これがすべてもの
城で見る同等の地位のその男は見たことのない瓢瓢としている奴だった。
傭兵の仕事も飽いて来た。だが特にすることもないから、その言葉を受け入れた。
「州師に入らぬか?」
「……いいよ」
或は"生"というものにも飽いていたのかもしれん。
「俺は風漢だ。お前、名は?」
「栴香寧(せんきょうねい)だ」
よろしくな。そう言って男は手を伸ばした。いくつもの剣ダコの見えるそれを一瞥して同じく握り返す。
反応は相手も同じであった。
「お前は何故そこまで無気力なんだ? 楽しみ何ぞはないのか?」
「…生きることがそこまで楽しく思えないんだよ」
「ほぅ……」
牧伯のまさに命懸けの行為によって台輔は自由となった。けれど血の汚れで動けなく、容体も芳しくない。
そして何故か自らの出生まで語っていた。
「――…ただそれだけ」
「ならば俺の為に生きてみんか?」
話の返答の切り返しが意外過ぎて思わず笑ってしまう。
「お前、笑うとなかなかだな」
「言っとけ。…常々思っていたがあんたは誰だ?」
問うても返答はない。そのことは気にせずに続ける。
「町民にしては腕が立つ。冬器も持ち、読みが鋭い。…そして身なりと冬器の釣り合いが全く取れていない」
そう言うと彼は楽しげに笑う。そして一言、
「王だ」
と言った。
「……そうか」
「なんだそれだけか?」
「平伏してほしいのか?」
「――いや。前から思っていたが面白いなお前」
「そうか?」
「気に入った。俺と来い」
「私に生きる意味でも教えてくれるのか?」
「いや。違うな――楽しみだな。あいつらと共にな」
「…ならいってやってもいい」
小さく笑みを結ぶと彼は満足そうに笑って、剣を肩に担いだ。
「さっさとあのガキをつれて帰るとするか」
「台輔をそんな様に呼ぶのがこの国の王なのだな」
「なんだ、がっかりしたか?」
試す様でもなく、心底楽しそうなその笑みに笑ってしまう。そっと首を横に振った。
「いや、さぞや型破りな国になろうて」
「いっそそれもよいかもしれん」
「台輔であらせられましてはご健勝ではないようで」
「…お前は…?」
「"なおたか"と言う風漢の供、と申せば通じるかと」
その名は途端に笑みを浮かべさせる程の効果。
「…妖魔が、恐くないのか?」
赤い、人に懐く天犬と言う異質な妖魔。それに育てられた"妖魔の子"
「…別に? 醜い言葉と醜態を晒さぬ分妖魔の類いの方が人よりましに思うけどな」
「変わった奴だな」
しみじみと呟く妖魔の子――更夜
「ああ、太鼓版を押されたからな」
「香寧!一緒に来るよな?」
何もかも終わり更夜に誘いを蹴られたらしい延主従の"従"の方である麒麟は己の小さな体格を生かして詰め寄った。
「面白いことは山ほど教えてやるぞ!」
「台輔。落ち着かれよ」
「六太だ。六太でいい」
「六太。心配せんでも香寧はついてくると俺に約束した」
横槍を入れた延王は楽しげに騎獣の頭を撫でた。
「よしっ!じゃあ皆で戻るぜ!」
それが、生き方が180度変わったきっかけ。(ついでに長生きの)
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ダイジェストっぽく十二国記延官吏への道則です。やっぱ元州の乱だよ!ということで必然的にヒロイン500過ぎに…
まあ、いいか
生きることに無気力なヒロインに教えんでもよいことをあれこれ教える主従。後に腹黒腹心達によってよい重りとなるでしょう
十二国記は多分HPでは取り扱わないです。
というかよろずジャンルになりそうですが……
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