いつものように、仕事を押し付けられてそしてイライラしながら仕事をこなす。
けれど、最近は今までの日常と少し違う。それは、あの真っ赤な髪をした彼が教団によりつかないので、からかう相手がいなくて退屈であるということ。神託の盾騎士団もここのところ、ヴァンが勝手に動かすので忙しい。
自分だけはアイツに屈するものか、一人そう意気込みながらペンを走らせていると、扉が無遠慮に開いた。ノックもなしに。
思わず、ギロリ。と睨みつけると、入ってきたのは己の嫌う上官であった。
「アディシェス。話がある」
「私はありません」
「いいから、こっちに来い」
机の前に立ち、手招きしてそのまま自分の机へと向かう上司の不条理さに腹が立ちながら、渋々と従う。
間に机を一つ挟みながら、アディシェスは憮然として上官――シンクを睨んだ。
「で、御用は?」
「僕はこれからいなくなる。だから、好きな部署に移動するといい」
「・・・・・・は?」
意味が分からず、そして聞きかえす。彼は仮面の下で笑ったようだった。
「よかったね。大嫌いな僕がいなくなるんだ。せいせいするだろ?」
「・・・・・・きちんと、フォニック言語喋ってくださいませんか?」
「言ってるじゃん。僕はヴァンの命でアイツラの船に進入する。そして一緒に地殻に落ちる」
そんな大切な計画のようなものの一部を自分なんぞに話していいのだろうか。アディシェスは真っ向からヴァンに食って掛かる、導師派でも詠師派でもない。
『せいせいするだろ?』
その言い草に腹が立った。その口調はまるで『彼』のようで、イライラしていたアディシェスの気に障った。常日頃からシンクの言動はアディシェスに喧嘩を売っているとしか考えられない態度で、それは絶対にヴァンの差し金だと思っている。
どこかで、紐のようなものが切れる音がしたと思った瞬間アディシェスは机を乗り出し、シンクの胸倉を掴んでいた。
「ふざけるなッ!!」
突然怒鳴られたシンクは、動じず、振り払うこともしない。されるがままになっている。頭にきているアディシェスは何も気にすることが出来ない。
「『アイツ』はッ、アイツは・・・!! あの子はっ、生きる運命が決まっていて、それに逆らうこともできなくてっ、それを受け入れることしかできなかった・・・!! アンタは、アンタはあの子とは違うでしょ!? なんで、なんでそんな自分を大事にしないのよ!!」
「・・・・・・」
「なんとかいいなさいよ! 劣化していようと、生きているでしょ!? 地に足つけて立っているじゃない!! あの子は最後の数ヶ月はそんなこともできなかったのよ・・!!!」
「・・・・・・」
「なんで・・・」
そこまで、何も考えず、ただ思い浮かぶことを怒鳴り、口にしていたがアディシェスはそこで区切り。手はそのままにそっと下を向いた。シンクはまだされるがままになっているが、その彼女の小さな呟きは彼の耳にも届いた。
「なんで・・・同じ名前を継いだ『イオン様』よりも『イオン』に似ているアンタが、そういう行動を取るのよ・・・。どうしてそんなところまで似ているのよ・・・。なんでそんな受動的なところまでそっくりなのよ・・・」
悔しくて唇をかみ締めると、シンクはそっとアディシェスの腕を取り外した。空気で彼が笑った気がした。
「アンタが僕を嫌う理由が分かったよ。でも、これは僕の仕事だ。アンタにどうこう言われる筋合いはない」
「・・・・・・」
アディシェスは机に片腕をついたまま、立ち上がって退室するシンクの足音を聞いた。
そもそも彼は何の為に戻ってきたのだろうか。
怒鳴ってしまい、気力を使い果たしたアディシェスは自分の席にもたれかかった。
不意に「彼」の最後の言葉を思い出した。
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何が描きたいのかまとまりのないのはいつものことですが、これはいつも以上だなぁ・・・。
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