前回に引き続き
デフォルト名:朔夜
※ネタバレするかも
常世の国に中つ国が攻め滅ぼされ、朔夜が常世に身を置いて暫く。
朔夜は第二皇子黒雷アシュヴィンの第一妃の座に収まることが決まり、気づけば正式にアシュヴィンに嫁ぎ終わった。
夕焼けのように赤く燃える橿原宮を見てから、あっと言う間に色々な出来事が過ぎ去っていた。
「なんだ、深いため息なんかついて」
「……特には何もないわ」
岩牢の様に思えてしまう造りの窓から外を眺め知らないうちについたため息をアシュヴィンに聞かれ、朔夜は微苦笑を浮かべた。
「ただ、この国は恵が少ないのね」
「そうだ。限られた恵を、多くの者達で奪い合うから昔から諍いが絶えない」
朔夜一人で寄りかかるには広かった窓にアシュヴィンも隣あってもたれかかる。
深い紅の髪が風に揺られるのを見て朔夜は隣をじっくりと眺めた。
朔夜の隣に立ちアシュヴィンは窓の外遠くを眺めていた。その顔は、普段あまり見ない真剣なもので。その横顔に中つ国の同い年で、双刀を振るう友――最早彼は友とは思っていないかもしれないが――を思い出した。
「だが、よく分かったな。まだおまえには常世の現状など話した覚えは…。どうした?」
「え…? 何が」
不意に朔夜を振り向いたアシュヴィンが困ったような顔をするが、どうしたと問われても答えを持たない朔夜は困惑するしかなかった。
答えようとしない朔夜に苦笑いをこぼすと、アシュヴィンは手袋に包まれていない右手を朔夜の頬に添えた。
じんわりと伝わる人肌の温もりにゆっくりと目を閉じると、笑われた声がした。
「泣きそうな顔をしていたが、何を思ってのことだ?」
「……、何でもないわ。ただ……」
「ただ、何だ。言ってみろ」
閉じられた瞼をあけることなく朔夜は頬に添えられた手に己の手のひらをあてた。
「ここは豊葦原ではないのだと思って」
「そうだな。ここは常世。おまえの愛する豊葦原ではない」
少し温度の低い声に、思わずどきりとする。
「…だから、この常世も豊葦原と同じくらい愛せるようになるわ」
「豊葦原に比べれば恵も少なく、民は貧困に喘ぎ、暗い陰謀が渦巻くこの国をか?」
自嘲とは違う笑いが込められた声に内心首を傾げながら、朔夜はゆっくりと目を開けてアシュヴィンを見た。
彼は真剣な面もちで朔夜を見ていた。
だから、朔夜は笑いかける。
「中つ国にも、薄暗闇はあったわ。私は、たくさん教えられてきたもの」
そっとアシュヴィンの手を離すと、もう一度窓の外を見る。
恵は少なく、龍脈は途絶えかけ。けれど、必死に生きる常世の民。それは豊葦原でも同じ事。
「一度は散ることを覚悟した私は、中つ国ではなくて常世の王族に組み込まれたのだから。王族は、民を搾取して贅沢をすることが仕事ではないもの。民を愛し、民を守るのが仕事。だから、その責務を全うしたいだけ」
「……朔夜、おまえは直系ではないと聞いたはずだったが」
「傍系も同じ事よ。……でも私は、中つ国の民に報いることはできなかったわ」
一ノ姫を護ることができず、中つ国が滅びることも止められなかった。
風に髪を遊ばせ、口を閉ざした朔夜を見てアシュヴィンはそっと指に髪を絡ませる。
「そういえば先ほどの問いに答えてもらっていなかったな」
「問い…? ああ、龍脈のこと?」
「ああ。中つ国の姫は全員巫(かんなぎ)ということか?」
「まさか。私は正式に巫の修行は受けていないし神子ではないもの。ただ、私はたまたま少しだけ霊力が高くて……、龍脈の流れを感じ取れるだけ」
軽く世間話的なつもりで笑うが、アシュヴィンの指には未だ朔夜の髪が引っかけられていて、その彼は怖いくらいに真剣な顔をしていた。
「アシュヴィン?」
「アシュでいい。そうか…、俺は興味でとんでもない女を捕まえたようだな」
最後の方が小さな声で聞き取り難いが正確に聞き取った朔夜は眉を顰めた。
「失礼ね」
「そう怒るな。言葉が悪かった。誉めてるんだこれでも、な」
少し驚いたようなアシュヴィンを半目で睨み付けるが、急にため息をつくと表情を一転して曇らせる。
「……ねえ、どうしてアシュヴィンは私に優しくしてくれるの」
「だから、アシュでいい。……優しく、か。答えが必要か?」
「……」
「悪いが、俺にも分からない。優しくしたいからする、ではいけないか?」
柔らかく笑う、夫となった人に朔夜は首を横に振って答えた。
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一番グダグダだぁ。
にしても私にしては甘いですが、世間では微糖にも引っかからないですよね。
アシュヴィンは勝手にしゃべり続けるからダメだ!!
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