幾度と季節が巡ろうとも、君は私の記憶の中の君で。
鋭く風を切る音がする。
耳が偶然拾った彼がそちらを見ると、短槍を振るう
風をつく音と共に揺れるざんばらな灰色の髪。普段は風のまま肩で揺れるその髪を首もとでひっつめて、時折覗く暗紫の瞳は真剣な光を宿しまっすぐに前を向いていた。
「―はっ!!」
ぶんっ!勢いよく風を切り槍を突き出すと同時に覇気が飛ぶ。
彼女の纏うマントが揺れて、草原で布が舞っているように見えた。
いったいどれくらいの間見ていたのだろうか。何時間か、もしかしたら数分かの間中槍を振るっていた彼女は動きをやめて草地の上に唐突に横になった。
驚いた彼はじっと見ていたことも忘れて、彼女の名前を呼んで駆けだしていた。
草地だろうと沼地だろうと構わず倒れ込んだ彼女の元へと駆ける。
柄にもなく気が逸り、足がもつれそうになる。
駆け寄ると、なんてことはない。彼女は倒れ込んだのではなく、気持ちよさそうに草地に寝ころんでいた。
「ケント?」
どうかしたのかと問いかけてくる柔らかな光を宿した眸に見上げられケントは、深くため息をついてからゆったりと笑った。
「いや……。急に倒れられたから驚いて」
「鍛錬の後に草原に寝転がるのが昔から好きなの」
隣にどうぞと言わんばかりに手で右隣をたたくキリエに苦笑を漏らし、一言告げてから彼女に倣い仰向けに転ぶ。
赤い騎士が草原に沈むのを見てエリウッドは首を傾げた。
先ほどまで遠めにキリエの鍛錬を見ていたと思ったら急に駆けだしていったリンディス騎士団の赤騎士。キリエが横になった場所に屈み込んだと思ったら先ほどの彼女に倣い彼も地に消えたのだ。
エリウッドと同じように目撃していた軍師をちらりと見るが彼女は特に琴線に触れる出来事はなかったのか我関せずといった風に再び地図を見ていた。
「レフィル殿は気にならないのですか?」
「何を、とお聞きしても?」
「キリエ殿とケント殿が何をしているのか、ですが」
エリウッドの言葉に彼女は再び草原の向こうを一瞥すると、そのまま空を見た。そして草原の奥に広がる森を見て、黙視はできない距離にある川を見た。
エリウッドもレフィルにつられて同じものを見るが、さっぱり理解できない。
「ただの休憩ですよ」
「休憩、ですか?」
「エリウッド様も鍛錬の後は休憩なさりますよね?彼女の場合は終わった途端にあのように休憩を取るので。ケント殿は驚いたのでしょうね。そしてそのまま横になるように誘われた」
「……なるほど」
まるで端から見ていたようですね。と笑いながら言うエリウッドにレフィルはフードの合間から覗く赤い瞳を柔らかく細めた。
「昔からの癖ですよ」
ちらりと森を見て、レフィルはさらに
「あと五分もしたら次はケント殿の剣とキリエの槍で打ち合いでも始めますよ。混ざりたければ、二人の間合いが離れたときにでもお声をかけなさればいいですよ」
予言めいた言葉を残してレフィルはお先に、と陣営に戻っていった。
その場に残されたエリウッドは暫しその後ろ姿を見送っていたが、キリエと手合わせできるならばと軍師の言葉を疑いもせず、手合わせを始めた二人の元へと歩いていった。
(様々な曲で21のお題)
未だにヘクトル編のジャファルとニノが仲間になったところで止まっています。
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