それでも私にとっては彼だけ
「アディシェス」
低く通る声に己の名を呼ばれ、アディシェスは気だるそうに振り返った。
そこには予想通り、声の持ち主が立っていた。若いながらに教団の首席総長の位に着く男。
アディシェスは彼が嫌いだった。『彼』があのように世界を憎むようになったのは半分以上がこの男の進言。
「何でしょうか総長」
「アッシュを知らぬか」
瞬時にあの素直じゃない男を思い浮かべる。
「私は彼とは別の隊なので……」
「…では見掛け次第シンクと共に来る様に伝えてくれないか」
「分かりました」
用が終わったならこの男の元からすぐにでも離れたい。踵を返し、歩き始めるとまた名を呼ばれた。
「アディシェス」
足を止めるが振り返らない。
「導師が拐かされた。共に来るか」
拐かしたのはどちらだか。アディシェスはふっと口元に笑みが浮かぶのを感じた。
幽閉しておいて、助け出されただけではないか。最も幽閉したのは奏将だが。
ゆっくりと肩越しに振り返った。
「命とあらば、何なりと」
自分はもう守護者ではない。自分が護るべき人はもう、いない。
「アンタが導師を助けるなんてね」
「どう考えてもこれは救出ではなくて、誘拐だと思いますが?」
タルタロスを襲撃し、導師をセフィロトへと連れて行く。
「アンタ、導師のこと嫌いなんだろ?」
挑発するような彼の仮面越しの視線を真っ向から受け止める。
「別に? 私はむしろ………」
彼の仮面越しに彼を見る。彼は笑った。とても愉快そうに。
「そうだった。アンタは僕が嫌いなんだったね」
否定も肯定もせずにアディシェスは立ち去る。
自分にとって生涯命をかけてでも護りたいと思ったのは彼だけ。
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纏まりが全くなくて読みにくくてすみません…(汗)
アディシェスさんはシンクが好きではないようです。
そしてヴァンは嫌いみたいです。
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