移り往く季節を君と
デフォルト名:朔夜
006:証
するりと髪の隙間に指が通され、撫でられる。微かに風が起こされ首筋を撫でて去りゆく。
頭皮を優しく浚っていく指先に思わずほうとため息をつく。
髪につけられた椿の油の香りがふわりと香る。何時の間にか取り寄せられていたそれは、上機嫌なアシュヴィンとシャニから贈られたもので、朔夜は大切に使っている。
軽く引っ張られる髪に声を上げそうになるのを堪える。
「できたぞ」
声とともに肩を叩かれ、閉じていた瞼をあける。満足げに笑うアシュヴィンが使わなかったらしい髪飾りを手にしていた。
「どうだ、大分様になってきただろう?」
「ええ、ありがとうアシュ」
鏡を覗くと、控えめに丁寧に結われた髪が映っている。
毎朝の日課となった髪結い。
下女の手を借りずに髪を結う朔夜の手つきに興味を覚えたアシュヴィンが朔夜の髪を結い、アシュヴィンの髪を朔夜が結う。
朔夜の次はアシュヴィンの番であるため、朔夜は櫛を手に取り、夫の髪を梳いていく。
癖毛のようで、引っかかることなく櫛が通るのは朔夜が毎日丁寧に櫛を通すからである。
ふわふわと捕らえ所のない赤い髪はアシュヴィンのようである。
「……お前の髪を解くのも結うのも俺だけのものだからな」
「だからアシュの髪を説くのも結うのも私の特権?」
「ああ」
大人びた皇の第二皇子の以外と子供っぽい独占欲は朔夜には心地よいものだった。
ふわりと漂うアシュヴィンの香りに頬を薄く染めながら、髪を丁寧に編み込む。出来上がりを示す為に肩を軽く叩くと、肩越しにその手を掴まれた。
指先に口づけが落とされ、アシュヴィンの頬へとあてられる。
「今日は昼過ぎに時間が空いているはずだ。……出雲にでも行くか」
「またサティに怒られてしまうわ」
「構わんさ。今はさほど大きな紛争も起こらん。ここ暫くお前との時間もなかったんだ。出雲に逃避行に赴くぐらい許されるだろう」
手を取り返して、瞳を細めて不敵に笑うアシュヴィンに思わず笑う。
「一緒にサティとムドガラ将軍に怒られましょう。スーリヤ様なら庇ってくださるわ」
「卑怯だぞ。父上が庇うのはお前だけではないか。まあ、いいか。妻と父上が良好な関係なら文句は言わないさ」
そう言いながらも、不満そうなアシュヴィンの背中に額をつけて、そっと腕を回す。一年も一緒に居れば彼の期限の直し方など分かり切っている。
「もうすぐ、出雲では雪解けよ。……楽しみね、アシュヴィン」
***
らぶらぶ夫婦でした。
描写する100のお題(追憶の苑)
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