――色々なものを見てみたかった。
理由を問うと彼女は遠くを見つめ、そう言った。その表情が語るのは郷愁か……。
宝玉のようだ。それは二言目には言われていた言葉。けれどルニアは知っていた。
――気味悪がられている、と。
恐らく『赤い髪と緑の瞳を持つ者』に自分がほんの少しだけ条件を満たすからだろう。幼心にそれは理解していた。
現王――インゴベルト六世には一人娘と甥がいる。それだけいれば充分ではないか。とルニア自身も思い、両親もそう思っていた。
家にいると自身の気持ちに翻弄され、肩身が狭かった。
懐かしむように語る彼女はどこかのびのびとしているのは気のせいではないだろう。
その日の出来事のせいで守護する者がいなくなり頼る所が王室以外に無くなった時、「時期が来た」冷めた心で思ったと。
「首都から庇護なしに出たことのない自分はこの世を勘違いしていた。……全く何も纏わぬ自分がどうやったら生きていけるのか試してみたくなったの」
また貴方に会えるとは思わなかった。彼女は愉快そうに笑った。
「"私"というものを知らない貴方がとても気に入っていたの」
「……私もです」
「あら。敬語はやめてくれるんじゃなくて?」
「じゃ、遠慮なく」
目を細めて、怪しげに笑う。そんな笑い方は知ららなかったが、何故か似合っていた。
ガイはそんなことを思いながら、再会した時から気になっていたことを尋ねようか戸惑った。辛い思いをしたことなら掘り起こしたくないが……。
しばしの逡巡の後ガイは迷いながら口を開いた。恐らく彼女はこともなさ気に答えるだろうから。
「……綺麗な翠だったのにな」
残念そうな声音にルニアは思ったとおりの反応をした。
一瞬だけ目をみはり、すぐに柔らかい表情を刻んだのだった。
「色々あって。――今、こちらの眼はあまり見えないわ。色も薄くなってしまった」
「でも、今もとても綺麗だと思うけどな」
「あら、ありがとう」
本当に嬉しそうに微笑む。確か記憶の中の彼女はその瞳の色を嫌っていた。
「でもその瞳はあまり君に好かれていなかった気がするけど」
「…そんな細かいことまで覚えているのね。そうね、私はあの緑色が疎ましかった。嫌いだったわ」
「その言い方だと今はそうでもないのかい?」
ルニアはそっと顎を引いた。その心情の変化には何が関わったのかは分からないが、第一に正式に継承権を放棄したのが大きいのかも知れない。
――私、ルニア・ディ・ジュライルは正式にキムラスカ・ランバルディア王国の王位継承権を放棄します。
あの場で凛と言い放ったルニアは王女並の気品があったという。
だが、元から無きに等しかったそれを放棄したのちの彼女は解放感に満ちていた。
「まあ、何はともあれ。今は私はナタリア殿下の護衛。貴方はルーク殿の使用人。これからもよろしく頼むわね」
彼女は握手は求めない。それは、女性恐怖症のガイを考慮してのこと。
だが、ガイはすっと右手を差し出した。
そのことにルニアは驚き、その手を見る。
手は恐怖に震え、お世辞にも笑顔とは程遠い強張った顔。
けれど澄み切った青の二つの眼差しは確固たる意志を感じさせた。
「あら、貴方も負けず嫌いね」
「ま、まあな……っ…」
ふふふ。と小さな笑い声をこぼした彼女に手を握られても三秒は我慢した。
ルニアはそんなガイを後々褒め讃える。
**
いい感じにガイの相棒っぽく。このヒロインならガイと絡められる……!!
旅の途中とかを短篇で書きたいなあ……。
でも、視力が落ちるから色が薄くなるとかは普通はないですよねー
そもそも瞳の色ってどこできまるんでしたっけ…?
虹彩?毛様筋?チン小帯?
[0回]
PR