TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。
感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。
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デフォルト名:立花眞里
012:赤い花
人と刃を交えなくなってどれほど経ったのだろうか。
物心ついたときから刃はともにあり、小太刀を振るい、時にはくないも振るった。真田の忍に幸村と共に面倒を見られ、渋い顔をする才蔵にねだって忍の術を教えて貰った。
常に、黄泉路への渡し船が見える戦場。初陣で覚えた恐怖は薄れ、今では感覚が鈍るのを恐れている。
張り詰めた空気を忘れてしまえば、もう戻ることはできないのだと戒めていたのに。
浅葱のだんだらを赤く染めるそれを見た時、眞里は息をのんだ。
赤く染まった彼はばつが悪そうに頬を掻き、苦笑いのような顰めっ面になりかけた笑みを浮かべた。
「悪いな、驚かせちまって。今着替えてくるからよ」
「……怪我は、」
「ない。……全部返り血だ」
彼は言葉を切ると手を羽織で拭うと大きな手で眞里の頬を撫でた。節だった指と、暖かな温もりに思わ従兄を思い出し、目を伏せると大きな手に全てを委ねた。
「そんな顔するな」
揺れる声を不思議に思いながらも、温かなぬくもりに心を委ねていた。
**
原田さんの次の行動
1 そのまま頭を撫でる
2 勢い余って抱き寄せる 二人して血まみれに
3 どうするべきか悶える
さあどれ?
[3回]
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デフォルト名:水無月マツリ
011:鍵
二つで一つ。これで二人の秘密ね。
にこにことマツリ特有の笑みを浮かべて渡されたペンダントの片割れ。
子供用の玩具でも、貰った大切な物には変わりなくて。
任務に出る度にちらつかせて、無事に帰ることを遠まわしに伝える。その度にほっと息つく姿に帰還の気持ちを強く思う。
「カカシ先生、それって何ですか?」
「ん? ああ、これ?」
ベストを脱ぎ表に出たペンダントに女の子らしくサクラが食いつく。
指で摘み見やすくする。
それがなにを形取って居るのかを理解したサクラの顔がにやりと歪む。ナルトとサスケも気になるのかチラチラと視線が飛でくるのを感じる。
「それって、恋人とお揃いですか?!」
「ざーんねん。恋人じゃないのよ」
「えっ……?! でも、それペアのですよね?」
「そーそー」
ペア、という言葉に完全にナルトとサスケの興味が向けられている。
だが、生徒の期待を裏切るようで悪いが大切なものだが、色恋沙汰ではない。断じて違う。
なんと言うべきか迷う。同僚の間では有名な話であるためにいちいち説明するのもなんというか気恥ずかしいものがある。
しかし年頃の女の子は目を爛々と輝かせている。
「んー……確かにサクラの言うとおりペアの物だ。相手もいるし、おまえ達の知ってる奴だよ」
生徒の絶叫に思わず耳をふさぐ。
「誰誰誰誰だってばよ!!」
「私たちの知ってる人でしょ? ……紅先生?」
「違うから」
あり得なさすぎる解答に思わず手を振って否定する。
ふと絶叫していたナルトが、似合わない難しい顔をしてじっと見てくる。
そういえば、この中でナルトが一番マツリとつきあいが長いらしいことを思い出す。
「それ、どっかで見たことある気がする」
「どこで?!」
「……マツリだ」
ぽつりとサスケが正解を呟く。ナルトはなるほどと手を叩きサクラは何ともいえない顔で絶叫する。若い奴らは元気でうらやましい。
「そ、せーいかい。これはマツリが下忍の初給料でくれたの。かーわいいでしょ?」
「……下忍の初給料ってことはそんなに高いものじゃないな」
「しかもカカシ先生からじゃなくて、マツリさんからなのね」
「……なんか文句あるの?」
当時6歳の可愛い妹が満面の笑みでくれたプレゼントを大切にして何が悪い。
と思わずぼやくと、三人は一様に異様な顔をする。
「マツリさん、6歳で下忍になったんですか?」
「ん? 知らなかった?」
「知らねえ。……なら中忍になったのはいつだ」
「あ、俺ってば知ってるってばよ! 一年下忍やってから中忍にほかの班の兄ちゃんと組まされたって言ってたってばよ!」
「ってことは7歳!? うそっ?!」
「ちなみにマツリはまだ中忍だからね」
上忍になるつもりはないらしい。
カカシを見て鍛えられて育ったマツリは上忍の昇級も可能なほどの腕だが、本人にもその気もないがカカシもその気はない。
今は比較的平和な時代とはいえ、上忍の任務はランクが上のものばかりだ。
「そういえばマツリ姉ちゃん言ってたってばよ。ふひつよーなものはいらないって」
「ま! そーいうこと。ほら、さっさと始めるぞ」
玩具だろうが、何だろうが大切な気持ちが籠もっている贈り物は大切に。
***
描写する100のお題(追憶の苑)
[1回]
デフォルト名:黄有紀
全国津々浦々点心修行に出ると言って出奔した幼なじみ兼親友は帰る度に、なにかしら新たな技を身につけて帰ってくる。
李絳攸は最早どのような感想を述べればいいのか、朝廷随一とも呼べる頭脳を持ってしても分からなかった。
「……で、今度はどこに行ってきたんだ?」
聞かずとも答えは分かっている。
始めに茶州、次に黄州、紅州、藍州、残るは三州。
戻った彼女は満面の笑みで胴着を身につけていることから、黒州か白州しか思いつかない。
絳攸の予想通り有紀は柔らかな彼女独特の笑みを浮かべて言った。
「黒州行ってから白州に行ってきたの」
「……何度も聞くが、点心修行に行ったんじゃないのか?」
答えなど聞かなくても分かっている。点心修行は建て前で、旅の本当の目的は……。
「美味しい点心も教わってきたから作ってきたよ」
「……楽しみにしてる。で、今度はなにを習得してきたんだ」
公休日に自室で仕事をしていた絳攸を突如訪問してきた有紀。普段はそんな無礼なことはしないのに、公休日に仕事をしているとどこから知ったのか休めと言わんばかりにやってくる。
今回驚いたのは普段見ない(普段所が久しぶりに見た)胴着
姿だったためだ。
絳攸を廊下へと連れ出し、彼女は中庭に降りると、立てかけてあったのか短い棒を手に持った。
棒術は茶州から帰った時に既に見ている。何でも熊と師匠の仙人に教わったとかいう話だったが。黒、白州で極めたのだろうかと考えながら柱にもたれた。
すぐに間違いであったと知る。
***
久しぶり幼なじみーず
描写する100のお題(追憶の苑)
[6回]
デフォルト名:立花眞里
原田率いる隊に加わった眞里は何か言いたげな原田の視線に気づかない振りをして隊士と共に公家御門を目指した。
辿り着いた公家御門では諦めずに、後退しながらも御門を目指す長州と所司代との小競り合いが続いていた。
原田率いる十番組は惑うことなく前線へと躍り出る。
「御所へ討ち入るつもりなら、まず俺を倒してから行くんだな!」
淡い微笑を浮かべて槍を構える原田は槍を一閃させて何人かをなぎ倒す。
「くそっ! 新選組か!?」
「死にたい人から前に出て下さい」
眞里も槍を左手で振るい、聞き覚えのある懐かしい台詞をなぞる。
隊服を着ない眞里に所司代も長州も困惑したようだったが、向かってきた長州兵を一人斬り捨てるのを見ると、眞里の立ち位置を正確に理解したようだった。
「おのれええっ!!」
怒声が響き、乱戦が始まった。しかし数で劣る長州側に対し、防衛側に新選組が加わったことにより、続かず。長州兵達は血を吐くような声で唸り撤退を開始した。
「逃がすな、追えっ!」
所司代の役人達が声を張り上げる。すると、長州勢の殿を務めていた男が、不意に振り返り足を止める。長い青黒髪に浅黒の肌で、長州兵と比べて身軽な格好であった。眞里は彼の手元に目をやり、刀を引き抜くと後ろ足に重心を置いた。
「ヘイ、雑魚ども! 光栄に思うんだな、てめえらとはこのオレ様が遊んでやるぜ!」
酷薄な笑みを浮かべると、手元の銀色の何かを掲げた。
直後、甲高い音が公家御門の前に響き渡ると同時に、小さな高い音が響いた。
「ほぉ……」
男は楽しげに口元を歪めて笑った。視線の先には、悲鳴を上げて腰を抜かした役人と抜き身の刀を構えた眞里が居た。
「眞里?!」
原田の悲鳴じみた声が聞こえていないのか、眞里は挑戦的な笑みを浮かべると槍の穂先を男へと向けた。
「てめぇ……見切ったな」
「やはり蛤御門の銃痕は貴方の短筒ですね。厄介なものを使われる」
「よく知ってるな。これは拳銃って言うんだが、厄介だなんて顔してねえぞ」
にやりと笑い会う二人に周りの兵は誰一人として入り込めなかった。
二人のやりとりを飲み込めない周囲とは違い、原田は目を見張りつつも状況を確認した。
長州の男は腰を抜かしている役人に向かって砲したが、眞里がそれを刀身で弾いたか斬ったのだろう。
「てめぇ以外の奴らは銃声一発で腰が抜けみてえだな」
彼は銃口を眞里に向けたまま、凍り付いたように動かない防衛側を見て皮肉な口調で笑った。
眞里や原田以外の者たちは、二人のやりとりに飲み込まれていた。多勢に無勢の状態で余裕の姿勢を崩さない男と、槍と刀を構えた奇妙な剣士。
眞里は原田を一瞥すると、左手の槍を回転させ構えた。
対峙する男も油断なく拳銃を構える。
原田が眞里の視線の意味の答えを考えるより先に、眞里が足を蹴って踏み出した。
間合いをつめても素早い動作で避けられる。数発撃ち込まれるが、時に避け、時に斬って全て回避した。
互いの攻撃が外れても悔しがるでもなくただ愉快そうに歪んだ笑みを浮かべるのみ。長い遣り取りに感じるが、二人の手が早いために、経過したのは幾許もない。
半ば呆然と見ていた原田だが、眞里が再び原田を一瞥した。
振り返った彼女の目と口元の笑みから何かを推測し、納得した原田は槍を握り直すとにっと口角を上げた。
男が眞里との手合いに夢中になり出来る一瞬の隙に間合いを詰め。
「遊んでくれるのは結構だが……、おまえだけ飛び道具を使うのは卑怯だな」
男が振り向く前に槍の切っ先を突き刺す。しかし、男は悠然と交わした。振り返ると、挑戦的な笑みを浮かべる。
「卑怯じゃねぇって。てめぇだって長物持ってんだろうが」
男が原田に意識をやってる最中に眞里が再び間合いを詰め刀を振るうが男は避ける間がなかったのか拳銃で刀を受け止める。
そこを突くように再び原田が槍を振るうと男は驚くべき跳躍で跳び、回避する。着地と同時に発砲するが眞里は再び刀で弾く。
「ほぉ、おまえらやるな。……てめえらは骨がありそうだな。にしても、真正面から来るか、普通?」
「小手先で誤魔化すなんざ、戦士としても男としても二流だろ?」
淡い笑みと共に返された原田の言葉と眞里の無言の肯定に、ひゅう、と彼は面白がるような口笛を吹いた。
「……オレは不知火匡様だ。おまえらの名乗り、聞いてやるよ」
「新選組十番組組長、原田左之助」
不知火は拳銃を納めると眞里を目を細めて眺める。
「で、そっちがあいつが言ってた立花って奴か」
「お察しの通り立花眞里だ。訳あって新選組に身をおいている」
「覚えていてやるよ。面白い奴らに会えて今日のオレ様はゴキゲンだ」
獰猛な笑みを浮かべて肩を揺らす男。彼は拳銃を納めているが、眞里も原田も構えを解いていない。
しかし、眞里は刀を納めると目を細めて不知火を見据えた。
「所で長州の方々は既に引かれています。殿の貴方が我々を足止めする必要はなくなったのではないですか?」
原田は諫めるように眞里の名を呼ぶが、不知火は眞里を見据えて目を細めただけであった。
「ほぉ?」
「ここは一つ引いていただけませんか? 我々の目的は追討ではなく、警護。貴方とやりあうにこの場は相応しくない」
ちらりと後ろを見る。その視線は足手まといが居る場では遣りづらいと如実に語っていた。
「お、おい眞里」
「土方殿の指示は残党を追い返すこと。追討も討伐も申し渡されていません」
「だがよ……」
「いいぜ」
原田の困惑を余所に不知火は楽しげに言い放った。
「いいぜ。肝の座った奴は好きだからな。さっきも言っただろ。面白いやつらに会えて今日のオレ様はゴキゲンだ。――だが、いい気になるなよ。おまえも原田も次があれば容赦しねぇぞ」
剣呑な光を宿した目線に眞里は不適な笑みを返すが、肩を原田に掴まれその背中に庇われる。
「俺たちも長州となれ合うつもりはないさ。ま、お楽しみは素直に取っておくんだな」
「あー、おまえとは相容れねぇな。俺は【好きなものは最初に食う】派だ」
「奇遇ですね、私も先に食べる派です」
気が合うな!とけたけた笑いながら不知火は原田から十分な距離を取ると、ひらりと手を振って踵を返した。
その姿が見えなくなると、原田は槍を抱え直して振り返り際に眞里の肩を掴んだ。
「無茶するな!!」
大声ではない短い言葉から心配していることが伝わってくる。しかし眞里は心配される意味が分からず眉をしかめて原田を見返す。身長の差から大分見上げなければならないのが腹立たしかった。
「あのような至近距離ならば見切れます。連射式でも両手でもなかったですし、そうでなくとも難しいですが手がないわけでもない」
「そういう問題じゃねえだろ?!」
しかし、そこで言葉を切ると肩をつかむ手をそのままに顔を逸らした。眞里が見上げる横顔は苦悶に満ちた表情を浮かべていた。
「……いや、おまえの判断は正しかったと思う。こっちも余計な怪我人を出さずに済んだ。副長の指示は長州を追い返すことだしな。確かに、……奴らの追討は、俺らの仕事じゃない」
少し後悔の色が浮かぶ。横顔を眺めながら、眞里は幼なじみの真田幸村付き真田十勇士の二人を思い出した。
戦場で無茶をした幸村と眞里を、心配混じりの説教をしてきた猿飛佐助と霧隠才蔵も今の原田のような顔をよくした。
毎度怒られるわけではなく、極たまに起こることであった為、何故だったのか思い出せない。
二人して難しい顔をして黙っていたが、御門の警護を再開する音が聞こえた眞里は、肩に置かれた原田の手に上から手を重ねた。
「原田殿、隊士に指示を」
「……ああ」
重ねられた手に驚いているようだったが、原田は目元を和らげて重ねられた眞里の手を握った。
眞里の手よりも大きく、節くれだった手は槍に生きてきた男の手で、懐かしさを思わせる。
ふっと和らいだ眞里の顔を見て原田は一瞬表情をなくすが、名残惜しそうに手を放すと指示を待つ隊士へと指示を出しに歩き出した。
破壊された御門の破片の片付けや負傷者の手当等を手伝いそのまま原田の隊に従って働いていた。
眞里の隣で動いていた原田はふと作業の手を止めると長州が去った先を見つめた。眞里も原田の様子を伺うと、彼は瞳に寂しげな色を浮かべていた。
「……今更逃げたって、ただ辛くなるだけなんだろうけどな」
「……そう、ですね。御所に弓引いたことは紛れもないこと……。長州に帰るのは容易ではないでしょう」
「不知火の奴とは、また会うことになるかもな。……そんな気がする。ま、お前の槍も俺の槍も避けられたしな。あいつの相手は、ちと骨が折れそうだが」
「ですが、相手が誰であれ立ちふさがるならば戦うのみです。次は後れをとりません」
不敵な笑みを浮かべながらも揺らぎない覚悟を滲ませる眞里を見て原田は逡巡するとその頭を何度か優しく叩く。
「おまえの昔話、楽しみにしてるぜ?」
笑顔であるのに剣呑な雰囲気漂うそれに眞里はこくりと小さく頷いた。
***
原田のターンと見せかけて不知火のターン!
アニメ見てからずっと書きたかったので駆けて満足であります。
違和感残るところとかはまたいつか修正します。
次はちーさまとふくちょーのターン!
[2回]
デフォルト名:立花眞里
空が白み始めた頃、眞里の腕の中で眠っていた千鶴が目を覚ました。あたりは険しい顔をした者たちが警戒を続けている中、眞里に抱えられるように寝ていたことに俯きながら頬を赤く染めて照れていた。
慌てて離れる千鶴に手拭いを渡し、共に川原へと向かう。いくら夏とはいえ川の水は冷たく、手を浸すだけで眠気が醒める。顔を洗うと千鶴は申し訳なさそうに眞里を見上げた。
「あ、あの……眞里さん」
「よく眠れた?」
千鶴の言いたいことが分かっている眞里は頭を下げる千鶴の頭を優しく数度叩く。
「戦闘が始まれば御所まで走るからね。頑張って走るからね」
「はいっ! あの、ありがとうございました」
「うん、どういたしまして」
ようやく笑みを浮かべた千鶴の肩を抱いて幹部たちのもとへと戻ったそのとき。
明けの空に銃声が響き渡った。
隊士たちに緊張が走る。各々が居住まいを正す中、眞里も足下を整え直す。
遠く町中から、争う人々の声が聞こえると同時に隊士達は互いに顔を見合わせ頷きあった。
彼らは声をかけずとも己のすべきことを理解していた。同時に駆け出す。向かう先は、御所。
「――行くよ」
周りが駆け出す中、半ば茫然としている千鶴に眞里が声をかけた。
「はいっ!!」
千鶴が慌てて頷き返し、駆け出そうとした時、後方からざわめきが広がった。同じく待機組の会津藩士達である。
「待たんか、新選組! 我々は待機を命じられているのだぞ!?」
隊士の誰もが聞き流し、御所へと駆けていく中、ただ一人土方のみが立ち止まった。行軍の最中、土方はあまり怒らることはなかった。声を荒げる役は永倉達に任せ、役人相手に辛抱強い説得を繰り返していた。しかし、ここにきて我慢の限界が来たらしい。
後方を振り返るその端整な面立ちは、柳眉を吊り上げ、『鬼副長』の名に相応しく怒りの形相となっていた。
「てめえらは待機するために待機してんのか? 御所を守るために待機してたんじゃねえのか! 長州の野郎どもが攻め込んできたら、援軍に行くための待機だろうが!」
「し、しかし出動命令は、まだ……」
突然の怒声に役人は狼狽えながら言い訳をするが、土方はぴしゃりと言い放った。
「自分の仕事に一欠片でも誇りがあるなら、てめえらも待機だ云々言わずに動きやがれ!」
言うやいなや土方は返答を待たず、風を切るように歩き始めた。隊士達と空いた少しの距離を瞬く間に詰める。
土方に一括された会津藩士達も、目が覚めたように瞬く間に出撃の準備を終えると、新選組の後を追うように御所を目指した。
ちらちらと後ろを振り返りながら、隊士に置いていかれないように足を動かしながら千鶴は横を静かな顔をして歩き続ける斎藤を見上げた。
「……私たち、どこに行くんですか?」
「敵が確実にいる場所――、蛤御門を目指す。蛤御門では激しい戦闘が始まっているだろう。あんたも、今のうちに気を引き締めておけ」
「……はい」
激しい戦闘を予想したのか千鶴は真剣な面もちで静かに頷いた。
横で話を聞いていた眞里も戦場を思い浮かべるが、違和感に首を捻る。その様子を見かけた原田が声をかけてきた。
「何かあったか?」
「……いえ、ただ。……長州勢がどこまで持ちこたえるのだろうか、と思いまして」
「ああ……。戦力を考えりゃあ長続きはしないだろうよ」
静かな原田の声に小さく頷き返すと、眞里は歩くことに専念した。
蛤御門についたとき、眞里と原田の予想通り戦闘は終息していた。御門には金属の弾を撃ち込まれたようで、あちこちに傷が刻まれ、辺りには焼けたような匂いが漂っている。
火薬の臭いだと眞里は昔を思い出す。織田との戦ではよく遭遇した臭い。しかし、火縄銃ではない。
長州兵らしき姿もなく、周囲には負傷者も倒れていた。
土方の黙視を受け、数名の隊士が散った。情報を集めてくるのだろう。
はあ、と近藤が溜め息を吐く。
「しかし、天子様の御所に討ち入るなど、長州は一体何を考えているのだ」
「長州は尊王派のはずなんだがなあ……」
井上も呆れたように首を傾げる。その間に斎藤と原田が情報を得て戻ってきた。
「朝方、蛤御門へ押しかけた長州勢は、会津と薩摩の兵力により退けられた模様です」
「薩摩が会津の手助けねぇ……。世の中、変われば変わるもんなだな」
土方は皮肉げな笑みを洩らした。
眞里は藩についての知識は乏しいが、野営の最中に幹部の何人かから講釈を垂れていた。
薩摩と会津は親しい間柄はなく。元々は薩摩も長州と同じで、外国勢力を打ち払おうとしていたらしい。英国に戦争を吹っかけ大敗。それからは攘夷の考えを改めたらしい。
眞里には攘夷というのがいまいち理解が追いつかなかかった。
「土方さん、公家御門の方には、まだ長州の奴らが残ってるそうですが」
土方は原田の情報に口角を吊り上げた。続いて山崎が駆け込み静かに報告を上げた。
「副長、今回の御所襲撃を扇動したと見られる、過激派の中心人物らが天王山に向かっています」
土方は暫し黙考を続けていた、不意にニヤリと笑みを浮かべる。
「……忙しくなるぞ」
彼の言葉で、隊士たちは湧き上がる。
「左之助。隊を率いて公家御門へ向かい、長州の残党どもを追い返せ」
「あいよ」
「斎藤と山崎には状況の確認を頼む。当初の予定通り、蛤御門の守備に当たれ」
「御意」
「それから大将、あんたには大仕事がある。手間だろうが会津の上層部に掛け合ってくれ」
む、と近藤は不思議そうに首を傾げた。土方はうっそりと微笑む。
「天王山に向かった奴ら以外にも敗残兵はいる。商家に押し借りしながら落ち延びるんだろうよ。追討するなら、俺らも京を離れることになる。その許可をもらいに行けるのは、あんただけだ」
合点がいったのか近藤は力強く頷く。
「なるほどな。局長である俺が行けば、きっと守護職も取り合ってくれるだろう」
「源さんも守護職邸に行く近藤さんと同行して、大将が暴走しないように見張っておいてくれ」
「はいよ、任されました」
土方が冗談のような口調で言うと、くつくつと小さな笑いが隊士から洩れる。近藤は図星なのかばつが悪そうに苦笑する。
「残りの者は、俺と共に天王山へ向かう。それから、……おまえらは、好きな場所に同行しろ。だが、近藤さんについていくのは無しだ」
千鶴は途端に俯いて考え始めるが、眞里は始めから答えが用意してあったかのように土方を真っ直ぐに見据えた。
「原田殿の隊に加えていただきたく思います」
「……理由は」
眞里は小声で土方にのみ聞こえるように答えた。納得のいくものだったのか楽しげなあくどい顔で頷くと原田を呼び、眞里を連れて行くように指示をした。
何か言いそうだったが、眞里の真剣な面もちに承諾の意を示すと隊服を翻し、公家御門へと隊士を率いていった。
置いていかれるとなった千鶴は迷った後に土方を見上げて「よろしくお願いします」と頭を下げた。
下げられた頭をじっと眺めた土方は後方に控える隊士を振り返り。
「出発する!!」
浅葱の羽織を翻した。
斎藤率いる隊はそれぞれに動き出した新選組の皆を見送った。浅葱色が視界から消えると、斎藤はぽつりと呟いた。
「……まずは新選組の者として、会津の責任者に挨拶をすべきか」
「よろしければ、自分が動きます。……今は、上層部も混乱していますから、我々の行動を見咎めることも無いでしょうが」「会津藩の対応は山崎君に一任しよう。問題が生じたなら俺を呼んでくれ」
山崎は黙礼すると、指示を果たすべく駆け出していった。
会津と薩摩がもめている
身の振り方を定めるために周囲の状況を探っていると、険悪な空気を感じる。そちらへ足を向けると会津藩と薩摩藩とで、小競り合いが起きていた。手柄の取り合いのようであった。
ふと、薩摩藩士が新選組に気づくと馬鹿にしたような笑みを会津藩士へと向けた。
「何かと思えば新選組ではないか。こんな者どもまで召集していたとは……。やはり会津藩はふぬけばかりだな! 浪人の手を借りねば、戦うこともできんのか!」
薩摩藩士の無遠慮な言葉に、斎藤が率いてきた隊士たちの表情が強張る。しかし、斎藤は平然と片腕を上げて隊士を制した。
「世迷言に耳を貸すな。ただ己の務めを果たせ」
組長の冷静な指示に隊士も渋々と殺気を収める。
しかし、侮辱された会津藩士は声を荒げて刀を抜きはなった。
「おのれ、愚弄するつもりか!?」
相対する薩摩側も殺気立ち、あわや殺し合いが始まるかと思われた瞬間、薩摩藩士の列を割って、背の高い男が姿を見せた。
先頭に立つその男に、会津藩士は目をつり上げる。
「貴様が相手になるか!」
怒声を上げ斬りかかろうとするが、斎藤が双方の間に踏み入った。鞘で刀を抑え、静かな目で会津藩士を宥める。
「――やめておけ。あんたとそいつじゃあ、腕が違いすぎる」
薩摩藩に属するらしいその男は、居並ぶ新選組隊士達に目を向けた。そして斎藤を見ると一歩踏み出る。
「池田屋では迷惑をかけましたな。確か……、藤堂と言う名の青年と立花と名乗る方にお相手頂きましたが。彼の怪我の治りが良くないのであれば、加減ができずにすまなかったと伝えてください」
「池田屋で藤堂を倒したのは、あんたか。……なるほど、それならば合点が行く。大方、薩摩藩の密偵として、あの夜も長州勢の動きを探っていたのだろう」
鋭い口調で語る斎藤に対して、彼は否定もせず沈黙した。
斎藤は不意に、彼我の距離を詰めると瞬きの間も空けず、刀は抜き放つ。刀の軌跡は誰にも黙視できなかった。
白刃を晒す切っ先は、ぴたりと彼の眉間に狙いを定めて止められていた。しかし、その男は身動き一つせず、凪いだ眼差しで斎藤を見返している。
「……あんたは新選組に仇なした。俺から見れば、平助の敵ということになる」
斎藤の声音には、ぴりぴりしたものが混じっていた。やはり男は動じずに静かな口調で続けた。
「……しかし、今の私には、君達新選組と戦う理由がありません」
斎藤は彼に刀を向けたまま、相手の出方を窺うように沈黙した。彼もまた微動だにせず斎藤を見返している。
「俺とて騒ぎを起こすつもりは無い。あんたらとは目的を同じくしている筈だ。だが侮辱に侮辱を重ねるのであれば、我ら新選組も会津藩も動かざるを得まい」
釘を刺すような物言いに、男も納得したような素振りで頷く。
「こちらが浅はかな言動をしたことは事実。この場に居る薩摩藩を代表して謝罪しよう」
頭を下げる男に斎藤は頷き返すと、静かに刀を納めた。薩摩藩士たちは複雑そうな顔をしているが、何も言わない。
「私としても戦いは避けたかった。そちらが退いてくれたことに感謝を。聞き及んでいるかもしれないが、私は天霧九寿と申す者だ。次に見えるとき、互いが協力関係にあることを祈ろう」
名乗りを終えた彼は、ゆるとした動作で背を向ける。が、ふと立ち止まると振り返る。
「出来れば、立花にまた手合わせ願いたいと」
返答を求めずに踵を返すと、薩摩藩士たちを掻き分け、隊列の奥へと消えて行った。
見送る斎藤の隣に山崎が戻り、同じ様に男の背中を見送る。
「何者でしょう」
「さあな。居合いで脅せば容易に退くかと思ったが、奴には俺の剣筋が読めていたようだな。……薩摩にも厄介な輩がいるようだ。話が通じる点は救いかもしれんが」
御門には緊迫した空気だけが残された。
***
次はいよいよ公家御門!!
[1回]