父は忍としての誇りを無くして亡くなり、自身も忍としての在り方を迷っていた。
親友の言葉にふと立ち止まってみたが、やはり迷いは残る。
師は次期火影として忙しく、なにをすればいいのか分からないまま任務に明け暮れていた。
「カカシ君」
長期任務明けの木の葉の里はどこか冷たい。行く宛もなく商店街を歩いている時だった。珍しく師と夕飯の約束をしていたが、急な任務が入ったらしく時間が空いてしまった。一年居ないと、どこかよそよそしく感じる里の日常。お腹は空いたが、食べに入る気も起きない。長期任務明けなので家は使える状態ではないだろう。
そんな時にかけられた声に、ふと足を止めた。
「カカシ君、今からお夕飯?」
「……水無月のおばさん」
呼び止められたのは隣人だった。暫く会っていない人だった。
早くに父を亡くしたカカシに手を掛けて育ててくれた夫婦。父の最後の友人。
水無月夫婦の妻。
忍の在り方に疑問を覚え、全てを閉ざしていたカカシを見捨てないでいてくれていた人たち。カカシは、水無月夫婦には弱かった。
「長期だったのね。人気がしないから勝手にお掃除してたけど、よかった?」
「……ありがとうございます。助かります」
礼を言うと、彼女は嬉しそうに笑った。一時期の荒れていたカカシを知っているだけに彼女は今のカカシの言動を喜んでいた。
よしよし、と久しぶりに頭を撫でられると彼女が腕に抱いているものにようやく気づいた。
「おばさん」
「ふふ、カカシ君ずっといなかったものね。私たちの娘よ。ちょっと前に生まれたの」
「娘?」
「そう、カカシ君の妹よ」
思わずギョッとした。当然だが、カカシの母は彼女ではないし、父親もはたけサクモという忍だ。
それでも彼女は朗らかな笑みを浮かべてカカシの否定を否定する。
「カカシ君は私たちの息子同然なんだから、カカシ君にとってこの子は妹だよ。一緒に遊んでくれると嬉しいな」
「……でもオレ」
「ね、抱いてみて」
自然な動作で腕に渡され、危なげな動作で抱き上げる。小さくて、暖かな命に胸がじんとした。
「……なんていうの?」
「マツリ、水無月マツリよ」
「マツリ、……マツリ」
自然とわき上がる笑みに、腕の中の赤子も眠り顔に笑顔を浮かべる。ぎゅうと抱きしめると、頭を軽くたたかれる。
「じゃあ、今日はカカシ君の帰還祝いね~。荷物持ちも確保したことだし、お買い物行こうか」
「え、荷物持ちってどういうことですか」
「マツリちゃんと抱いててね~。今日はカカシ君の好きなものたくさん作るから」
「ちょっ、オレが抱いてていいんですか?!」
水無月夫婦の予想を斜めに大きくはずれて、カカシとマツリは兄妹としてすくすく成長した。
マツリはカカシをお兄ちゃんと呼び、本当に兄だと信じて育っていた。
子供との遊び方の分からないカカシによって八割忍の修行混じりの遊びを本気で遊びだと信じたマツリは、忍びとしての技術を着々と仕込まれていった。
カカシが遊び方の間違いに気づいた頃には既にマツリは同世代とは比べものにならない実力の持ち主になっていた。
そんなマツリを妬んだ同級生に「はたけカカシとは本当の兄妹じゃない癖に」と言われて、はじめて兄であるカカシとは名字が違うことに気づいたのだった。
「お兄ちゃんは、わたしの本当のお兄ちゃんじゃないの?」
「……うん。オレは、マツリの血のつながった本当のお兄ちゃんじゃないの」
「うーん……。……じゃあお兄ちゃんは血のつなからない本当のお兄ちゃんなんだ」
「え?」
「やっぱりお兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんだよ。だから、今日のお夕飯は、茄子の味噌焼きだよ~」
「……はは、参ったな。さすが水無月家の子だ」
悩んでいても、苦しんでも。妹の笑顔を見ると、立ち止まっては居られないと気付かされる。忍として悩んでいた自分に、道を教えてくれた大切な妹。
「マツリが欲しかったらまずはオレを倒してからにしてねってところかな?」
「なに言ってるのお兄ちゃん」
**
無理矢理詰め込んでみました。
この子ではカカシフラグは立ちません。シカマルでお話を書きたいようの子なんですけど、どうしてもカカシと絡ませたくて……!!
気づけばシスコンに……。
カカシによってやたら強い子ですが、本人は医療忍になるのが夢です。
この子なら原作沿いが書ける!(また増やすのか)
描写する100のお題(追憶の苑)
[4回]
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