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小ネタ日記

TOS・TOA・彩雲国物語等の名前変換小説の小ネタを載せております。 感想・意見・質問ございましたら各記事のコメント、もしくはサイトにてどうぞ。

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薄桜鬼24

デフォルト名:立花眞里



 天王山に着いた永倉率いる隊は、隊を二手に分けた。永倉率いる半分は山を登り、斥候に。千鶴を含む残りの数名は、万一浪士達が下山してきた場合に備えて。

「……そろそろ、日が暮れちゃいますね」
「……大丈夫ですよ。そろそろ戻ってこられると思います」

 何度目かのやり取りであった。千鶴が不安をこぼすたび、島田が微笑で慰める。千鶴の心配は永倉達でもあり、一人残った土方のものでもあった。

「大丈夫、なのかな」

 最悪な想像をして唇をかむ。大丈夫だと、いいなと呟きながら顔を上げると、道の先に人の影が見えた。千鶴達に気付くと、まっすぐに向かってくる。その人影に感極まって涙が滲む。

「土方さん……!」

 手の甲で顔を拭う千鶴の横で、島田も感極まった声で土方を呼んだ。

「ご無事でしたか、副長。……怪我もないようでなによりです」

 感極まっている島田に同調して、何度も頷く。しかし、土方は不機嫌そうに歩いてきた道を振り返った。

「せめて一太刀浴びせたかったんだが、途中で薩摩藩の横槍が入りやがった」
「薩摩藩の横槍、ですか……?」
「風間……、風間千景とか言ってたな。あいつは薩摩の人間らしい」
「薩摩藩の人……?」

 薩摩藩は会津藩に協力していたが、風間は新選組の邪魔をしていた。その奇妙な違和感に眉を寄せる。

「あの人……、風間さんは、上の指示を無視してたってことですか?」
「多分な。薩摩の連中も迷惑してるんだろうに、風間には強く言えないらしい」
「その風間とやらは薩摩の中でも、相当に優遇された立場があるんでしょうな」
「奴は身分の上に胡坐を掻いてる甘ったれだ。手柄なんざほしいに決まってるじゃねえか」

 吐き捨てられた土方の素直すぎる本音に、千鶴も島田も思わず沈黙する。
 そのとき、永倉が隊士を率いて山から下りてきた。彼も土方を見るとわずかな安堵を浮かべる。すぐに顔を引き締めると報告の体制を取るところはさすがと言うべきか。

「……上に行って見てきたんだけどよ、長州の奴ら、残らず切腹して果ててたぜ」

 千鶴は俯いた。切腹されたのが残念なわけでもないし、新選組に殺されてほしかったわけでもない。ただ、人が死んだという事実が重たく千鶴にのし掛かる。

「自決か。敵ながら見事な死に様だな」

 しかし土方はそう呟いて、薄く笑う。その声はどこか晴れ晴れとしていて疑問が浮かんだ。

「あの……。いいんですか?」

 彼は先ほど、罪人は斬首が当然と言っていたその口で、切腹した彼らを讃えた。千鶴の疑問に土方は穏やかな表情で返答した。

「新選組としては良くねえよ。奴らに務めを果たさせちまったんだからな」
「えっと……」
「潔さを潔しと肯定するのに、敵も味方もねえんだよ。わかるか?」
「わかるようなわからないような、です……」

 土方は千鶴の素直な返答に表情を柔らかくした。そしてそのまま永倉達を振り返ると声高らかに告げた。

「御所に戻るぞ」


 道中、土方たちは今後の動きについての相談を続けていた。千鶴には内容はわからなかったが、これから先も新選組は忙しくなりそうだということだけ分かった。



 長州の過激派浪士達が御所に討ち入ったこの事件は、のちに禁門の変と呼ばれるようになる。新選組の動きは後手に回り、残念がら活躍らしい活躍もできなかった。

 長州の指導者たちは戦死し、また自らの腹を切って息絶えた。中には逃げ延びた者もいる。
 彼らは逃げながらも、京の都に火を放った。
 運悪く北から吹いていた風は、御所の南方を焼け野原に変えてしまう。この騒ぎが原因で、尊王攘夷の国事犯たちが一斉に処刑された。
 京から離れることを許された新選組は、大坂から兵庫にかけてを警護した。乱暴を働く浪士たちを取り締まり、周辺に住まう人々の生活を守るために。
 禁門の変の後。長州藩は御所に受けて発砲したことを理由に、朝廷に歯向かう逆賊として扱われていく。長州藩は朝敵となった。





 屯所では眞里と原田の武勇伝が広まっていた。眞里と不知火の立ち会いには一般の隊士も立ち会っていた為に、興奮が興奮を呼び、眞里は稽古場で引っ張りだこだった。

「で?」
「おお、眞里君! 銃を弾いたというのは誠かい?」

 何故か広間に幹部が勢ぞろいし、眞里は詰問の場の様に感じた。隣に腰を下ろした千鶴ははらはらとしている。

「と言いますと?」
「原田は不知火とかいう奴の銃撃を弾いたとか切ったとか言った。狙ってやれるのか」

 ちらりと原田に視線をやるがへらりとした笑顔で返ってきた。

「ある程度の距離ならば見切れますから、弾くなり斬るなりできます」
「見えるの?」
「慣れです。沖田殿ならば経験を積めば見切れますよ」

 他の幹部達でも斬れなくとも弾くのは可能だろう、と続けるとやり方の説明を求めるように皆が身を乗り出してきた。
 眞里は面倒だと言わんばかりに眉を寄せると土方を見た。視線に気付いた彼は咳払いをすると幹部の意識を向けさせた。

「こいつの経歴は少し変わってるが、俺も近藤さんも承知している。知りたい奴はてめえで聞け。……とりあえず、近藤さん」
「ああ。今回池田屋の件で報奨金が出たのだが、眞里君と雪村君にも少しで申し訳ないが渡そうと思ってな」

 大らかな笑みと共に近藤は袂から二つの包みを出し、眞里と千鶴の前に置いた。
 見た目からして小判だが、眞里も千鶴も困惑してお互いに目配せしあう。

「ご配慮ありがとうございます。ですが、私には分不相応ですので……。ただでさえご厄介になっている身ですし……」
「私も、頂けません」

 二人して包みには手を着けずに固辞するが、広間に重たいため息が重なった。

「言っただろ、近藤さん。隊士の奴らみたいに渡しても意味ないってな」
「うむ、トシの言うとおりだったな。だが、貰ってくれないか。そうだ、外に出て好きに使えばいい!」
「……近藤さん」
「なら俺がついてくよ、土方さん。それならいいだろう?」
「俺も俺も。それに眞里さんも刀、出したくない?」

 眞里は思わず黙り込んだ。自分で行う手入れにも無理がある。昔に比べれば斬った数も頻度も少ないため傷んではいないが。新選組の幹部御用達の刀鍛冶なら心配はいらない筈である。
 心揺れ動く眞里に苦笑して土方は、物々しげに外出の許可を出した。


**

お金の感覚がいまいちわからないのでとりあえずお茶話濁した感じで。2両ぐらい?
次はお出かけです。

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薄桜鬼23

デフォルト名:立花眞里




 土方率いる隊は天王山へ逃げた浪士達を追いかけていた。その中に羽織を羽織らない姿で賢明に併走する千鶴の姿があった。
 隊士達は皆重たい打刀と脇差を差しているのに、走る速度は決して遅くない。一方、隊士と違い巡察に出ているでもなく、体力に自慢があるわけでもない千鶴は置いて行かれない必死に走っていた。
 千鶴の息が切れ始めた頃のことだった。

 市中を駆け抜けていた新選組の前に、一つの人影が立ちふさがった。
 先陣を切って走っていた土方は、その人影に異様な空気を感じて足を止めた。他の隊士たちにも、立ち止まるように手振りで合図をした。大部分の隊士は合図の通りに制止したが、血気にはやる隊士のひとりは、その合図を無視して駆け抜けようとした。

「うぎゃあっ!?」

 立ちふさがる人影に一刀のもとに切り伏せられた。倒れ崩れる人が赤く染まっていきのを見て千鶴は息をのむ。

「てめえ、ふざけんなよ! おい、大丈夫か!?」

 永倉は声を荒げながら、倒れた隊士を抱き起こすが、隊士の意識は既になかった。斬られた身体から、じわりと血溜まりが広がっていく。
 突然の攻撃に驚きながらも、隊士達全員が彼へと殺意を向けた。
 しかし、殺気を向けられた男は飄々としていた。猫柳色の髪に上質な着物に身を包み、刀を無造作に手に持っていた。

「その羽織は新選組だな。相変わらず野暮な風体をしている」

 からかうような言葉に、隊士たちの怒気はますます高まった。そんな中、千鶴は池田屋の夜を思い出した。
 この男は、池田屋に居て、沖田に重傷を負わせた男。千鶴は声を震わせながら、指先で男を指し示す。

「土方さん、あのっ……! その人! あの夜、池田屋に居ました!」

 土方は不機嫌そうに顔を顰め、千鶴の言葉に男はにやりと笑った。

「あの夜に池田屋に乗り込んできたかと思えば、今日もまた戦場で手柄探しとは……」

 その場に居合わせたと示すような口調で言う。

「田舎侍にはまだ餌が足りんと見える。……いや、貴様らは【侍】ですらなかったな」

 新選組の神経を逆なでするような、失礼な台詞が次々に彼の唇から語られる。明らかな挑発に隊士達は殺気立つが、土方だけは冷静に凍てつく眼差しで男を射抜く。

「……おまえが池田屋に居た凄腕とやらか。しかし、ずいぶんと安い挑発をするもんだな」
「【腕だけは確かな百姓集団】と聞いていたが、この有様を見るにそれも作り話だったようだな」

 男は倒れた隊士を見て笑う。土方のいうことなど端から聞いていないようであった。気付いた土方は眉をぴくりとつり上げる。

「池田屋に来ていたあの男、沖田と言ったか。あれも剣客と呼ぶには非力な男だった」

 土方は瞳を細めて、きり、と奥歯をかみしめた。
 千鶴は反論しようと息を飲むが言葉にできず唇を噛みしめる。
 沖田は強い。強いが、怪我を負ったのは事実であり、負わせたのはこの男である。

「――総司の悪口なら好きなだけ言えよ。でもな、その前にこいつを殺した理由を言え!」

 殺意をみなぎらせた永倉が刀を抜き放つ。隊士は事切れていた。
 日頃率先して大騒ぎをするのは永倉だが、彼が声を荒げるのは聞き慣れていない千鶴はびくりと肩を竦ませる。
 馬鹿だ馬鹿だと言われているが、いつもつるむ三人の中で一番理性的なのは永倉である。その彼が声を荒げるのは、それだけ彼の怒りを買ったということ。

「その理由が納得いかねぇもんだったら、今すぐ俺がおまえをぶった斬る!」

 怒鳴る永倉を、彼は鼻で笑った。しかしその顔は微かな怒りが滲んでいた。

「貴様らが武士の誇りも知らず、手柄を得ることしか頭に無い幕府の犬だからだ」

 彼は新選組から視線を背後に見える天王山に移す。

「敗北を知り戦場を去った連中を、何のために追い立てようと言うのだ。腹を切る時間と場所を求め天王山を目指した、長州侍の誇りを何ゆえに理解せんのだ!」
「え……?」

 その言葉を聞いて、初めて千鶴は長州の浪士達が切腹するつもりであることを知った。思わず土方を仰ぎ見るが、彼らは驚いた様子を見せていなかった。
 千鶴の以外の誰もが承知の事実であったことを、そして男が激怒するのは、自分とは無関係な長州侍のためであることを知る。
 彼は、彼らの誇りの為に、新選組の足止めをしようとしている。
 しかし、千鶴には納得がいかなかった。誇りとは、千鶴が知る誇りは。眞里が一番身近だが、それに近い。誇りとは自分で守るものである。心の中にある大切なものは、他人の手が触れることはできない。誰かに守って貰うものでもない。

「誰かの誇りの為に、誰かの命を奪ってもいいんですか? 「誰かに形だけ【誇り】を守ってもらうなんて、それこそ【誇り】がずたずたになると思います」

 男が言う誇りは、千鶴の思うそれとは違う。

「ならば新選組が手柄を立てるためであれば、他人の誇りを犯しても良いと言うのか?」
「そういうわけじゃ、ないんですけど……」

 鋭い視線に思わず口ごもる。言いたいことが伝えられないもどかしさに唇を噛む。
 土方はやり取りをみて、分かりやすい呆れを浮かべていた。

「偉そうに話し出すから何かと思えば……。戦いを舐めんじゃねえぞ、この甘ったれが」
「何……?」

 刀の柄を握り直す彼に対して、土方は平然と言葉を重ねて行く。

「身勝手な理由で喧嘩を吹っかけたくせに、討ち死にする覚悟も無く尻尾巻いた連中が、武士らしく綺麗に死ねるわけねえだろうが!」

 言葉が響きわたる。土方の威圧感に千鶴は我知らず後ずさっていた。

「罪人は斬首刑で充分だ。……自ずから腹を切る名誉なんざ、御所に弓引いた逆賊には不要のもんだろ?」

 凛とした声音が、理路整然とした論を紡いでいく。こういった言が土方らしかった。周囲を持論に組み込む。隊士達は男に煽られた激情を土方の論に添え、闘志へと変えていた。

「……自ら戦いを仕掛けるからには、殺される覚悟も済ませておけと言いたいのか?」
「死ぬ覚悟も無しに戦を始めたんなら、それこそ武士の風上にも置けねえな。奴らに武士の【誇り】があるんなら、俺らも手を抜かねえのが最期のはなむけだろ?」

 とうとうと語る土方の言葉は、彼の誇りや理由を紡がれている。言いたいことはわかる気がするが、千鶴に完全に理解できた自信はない。けれど、この二人は相反するものを抱えているからこそ、いくら言葉を重ねても互いの線が交わらないことはわかるような気がした。

 土方は刀を抜き放つと、構えている永倉を目で制した。永倉は顔をしかめるが、数秒の間を置いてから素直に刀を納める。

「で、おまえも覚悟はできてるんだろうな。――俺たちの仲間を斬り殺した、その覚悟を」
「……口だけは達者らしいが、まさか俺を殺せるとでも思っているのか?」

 二人の鋭い視線が交錯した次の瞬間、金属同士のぶつかり合う音が、真昼の町中に響き渡った。
 噛み合った刀と共に身を離し、土方は慎重に彼我の距離を取る。土方は強いが、相手は沖田を倒した相手である。油断はできない。
 永倉は刀の柄を握り締め、わずかに身体を前傾させるが、暫し考え込む。今にも飛び出さん限りの姿勢を見て、千鶴ははらはらとする。しかし、永倉は永倉は数秒の沈黙を経て、刀の柄から手を離した。

「土方さんよ。この部隊の指揮権限、今だけ俺が借りておくぜ!」

 彼と戦うことは本来の仕事ではない。この部隊は天王山へ駆けつけることが仕事である。
 土方は敵だけを見据えていたが、その唇は笑みの形に歪んでいる。永倉は肯定と見て頷き返すと隊士を振り返り号令を出す。

「いいか、おまえら! 今から天王山目指して全力疾走再開だ!」

 隊士たちは声を上げて了解の意を示す。土方の目論見を察し、殺気走った眼孔で隊士等を睨むが土方が阻むように刀で注意を引く。

「貴様ら……!」
「余所見してんじゃねえよ。真剣勝負って言葉の意味も知らねえのか」

 彼が部隊の邪魔をできないよう、土方は油断なく構え続けている。千鶴は走り行く隊の後方について駆けながら振り返る。

「……天王山で待ってますから!! 絶対、追いついてくださいね!」

 刀を構えたまま彼は数かに瞳を細めて笑う。

「おまえ、俺が誰だかわかってんのか?」

 聞くのも野暮だと思わせる、頼もしい声。千鶴は後ろ髪引かれる思いを振り払い、隊士に遅れないように天王山への道を走った。


**

字数の都合で眞里は出ませんでした

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遙か3×夏目友人帳

遙か3×ゴーストハントの主人公


 修学旅行先で言葉を話す猫と出くわした。

 まるで招き猫のような体型のなんとも愛嬌ある顔をしていて、けれど醸し出すのは妖気で猫とは違うもののように感じた。

「猫……?」
「にゃー」(なんだこの小娘)
「猫なのに……狐?」

 しゃがみ込んでのぞき込むと猫からガンつけられてしまった華織は動くに動けずじっと見つめ返していた。

(今、狐と言ったかこの小娘)
(狐? 狐かなぁ? 狐のような猫のような……。どっちにしても化けてるのかな)

「ニャンコ先生ー!!」
「ニャンコ先生?」

 呼び声に猫が反応したところを見ると、この猫が『ニャンコ先生』なのだろう。走ってきた少年は華織より一つ二つ年下のようだった。

「君の猫?」
「あ、……はい」
「可愛いね」
「あ、ありがとうございます」

 走ってきた少年は制服を着ていて、白皙な頬は走ったからか赤みが走っていた。

『夏目、こいつただ者じゃないぞ。離れろ』
「……喋った」
「え……?」

 ニャンコ先生は嫌そうに華織と距離を取るが、夏目と呼ばれた彼は呆然として華織とニャンコ先生を見比べていた。頭が落ちてしまうのではと危惧してしまう。

「猫は……喋りませんよ」
「……そう、だね」

 そういいつつも華織と距離を取ろうとする猫に視線がいく。
 あやかし、と一言で言っても彼らには階級があるらしい。階級が高いあやかしほど知能が高く、利害なしと判断されれば襲ってくることはない。危険なのは下級のあやかしたちである。彼らは見境なしに襲う危険性があるが祓うのは簡単である。

 恐らくあの猫はかなり格が上なのだろう。

 じっと見続けていると、遠くから華織を呼ぶ声が聞こえた。

「華織~?」
「望美! こっちこっち!」

 程なくして駆けてきたのは望美と将臣であった。二人も突然増えたために、目の前の少年は完全に気圧されていた。

「突然居なくなるんだもん。神隠しにでもあったのかと思ったよ」
「おいおい、こいつの場合は洒落にならねぇって」
「……そうかも。で、何かいた?」
「うん。たくさん、うちの周りにはあまり居ないのが」
「ふうん。……やっぱりもう私には見えないなぁ」

 ぴくり、と少年の肩が揺れる。その反応を見て、華織はなんとなく察した。彼も華織と『同じ』なのだろう。
 周りと視界が違って、誰にも受け入れてもらえない。

「君は、優しい子なんだね」
「え……?」
「とても強い力を感じる。私とは反対の力。でも負の力は感じない。優しくて心地よい陰の力。……君は、とても優しい子なんだなって思った」

 華織が身につけつつある力とは相反する力だろう。自身が神力としたら彼のは妖力と呼ばれるもの。けれど纏う空気は暖かく優しい。

「私たち修学旅行で来てるの。もしかしたらまた会うかもね。それじゃあ」

 困惑する少年に手を振ってその場を後にした。

「変わった猫が居たね」
「そうだな。なんつーか招き猫みたいな」
「んー、あれは多分猫じゃないよ」
「え?! じゃあ狸?」
「ちげーだろ。なら妖怪か?」
「多分。喋ってたし」





『おい、夏目。さっさと帰るぞ』
「なあ、ニャンコ先生。……さっきの人たち、見えるのかな」

 彼らが立ち去った先を見続ける夏目の肩に飛び乗るとニャンコ先生は太い尻尾で夏目の背中を叩いた。

『最初の小娘は確実に見えていたぞ。私のことを見抜いていたからな。……あとから来た奴らは見えないだろう』
「そっか……。反対の力って?」

 ニャンコ先生は嫌そうに顔をしかめると早く歩けと言わんばかりに夏目の肩を叩く。

「あれは神社の者が持つ力だ。数体の神に愛されているな。もう一人の娘と男もほかの神の加護を受けておった。桃色の娘は下級の奴が近づいたら消されるぞ」
「そんなに強いんだ……。俺の妖力とは別のもの……」

 考え込むが、夏目が知る他の『見える者』とは考え方が違うような気がした。どのような人なのか、少し気になる。

「明日……。ここに来れば会えるだろうか」
『会うのか?』
「……会ったほうがいい気がする」




**

最近はまりました

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彩雲国 もしも君が義息になったら

※もしも「青空の下で」の主人公と絳攸が恋仲となりめでたく結婚したらという設定です。
※便宜上、黎深はまだ吏部尚書で絳攸も吏部侍郎です。




 黄鳳珠は非常に困っていた。能吏と呼ばれていようと、彼は非常に困っていた。

 大切に育てていた娘、有紀が目出度く(本人が好いた相手と無事結ばれたという意味では目出度いが、親戚関係になった相手を思うとあまり目出度くない)李絳攸と恋仲になり、婚約をした。
 大切に大切に、かつ、本人の自由意思に任せていたため俗にいう嫁き遅れと言われようとなんだろうと、最後まで二人で仲良く暮らすのもいいと思っていたので、婚約しようとしなかろうと良かったのだが、やはり娘の嬉しそうな幸せそうな顔は見ているとうれしくなる。

 それは今は置いておくとして、目下非常に困っていた。解決策は見つからない。
 室の中をぐるぐると歩き続ける屋敷の主に、優秀な家人たちは無言を通していた。ただでさえ仮面をしているという不思議な主が奇行をしようと気にしないのが黄鳳珠邸家人であった。そもそも有紀(家人から見ればお嬢様)の婚約が決まってから毎日見る光景である。

「李絳攸……、いや、絳攸…。違うな。義息子殿? ……婿殿…、いや、黎深に『婿に出した覚えはない』とか言われそうだ。……李侍郎」

 やはりこれがしっくりくるのだが、そう呼ぶと有紀が悲しげ顔をするのである。


 そう、鳳珠は何れは義息子となる絳攸の呼び方に困っていた。
 交流のない相手なら良かったのであるが、有紀の幼馴染兼、紅黎深の養い子。浅いようで深い、深いようで浅い付き合いの為非常に困る。
 相手が藍楸瑛だったり、シ静蘭だったら苦労せずに呼び捨てで呼ぶのだ。
 そして、殿と敬称をつけるのもどこか釈然としない。大切な娘を取られるのだからそれぐらいの抵抗は赦される筈であると鳳珠は思っていた。

「……李絳攸、…………絳攸。…………李侍郎……、李、……李官吏……。……こ、絳攸殿……」




「……有紀」
「もうちょっと待ってさしあげて?」

 扉の前で、開けるべきかどうするべきか迷った絳攸は判断を仰ぐために有紀を振り返る。彼女は困ったように笑いながら唇に指を当てた。

 挨拶に伺うと前々から言付けてあり、それが今この時であった。
 出迎えに来た有紀と、彼女の父親が待つ室の前に到着して、深呼吸して扉を開けようとした瞬間に自分の名称が何度も形を変えて中から聞こえてきて固まってしまった。

「……やはり黄尚書は」
「戸惑っているの。呼びなれたのは『李侍郎』でしょう?」
「ああ」

 現に絳攸も呼ばれ慣れているし、彼が鳳珠を呼ぶときは今は「黄尚書」である。

「でもね、私が辞めてくださいって言ったから困ってらっしゃるの」
「……何故?」
「だって、私が結婚するのは李侍郎じゃなくて、絳攸だから。だから、李侍郎は辞めて欲しいって言ったら、あんな感じに」

 有紀としては普通に、絳攸。か絳攸殿。と呼ぶかと思っていたのだが、どうにも鳳珠にはその呼び方に抵抗があるらしい。



 結局、らちがあかないと言って、有紀が問答無用で扉を開けてしまい、鳳珠と絳攸が(仮面越しに)ばったりと目を合わせてしまい気まずい空気ができてしまった。




***

意外と人気があるらしい「もしもシリーズ」(既に命名)
面白いネタというか感想を頂いてしまって、思わず書いてしまいました。
暫くは「李絳攸」でフルネーム呼びです。

時間があったら、自覚編でも書きたいですね。
どっちが自覚するのが早いでしょうか。
有紀か、それとも絳攸か。

個人的には絳攸が、先にほんのり自覚する感じですかね。
有紀は自覚しても、まあ、いいかなぁぐらいなのんびりしていて。結局焦った絳攸が想いを告げる方向かと。

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譲れない一線

デフォルト名:黄有紀



 いつからか、有紀には譲れないものが増えていっていった。それは、食事の際の「いただきます」と「ごちそうさま」だったり、寝る前にする挨拶だったり。朝会ったら必ず「おはようございます」の挨拶だったりと些細なことばかりであった。

 こればかりは相手が誰であろうと譲れないのだと、有紀は満面の笑みで言う。





「黎深さま、百合さま、お帰りなさい」

 その日は貴陽紅家別邸に居る時だった。朝から絳攸を訪ねていたが、黎深と百合は外出中ということで二人でずっと過ごしていた。
 八つ時に近づいた時、家人達が「ご当主様と奥方様がお帰りです」と絳攸と有紀に告げに来た。絳攸は出迎えるべきか、それとも室で待つべきかと悩んだが、有紀は話を聞くなり腰を上げて絳攸の腕を引っ張って玄関まで向かった。
 軒から下りてきた二人に向かって笑みを浮かべて出迎えると絳攸もそれに倣ってぎこちない笑みを浮かべる。

「お、おかえりなさい。黎深様、百合さん」
「お迎えありがとう。ただいま、有紀さん絳攸」
「……」

 笑みを浮かべて有紀と絳攸の頭を撫でた百合とは反対に黎深は、口元を扇で隠して目線だけを二人に送って素通りしようとした。
 そのことに百合は寂しげな笑みを浮かべ、絳攸も顔を翳らせる。

 その中で、有紀一人だけが表情を変えずに同じ笑みを浮かべて、黎深の袖を引いた。

「……なんだ」
「おかえりなさい、黎深さま」
「それはさっき聞いた」
「おかえりなさい」
「……」
「おかえりなさい」
「…………。た、ただいま」

 なんとも形容しがたい表情でそう言った黎深に有紀は満足そうに頷くと、袖から手を離した。
 すたすたと無言で遠のく黎深の後ろ姿と、笑顔が変わらない有紀を見比べた絳攸と百合は感心したように深い息をついた。

「流石、有紀さんだよね。あの、黎深に『ただいま』を言わせるなんて」
「そうですか?」
「ああ、俺も有紀がいないときは聞いたことがない」
「でも最初は大変だったんですよ?」

 昔を思い出すように、有紀は記憶を掘り返す。
 悠舜が茶州に向かう前。鳳珠が黎深と悠舜をたまに連れて帰るようになった頃だった。

「おかえりなさい、鳳珠さま。悠舜さま、黎深さまこんばんは」
「ただいま、有紀。いい子にしていたか?」
「こんばんは、有紀さん。お久しぶりです」

 鳳珠、悠舜と順に撫でられた有紀はくすぐったそうに笑みを浮かべた。唯一黎深だけが、いつものように扇手で弄びながら傲岸不遜な笑みを浮かべて。

「ふん、来てやったぞ」
「黎深さま」
「なんだ」
「こんばんは」
「……さっきも聞いた」
「黎深さま、こんばんは」
「……」

 にこにこと「黎深さま、こんばんは」と言い続ける有紀と黙り続ける黎深のやり取りに悠舜は不思議そうに鳳珠を見上げた。彼は分かっているように頷いて、悠舜に説明を始めた。

「有紀と決めごとをしたんだ」
「決めごと?」
「ああ、できる限り食事は二人で取ること。挨拶は必ずして、返すこと」
「……なるほど。だから『こんばんは』なんですね」

 天つ才の持ち主でも、有紀の意図は理解できないらしい。
 玄関先で、何度も「こんばんは」と言われ続け、やかましいと振り払うと悠舜に怒られる為に何もできず。困惑の表情は意地でも見せまいと無表情で固まっている友人に悠舜は助け舟を出すことにした。

「黎深」
「……なんだ」
「夜の挨拶はなんでしたか?」
「…………」
「黎深さま」
「…………こ、こ、こんばんは……」
「はい、こんばんは。ようこそいらっしゃいました。今日はいらっしゃると聞いていたので既に準備は整っていますよ」

 ようやく「こんばんは」以外の言葉が紡がれ、いつものお出迎えと同じ形になった。
 それ以来、鳳珠邸を訪れた者は玄関先で有紀と挨拶ができないと入れてもらえなくなった。主にいつも同じことを繰り返すのは黎深だけであったが。

 その時の黎深と有紀の押し問答を聞いた邵可は面白がって同じことを黎深に強要し始めることを、その場の誰も知らなかった。




 そんな話を有紀から聞いて、百合は「さすが、有紀さん! 私もこれから始めようかしら?」とにこにこと呟いていた。



**

有紀だったらこれくらい平気でやるかなと思いついて速攻書きました。
挨拶は基本ですよね!
原作沿いが始まるころくらいには黎深も平然と返事を返すと面白いですね。周りは「紅尚書が挨拶を……!」とか戦慄が走る気がします。

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【TOS・TOA・彩雲国物語・遙か・十二国記など】の名前変換小説の小ネタを載せております。
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【schiettamente】又は【軍人主】
 └TOAマルクト軍人主人公
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 デフォルト名:アトラス・ファンターシュ

【一万企画】又は【企画主】
 └TOSロイド姉主人公
 デフォルト名:セフィア・アービング

【傍系主】
 └TOA傍系王室主人公
 デフォルト名:ルニア・ディ・ジュライル

【十二国記】
 └雁州国王師右将軍
 デフォルト名:栴香寧

【遙かなる時空の中で3】
 └望美と幼馴染。not神子
 デフォルト名:天河華織

【明烏】
 └遙かなる時空の中で3・景時夢
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【彩雲国物語】
 └トリップ主
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【コーセルテルの竜術士】
 └術資格を持つ元・旅人
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 愛称:セフィ

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 デフォルト名:筒深稔莉(つつみ みのり)

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