TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。
感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。
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会う度に藍色の眸をのぞき込み、安堵の表情を浮かべる有紀を見るのが最近の彼の小さな楽しみだった。
ひょこひょこと黒い髪に、奇抜な色の羽が踊る。
それを目で追うのが楽しいのか彼の眸は少し楽しそうだった。
振り向く彼女の顔は当初の微妙な表情から一変し、少し諦めが入っていた。
「龍蓮?」
「…やはり、我が心の姉弟のものはなかなか見つからぬのだ」
唐突な言葉に有紀は立ち止まり、しばし首を傾げて考えた。
「龍蓮はお揃いはイヤ?」
「……ポヘー」
「笛を吹いて誤魔化さないの。言葉には言葉で返事をする」
「承知した」
首肯するも彼はじっと有紀の頭に飾られている羽を見続ける。
そもそもその頭に飾られている羽は龍蓮と再会したときに彼が満面の笑みで有紀の髪に挿したのだった。嫌といえずに、言われるがままに挿していたがやはり似合わないらしい。
考え込む龍蓮につられて有紀も考え始める。
「やはり有紀にはもう少し違うものが似合うのだろう。見つけ次第早急に贈ろう」
「楽しみにしてるね」
「祈願を祈ってここで一曲」
ぽへぷーヒホーというなんとも間抜けながらも耳に残る笛の音を聞きながら有紀は苦笑を浮かべて視界に揺れる羽を指で摘む。
色彩豊かなこの羽はいったい何の鳥から手に入れたのかいつも気になっている。龍蓮のことだ、買った。というよりも手に入れたという表現の方がしっくりくるかもしれない。
どちらにしても、有紀にとって龍蓮は彼の兄と比べてとても付き合いやすいと思っている。
少し先の未来それを周りの人々に言うと皆真剣な顔で「目を覚ませ!」と言ってくることを当然このときの有紀は知るはずもない。
《全国津々浦々天心修行の旅》に出ると言って、直前の出来事もあり家出のような形で旅に出て五年ほど。一年に半年ほどは鳳珠の待つ貴陽へと帰るが残りの半年は旅をして過ごしている。
今、彼女は悩んでいた。
そして、それを口に出さずとも龍蓮は気づいていた。
ヘホーと微妙な余韻を残して笛の演奏を終了すると龍蓮はまっすぐに有紀の目を見つめた。
「今回はもう君は戻らなければいけない」
「龍蓮……?」
「必ず有紀の為の羽を手に入れると私は¨約束する¨」
龍蓮が何もかもを見透かしたような発言をするのは何も今に限ってではない。だから、疑問は感じても戸惑いはない。
「…また会える?」
彼は、有紀の反応に口元に笑みを浮かべる。その言葉は彼にとって予想通りのことであったはずなのに、なぜか嬉しさをもたらす。
その気持ちが何に起因するのか彼にとっては理解の範疇を越えていたが、だが嬉しい感情であるのは確かだった。
「『食欲の秋』に新たな羽を届けよう」
「じゃあ一緒に栗拾いに行こうか」
「秋を食べ尽くすのもまた一興だ」
(隠された嘘)
原作の変人さがうまく出ないのでもっと読み込んできます。
龍蓮を書くと私の力量が一発で分かります…
龍蓮の有紀ちゃんの呼び方がうまく定まりません。
心の友は三人で決定ですし。
…旅の友というのもこの二人に関してはしっくりきませんし。
[3回]
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雪が降っていた。
辺り一面を多い隠してしまう白い使者。
なにに誘われたのか夜も深まる時刻に肩掛けのみを羽織り有紀は外へと足を踏み出した。
凍てつく寒さが背中を覆い身が震えるが、いたずら心はやまない。
何の音もしない庭院に、サクリと雪を踏む音が響いた。
共に漂うのは慣れない気配。全く知らない気配に体が竦む。
雪が降る音がしている気がする。おそらくそれは幻聴で、心臓の音が耳元で聞こえるようだ。
勇気を持って振り返れば、そこには白銀の髪を持つ、気配が強くとげとげしい空気を纏った青年が立っていた。
「…誰だ」
見た目に伴い声も聞き惚れそうなほど美しい。けれど鳳珠には負ける。
それを思い雪を見ると、あのときを思い返すからだと思いだして有紀はふわりと笑った。
「ここは後宮ですよ。主上の許可なき方はご退出願います」
「後宮、か…」
つぶやくと彼は空を見上げた。肩から白銀の髪が滑り落ちる。
「迷われたのですか?」
サクリ。音を立てて有紀は前に進む。
白銀の髪に積もった雪を伸ばした指先で払い落とすと彼の視線が有紀に集中しているようだった。
じっと眸を見返すと有紀はふと肩に羽織っていた肩掛けを外し、彼に差し出す。
「…体を冷やしてはいけないのは女性の方だ」
受け取ろうとしない相手に有紀はふわりと笑みを浮かべた。そして小さく首を振る。
「いいえ、年輩の方は敬い大切にしなければ」
そう言って問答無用に彼の肩に肩掛けを羽織らせる。驚いたような気配がするがそれは黙殺して、そっと相手の手を取った。
野良仕事や武術とは無縁だと如実に語る手は、有紀の想像通りやはり冷えていた。
「このまま外朝までご案内いたします。と言いたいところですが、温かいお茶でも飲んで行かれますか?」
「…年頃の娘が不用心なことを言うな」
「では温石は?」
「いらない。案内していただこう」
申し出はほぼ断られたが、手はふりほどかれなかったので有紀は微笑み、外朝を目指した。
「木瓜は庭に植えてはいけませんよ?」
「植えていない」
さくさくと雪を踏み分けて回廊へと渡ると彼は憮然とした面もちで言った。
こんな時間に後宮に迷い込む人間だからどんな人物かと思ったが、意外と迷信を信じるタイプだったらしい。
その後は会話などなく、雪が降り続ける以外になにも起こらなかった。
さすがに夜半時であり風は冷たく、雪によって冷えた冷気が容赦なく回廊に吹き込む。
思わず肩が震えたが、自分で渡しておきながら上着を返して欲しいなどと言えるはずもなく、かといって無言で自分の腕をさすっても寒いですと言っているようなものなので、我慢した。
だが所詮はやせ我慢なので、カタカタと体が震えるのはどうしようもなく、それを押さえようと意識をそちらに集中していた。
だからなのか、唇が震え、歯が鳴らないように気をつけている有紀を横目で見ている彼には気づかなかった。
長く感じていた外朝へと続く回廊もようやく終わりが見え、ほっと一息つきそうになるのをまたも堪えながら有紀はなけなしの笑顔を浮かべた。
「着きましたよ。この先からは外朝になります。歩いていても咎められることはないと思いますが、警備の方に見つかると言い訳が面倒だと思うので上手く歩いてくださいね」
「……私が誰なのか聞かないのか」
ずっとそれが聞きたかったのだろうか、彼はじっと有紀の眸をみた。
月明かりと僅かな篝火しかないために、有紀には彼の表情はわからなかったが本当に疑問に思っているのが眸からわかった。
「危ないことを考えている方で離さそうでしたし、なによりも」
彼から視線を外して不意に庭園を見る。
雪はまだやまない。
「後で咎められて名前を聞かれても知りませんと言っても嘘にはなりませんからね」
彼が笑ったのが気配で分かった。
ふわりと有紀の肩に暖かいものがかかる。
見なくてもわかる。最初に貸した肩掛けだ。
「…早く戻って体を温めなさい」
「…ありがとうございます」
まさか気遣われるとは思っていなかった有紀は肩掛けを軽く握り、彼を見上げながら相好を崩した。
「…名を」
「有紀と申します」
「…リオウと言う」
覚えておきますねと小さく答えると彼は返答をせずに踵を返した。
立ち去る姿はとても美しくどうみても年齢にそぐわなかったが、有紀はあまり気にもとめていなかった。
後日、用事があって戸部を訪れた有紀は景侍郎に出されたお茶にくつろぎながら仮面を外した鳳珠を見てにこにこと笑った。
「年をおとりになっても美しい方は鳳珠さま以外にもいらっしゃるんですね」
「……有紀、なんと言った?」
(冬に咲く薔薇)
標璃桜さまに遭遇してみる。字を登録していないので間違えているこ可能性大。
木瓜の木を植えるとぼけるとか未だ信じている人はそう居るまい。
[2回]
先日も自分がわざわざこの得体の知れない少女を町中で拾い、お屋敷まで連れてきた。
そもそも、自分はこの家に仕えるが、全く関係のないしかも自分の行動に責任の持てない人間の面倒を見てやる義理は微塵もない。
だが、主人であり、いのちの恩人でもあり、"静蘭"の全てである彼らに頼まれたことは断ることはできないのだ。
『静蘭、この間から黎深と一緒に来ている女の子を覚えているかい?』
始まりは、邵可様の一言だった。何気ない会話だったが、どう考えてもその後の考えに簡単に結びつく。
「……はい。お嬢様がいたく懐いていらっしゃります」
この屋敷のただ一人の子供は体の弱い幼子一人。お二人の宝物である秀麗様。
誰にでも笑顔を向ける幼子だが、彼女には特に懐いている。
「有紀さんがね、最近街を出歩くようになったらしいんだ」
「……それが?」
訊き返すと、邵可様ではなく奥様が扇を広げ扇ぎながら答えた。
「わざわざ図体のでかい三人をつれてこんでも有紀を連れてこれるのじゃ。静蘭、ちと連れてこい」
「……は?」
そういえば奥様も妙にあの少女を気に入っていたようだった。奥様はそれ以上は続けずに、邵可様をニヤリと見た。
「いくら治安が悪くないとはいえ、女の子が一人で出歩くのは危ないのは静蘭もわかるね?」
「……ですが、黎深さまも影をつけておられるのではないですか?」
だったら自分がそんな面倒をせずにすむ。
けれど、それを言った途端に邵可様は何とも言えない色を顔に浮かべ、奥方は馬鹿にしたように笑った。
「お主、馬鹿よのぅ。なあ、背の君」
「うーん……。ともかく、秀麗はあまり外に出られないだろう?その秀麗に少し年上だけど、頼りになれる友人を作らせてあげたいんだ」
「妾の大切な秀麗の為じゃ。協力せい」
それを言われると、是以外の答えなど存在しない。
「静蘭。彼は『シセイラン』だ。だから、『静蘭』と同じ年の子と仲良くすることもできるのにね」
「それに気づいておらんから静蘭は馬鹿なのじゃ」
薔君の言いように邵可は微笑のみにとどめた。
彼女が一体何を考えているのか、自分には関係ないが、自分に面倒が来るならば鬱陶しいもの以外何者でもない。
けれど、宮の中で不快に思っていた人物のような嫌悪感は浮かばず、代わりにどこか懐かしい感覚を覚えることには目を瞑る。
どろどろと目に見えない何かが渦巻く狭い箱庭で、縋っていた小さな光に抱いた感情に似る。
夕暮れ時。街を歩く人々は夕餉の支度に追われ忙しない。
道行く人々が足早に通り過ぎ、路の端では遊び疲れた子供たちが別れを互いに告げている。
そんな人混みの中でも簡単に見つけることのできる黒い髪。
美しい着物を纏い、複雑ではなく、軽めに施された髪飾り。
特に整っているわけではない十人並みの容姿も頓着せずに、精一杯目の前にあるものを掴もうと手を伸ばしている。
手を伸ばすのに掴むことを躊躇する臆病さ、掴んだ後に相手を気にする頼りなさ。
けれど、相手の顔色をうかがわずに振りまく明るくて柔らかい笑顔。
それらが、自分の中に大切にしまい込んだ優しいあたたかな記憶と重なる。
「…有紀さん」
声をかけられれば、自分の名前であれば振り返る。淡い、薄緑の着物の上に黒髪が踊る。
踊り終えた髪が肩に戻ると同時に小さな黒い眸に銀の髪を持つ無表情な顔が浮かぶ。
「静蘭さん」
数歩離れていたとしても、彼女は淡い笑顔を浮かべて近寄る。はじめの頃は戸惑っていたのに気づくと彼女は、戸惑うことなく自分と接するようになった。
「秀麗ちゃん、今日は元気なんですね」
「……そうです」
歩き始める自分の横を出遅れて歩き始める。まるで当然のように肩を並べて歩く彼女は、『静蘭』と気後れなく会話をする。
今日は公休日でないために、奥様やお嬢様はこの少女を旦那様が帰っていらっしゃるまで引き留めるだろう。そのさいの紅家の家人の厭そうな顔が目に浮かぶようだ。彩七家筆頭名家の一つとはいえ本家筋以外の人間で賢いものは多くないらしい。
「あ、静蘭さん見てください」
喜怒哀楽のうちの二つを素直に出す彼女はそれに従ってか嬉しそうに声を弾ませた。興奮しているのか、人の袖を遠慮なしに掴み軽く引っ張っている。
何故かそのことに不快感を抱くことなく素直に彼女が指さす方を見れば、思わず目を疑った。気づけば街の人々の大部分が同じようにそれに見惚れていた。
「怖いくらい、綺麗ですね」
雲一つない、茜空。橙色に染まる太陽を遮るものは何一つなく、彼は勝ち誇るように己の色を見せつける。
そうして辺り一面をも己一色に染めあげる。なんて、傲慢で美しいのか。
ふと隣を見ると、先ほどまではしゃいでいた彼女は自分の腕を小さく握っていた。
普段なら他人の腕を握るということはしないのに、一体何に不安を感じているのだろうか。黒い二つの眸が不安に陰る。
自分の腕を握り小さな手の上から重ねてそっと握るとようやく彼女は自分の腕を握っていたことに気づいたらしい。
慌てて離そうとするのを握った手で制すると彼女は困ったように眉を八の字にした。
「この時間帯は逢魔が時と言うんです」
「おうまがとき?」
「普段は目に見えない悪いものが行き来するんです。…綺麗な夕暮れなんですけど」
「……それなら」
気づいたときには口から言葉がでていた。
「二人で居れば怖くないでしょう?」
(曇りなき夕暮れ)
偽静蘭注意報
[0回]
誰かに必要としてもらえることはこんなにも、心に歓喜をもたらす。
秀麗が昨日、後宮を辞した。
そういう契約だったからではあるが、あまりにもあっさりとした去り際に彼女らしさを感じて有紀は笑った。
そして彼女が去っていったことにより、この宮での有紀の存在理由がなくなった。
秀麗を影からそっと支える。
言われなくとも心配であったために、お節介とわかっていながら有紀はその頼みを引き受けた。順序が逆になっていようと構わなかった。
鳳珠が何もいわず、許してくれたのは有紀の最近の考えを見抜いていたからだと有紀は知っている。勿論、女官の仕事を持ってきたのは霄太師であったために有紀にも鳳珠にも断る余地はなかった。けれど、黎深のように表だって反対することを彼は決してしなかった。
内乱が収まってから有紀は、全国津々浦々天心修行の旅にでた。だが、それがただの口実であることは本人も鳳珠もよく知っていた。
自分探しの旅と言えば聞こえはいいのかもしれない。だが、この旅で有紀は自分が思っていたような成果は得られなかった。むしろ世の中の狭さを思い知ってしまった気がした。
自分は平凡であるということを身に沁みて思い知り、旅を続けることに疑問を感じていた。
思っていたよりも女官の仕事は大変でとてもやりがいのあるものだった。
だから、これからどうすればいいのかわからなかった。
役目を終えた以上、自分もこの宮にいる意味はない。退くべきだろう。だが、未だ臆病な自分には言い出せなかった。
秀麗が居なくなってしまい、悲しそうな主上に『私も退かせていただきます』と。
「有紀」
府庫でぼんやりとしていた有紀は後ろに劉輝が立っていたことに気づくことができなかった。あわてて振り向くと、彼のこれ以上ないくらい不安が溢れかえっている真剣な顔が目に入った。
「劉輝様……?」
「有紀。そなたにお願いがあるのだ」
「はい」
「有紀」
名をもう一度呟いて不安な顔をする劉輝から有紀にも不安が伝染した。
一体何を言われるのだろうかと。
後宮から退くように言われるのかもしれない。
そう考えると彼の不安で真剣な表情に説明が付く。彼は優しいから、どう言えば自分が傷つかないか考えてくれているのだ。
これから真剣に政を始める王にはのんびりと話を聞き、お茶を飲み交わす女官などいらないのだ。
マイナス思考に陥ると、不安な想像に拍車がかかる。
そうだ。簡単なことだ。
優しい彼に苦しい思いをさせてはいけない。
「主上、私からもお話があります」
彼がさまよわせていた視線を有紀に向けた。けれど、有紀はその視線をまっすぐにみれなかった。
「秀麗ちゃんがいなくなってしまった今、私がここにいる理由がなくなってしまいました」
だから、不必要な自分は居なくなります。そう続けようとするが、何故か目の奥が痛い。
自分で自分を苦しめる発想をして自分を哀れんで泣くなんて……。
そんないやな自分を劉輝に見せないように、勝手にこぼれそうになる涙を奥に閉じこめるために有紀は固く目を閉じた。
「主上、私は……」
「そうではない!余の話を最後まで聞いてほしい!」
「主上…?」
有紀の言葉を遮ってあわてて大声をあげる劉輝に有紀は思わす降ろしていた瞼をあげた。いつのまにか目の前にいた劉輝はものすごく焦っていた。
「全く絳攸の言うとおりだったぞ。有紀、余のお願い事を聞いてほしい」
「は、はい」
「秀麗のためにいたから居なくなるというのなら、今度は余の為に居てほしい」
「……はい?」
焦っていた彼はまた、はじめと同じ不安で真剣な顔に戻っていた。
「これまで通り、有紀には居てもらいたいのだ。忙しくなるから少し難しくなるかもしれないが、またのんびりと有紀の作ったどうなっつを食べながらお茶を飲みたい」
「……私でいいのですか」
「余はのんびりとお茶をする相手は邵可と有紀がいい」
真剣な顔で頷く劉輝に有紀は涙が止まった少し赤い瞳を細めた。自分の勝手な想像で彼を慌てさせてしまったことを反省しながら、まだ自分を必要としてくれる彼に深い感謝を感じて。
「では、私はこれまでどおりに秀麗ちゃんに玉砕して絳攸にけなされて、藍将軍にいじめられた劉輝様のグチのこぼし相手としてがんばります」
「玉砕はしないのだ……」
楽しそうに笑う有紀に劉輝はほっと胸をなで下ろした。
彼が慌てていながら不安を隠せなかった理由は、昨日絳攸と交わした会話が原因だった。
――主上、また有紀に泣きつくつもりですか?
またけちょんけちょんにされた劉輝はメソメソとしていたが、呆れたように言われた絳攸の言葉にがばりと顔を上げた。
「な、何故絳攸が知っているのだ?!」
「そんなこと誰でもわかります。それよりも、私が言いたいことはそんなことではありませんよ」
「どういうことだい、絳攸」
楸瑛の問いかけに絳攸は、手に持っていた書翰の山をドサリと置いた。
「付き合いが長いからな。今、あいつの考えていることなら手に取るようにわかる」
「……うらやましいのだ。余も、余も秀麗と…!
「はいはい主上。今は絳攸の話を聞きましょう」
楸瑛をねめつけると絳攸は、珍しく顔を曇らせて腕を組んだ。
「……あいつは今後宮を去ろうか悩んでると思う。引き留めないと泣きつく先がなくなりますよ」
暗い顔をしている割にあっさりと言われてしまった言葉に劉輝も楸瑛も言葉に詰まった。
「だ、だけど絳攸。何故有紀殿が後宮を辞すんだい?」
「……」
「絳攸!ど、どうすれば有紀は残ってくれるのだ?!」
「……では、主上はあいつに残ってほしいのですか?」
「当たり前なのだ!」
楸瑛に対する答えを放置したまま絳攸は気にせずに劉輝に対して指を突きつけた。
「ではその理由を彼女にきちんと言えば、辞めるとは言いません。いい加減な理由をでっち上げれば……」
そこで彼は言葉を切った。当然続きを待つ二人は絳攸をじっと見る。
「……まあ、帰るでしょうね」
「納得いかないね。それなら君が口ごもる理由がないだろう?」
「うるさい!」
正直に言って、『主上』と呼ばれ、辞めると言われたらどうしよう。
そのことが重く劉輝にのし掛かっていたが、杞憂に終わってほっとした劉輝であった。
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この時期に書くと全てがだめですね。ぜんぜんまとまらない。
彩雲国新刊早く読みたいです。
何故手に入らぬ!
でもとりあえずは、女官を続ける予定はこれで決まりです。一巻の前後もこの話を軸に決めます。よって今までのは微妙に調整。でも白紙の地図は内容変更はなし。加筆修正は入れますが
[1回]
固く結んでいた蕾もはちきれんばかりに膨らみ、いつの間にか存在を誇張するように薄桃色の花びらを広げていた。
「お団子が食べたいな~……」
「団子?」
聞き返された単語に有紀は思わず手を口に合てた。
だが、なかったことにするには少し注目が集まりすぎていた。
その場には、いつもの三人と邵可夫妻が居た。夫妻は楽しげに有紀を見つめていたし、特に鳳珠と黎深が意味ありげな視線で有紀を見ていた。
「団子が食べたいのか?」
黎深が嬉しそうに笑いながら扇をパチリと閉じた。だが、有紀はその場の注目を集めながらも必死に手を振る。
「い、いえそうじゃなくて……!」
「そうじゃな、天気の良い日じゃ。旨い団子を食いながら花を眺めるのもよい。のぅ、背の君」
「そうだねぇ」
食い意地が張っているとか、迷惑をかけたくないとかの必死の否定もむなしく。というよりも薔君と邵可の賛成により団子の用意が決定されたようなものだった。
だが、何故か黎深と鳳珠はまだ有紀を見ていた。
しかも鳳珠はどことなく嬉しそうだ。
「有紀、どんなものが食べたい」
「何でも言え」
唐突な申し出に有紀は目を丸くした。そもそも黎深は邵可を目の前にしたら彼以外の人に構うなんてことはないのだ。
それがいったい何故。
鳳珠はいつだって有紀には優しいのだが。
しかも、今は何故か黎深の方が張り切っている。
「えと……三色団子とか…?」
「何色だ?」
「白と緑と薄桃色です……」
「どんなのだ」
だんだん尋問されているような気分になってきた有紀は泣きそうになりながら悠舜に助けを求めた。直ちに察知してくれた彼は不自由な足でありながら有紀の隣にやってきて、優しく肩をたたいた。
「黎深、有紀さんが驚いています。もう少し優しく訊いてあげて下さい」
「………」
途端に黙ると黎深は不機嫌そうに扇を広げ顔を隠した。
たが、有紀には決まりが悪そうにしているように見える。
「三色団子は三色のお団子を串に刺してあるんです。白いお団子とよもぎのお団子と……」
そこで問題が一つ浮上した。薄ピンク色は何で染めてあるのか有紀は知らない。
「なんだ、二色でもいいのか」
言うやいなや黎深は閉じた扇を無造作に振った。
黎深の動作を有紀は不思議そうに見守ったが、ただ二人。邵可と薔君だけがあきれたように黎深を見ていたことに誰も気づかなかった。
団子の話がそこで終わったことにほっとした有紀は、秀麗を連れた静蘭が来たことに安堵した。秀麗が来ると黎深の興味は彼女に集中する。人身御供にしている気になってしまうが、だが自分が近づくと秀麗が有紀にへばりつくために黎深のご機嫌がよろしくなくなってしまうので、最近では少し会話が弾むようになってきた(気がする)静蘭とともに秀麗を構う黎深たちを見ることが日課である。
この場にいる人たちは有紀がぽつりぽつりと話す内容から、彼女が別の、彼らが知らない場所で生まれたことを察している。
だが、敢えて質問するような彼らではないために有紀は気がゆるむとつい¨故郷¨の話をしてしまうのか癖になりつつあった。
「有紀は団子が好きなのか?」
「……お団子が好きな女の子は多いと思うよ?」
「だが、何故桜を見て団子に発想がいくのか私には理解できないな」
何故と首を傾げて銀の髪を散らしても、有紀には答えがない。
**
強制終了。改良の余地あり
また不調の波におそわれております。最近はなかったのになぁ…。
黎深が妙に張り切っている理由は、団子で有紀ちゃんを喜ばせれば邵可に褒められる!!と思っているからです。結局、ありがとうございますと笑顔で礼を言った有紀ちゃんに邵可が礼を言ったり、薔君が黎深をつっついたりして彼のたくらみは消えます。鳳珠が張り切るのはただ、日頃自分から欲しいものしたいことを言わない有紀ちゃんの願いぐらい叶えてやりたい!!という親ばかからです。
そろそろ鳳珠さまと有紀ちゃんの関係をはっきりさせてあげないと…父なのか、兄なのか
[2回]