やはり似たもの同士の主従関係
「香寧! 行こうぜ!」
何処か切羽詰ったような声に呼ばれた本人は気だるげに振り向いた。
その視線の先には頭に布を巻いた、この国で二番目に尊き獣。
しかしてその実態は仁の獣で、民の具現。
十二国に一頭ずつ在する麒麟。この雁州国の麒麟である延麒は雁州国王延と同じく政よりも市井に降りるのを好む。
今日も今日とて山積みになった書類に嫌気がさして、優秀官吏達の目を盗んで逃げてきたのだろう。ちゃっかり市井に下りる準備をしてから。
麒麟は神獣。だが、普段は人型をとっている。これを転化という。
転化をすればその性を抜けばただ人と同じに見える。
だが、麒麟の鬣である金色(こんじき)の髪は麒麟にしかない。
民は麒麟を見たことがなくともその鬣の色で知ることができる。
なので、民に混ざるために髪を隠す。
武官にあるまじき軽装の香寧を捕まえると延麒六太は一目散に厩に向かう。
目的は六太の主人である延王の騎獣。スウ虞のたまである。
禁門で鞍をたまに取り付けるのを手伝いながら、香寧は遙か後方の気配を探った。
今この現場を取り押さえられると自分もあの『無謀』殿に六太とともにこってりと絞られる。
『――台輔』
六太の影から声がした。それはその一言名を呼ぶだけで二人に事態を知らせる。
「急げ、香寧!」
「分かってますよ」
このまま掴まれば大司寇に禁軍に左遷されてしまう。
そんなのは堪ったものではない。
さっさとたまに騎獣すると、香寧は六太へと手を伸ばした。
もうそこまで足音は近づいている。事を察知したもん人がどうしようか考えあぐねている。
「台輔、お早く」
「だーかーらー、六太だっつーの」
そう悪態付きながら六太は香寧の手を握った。
麒麟である六太は非常に軽く、香寧は自分の後ろに六太を乗せると、たまを飛ばせた。
「台輔!!」
たまが飛翔し、もん人が慌てて呼び戻そうと身振り手振りをする。
扉の向こうからは殺気立った大司徒の怒声が聞こえる。気配を感じ取ると、大司寇もいるようだ。
思わずぶるりと身震いした香寧は、小声で六太に提案する。
「・・・主上を手土産にすれば、左遷は免れるでしょうかね?」
「さあね? ・・・なあ、禁軍の将軍になるなら栄転って言うんじゃないのか?」
ごまかしておきながら六太も同じく自分の主を捕まえる方法を頭にめぐらす。
「忙しくなるので私にとっては左遷です」
「・・・んなら尚隆捕まえてたまに送ってもらうか」
「それは妙案です」
恐らく彼も自分たちと同じ目的地、関弓に居るだろう。
麒麟にとって王を見つけるのは朝飯前だ。
何処かで縄を準備しなければならないな。と二人で話し合いながら関弓を目指す。
頬に受ける風がとても心地よかった。
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というわけで延州国の常。
香寧は六太と図ってよく出かけるようです。逆もまた然り。
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