全く気にしていないようだったけれど、私はそういうものだと納得できないまま綾音が『姉離れ』していくのを寂しく感じながら、中学校生活を過ごしていった。そうして私と将臣君が同じ高校に行った冬。
当たり前のように譲君と綾音も同じ高校に来ると思っていた。
教室で友達と遅くまで話していて遅くなってしまった帰り道。暗くなった帰り道は一人では歩きたくなくて、図書館で勉強していると聞いていた綾音と一緒に帰ろうと図書館からの帰り道へと向かった時。
駅の改札を出てくる桃色の髪を見つけて声をかけようと思った時、見慣れた姿を隣に見つけて思わず足が止まってしまった。
「綾音は望美の違って完全に文系型だな」
「そうかな。でも私もお姉ちゃんも数学は苦手だよ」
「いや、お前教えてる方が楽だな。あいつの数学的思考は理解できん」
「うーん、どっちかっていうとお姉ちゃんは直感的型だもんね。おみ君は理系的だよね。おおざっぱなのに理路整然としてるって変なのにおみ君なら納得」
「ま、俺のことはどうでもいいだろ?明日も同じ時間でいいのか?」
「おみ君が都合がいいならお願いします」
頭を下げる綾音の髪を乱雑に撫でて笑う将臣君と綾音の姿は今まで見たことのないもので、驚いてしまった。
去っていく背中が小さくなったのを見てあわてて追いかけていく。
声をかける前に足音に将臣君がゆっくりと振り向く。
「綾音、学校帰り?」
「うん、おかえりお姉ちゃん」
驚いているようだが、すぐさまふわりと笑う綾音にほっとして頭に手を押く。将臣君だけがずるい。ぐしゃくじゃにされていた髪をそっと整えて、綾音の手を握る。
手を引かれてきょとんとしている綾音は、でもすぐにふわりと笑うと握り返してくる。そのことがうれしくて将臣君に優越感。
「二人でどこ行ってたの?」
「図書館で会ったんだよ。流石に一人で帰すのはまずいしな、帰り道一緒なんだしと思って一緒にな」
「うん」
「そっか」
どうして将臣君がはぐらかすのかは分からないけど、言わないなら聞かれたくないんだろうなと思って納得する。
でも、将臣君がお兄ちゃんみたいに綾音に構うのはなんだか納得がいかなかった。
***
勉強は暇さえあれば本ばかり読んでいた綾音の方が得意です。
ちょっと遠くの私立を綾音の説得を頼まれた将臣。
綾音の担任が将臣の元担任で、綾音母も、説得役に望美はむかないと判断して将臣にお願い。
明烏の中とは少し違うお姉ちゃんな望美でした。
[0回]
PR