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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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青空 深い悲しみの色

有紀が彼に出逢ったのは偶然であった。



鳳珠の言質を取り、年に一度彩雲国を全国津々浦々点心修業(放浪)している有紀だが何故だか年に一度の旅で必ずといっていいほど『藍龍蓮』と出逢う。

それは決して嫌な事ではなく、むしろ楽しみにしていることでもあった。

有紀が龍蓮と出逢ったのは5年ほど前だ。




辿り着いた街で宿屋を探し歩いているときにそれは聞こえた。


その怪奇音はとてもではないが長時間聞いていられるものではなかった。その証拠に有紀の周囲の人間は皆一様に蒼い顔をしてバタバタと倒れ始めた。

そしてその音源は動いているらしく、しかもどんどんと有紀の方へと向かってきていた。
有紀としては長時間聞いていたくない笛の音であるが、長年吹奏楽をしかも真後ろにパーカッションが来る位置で演奏し続けてきた経験者としてはなんとか耐えうるものだった。

知らない間に怪奇音は終幕へと向かっているらしく、近くにやってきながら高みに上っていっていた。

満足げな微妙な余韻を残して終幕を迎えた笛の音にとりあえず有紀は拍手を送った。
その拍手が奏者にきこえていようといまいと気にせず、なんというか最後まで吹き切る根性に敬意を評した。

拍手を送りながら事の元凶を突き止めようと辺りを見渡すと何故か立っている人間は有紀を含めて五、六人であった。

そしてその中で笛を持っていたのは一人だけであった。
まだ十をいくつか過ぎたようにしか見えない少年だった。


見事な黒髪でなんとも奇抜な服装をしている少年は拍手に気付いたのか有紀をじっと見ていた。

ゆっくりと互いの視線が合うと彼は有紀の方へと歩いてきた。


まだ有紀の肩辺りの背の高さではあるが、とても整った顔立ちをしていた。
深い色をした瞳は、何かをほうふつさせる。何処かで見たことがあるようだった。


言葉を交わして有紀は少年を「なんと風変わりな少年なのだろう」と心の底から思った。

けれど悪い子ではないと、直感が告げていた。

「そういえば自己紹介がまだだったね。私は黄有紀」
「うむ。藍龍蓮だ」

『藍家』
彩雲国においての大貴族彩七家の中でも筆頭名家。
有紀が籍を入れてもらっている『黄家』も彩七家に入る。

藍龍蓮と聞き有紀は龍蓮の全身を見渡してみるが、服装が派手なの以外特に普通であった。

「じゃあ、始めまして。龍蓮殿、旅で会ったのは何かの縁。一期一会というし、一杯お茶しよう」

右手を差し出すとやはり彼も戸惑ったように手を見た。

「『握手』っていうの。『始めまして、仲良くしましょうね』っていう約束をするの」
「『仲良く』…」
「私の中では『お友達になりましょう』って誘い文句かな?」

龍蓮は迷ったように小さく「友……」と呟くと、ゆっくりと右手を差し出した。

「うむ。よろしく」
「よろしく」
「一期一会とはどんな意味を持つ?」
「一生に一度限りの出逢いだから、誠心誠意真心込めて出迎えましょう」

茶道から派生した言葉だ。茶道は嗜んだことはないが、有紀はこの言葉が好きだった。

「……扉を潜り、私と君が出逢ったことは一期一会かもしれん。だが、これ限りにはならないだろう」
「ん?」
「有紀とはまた会うだろう」

妙に確信深げに呟く龍蓮を見ると印象的だった瞳が覗けた。

じっと見つめ返すと有紀は既視観の正体に気がついた。

天上天下唯我独尊でありながらただ一人の人を慕っている鳳珠の友人であり有紀の友人の絳攸の養い親の紅黎深の瞳とよく似ていた。

ふと龍蓮の瞳が穏やかに細められた。

「気付くか」

彼には数人であるが居る。けれど龍蓮にはいない。


自分には邵可の様に全てを受け止めてあげたりは決してできないと知っている。
そもそも自分が人に何かしてあげるなどという考えは元から持っていない。


「龍蓮って呼んでもいい?」
「真の我が名ではない故好きに呼ぶとよい。私は有紀と呼ぶ」
「一緒に点心食べよう? それで、また何処かで会ったら一緒にまた点心を食べよう」

変わったお茶友達くらい作ってもいいではないか。そんな考えで言った。

再び手を差し出せば彼は小さく笑ってその手を取った。その微笑が普通の少年の様に見えて、どこか嬉しくて二人は手を繋いだまま店まで歩いていった。



「龍蓮はお兄さんが四人も居るんだね」
「同じ腹から生まれたという兄弟は四兄のみだ」

遠回しに腹違いならたくさん居るといわれて苦笑するしかなかった。
淡々とした表情ではあるが何故か黎深によって表情を読み取る術を得た有紀は微笑んだ。

「立派なお兄さん達なんだね」
「愚兄ではあるが」
「いいね、兄弟喧嘩はするものだよ。兄弟がいなくちゃ喧嘩はできないし」
「ふむ、喧嘩か。風流でないものはあまり好かぬ」

龍蓮の風流の基準は常人と掛け離れているようだが。

「お兄さん達も龍蓮みたいなかわいい弟を持って幸せだね」
「愚兄その四はそのようには思っていないようだがな」

人生初だと思われる程、龍蓮は初対面の有紀になんでも話した。
何を話してもにこにこと聞き、絶妙ではないにしろ相槌を打ち真剣に話を聞いている姿が少し嬉しかったのだろう。

点心を食べるだけのはずが夕餉を共にし、同じ宿に泊まっても有紀は嬉しそうに笑っていた。
常人であれば龍蓮の話し方を聞けば、一様に微妙な顔をしたり聞いている振りをしたりする。
そのことを彼は特に気にも止めていなかった。

けれどやはり、嫌な顔一つせず真剣に話に聞き入り掛け値なしに微笑んでくれる存在は今まで三兄以外居なかった。最も彼等は愛情表現が人より特殊であるために一見するとそうは見えないのだが。


一晩経って有紀は龍蓮が物凄く自分に懐いているような気がした。
なんだかかわいい弟分ができたようで嬉しかった。

それになによりも。

「龍蓮は多分私の中では色んな意味で『はじめて』の友達だよ」
「確かに私は繋がりを持っていない」

一を言うと十以上が返ってくるが特に気にはならなかった。
有紀の今までの交友範囲は全て『鳳珠』を介した延長線上にあった。彼等も大切な友ではあるが、龍蓮が初めてできた無関係な友達であった。


優しくて、素直で真っすぐな『藍龍蓮』という少年がとても愛おしかった。

たとえ横笛が壊滅的に下手でも、たまに全てを見透かされても有紀は龍蓮が好きだった。



「我が旅の友にして心の姉よ、今宵は月が美しい」
「仲秋の名月だからね。じゃあお団子作ろうか」
「ふ、私自ら茶をいれよう」


それは例え林の中だろうと森の中だろうと、構わなかった。



**


うまく話しの展開を作れません。
藍龍蓮との交流? 先にこっちが書き上がったのでした。イマイチ龍蓮の口調が掴めないので微妙ですが。
おそらく藍家三つ子当主から面白い手紙とか届いて鳳珠や邵可に相談してそうです。

拍手[4回]

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彩雲国物語 平安パラレル

デフォルト名:嘩珪(ようけい)

注意!少し怪しめ?


**


御簾越しに交わされるやり取りに楸瑛は柄にもなく苛立っていた。

御簾の向こうに居る彼女以外この場には誰も居ない。
悪戯に吹く風に掠われ庭院の木の葉がサヤサヤと揺れる。揺れながらも決して風に捕われることをしないその葉は嘩珪に少し似ていた。

これまで楸瑛が出逢ってきた女性の中で嘩珪は特に変わっていた。

自慢ではないが楸瑛程多くの女性の口に上る男はいないだろう。泣かせた女性は数知らず、なまじ家柄が高い為に女性を寝とられた男は抗議に出ることもできない。

どんな女性でも彼が訪れれば喜ばぬ人はおらず、歓迎されていた。

けれど嘩珪は違っていた。

歌を送ればつれない、そっけない返歌。けれど教養高いことを伺わせる。突き放していて、けれど優しくそっと包み込む。
御簾越しであっても会話を交わせばそんなことはすぐにわかった。そして誇り高く、理想がある。

今まで数多の女性と交わしてきたとは違うやり取りに楸瑛はのめり込んでいた。

それとわかる歌を送っても、段々と突き放すようになってきた返歌。


すっ、と御簾の下が浮き扇が差し出される。それは嘩珪の無言の「帰れ」という催促。二人の間での暗黙の了解でもあった。

楸瑛はいつの間にか嘩珪からの熱い返事を待ち望むようになっていた。けれど剥き出しにするのは彼の誇りが許さなかった。そして今までの彼の行いが余計に彼女の囲いを高くしていた。


「・・・・・・楸瑛殿?」


いつまでも受け取らない楸瑛に不思議そうな嘩珪の声がかけられた。物思いに耽っていたことに気付いた楸瑛は苦笑しながらついと指を伸ばした。

今日は一体どのようなつれない歌だろうか。

また「もう二度と来るな」等という歌だったらどうしようか。自嘲の笑みを浮かべると小さく息を吐いた。

ふわりと、焚き染められた香の薫りがした。
控えめな侍従。けれどはっきりと主張する沈香。

楸瑛は自分が指を伸ばした先を見た。ほっそりとした白い指が御簾の下から覗き扇を支えていた。

「――・・・・・・っ」

彼は息を呑んだ。そして迷うことなく楸瑛は扇を受け取った。

ゆっくりと御簾を潜って戻ろうとするその指を優しく、けれど有無を言わさぬ強さで掴み扇を放り投げた。
房の中で嘩珪が息を呑んだ気がした。
楸瑛は笑みを消し去ると逆の手で御簾を捲くり上げ、中へと入り込んだ。

御簾越しで、うっすらと見ることのできなかった嘩珪がそこにいた。
片手を楸瑛に取られ、驚きにその類い稀なる美しい顔を染めながらも逆の手の袖で顔を辛うじて隠していた。

悪戯な風が御簾と共に嘩珪の艶々とした黒髪を掠う。


「嘩珪殿」

喉の奥から搾り出した声は、少し掠れていた。
けれど楸瑛に顔を見せまいと反らす嘩珪は返さなかった。

そのことを嘩珪らしいと思いながらも楸瑛は心の隅では苛立ちを感じていた。
舌打ちしそうになるのをおさえ、嘩珪の手を掴んでいない手で彼女の腰を抱き寄せた。けれどやはり彼女は顔を反らす。


「嘩珪殿、こちらを向いてください」
「・・・・・・嫌です」
「嘩珪殿」
「・・・人を呼びますわ」

賢いとは言えぬその言葉に楸瑛は少し笑った。
音が聞こえたのか勢いよく目を楸瑛に合わせた嘩珪の後頭部に素早く手を回した。二度と自分から目を反らさせないように。

「女房達を私が帰るまで下がっていろといったのは貴女ですよ?」
「・・・・・・っ」
「例え来たとしても貴女の家の者は私に逆らえない」

黒耀石のような瞳に自分の姿を見出だした楸瑛は自然と顔が綻んだ。
例えその二つが楸瑛の言葉に鋭く検のあるものになったとしても嬉しいものは嬉しかった。

自分は一体どうしてしまったのだろうか。
楸瑛は自問自答してみたが答えは出なかった。

吸い寄せられるように楸瑛は嘩珪の耳元で囁いた。

「貴女がいけないんです。私を拒むから。――だから」
「人のせいにしないで下さい。貴方は私が珍しいだけ。もう」
「『関わるな』と?」

嘩珪は困惑を何処かに置き忘れて来たかのように毅然としていた。
楸瑛は腕を取っていた手を放し、顎へと指をかけた。残りの指でそっと頬を撫でると嘩珪は厭そうな顔をした。

「そうですね。けれど・・・・・・もう、遅い」

頬に唇を寄せ噛み付くようにすると嘩珪の身体が震えた。
腰に腕を回しグイと引き上げ、赤く熟れた唇に口づけを落とした。


「貴女が悪い。――私を焦がした貴女が。・・・絶対堕としてみせるよ」



**

何が書きたかったのかサッパリです・・・・・・。何故?! 楸瑛って絶対本命には慎重になると思うんですよ。で逆に誤解されて凹むと。
これはただ楸瑛が御簾を押しのけて入る場面を書きたいが為にこうなったのですが・・・平安パラレルで遊ぶのは楽しいけど困るのがやっぱり「歌」ですよね。
自分じゃ作れないから引用しかないのですがそれじゃつまらないしなぁ・・・。

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彩雲国物語 <青空> 異文化交流

 そこに居た男は有紀の全く知らない人間だった。

 初対面の人間を躊躇なく見下ろし、扇で口元を隠しながらなにもかもを見通すような眼で有紀の全身をジロジロと観察していた。

「お前、名は何だ」
「黄有紀と申します」


   異文化こみゅにけーしょん


 有紀の家族となってくれた黄鳳珠はとても優しく、頭が良い人でそして

 物凄い美人であった。

 沈着冷静で判断力に富んでおり、将来有望であるらしい。

 有紀は朝出仕し、余程のことがない限り夕餉の時間には帰ってくる鳳珠と食事を共にし、食後は鳳珠により勉強(漢詩や歴史等の一般教養)をみてもらっていた。
 彼が居ない昼日中は家人達や鳳珠の手配した師達によって徹底的に色々と叩き込まれていた。

 新たな発見が多くて、哀しくとも切なくとも楽しい日々を送り始めていたそんなある日。


 有紀は自由時間には庖厨に入り浸っていた。

 理由は単純明快でただ梅干しや味噌汁が恋しくなって庖厨に行くと味噌が存在しておらず梅干しもなかった為に日々庖厨を預かる者達と相談していたのである。
 ちなみに梅は時期ではない為に手に入らないそうだ。
 醤油もなかった。けれど似たようなもので醤(ひしお)というものは存在していた。
 けれどそれらは有紀が知っている醤油とは程遠い程濃厚で、醤油に近そうなものは単に着色に使われているらしかった。




 とりあえず談議だけするのが今の有紀の日課であった。

 だが、その日はその楽しい時間を中断させられてしまった。


「私にお客様、ですか?」

 呼びに来た家人は困惑した顔で首肯した。全くもって心辺りのない有紀は疑問に思いながらも家人の案内に従った。



「失礼致します。有紀様をお連れ申し上げました」
「入れ」

 入室の言葉に有紀は若干緊張しながら礼を守りながら入室した。



 そこに居た男は有紀の全く知らない人間だった。

 初対面の人間を躊躇なく見下ろし、扇で口元を隠しながらなにもかもを見通すような眼で有紀の全身をジロジロと観察していた。

「お前、名は何だ」
「黄有紀と申します」
「ふん、黄姓を与えたのか。鳳珠も物好きな」
「失礼ですが・・・・・・お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何だ」
「お名前をお聞きしても?」

 男は鼻で笑うとパチンと扇を閉じた。
 ずかずかと有紀の目の前まで来ると自然な動作で扇の先で有紀の顎を掬い上げた。


「・・・・・・ふん。十人並みだな」
「それは十分解しております」


 首を無理矢理上げられて首が痛いものの、鳳珠の名前を呼び捨てて尚且家主の留守中に上がってこられるこの人物は鳳珠の友人だろうと思い有紀は男の眼をじっと見ていた。

 面接官と話すときは目又はネクタイを視るべし。である。


 男はなんとも不思議な目をしていた。
 色はとても美しい色合いで、けれど何やらおぼろげなものを有紀と共に見ているようだった。同時に酷く冷たかった。悪意はない、けれど底冷えしそうな程の孤独がそこにはあった。
 そして、顔立ちは鳳珠には負けるが整っていた。

 まじまじと観察し返していた有紀は男の瞳になにか別の感情が宿ったのを見た。


「・・・・・・・・・お前・・・」


 男がなにかを言いかけたその時に室の扉が勢いよく開いた。


「黎深! 有紀に何もしていないだろうな?!」

 室に入ってきた鳳珠は黎深を睨みつけた。彼が口を開く前に黎深は扇を抜き取りまた口元に広げた。

「遅かったな鳳珠、待ちくたびれたぞ」
「お帰りなさい、鳳珠さま」

 首が自由になった有紀は入ってきた鳳珠の前に立ち彼を見上げた。自然と笑顔になると鳳珠も怒り顔から微笑へと変わり有紀の頭に手を載せた。

「・・・・・・ただいま」

 その言葉まだくすぐったかった。

 鳳珠の帰宅によって男の名前が判明した。
 素晴らしく高級な布地を使って仕立てられている服に身を包んだ男。けれどよく見ればその服は『紅色』を基調にしてあった。

 紅は準禁色である。その色を身に纏うことができるのはその色を家名に持つ直系の者だけ。


 よってこの男の名前は


「紅黎深様。私になにか御用がおありでしたか」

 問いつつも答えはわかりきっていた。
 友人が拾った子どもを友人が見に来たのだろう。

 だが有紀の問いの応えは返ってこなかった。

「鳳珠の顔を見ても動じないとは・・・・・・中々やるな」
「・・・・・・それは黄家の方々にも言われましたがどういうことなのですか?」
「知らんのか?」

 黎深は意地悪く笑うと入口に立っていた二人を椅子へと促した。
 急に態度が変わった黎深を不思議に思いつつも有紀は素直に礼を言って座った。
 一方鳳珠は心底驚いていた。

(あの黎深が初対面の・・・・・・しかも子供に茶を勧めた)


 明日は大吹雪に交じって槍が降るかもしれない。

「鳳珠が国試を受けた年は過去最低の合格者数だった」
「・・・・・・もしかして、皆さん。鳳珠さまに見とれていらしたんですか?」
「・・・・・・・・・忌々しいことにな」
「私には余興だったがな」

 黎深は余裕の笑み浮かべると結局は有紀がいれたお茶を飲んだ。
 鳳珠は端から見ても機嫌が悪そうだった。

「そんな昔の話はどうでもいい! 貴様、一体なんの為に現れた」

 けれど黎深は応えずに茶をすすった。

「この男がこの屋敷に不当に進入して来たのはこれが始めてではない。有紀、これからは気をつけろ」

 大まじめな顔をする鳳珠に有紀は思わず首を傾げた。

「鳳珠さまが私を拾ったから見にいらしたのではないのですか?」
「・・・・・・そうだ」

 黎深は茶請けをもそもそと食べ始めた。
 その雰囲気は学生を試して試して揺さ振る試験監督や面接官に似ていた。

「ご友人としては得体の知れない者を拾ったのかもしれないとご心配なさってもおかしくないと思いますけど・・・・・・」
「おい、有紀と言ったな」
「はい」

 しっかりと茶請けの全てを食した黎深は扇を軽く揺らした。その茶請けは有紀の好きなものも入っていた為に少し食べたかった。

「年はいくつだ」
「・・・・・・10くらいだと思います」
「よし、鳳珠。有紀は絳攸の嫁に貰ってやろう」
「誰が貴様の養い子にやるか」

 突然結婚話が出てスパッと決裂した。

「ならば兄上に会わせてやろう」

 どこかウキウキしている黎深に鳳珠は呆れたような視線を投げた。

「有紀を気に入っても紅家にはやらんぞ」
「ふん。有紀、何か欲しいものはあるか」
「物で釣るな」
「私が何をしようと勝手だろうが!」

 低レベルな言い争いが始まったが有紀は構わずに茶を飲んでいた。
 茶請けを食べられてしまったのは残念だったがもうすぐ夕餉の時間だった。

 庖厨の者によると、有紀がぽつりと話したおかずを一品作ってくれたらしいのでとても楽しみだった。

 ギャアギャアと楽しそうに(有紀視点)言い争いの声を聞きながら有紀は廊下に誰か立ったようだったので扉を開けた。


「鳳珠さま、黎深さま。夕餉、お食べになりませんか?」

 即座に言い争いをやめると黎深は何故か笑顔で偉そうに頷いた。

「そこまで言うなら食べてやらんこともない」
「帰れ。養い子がいるだろうが。有紀、こんな奴を誘う必要はない」

「三人分用意して下さったそうですよ」


 結局鳳珠が無言で負けを宣言し三人仲良く(?)食卓を囲んだ。









オマケ


「それは何だ。木の根か」
「・・・・・・しかも何故有紀だけに出ている?」
「ごぼうです。私の国では普通に食べられているんですよー。せんい質で栄養価が高くて安くて大好きだったんです」
「・・・・・・ごぼうなど食べるのか」
「私の家は比較的野菜中心の食卓だったんです。特にごぼうとかオクラとか好きなんです」
「安上がりな娘だな」
「よく言われました。ご飯とお味噌汁ときんぴらごぼうさえあれば満足しますので特に」



**

黎深様との遭遇。けれど微妙にずれた感覚の持ち主の有紀は黎深を恐れずにむしろ睨み返す勢いで。
龍蓮といい黎深様といい、天つ才の持ち主はその生まれつき故に『普通』に憧れてそうだと思ったので。
調べたら味噌は日本独特で、家庭でも作れるそうです。

やはりスポーツ選手の方の海外遠征のお話とか見ると、味噌汁が恋しくなるって本当なんですねー。
両親の誇張だと思ってました。

醤油は【醤】(ひしお)というものが数種類中国にあるらしくて、穀醤というのがあってその中でも大豆だけを使うのが日本の醤油らしいです。

そういえば、某料理漫画にも書いてあったような気が・・・。(うろ覚え)
魚醤が、どうたらこうたらとか・・・?


**
02/03
誤解を招く不適切な部分を削除。

拍手[2回]

彩雲国物語 青空の下で4

『お前は、独りきりではない』

 そんな言葉は慰めにしかならないと彼はわかっていた。
 けれど、口にせずには居られなかった。

 痛々しいその姿に、人並みに持っている彼の良心がうずいた。
 だから、置いていかれた幼児のように、呆然としているその小さな肩をそっと抱き寄せた。



 青空の下で4



 朝廷から戻ると、彼の屋敷内はどこかよそよそしい空気が流れていた。

 近寄りがたい館の主人と違い、彼が拾ってきた少女は歳の割りに礼儀正しく、どこまでも普通な雰囲気の為に家人達はその少女を気に入っていた。
 世話をすれば恥ずかしそうな顔で笑みを浮かべ、お礼を告げる姿が躾がしっかりされていると彼らの中では評判であった。
 
 そのために、少女――有紀がやってきてからの数日間屋敷内はどこか優しい空気が流れていたのだった。

 けれど、朝に出仕した時にはあったその柔らかな空気は今はどこかよそよそしく、とても沈んでいた。


「お帰りなさいませ、お館様」
「・・・何があった」

 顔を伏せたままの家人は鳳珠が想像だにしなかった、屋敷内での出来事を語った。

 聞いた直後、彼は着替えもそのままに有紀の部屋へと走った。


『有紀様がお呼びしてもお答えしてくださらないのです』


 入室の許可を得ずに鳳珠は扉を開いた。
 室内はどこも変化などしていなかった。

 けれど、現在の室の主――有紀の様子が可笑しかった。

『ご様子がとても平生からは考えられないほど、憔悴なさっておいでで・・・』

 雪がちらつき始めた季節ゆえに冷え切った床に躊躇なく座り込み、何かを手に握り締めそれをじっと眺めていた。

 その瞳は、それを通して違うものを見ているようでどこか虚ろだった。

「有紀」

 名を呼べば、鳳珠の知る彼女は「鳳珠さん・・・?」と戸惑いながらも彼の名を呼びでぎこちなく、けれど柔らかく笑っていた。

 だが、今の有紀は反応すらしない。

 どこか苛立ちを感じ、鳳珠は小さく舌打ちすると室に入った。
 きちんと火鉢が置かれていようと、室の床は冷える。
 椅子か寝台に座らせようと肩に手を置くが、有紀は反応を返さなかった。

「有紀、床は冷えるから違う場所に座りなさい」

 彼女は身じろぎすらしなかった。

 強引に持ち上げ、寝台に座らせると鳳珠は有紀の体が冷え切っていることに驚いた。
 慌てて家人を呼びつけて温かい飲み物と火鉢を増やすようにと命じて隣に腰掛けると自分の上着を有紀へとかけた。

 家人の到着を待ちながら、ようやく鳳珠は有紀が握り締め、見つめている物に目をやった。

 それは、彼女が身分証明書として見せたものであり、家族だと紹介した時の素晴らしく出来のいい絵姿だった。

 目の前のものを如実に描かれたものは彼女のいた世界の文明の高さを思わせるもので、不信感抜きに感嘆を覚えたものであった。
 けれど、鳳珠は違和感を抱いた。

 その正体を見つけるために鳳珠は有紀の手からそれらをそっと抜き取った。

「・・・・・・?」


 抜き取られた有紀はようやく鳳珠に気づいたように隣に座る鳳珠を見上げた。
 その顔はどこか生気がなく、瞳にも先ほどの虚ろさは抜けたとはいえ覇気が感じられなかった。
 少し安堵しながら鳳珠はじっとその精巧な絵姿を見た。


 幸せそうに笑っている有紀の家族や友人だというものたちの絵姿。
 けれど、全て何かが抜け落ちたように奇妙な空間が空いている。

「・・・・・・なんだ」

 何が記憶のものと違うのか。眉間に皺を寄せた時家人がようやく言いつけたものを持ってきた。とりあえず、鳳珠は彼らに采配を振るために絵姿を寝台の上に置いた。

 家人が持っていた飲み物には茶請けように、有紀が「美味しい」と喜んだものが多すぎるほど添えてあった。

 突然現れたのに見事に屋敷に溶け込み家人に受け入れられている有紀に思わず微笑を零した鳳珠は、絵姿に目をやったときようやく違和感が判明した。


 全ての絵姿の中から有紀の姿が消えていた。



「・・・鳳珠、さん・・・」


 消えそうなほどのか細い声に、鳳珠は有紀を見た。
 有紀は腰掛けたまま俯き、膝の上で手を握り締めていた。

 その手は痛々しい程に震えている。


「私、元の世界に・・・居場所・・・。なくなっちゃったみたいです」
「・・・・・・」

 かける言葉が見つからず、鳳珠は有紀の正面に膝立ちになる。それに気づいた有紀がゆっくりと顔をあげた。
 女子にしては短すぎる黒髪がさらりと音をたてて流れ落ちた。
 有紀は身分証明書だと言って差し出した小さな帳面を指でなぞった。


『・・・読めん』
『これは横書きなんです。これが“瑠川有紀”私の名前です。こっちのが
生年月日で、これが住所です』
『これは』
『これは写真っていって、目の前のものを写し取ったものです。18歳だった筈の私です』

 笑って説明していた有紀の「名前」や「生年月日」、「住所欄」は何事もなかったように白紙に戻っており、「写真」からは姿だけが綺麗に消えてしまっていた。


「みんな・・・。私のこと、わすれちゃったのかな」

 
 置いていかれた子供のような、傷ついた瞳をした彼女は苦く微笑んだ。――痛みを堪えた、泣きそうで泣けない、そんな心の奥底をさらけ出したように。
 いくら本人が18だと言い張っても、鳳珠にはただの小さな子供にしか見えない。
 泣きたいならば、泣けばいい。子供はまだ我慢を覚える必要はないのだから。

 鳳珠はそっと有紀の肩を抱き寄せ、顔を己の肩へと押し付けた。

「・・・鳳珠、さん・・・?」
「泣きたいならば、思う存分に泣け。見栄をはるな」

 見栄などはっていないことは鳳珠も承知であった。当然、有紀は困惑し、少し身じろぎするが鳳珠は腕を放さなかった。

「こうしていれば、お前が泣いたことは私には見えん。置いていかれた子供のような顔をするな」
「そんな、顔・・・」
「していないというなら、鏡を見せてやろう。だが、今はそんなことをするよりも思う存分に泣け。そうしたら、放してやる」


 『君のその麗しい声で命令されたら、逆らえるものなどそうはいないだろうな』


 天上天下唯我独尊男が評した己の声をこの時は利用した。


 『そうですね。低い声など、もう誰にも抗いようがないでしょうね。まあ、私には効きませんが』


 そして、天上天下(以下略)や鳳珠を抑えて国試を状元及第した穏やかな笑みを浮かべる彼は更に太鼓判を押した。


「泣いていろ。居場所がなくなったとしても、家族からお前の記憶が消えても、お前の中には記憶が残っているのだろう。それではいかんのか」
「・・・・・・っ・・・」
「居場所がないなら、作ればいい。だが、そんなことは後だ」

 鳳珠は、一拍おいて、低い声で優しげに囁いた。

「今は、泣け。有紀」

 
 その後、有紀は鳳珠の着物にしがみ付いて泣き続けた。


 泣けと言ったのはいいものの、対処法など分からない鳳珠は手をどこへやればいいのか迷いつつも、艶々として黒髪にそっと手を添え、片手は背中をそっと擦り続けた。



 泣き終わった有紀に、鳳珠はここ数日間思っていたことを伝えた。

 家人が客ではなく、仕える人間として接している節があること。
 そして、何よりも鳳珠の顔を真正面からみて会話すること。

 天上天下(以下略)男が孤児を拾ったと聞かされた時は世界の終わりかと思ったが、少しだけ気持ちが分かる気がした。
 天上(以下略)男は気まぐれで拾ったのだろうが。嫌がる少年を面白がって拾ってきたらしい。それは犯罪だと思うのだが。


「有紀、この家で暮らさないか」


 少しの間だけ、世話になるつもりでいた有紀はやはり鳳珠の予想通り泣き腫らした目をこれ以上ないくらい見開いた。



 そして、鳳珠は一生誰にも言わないであろう言葉を紡いだ。

 その言葉は、有紀には到底信じられるものではなかったが、数日間で彼の人柄は少し分かっていた。――鳳珠は優しい嘘はつかないだろうと。


 だから、少し迷いながらも有紀は頷いた。そして「ありがとう」と涙した。



『この家で私と暮らそう。家族がないというのなら、私がお前の家族になってやる』



**


鳳珠様が大好きです。あの人仮面被ってるのに男前すぎる・・・!!
口調がイマイチ不明ですが、こんな感じかなぁ・・・。
とりあえず「青空の下で」は完結で、以下ブームが続く限り進みます。
多分、色々と改訂して本館の方でアップです。
恋愛要素を加えるなら相手は絶対鳳珠様はありえないと思います・・・。
多分双花菖蒲・・・?

拍手[1回]

彩雲国物語 青空の下で3

瑠川有紀は18歳の高校三年生だった。
あと二年で大っぴらにお酒が飲めると内心数えていた初冬に漫画や小説でよく言う異世界トリップというのを経験した。
――黄鳳珠という美形の中の美形ともいえる大変見目麗しい人に幸運にも拾われたとき何故か外見年齢が10歳前後という名探偵もビックリなおまけ付きではあったが。
そして拾ってくれた黄鳳珠という青年はこの国、彩雲国の中でも大貴族。彩七家のうち黄家出身であった。


ただの異世界トリップであったならば「夢か現かわからないけどいつか帰れるかもー?」と淡い期待を抱きつつも複雑な気持ちを持て余していたかもしれないが、有紀は何故か外見年齢が小学生高学年であったために心のどこかで「ああ、帰れないのだ」と達観していた。


それは雪兎がいつかは溶けてしまい、春は夏に、夏は秋に、秋は冬になるのが定めであり抗うことはできないような諦めと似ていた。
どうあっても変えられないもの。そんな気がした。



だから、鳳珠に自分の身の上話をしてこれからどうかするか尋ねられた時にそう答えたのだった。

瞬間、彼は困惑の表情をした。そして綺麗な瞳を曇らせ、心配そうな声音で言った。

『さみしくないか』

有紀は偽ることなくその美しい双眸を見上げ、笑った。
見た目は十と少しの少女なのに、何もかもにつかれ、諦めそうになっている顔はさぞミスマッチだっただろう。

『哀しいです』

行方不明者は何年後に鬼籍に入れられるかはわからないが、おそらく戻れないだろう。

そう諦めていた筈だった。覚悟していたつもりであった。



その日までは。


有紀をどのように扱うのか決めあぐねていた鳳珠は、とりあえず有紀が今の大きさの体に慣れるまで屋敷で好きに過ごす事を提案した。
有紀は初めただ置いてもらうのには心苦しいので何か仕事をと頼んだがこの世界やこの屋敷内の常識もわからない為に逆に邪魔になるといわれおとなしくしていた。


そんなある日。有紀は珍しく自分が持っていた荷物を整理していた。
入っているのは持ち帰る筈だった副教科の教科書や辞書達。辞書は辞書でも紙と電子両方を持っていたので電子辞書の中のものは即刻書き写しておいた。
他には持ち歩いていた文庫本の類いではあったが、その中に学生にとっておそらく大切と思われるもの――生徒手帳があった。

鳳珠に拾われて早数週間。鳳珠に身分証明する為に見せた以来目にしていなかったそれを有紀は懐かしそうに手に取り、ゆっくりと開いた。


そこには、日頃写真写りが悪いと零しながらも嫌々写っている18歳の有紀の写真と住所。学校の割印があった。


――……筈だった。


「……なんで?」

指の腹で擦ってもそれは全く変わらなかった。
何度も瞬きをして、眉間を指でほぐしてもそれは変わらない。

身分証明の欄から『瑠川有紀』の名前が消えていた。

名前だけではない。

写真は貼ってある。けれど、『瑠川有紀』は写っていない。
人だけ見事にいなくなっている。

名前も、写真も。住所も生年月日も。

『瑠川有紀』が地球の日本に居たと証明するものは何一つとして残っていなかった。跡形もなく、消え去っていた。


「……なんでぇ…?!」


定期入れに入れてあった修学旅行の写真も、最近撮った家族写真もプリクラも。

全てから有紀の姿が消えていた。


鼻の奥がツンとして痛い。



涙は、流れなかった。

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