何気なく100のお題
021 睡眠不足(アゲハ蝶・ピオニー)
久しぶりに宮殿を抜け出して、彼女の店に行くとあの懐かしい笑顔で迎えられた。
「いらっしゃい、ピオ」
けれど、どこかに違和感を感じた。
「エミリア」
「ごめんなさい。今はちょっと忙しくて貴方の相手ができないの」
言われてみれば、店員達も世話しなく働いている。聞けば、発表会か何かが近いらしい。
ふむ。と一旦は納得するものの、やはり釈然とせずにエミリアの腕を取る。
彼女は不思議そうに彼を見た。そしてそのまま店の奥へと連れていかれる。そんな二人を店員は気にすることなく、笑顔で見送った。
彼女はようやくソファのあるところで止まることができた。といっても彼女を引っ張っていた彼がそこに立ち止まったからである。
「ちょっとピオ。店に戻らなきゃ…」
ピオニーは彼女の腕を持ったままソファに腰掛けて、その腕を引いた。エミリアは抗うことなくソファに腰掛けたピオニーの前に座らされる。
そのまま後ろから腕を回されて彼の肩に頭を預けることになる。
「ピオ……?」
「寝ろ。顔色が悪い」
心地良い低音の声にクラクラする。そして何故気付いたのだろうかと。
間もなく部屋には二つの寝息が聞こえてきた。
**
022 面の皮(教団主・シンク)
「アディシェス、これも追加だ」
「………」
「アディシェス、聞こえてんの?」
「はいはい、聞こえてますよ」
面倒臭そうにアディシェスは手をひらひらと振った。
そして、同時に手元にあった書類の束をシンクに投げつけた。
仮面に当たると思われたそれらはしっかりと彼の手の中に納まった。
アディシェスは舌打ちをひとつ。
「……そんなに僕の顔が見たいの?」
呆れたようなシンクに対し、アディシェスは鼻先だけで笑った。視線は最初から書類でシンクを見ていない。
「イオンとそっくりな顔なんか見たくもないね。ただ、アンタの化けの皮を剥いでアリエッタに見してあげようと思っただけ」
なんて強固な面なのかしら。と呟いた言葉は彼の耳には入らなかった。
**
023 女たらし(軍人主・ガイ)
「っ……」
「ラシュディ! 大丈夫か?!」
「ええ、大丈夫です」
刃で切れた指を軽くくわえてラシュディが頷くと、ガイはどこからかバンドエイドを取り出してラシュディに渡した。
勿論彼は触れないので自分で傷に貼る。
「ありがとうございます」
「いいから早く治療してくれ。ラシュディの綺麗な指に傷が残ったら大変だろ?」
お世辞にも綺麗とはいい難い自分の手を包みながらラシュディは少し頬を赤らめた。
**
024 傍若無人(教団主・ジェイド)
「どうかさないましたか?」
「……いえ」
そっと首を振ると、彼の細長い指が顎にかけられ、上を向かされる。
無論、身長差があるのでアディシェスは首が痛かった。
「では、質問に答えていただきたいのですが?」
「お答えしかねますと、先程申し上げましたが?」
高い視界の端に光り輝いて槍が現れたのが見えた気がした。
「……もう一度聞きます。貴女はどこまで知っているのですか?」
この人間はあの変人ディストの幼馴染みだと再度強く認識した。
**
025 よってたかって(軍人主・ガイ)
「ガ~イ~v」
「っぎゃあぁぁぁぁ!!」
「ガイ、それぐらいでは終わりませんわよっ!」
「っうわぁぁぁぁっ!」
「あ、あの皆さん……。治ったといってもそんなにいきなりは無理なのでは…」
「ラシュディ、言っても無駄よ。誰も聞いていないわ」
ガイを取り囲むようにアニス、ナタリア、ルーク、ジェイドが退路を絶っている。少し離れた位置にいる二人の声は届いていなかった。
**
アビスづくしです。アゲハ蝶は連載後のイメージです。
[0回]
PR