移り往く季節を君と
005:双子
あどけない笑みで呼ばれる名前は、私だけのもの。それがとても愛おしくて嬉しい。
「朔夜、明日はどうかしら?」
「はい。明日は狭井君(さいのきみ)とのお話は入っていませんから大丈夫です」
「よかった。あとは……」
「風早には私から伝えておきますね」
「ふふ、流石朔夜ね。じゃあ羽張彦達には私が伝えておくわ」
細かい打ち合わせをしなくとも、互いが互いに望むことは分かり切っているためそれ以上は決めない。
下手に会話をしていると采女に聞かれて、女王や狭井君に告げ口をされてしまえば計画は失敗してしまう。
一月の一度の楽しみであるお忍びの散歩の計画である。一ノ姫が国政に足を踏み入れている現在では難しくなってきたが、それでも昔からの習慣は終わらせることが出来ない。
「明朝出発ですね。了解しました事。我々が一ノ姫のお供ならば、春ノ姫と二ノ姫が風早でよろしいので?」
「流石に風早とて、お二人をというのは荷が勝ちすぎるのでは?」
恋仲の青年と星読みの青年に言われた一ノ姫は楽しげに笑みを零すと人差し指を唇の前に立てた。
「朔夜には葛城殿がつくわ、きっと。だから大丈夫」
「ああ、小さな兵を忘れていた。俺としたことが」
「ですが、もっと綿密に策を練らなくてよいのですか?察するに春ノ姫と打ち合わせる時間は」
柊の言葉を遮ると一ノ姫は何もない虚空を見上げた。雲が陽を遮る今日だけれど明日は晴れるだろう。
「大丈夫よ。それにあまり言葉を重ねてしまうとあの方にバレてしまうわ。あなた達も尋ねないようにね」
二ノ姫付きの彼に明日の子細を伝えると朔夜は同じ年の剣士を探していた。
黒い濡れ羽のような髪と瞳を持つ鋭い少年は朔夜の数少ない友人である。言葉が少なく、鋭い物言いにあまりいい顔をされない彼だが、言葉を偽らず真っ直ぐな、まるで彼の太刀筋のような彼の性格は朔夜が好む一つである。
「忍人殿」
「っ春ノ姫、またこのような場所まで!」
岩長姫の門下が集う修練場から離れた空き地は忍人がよく一人で鍛錬を行う場所である。
「忍人殿がそのように私を呼べば見つかってしまうわ」
「っ朔夜姫、なぜこのような場所に」
楽しげに目を細めて、先を噤む朔夜から連想できたのか忍人の端正な顔に苦渋が浮かぶ。
「明朝ね」
「またですか!姫様方は立場が分かっておられない」
「あら、お言葉ですけど立場が分かっているからこうして信頼の置ける方々をお誘いしているのに」
「っ、だが俺はまだまだ未熟だ。姫様方の護衛には」
相変わらずな忍人の言葉に朔夜は一息吐くとついと、寄せられた眉間に指先を押し当てた。
「私達はまだまだ未熟だからこそ、いつかは担う民の暮らしを知りたいの。私達が何を守るのか。……例えどのような既定伝承が待ち受けていたとしても先に備えなければ」
「朔夜姫……?」
「それに、たまの息抜きがなければ一ノ姫様が疲れてしまうわ。……ニノ姫も連れ出して差し上げたいの」
忍人は言葉を噤むと、深く息を吐いて、柔らかく微笑んで朔夜の指を額から外した。
「明朝、参りましょう。……出掛け先の朔夜姫と一ノ姫とニノ姫は目が離せない。兄弟子達だけでは荷が勝ちすぎる」
「ふふ、ありがとう忍人殿」
「ということらしいから、明日はそっとしといてやってくれよ」
「分かっていますよ。どこに向かうかも予想済みですからね」
「二つ先の村で歌垣があるらしいからねぇ」
「それにしても、春ノ姫も、葛城の子息もあれではただの兄弟のよう」
「まあ仕方ないさ。あと3年でも経てば忍人がしっかりするだろうさ」
「だといいですけどね」
**
一ノ姫と朔夜が双子のようですよ。という話を書こうとして何を狂ったか忍人が出張りました。
羽張彦の口調が分かりません……。
移り往く~本編では
アシュヴィン×朔夜←忍人
の予定です。
過去話を捏造ブームです。
常世に移ってからのお話も色々書きたいのですけど……。
アシュヴィンの甘い話が読みたい!!
と思ってもあまり遙か4って多くないですよね。
自給自足します。
描写する100のお題(追憶の苑)
[1回]
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