無事個人戦上級を勝ち抜いたジェイドは表彰の時に一旦引っ込んだ。そして再び姿を表すと彼は軍服ではない、異国情緒溢れた衣裳に身を包んでいた。
それを目にした一同は何故か一斉にラシュディを見た。
「…私は何も知りませんよ?」
「ジェイドってあんな服持ってたか?」
「どちらにしても大佐って基本的に何でも着こなすのかも?」
「あ、おいジェイド!」
ルークの声にまたも一斉に彼の視線の先を見た。
「…皆さんの行動が揃うと気持ち悪いですね」
肩をすくめて戻ってきたジェイドは先程のあの服を着たままであった。そのジェイドの服装を頭の先から足先までじっくり眺めた一同は首を傾げた。
「大佐。その服はどうされたんですか?」
「陛下からの贈り物ですよ。ティアも欲しいですか?」
「い、いりませんっ」
即答するティアを見て楽しそうに笑いながらジェイドは尚も首を傾げているラシュディを見た。
「ラシュディ? どうかなさいましたか?」
「…大佐、髪は結わないのですか?」
「はい?」
彼にしては珍しく呆気に取られた。ラシュディはつかつかと歩み寄るとジェイドの伸ばされた髪を手に取った。
さらさらと指の間を飴色の髪が流れる。
「あ、中佐ずる~い。あたしも交ぜてよ~」
「ちょっ、お二人とも?」
「大佐は黙ってて下さいね☆」
「スゲー、アニスがジェイドを黙らせたぜ」
「…後が恐いな」
傍観を続けると、アッという間にジェイドの髪は三編みにされていた。
「大佐、似合いますよ」
「……ラシュディ、少しずつ陛下に似てきましたね」
アニスと笑っていたラシュディを見てジェイドは眼鏡をそっと直しながらため息を吐いた。
「そうでしょうか…?」
ラシュディが首を傾げるとジェイドは再びそっと眼鏡を直した。
「ラシュディ様。ラシュディ・フォルツォーネ様。闘技個人戦、上級の準備が調いました。受付までお越しください」
アナウンスが流れ、ラシュディは忘れていたのか慌てて受付まで向かった。
「そういえば、ジェイドの衣裳チェンジで忘れてたけどラシュディも申し込んだんだったな」
「ラシュディの試合が見れるなんて滅多にないから見て勉強しようぜ、ルーク」
ガイの提案にルークは嬉しそうに頷いて観戦場への扉を潜った。
その後に続きながら、アニスは着替えずに一緒に歩くジェイドを見上げて首を傾げた。
「大佐ぁ、着替えないんですか?」
「いえ、ちょっとありまして」
「ふ~ん…?」
短剣で攻撃を受け止め、譜術を纏った長剣を相手に繰り出す。無駄のない動きで相手の懐に潜り込み攻撃を交わし、打ち込む。
相手が倒れるのを確認するとバックステップで下がる。
勝利宣言がなされ、ラシュディの勝利が確定する。
「……なんかホントにスゲーよ…」
「俺もまだまだだな…」
「『白銀の戦乙女』の名は伊達ではないのね…」
「なんですの?それは」
「あれ、ナタリアは知らないの? 中佐の通り名だよ。
戦場を舞う白銀の女。その者は奇抜な剣術を使い、仲間を癒し、敵を葬り去る。それはまさに戦場を駆ける戦乙女!」
「…ながいなー」
力説したアニスにルークは少し呆れた様子だ。
「あら、私もそう聞いたわ。あと『双剣のフォルツォーネ』というのも」
「ですがラシュディの髪はプラチナブロンドではないですけどね。本人もそうおっしゃってますし」
熱弁を奮い始めた一行を尻目にガイはミュウと二人で早々に決勝戦を終え、表彰されているラシュディを見ていた。彼女もジェイドと同じ様に着替えていた。だが残念なことに背中しか見えない。
いつもは高く結い上げている銀色の髪は高い位置で結ばれ背中へと流れている。
着ている服は軍服ではなく、見たことのない型で薄い藍色をしている。
表彰が終わり、戻ってきたラシュディはいつもと違う人間に見えた。
「はぅわ! 中佐、かっこいいですぅ~v」
「なんかすげーラシュディに似合ってるな!」
次々と賛辞の言葉を送られ、ラシュディは困ったように笑った。
「陛下はいつの間にここまで根回しをされたのでしょうか…?」
その問いが投げ掛けられたジェイドは肩をすくめておどけて見せた。
「なあ、ラシュディ。その服はどこの民族衣裳なんだい?」
ラシュディは不思議な形をしている袖を掴んでヒラヒラと見せた。
「これは…多分ホドで昔着られていた『着物』だと思います。男物ですね」
「多分その模様ですと、ホドの町を守った剣豪、とかいう方が着ていらした隊服でしょうね」
話がわからない面ヶは不思議そうに首を傾げた。それがわかったラシュディは苦笑いを浮かべた。
「陛下がその話を用いた物語がお好きなんです」
「へ、へぇ~………」
一行は苦笑するしかなかった。
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露骨に名前を出すのはやめて遠回しにいってみました。浅黄色ですよねー。
陛下ってそういうところで悪ふざけすると思うので、ジェイドはカンフー(?)、ラシュディさんは着物です。実は直衣とか、白拍子とか、水干とかで迷いましたが……
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