忍者ブログ

小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ボツ 十二国記 歌と踊りの草紙

「香寧。舞え」
「……は?」

 突拍子もない主の要求に香寧は困惑ではなく、嘲笑を浮かべた。



 堯天にある宿屋。
 慶を視た後に雁に帰る予定であった香寧に青鳥が届いた。
 送り主は雁にて国を支えている立派な官吏達で内容は香寧にとっては厭なものだった。


 曰く、非公式にけれど約があった範国国王と麒麟が雁を訪れた。
 けれどいつの間にか雁の麒麟も王もいない。暫く経つと慶から延主従がいるがどうするべきかとの言が届けられた。
 ならば香寧が慶に居るので主従を連れて戻るように鳥を飛ばそうということになったが、それを聞いた範国国王がならば自分が伝えに行くと言い出国してしまった。のであるから、早急に範国国王と麒麟、延主従を連れ、慶に謝罪を述べ雁に戻るように。


 厭ではあるが、鳥の運んだ文面の言葉は悲壮感帯びており、そして怒りを押し殺しているようであった為に、日頃勝手を許して貰っている身としては引き受ける以外に道はなく、香寧はもう一泊の予定を早め宿を出た。


「そもそも氾がわざわざ来るのか解らん。自身が重鎮だと理解しているのか?」

 少しずつだが明るさを取り戻している慶国。先の内乱が王自らの手で終結を迎え、政の顔ぶれもかなり変わった。
 その中には見覚えのある顔もいくつかあり、思わず嬉しさと一抹の寂しさを覚えた。
 彼らを統べるしっかりとした顔つきのまだまだ経験浅い女王の姿を思い浮かべ香寧は知らずにその顔(かんばせ)に微笑を浮かべた。

「おや。今日のそなたは一段と機嫌がよいのかえ」

 不意に背後から聞き慣れた妙に艶のある声が聞こえた。
 気づいてはいたが、本当に来ているとは思っていなかった香寧はため息を隠しもせずにゆっくりと後ろを振り返った。

 見慣れた襦袢姿の長身の美人が立っていた。
 一見すると女性のようだがよく見れば体躯も男性のそれとわかるし、声も高くなく落ち着いた低音である。

 女装趣味の範国国主、氾こと呉藍滌である。


「そなたを迎えに来たのだよ」
「主上と延麒はまだ迎えに上がっておりませんが」
「あんな野蛮な奴らはどうでもよい。私はそなたを迎えに来たのだよ」

 彼の趣味の一端に女性(香寧)に睦言を囁くものがある。(と香寧は思っている)
 藍滌は優美な動作で手を伸ばすと香寧の顎を取り目線を自分に合わせさせた。
 銀色(しろがねいろ)の双眸に自分の姿だけが映るのは心を満たさせる。

 顎をとらえた指をそっと頬に滑らせると彼女は柳眉をつりあげて不快の意を表した。

「お戯れを」

 その意は「どうでもいいが首が痛い」である。それを正確に汲み取った藍滌は笑みを深くすると香寧の耳に唇を寄せてそっと囁いた。


「さっさとうちの武官を放してもらおうか」


 囁きが香寧の耳を打ったのと同時に低い機嫌の悪い声が二人に降り注がれた。

 声の主が誰かなどと考えなくとも気配と声で察した二人はそれぞれの反応を示した。
 香寧は面倒が増えたとばかりにため息をつき、藍滌は邪魔が入ったとばかりに渋面になった。


「香寧、おまえは俺と馬鹿を迎えに来たのではないのか?」
「……正確にはお詫びを景王に申し上げて、首根っこを捕まえてこいと言われたのですが」

 珍しく不機嫌なのはなぜなのだろうかと思いながら香寧は首を傾げるが、答えは見えそうになかった。


 にらみ合いを始めてしまった猿と犬を放り出し香寧はさっさと金波宮に向かった。正式な訪問ではないし、ただの謝罪ではあるが一応非公式ながらにも形式は則り景王景麒、馴染みの浩瀚に非礼をわび、二国の主とその僕を連れて雁へと帰国した。

 ようやく約を果たし、珍しく恙無く終えた談の後、いつものように宴が始まった。


 後に冒頭に返るわけであるが、王の命を一蹴した香寧に不満を隠さずに延は傍らの部下を見た。
 けれど誰も延の視線を受け止めるものは居なく、彼は賓客であり天敵でもある氾を見た。

「お主も見たくはないか」
「こような場所で舞わせるのは、どうかと思うがね」
「……ふむ。だが香寧の舞は見事だぞ」

(不思議な言葉でいくつかのお題)
だらだらしてしまいました。のでとりあえず掲載だけして後で書き直しをさらに掲載します。

拍手[0回]

PR

コーセルテル 砂糖の鉱脈

 春うららかな午後の日差しにさて今日は頼まれものでも仕上げようかとのんびり思っていると、セフィリアの家の扉が遠慮がちにノックされた。

 ユリオスと顔を見合わせて笑い、扉をそっと開けるとそこには四人の補佐竜が立っていた。

「いらっしゃい」
「おはようセフィリアさん!」
「おはようジェン。朝から元気いっぱいだね」

 朝から本当に元気な風竜のジェンの後ろに居た三人も続いて朝の挨拶を始める。

「さて、立ち話もなんだしあがりなさい」




 人数分のお茶を出すと、朝食用に焼いたものの余りを出すとジェンがにこにこと笑いながら手に取った。

「わーい、あたしセフィリアさんのパン好き」
「残り物で悪いね。でノイ、何か用事があったんじゃないかい?」
「うん。あのね」

 すぐ傍の竜術士の家にいる木竜のノイに話を振ると、彼女は楽しそうに今まであったことを話した。

 火竜の術士の補佐竜であるメオが新しく女の子たちに髪飾りを作ったこと。
 それに合わせてユイシィの新しい服を作り、術士であるランバルスを驚かせること。

 服を作ってほしいとカディオに言うと、忙しいからセフィリアに作る方を教わってこいと言われたこと。

「カディオが私に教えてもらえって?」
「うん」
「……またなんか頼まれ事してるなアイツ」
「カディオさん、忙しいみたいなので無理に頼めなくて……」
「セフィリアさんなら暇だから教えてもらえだって」

 同意を求めるような尋ね方をするジェンの頭を軽く小突いてセフィリアはユリオスに目配せした。

 彼は呆れたようにするとゆったりと家から出ていった。

 それを目を細めて見送るとセフィリアは四人の顔を見て笑って頷いた。

「いいよ、教えてあげるさ」
「ありがとう、セフィリアさん」


 かくしてセフィリアによる裁縫教室が始まったわけではあるが、どこから話を聞きつけてきたのかマシェルが

『僕にも洋服の作り方教えて下さい!』

 と言ってきたのでまたいつかと約して追い返したことを知っているのはユリオスだけである。

 どんなデザインで作るのかを考えさせ、それを見て型紙を起こす。

 紙にすらすらと書いていくセフィリアの傍に立ち四人は感心しながら見ていた。

「セフィリアさん、本当に器用だよねー!」
「……セフィリアさん……何でも出来る」
「カディオと同じくらい細かい仕事が得意だよね」
「そういうものはどうやって身につけるんですか?」

 四人同時に話されるとさすがに聞き取れないセフィリアは手を止めずに後ろに向けて言った。

「私は必要だったから身につけただけだよ。……私の本業なんて君たちの術士に比べれば全く役に立たないんだ」

 けれど、セフィリアの本業を知らない四人は首を傾げる。
 その仕草を待っていたセフィリアは笑うと続けて言った。

「まだかかるから、もう今日は帰りなさい。これのやり方はまだ教えないから。それに君たちがいないと子竜達がお腹を空かせてしまう」

 最初は渋ったが、確かにその言葉に当てはまるジェンとユイシィは帰りの挨拶をすると帰っていった。

「エリーゼとノイは帰らないの?」

 のんびりとノイが煎れたお茶を飲みながらくつろぐ二人は真剣にセフィリアの手の動きを見ていた。

「……お兄ちゃん、迎えにきてくれる……」
「帰りは暗竜術ですぐだもんね」
「ノイは?」
「私は今日の当番はロイだから急がなくてもいいのとセフィリアさんを夕食に誘うために待ってるの」

 思いもよらなかった言葉にセフィリアは思わず手を止めると目を瞬いた。

「それなら早めに切り上げないとね」



 言葉の通り、早めに切り上げたセフィリアはエリーゼを迎えにきた郵便屋さんを見送り、ノイと共に木竜術士の家へと向かった。


 そこに小さな木竜達にもみくちゃにされるユリオスの姿があった。



 コーセルテルは、静かで賑やかで、『優しい夢を見る里』というのはあながち嘘ではないのだと、日々思うセフィリアだった。


(不思議な言葉でいくつかのお題)

物語風って難しい。
5巻記念で。

拍手[1回]

コーセルテル 紅茶の香りが漂う

紅茶の香りが漂う栞



 セフィリア・エルバートはマシェルにとって謎を帯びた、頼りがいのある姉的存在である。

 彼女は、マシェルが小さな頃にふらりとコーセルテルに現れた。
 供に、ユリオスという色違いの瞳を持つ不思議な猫を伴って。
 セフィリアはみんなが知らないようなことを知っていて、頼りがいがあって。マシェルは小さな頃に、自分の知らない話をねだり聞かせてもらった。


 アータが彼女に聞きたいことがあると言い出し、マシェルが「じゃあ、一緒に行こうか」と言うと、当然のごとく子竜達もみんなが行きたがった。

 ならばお弁当を作ってセフィリアの家のそばで食べようか、という話になり、マシェルは腕を振るい特性のお弁当を作った。


 セフィリアの家は不思議なところにある。
 木竜術士、カディオの家の側の古木の中の小さな空間に居を構えているのだ。

 古い木のために、いつ倒れるかわからないとカディオが心配するも、彼女はけらけらと、大丈夫だと笑い飛ばす。
 長い時間をかけて彼女は古木の中の空間に手を加えて居心地のよい場所を作っていた。

 子竜達は一度訪れた、秘密基地的なその家をとても気に入っていた。



『セフィリアさーん』

 ようやくついたセフィリアの家の前で、用事のあるアータが声をかけるがいつもならばすぐに誰かが出てくるのに、人の動く気配がなかった。

『マシェル、だれもでてこないよ?』
「ユリオスは……出かけているみたいだね」

 勝手気ままな猫は、なぜか家をあけるときは律儀に扉に足跡をつけていく。
 今現在扉の下の方にはかわいらしいにくきゅうの跡があった。

『おじゃましまーす!』
『サータ! かってにはいったらだめなんだよ!』
『マシェルー、あいてるよ?』

 勝手に中に入り込むサータに続き中をのぞき込むハータを抱き上げてマシェルは苦笑いを浮かべてサータを探すように中を覗いた。


「セフィリアさん?」


 小さな室内にマシェルの声がぽつりと響く。
 その間に好奇心旺盛な子竜が中にわらわらと入っていく。
 止めようとしてあわてるマシェルを片手で制すると、ナータが中にゆっくりと入っていく。

 どうなっているのだろうと、ハータを抱いたまま思っていると、タータとマータが先を争うように飛び出してきた。


『マシェル、たいへんたいへん!!』
『すぐにきて!』
「ど、どうしたの二人とも」
『いいからはやくはやく!』

 あわてる二人に引かれてマシェルは勝手にはいることに罪悪感を感じながらも、室内に足を踏み入れた。

(前より広くなってる?)

 そんな疑惑を抱きつつもマシェルは、セフィリア邸の居間のような場所に足を踏み入れた。そして珍しいものを見つけた。


「……セフィ姉さん?」


 人の気配に聡いセフィリアが群がる子竜達に気づかずに机に突っ伏したまま寝ている。


『……風邪をひく』

 マシェル本意の気配りさんことナータがどこからか持ってきた毛布をセフィリアにかけると、マシェルはセフィリアがうたた寝をしていたことにかなり動揺していたことを知った。

 だが、つきあいの長いマシェルでさえ、セフィリアがうたた寝していることに驚愕したためか子竜達が驚くのも無理はないだろう。


「アータ、セフィリアさんはお昼寝して居るみたいだからまた跡でこよっか?」
『……おべんとうたべたらまたくる』
「そうだね、じゃあみんな。お弁当食べよう」


 わらわらと出ていく子竜達の中にずっと抱いていたハータを降ろしてマシェルは再びセフィリアを見た。



「おやすみなさい、セフィ姉さん」


 突っ伏す銀色の固まりが身じろぎした気がした。




(不思議な言葉でいくつかのお題)

ドラマCDの郵便屋さんが絳攸でカディオが将臣でミリュウさんが静蘭でマシェルが詩紋君でした!

拍手[1回]

十二国記 恋をひとさじ

 範にて黄旗が揚がる。

 簡素な言葉で香寧の文は始まり、そして終わっていた。


 次は範に行く。ある程度状況を見て、戻る。勝手に出歩かないように。


 締めの言葉に雁国主従は浮きかけた腰を渋々下ろした。




 黄旗が揚がったというのに範の人々は浮かない顔をしていた。

 黄旗。すなわち麒麟旗が揚がったということは、蓬山におわす麒麟が王の選定に入ったことを示す。

 王が選ばれれば天災は収まる。

 だが、範の人々が浮かない顔をしているのも香寧にはわかる気がした。

 まだ営む気力のある茶屋で香寧は小休止を取っていた。

「お客さん、外の人だね?」

 のんびりと茶碗を机におくと香寧は話しかけてきた店の者に顔を向けた。

「……ああ」
「どこか聞いても?」
「支障はない。雁だ」

 香寧の予想通り店の者は一瞬だけ羨ましそうな顔をするとすぐに落胆したように苦笑を浮かべた。

「……雁のお人には何もない国だけどね」
「……いや」

 あの荒廃に比べれば。その言葉を飲み込むと香寧は静かに茶碗に手を伸ばした。


「……雁は、腕が売りだったな」

 突然割って入った人物に別段驚くことなく香寧は店の者に目配せした。心得たのか店の者は突然入ってきた人物。顔立ちがすっきりとした青年にも茶を出した。

「よく知っているな」
「……雁も特に産出するものがないわりに他国との取引が成り立っているからな」
「……怪我の功名のようなものだがな」

 疑問符を浮かべる青年に香寧は首を横に振って失言を無かったことにした。

「このまま国が復興したとしても範には何もない」
「……民がいるじゃないか」
「……だが、民にも何か目指すものがあれば復興の度合いも代わり、後々国が豊かになる」

 そこで言葉を切り香寧を見る青年は「雁のように」という言葉を飲み込んだようだった。
 豊かになった雁だけを知るものには知らないことがある。

 普段はそこまで説明する気が起きないと言うのに香寧は何故かそこで微笑が浮かんだ。
 青年も何故そこで笑われるのかわからないのだろう。端正な顔を少し不可解そうにゆがめる。

「すまない」

 笑いを堪えながら謝罪を口にすると青年は納得がいかないようだった。

「市井を歩き旅の途中の私のようなものと茶を酌み交わす人間がまるで王のようなことを口にしたから」

 おもしろいと思ってしまった。

「いいことを教えよう」
「…なんだ」
「雁があの腕を身につけたのは偶然だ。……いや、必然だったのかも知れない」

 ある程度豊かになり始めた数十年前に進めた計画。

「なに単純だ。王が国全体の建物を統一してしまえと言ったから民は必然と腕を身につけた。いつの間にか外交に使えるようになっただけのこと」
「……」
「範には民がいる。荒廃は……妖魔までもが飢えるほどではない。なんとかすればなんとかなる」

 実際になんとかしてしまったのだから。

 香寧の言葉に深く考え込んでしまった青年と自分の分の代金を机に出すと香寧は剣を手に立ち上がった。
 その時の気配に気づいたのか青年も慌てて立ち上がり既に店を出かけた香寧の背中に声を投げる。

「名をっ、名をお聞きしてもよろしいか!」

 香寧は立ち止まると、うっすらと笑みを浮かべた。

「香寧だ。栴香寧、雁国靖州師右将軍」
「呉藍滌、だ。……将軍がこのような最果てまで来ていてもよろしいのか」
「おそらく雁だけだろう。このような暴挙を許すのは、な」

 官吏達もむしろ歓迎している風があるのは、香寧が出かけることにより王が出歩く口実が減ったことだろう。だからと言って雁国主従が出歩く回数が大幅に減るわけではないのだが。

 仕方がないといったように笑う香寧をどう取ったのか彼はなんともいえない表情を浮かべていた。

「……また、会えるだろうか」
「そうだな、しばらくは範に滞在するつもりだから縁があればまた会えるだろう」

 まさかこのときの青年に今後もつきあいができるとはこの時の香寧は思いもよらなかった。


 美しい襦袢に身を包み扇を広げる範国国王氾、呉藍滌はついと香寧を見やった。

「…、なにか?」
「いやなに、そなたは変わらんのと思うて」
「変わって欲しいのか?」

 鼻で笑う香寧の前に静かに立つと彼はついと扇を使って香寧の顎を掬った。

「つれないところは変わって欲しいとは思うがね、だがそれもそなたの魅力だろうて」
「…私にそんなことを言うのは君ぐらいだと思うけどね」
「だから山猿達はわかっておらぬと言うのじゃ」

 ふふふと男のくせに蠱惑的に笑う藍滌を見上げて香寧は「首が痛い」とのんびり思っていた。





(不思議な言葉でいくつかのお題)

「媚薬のような囁き」をおもしろいと言ってくださった方にお礼を…!!
あんまりラブくない仕上がりになりましたがい、いかがでしょうか…??というか出会い編ですね。

とまあこんな風にサイトの方で反応をいただけるとよろこんで調子に乗る人間です。

藍滌さまって登極前はなにをしてたんでしょうね。
とりあえず……意表を突いて反物屋とか?

拍手[0回]

十二国記 媚薬のような囁き

 それはあらがえない甘美な誘い。


 雁国国王、延と範国国王、氾は仲が悪いことで一部では有名である。
 会う度に面と向かって互いの汚点やら欠点やら容姿やらを持ち出してあげつらう。そんなに互いのことが気に食わないのなら会わなければいい話ではあるが、外交上二国は手を結んでいる為年に一回の割合で必ず対面している。

 麒麟同士は主ほど仲が悪いほどではないし、そもそも官吏に至っては、年に一度の会合を心待ちにする程気心知れた仲となっている。
 会合が終わると、後かたづけをしながら両国の官吏が互いを慰め合うからかも知れないが、ともかく両国の官吏は気の置けない間なのは間違いない。


「今年も無事終わってようございましたね」
「ええ、後はまた一年両国ともに恙無く越せることを」
「天帝にお祈り申し上げておきましょう」


 そんな官吏たちの安堵の声を聞きながら、香寧は式服に帯剣という珍妙な格好でふらりと外へと繰り出した。


 今年は範国での会合だったために雁国一行は範へと出向いていた。
 範国は美しい装飾品で栄えている。範国での会合は香寧にとって苦手なものだった。

 絶対に刃向かってはいけない人間――王に着飾られるのが隔年の恒例になっていたからだ。

 欄干にもたれながら、香寧は雲海を見渡した。

 民の上に漂う海は潜るとどうなるか正確な記述はない。
 どうしてもやるせないとき、香寧は雲海に潜りたくなる。不老で不死に近い仙人だとどうなるのだろうかと確かめたくなるのだ。

「雲海では入水自殺というかはわからんものだな」
「…気配なく背後に立つのはお止めください」
「なに、首を切るわけではないのだから気にするな」

 背後から歩み寄り香寧の隣に立った男は香寧が膝を折って忠誠を誓う延王小松尚隆だった。

 礼服をだらしなく着崩す姿はいつもの見慣れた姿ではあるが、先ほどまでの彼の姿はやはり王たる尊厳にあふれていると香寧はぼんやりと彼を見て思った。
 楽しそうに喉で笑うと尚隆は、自身の太い指を香寧の細い顎へとかけた。そのまま自分の目線と合わせるかのごとく、指をあげる。

「主上、首が痛いのですが」
「なに、気のせいだ。……馬鹿なことを考えているのではないだろうな」
「ふっ、それこそ気のせいだ。まだ人生に飽いてはいない」
「ならいいがな」

 満足したのか尚隆は指を外し再び視線を雲海へと向けた。

 天上人のみに許された至上の風景。そよ風に波打つ水面が、月を映す。

「……静かだな」
「……明日からまた久しぶりに廻ってこようと思う」
「朱衡には?」
「お伝えしてある。なるべく早く戻るようにとのことだった」

 香寧の出身国の官吏はなぜか皆香寧に優しい。
 将軍職にありながらも諸国を視察して廻る香寧に多大な理解を示す。


「おやおや、無粋な山猿が可憐な華をどうしようと?」
「……香寧、俺はなにも見なかった。だからもう寝る」
「お任せください」

 またも背後に現れた人物の声を聞き尚隆は何も見なかった振りをしてあてがわれた部屋へと戻ってしまった。

 小さくなる後ろ姿を見ながら香寧は横目で新たに現れた者を見た。
 いつも会うときは華やかな女物に身を包む彼がなぜか範国の会合の時のみ、本来の性と一致する服装をする。
 範国国王呉藍滌は、整った顔立ちの青年である。がなぜか登極して数十年後に突然女装を始めたという強者である。

 特に何もない範国の特産物を美しい細工物に仕立てあげたのもこの男である。

「なぜにそなたがあの山猿に忠義を立てるのか私には一生理解できぬ」
「私は身なりで忠義を立てる方を決めるわけではないので」
「だからこそ理解に苦しむのだよ」

 なぜか香寧は彼にとても気に入られていた。

「むさ苦しい山猿のところなどやめて範に来なさい。そなたなら、我が国でも十分やっていける」

 このように会う度に引き抜きを囁かれる。

「私の帰る場所は雁です。それは今も昔も変わらない」
「だが、そなたの居場所には誰ぞが立っている? あの山猿かえ?」

 なぜかいつもと違う会話のパターンに香寧は、拍子抜けしてしまいとっさに答えがでなかった。
 答えがあるべき場所が空白に見えて仕方なかった。

 確かに帰る場所は『雁』だ。
 だが、自分の居場所に誰か立っているだろうか。
 主上を始め、仲間だと思っている官吏達はそれぞれの居場所がある。
 けれど、帰る国はあれど根無し草な香寧にそもそも居場所などあるのだろうか。

「私ならそなたの居場所になってやれる。…心の透き間を消すために無駄に旅をしなくても良くなる」

 それは、香寧の言葉にすんなりと沁みいる言葉でもあった。
 不安を感じる心にとっては特効薬にもなり、中毒を起こす麻薬にも似た甘美さ。


 言葉もなくふらりといなくなった香寧の後ろ姿を見て藍滌は、鬱陶しそうに結われた髪をほどいた。
 さらりと、どこの美女にも負けぬ髪が背中に舞い落ちる。


「全く、だから雁に置いておきたくないのだよ。粗野な山猿の集まりらしく心遣いに欠けておる」

 誘惑のように卑怯な手で引き込むのではなくて、正々堂々と引き抜いてみせる。



(不思議な言葉でいくつかのお題)


藍滌さまがわかりませぬ。でもだいすきー。

拍手[0回]

ブログ内検索

注意書き

【TOS・TOA・彩雲国物語・遙か・十二国記など】の名前変換小説の小ネタを載せております。
各小話のツッコミ大歓迎です!
気軽にコメントしてください。

カテゴリー

最新記事

設定

各タイトルの説明

【schiettamente】又は【軍人主】
 └TOAマルクト軍人主人公
 デフォルト名:ラシュディ・フォルツォーネ

【教団主】
 └TOAローレライ教団主人公
 デフォルト名:アディシェス・アスタロト

【アゲハ蝶】
 └TOA雪国幼馴染主人公
 デフォルト名:エミリア・ティルノーム

【ensemble】又は【旅主】
 └TOS旅仲間主人公
 デフォルト名:アトラス・ファンターシュ

【一万企画】又は【企画主】
 └TOSロイド姉主人公
 デフォルト名:セフィア・アービング

【傍系主】
 └TOA傍系王室主人公
 デフォルト名:ルニア・ディ・ジュライル

【十二国記】
 └雁州国王師右将軍
 デフォルト名:栴香寧

【遙かなる時空の中で3】
 └望美と幼馴染。not神子
 デフォルト名:天河華織

【明烏】
 └遙かなる時空の中で3・景時夢
 デフォルト名:篠崎曙

【彩雲国物語】
 └トリップ主
 デフォルト名:黄(瑠川)有紀

【コーセルテルの竜術士】
 └術資格を持つ元・旅人
 デフォルト名:セフィリア・エルバート
 愛称:セフィ

【まるマ・グウェン】
 └魔族
 デフォルト名:セレスティア・テリアーヌス
 愛称:セレス

【まるマ・ギュンター】
 └ハーフ、ヨザックの幼馴染
 デフォルト名:シャルロッテ・ティンダーリア
 愛称:シャール

【逆転裁判】
 └成歩堂・御剣・矢張の幼馴染で刑事
 デフォルト名:筒深稔莉(つつみ みのり)

アーカイブ

リンク

管理画面
新規投稿

お題配布サイト様


Natural Beautiful
└「何気なく100のお題」
A La Carte
└「ふしぎな言葉でいくつかのお題」
追憶の苑
└「詩的20のお題」
└「始まりの35のお題」
リライト
└「気になる言葉で七の小噺」
└「君と過ごす一年で十二題」
Ewig wiederkehren
└「恋に関する5のお題」
Dream of Butterfly
└「失われる10のお題」